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ビー・ジーズ『E.S.P.』解説:ヒット作りのビジョンを新時代に適応させた3兄弟による6年ぶりの作品
ビー・ジーズ(The Bee Gees)の楽曲カタログは膨大な数に上っているが、その中にはある特定の国で他の国よりも良い成績を収めた作品が数多くある。たとえば1987年9月にリリースされたアルバム『E.S.P.』もその一例だ。
このアルバムは彼らとしてはアメリカでは比較的地味な成績に終わっているが、ヨーロッパでは大きな成功を収め、ビー・ジーズのキャリアに新たな名声が加わった。このアルバムから出た第1弾シングル「You Win Again」は、ギブ三兄弟にまたもやNo.1ヒットをもたらしている。
1981年の『Living Eyes』以来、6年ぶりのスタジオ・アルバムとなった『E.S.P.』では名プロデューサーのアリフ・マーディンが再び起用されており、スタジオでの制作作業は刺激的なものとなった。その12年前に、マーディンはアルバム『Main Course』のプロデュースを担当していた。このアルバムがきっかけとなり1970年代後半のビー・ジーズは驚異的な快進撃を続け、シングル・カットされた「Jive Talkin’」はディスコ路線に進むきっかけともなった。
1987年になると音楽界の状況はかなり変化していたが、ディスコ・ブームが去った後にギブ3兄弟 (や他の多くのディスコ系アーティスト) が経験していた後遺症は、このころにはすっかり鎮まっていた。
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新しい時代の幕開け
当時はまた別のテクノロジーが発展しつつある時代だった。『E.S.P.』はビー・ジーズにとって初めてデジタル録音で制作したアルバムとなり、当時の電子的なサウンドが大きく取り入れられている。演奏の土台はエレクトリック・ギターのレジー・グリフィン、ベースのリーランド・スカラーとマーカス・ミラー、キーボードのデヴィッド・ペイチといった一流のスタジオ・ミュージシャン達が固め、それをさらにアリフの息子でバークリー音楽院出身のジョー・マーディンがコンピューター・プログラミングが補っていた。
『E.S.P.』は、1987年の第1四半期にマイアミ・ビーチのミドル・イヤーとマイアミのクライテリア・スタジオで録音された。このアルバムが制作される前、ビー・ジーズはしばらくのあいだ、自分たちの名前でヒット・レコードを出していなかったが、他の大スターへの楽曲提供やプロデュースといった形でチャートに登場していた。
1983年の映画『ステイン・アライブ』のサウンドトラックを手がけた後、ビー・ジーズは「Islands In The Stream」をケニー・ロジャース&ドリー・パートンに提供。この曲は2人のキャリアを一変させる大ヒットとなった。また1986年には、バリー、モーリス、ロビンが共作した別の曲「Chain Reaction」をダイアナ・ロスがUKとオーストラリアでチャートの首位に送り込んでいる。さらにこの曲は、その前年にバリーがプロデュースしたダイアナのアルバム『Eaten Alive』に収録されていた。
3人が共有していたテレパシー
1984年には、ロビンもバリーもソロ・アルバムを発表しており、ロビンはソロ名義では3作目となる『Secret Agent』を、またバリーはソロ・デビュー作『Now Voyager』を発売。ロビンの場合、2作目のソロが1年前に出たばかりだった。そして1985年になると、彼はさらに4枚目のソロ・アルバム『Walls Have Eyes』もリリースしている。
とはいえロビンもバリーも、ソロではビー・ジーズほどの成功は収められなかった。モーリスと協力してグループとして活動する場合、ソロよりもはるかに大きな力が発揮されていたのだ。ソングライターとして、またスーパースターとして、この3人兄弟は長い間テレパシーを共有してきた。アルバム『E.S.P.』のタイトルはそれに由来するものだった。
今にして思えば、「You Win Again」が第1弾シングルとなったのは当たり前の選択のように思われるが、このシングルはいきなり大成功を収めたわけではなかった。アルバムに先駆けて8月にリリースされたこの曲は、9月に全英チャートに初登場した時点では87位で、その後は53位に上がった。その後は22位、6位と順位を上げ、やがて4週連続で1位を獲得するという快挙を成し遂げた。
4週連続UK1位というのは『Saturday Night Fever』に収録されたどの曲よりも長い記録であり、その20年前の大ヒット「Massachusetts」に匹敵する偉業だった。バリーは後に冗談まじりでこう書いている。
「あのメロディーは寝ている間に思いついたんだ。そのメロディーをみんなで曲としてまとめ上げた。それが10年ぶりの大ヒットになった。その結果……もっと睡眠を増やすことにしたよ」
「彼らはどんな新譜が出ているのかもちゃんと把握している」
ビー・ジーズが復活し、「You Win Again」が良い評判を広め始めたころといういいタイミングでアルバム『E.S.P.』は発表となった。このアルバムは全英チャートで最高5位を記録し、翌年1月にはプラチナ・アルバムに認定された。またドイツとスイスでもチャート上位に入り、いくつかの国でゴールド・ディスクとなった。ただしアメリカではそうした成功と釣り合わない結果となり、『E.S.P.』は最高96位、「You Win Again」は最高75位という低い順位に止まっている。
『E.S.P.』の収録曲の多くは、当時の斬新なスタジオ・テクノロジーを反映しており、The Los Angels Times紙のポール・グレインは次のように評している。
「これはビー・ジーズの6年ぶりのアルバムだが、これを聞けばよくわかる。彼らはラジオを聴くのをやめていないし、どんな新譜が出ているのかもちゃんと把握しているのだ。ほとんどの曲は現代的なテクノ・スタイルのアレンジになっており、シンセサイザーとドラムマシンが多用されている」
このアルバムに収録された曲のうち、「The Longest Night」や「Angela」はより内省的なアプローチになっている。一方「Overnight」では比較的珍しいモーリスのリード・ヴォーカルが聴ける。また「This Is Your Life」はビー・ジーズのキャリアを振り返るオーディオ・ドキュメンタリーのような曲で、「Jive Talkin’」や「Nights On Broadway」といった彼らの代表曲の数々が引用されている。
しかし、こうしたシングルとアルバムのヒットが霞んでしまうような出来事がこのころ起きた。バリー、モーリス、ロビンの弟で同じくポップ・スターだったアンディ・ギブが1988年3月に30歳の誕生日を迎えた直後に亡くなってしまった。
その喪失から1ヵ月後、第33回アイヴァー・ノヴェロ賞で「You Win Again」がベスト・コンテンポラリー・ソングに選ばれた。さらにビー・ジーズは「英国音楽界に対する卓越した貢献」が認められ、名誉賞を受賞している。
Written By Paul Sexton
ビー・ジーズ『E.S.P.』
1987年9月22日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
ビー・ジーズ オリジナル・アルバム20タイトル
2022年11月23日再発
CD購入
アルバム・タイトル
①『Bee Gees’ 1st』(1967)
②『Horizontal』(1968)
③『Idea』(1968)
④『Odessa』(1969)
⑤『Cucumber Castle』(1970)
⑥『2 Years On』(1971)
⑦『Trafalgar』(1971)
⑧『To Whom It May Concern』(1972)
⑨『Life In A Tin Can』(1973)
⑩『Mr. Natural』(1974)
⑪『Main Course』(1975)
⑫『Children Of The World』(1976)
⑬『Spirits Having Flown』(1979)
⑭『Living Eyes』(1981)
⑮『E.S.P.』(1987)
⑯『One』(1989)
⑰『High Civilization』(1991)
⑱『Size Isn’t Everything』(1993)
⑲『Still Waters』(1997)
⑳『This Is Where I Came In』(2001)
ビー・ジーズ初の公式ドキュメンタリー
『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』
2022年11月25日より
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他にて公開
- ビー・ジーズ アーティストページ
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