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映画『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』で描かれる3兄弟とアンディ、そして『小さな恋のメロディ』
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第66回。
今回は2022年11月25日にグループ初の公式ドキュメンタリー映画『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』が日本で劇場公開され、これにあわせてスタジオ・アルバム全20タイトルが一挙再発となったビー・ジーズ(The Bee Gees)について。
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ビー・ジーズとの出会いは『小さな恋のメロディ』
ついに、ビー・ジーズのドキュメンタリー映画『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』が公開されました。昨今、音楽ドキュメンタリー映画、ライヴなどが次々と公開になっていますが、この作品では彼らのリアルな喜び、悲しみが描かれていることはもちろん、これまで知ることのなかった事実と向き合うことになり、驚きの連続でした。トップ・グループとして華やかなキャリアを重ねてきたグループであると疑わなかったビー・ジーズが、これほどまでにローラーコースターのような人生だったとは、ドキュメンタリーを見るまでは、想像すらできませんでした。
私が初めてビー・ジーズのサウンドに触れたのは、1971年に公開になった映画『小さな恋のメロディ』でした。初めて映画館に足を運び、マーク・レスター、ジャック・ワイルド、トレイシー・ハイドといった3人の少年、少女の淡い初恋と友情を描いた作品を大きなスクリーンで見て、それ以来夢中になりました。ストーリーから溢れ出る憧れのロンドンの街、食べ物、生活習慣、制服、どれをとっても新鮮で、いつか英国に行くんだ、という夢を抱かせてくれたものです。その『小さな恋のメロディ』全編に流れる音楽が、ビー・ジーズの歌声だったのです。
映画のオープニングは「In the Morning」。この曲が流れると、マーク・レスターとジャック・ワイルドの鼓笛隊のシーンがすぐに浮かびます。「First of May(若葉の頃)」は、2人の可愛いデートを、「Melody Fair」は、ランベス・ロードでメロディが金魚と戯れて、とすぐにそのシーンが目に浮かぶほど、映画と音楽が素晴らしくマッチしていました。
ちなみに、トロッコに乗ったラスト・シーンは、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの「Teach Your Children」でした。洋楽を聴いていなかった時代に、ザ・ビートルズよりも、クイーンよりも先に出会った音楽がビー・ジーズだったのです。当時、ショーン・バリー、アニセー・アルビナの映画『フレンズ』もほぼ同時公開されましたが、その音楽がエルトン・ジョン。私にとってこの3組のアーティストが、初洋楽だったと言えます。
大ヒットとバッシング
1967年、「New York Mining Disaster 1941(ニューヨーク炭鉱の悲劇)」で脚光を浴び、1969年のアルバム『Odessa』に収録された「Melody Fair」「First of May(若葉の頃)」が映画で注目を集め、ビー・ジーズの存在は、世界の音楽シーンのトップに上り詰めましたが、兄弟間の問題などがあり、グループとしての結束を固めることができず、ロビンは脱退を経験。
その後再び3人で活動を始め、『Saturday Night Fever』で第二期黄金期を迎えます。ここで明らかにされた事実がかなりショッキングでした。ディスコ・サウンドを手がけ、大ヒットを飛ばし、ディスコ・ブームの立役者となったにも関わらず、ソウル・ミュージックとは異なる立ち位置を築いたディスコへと向かった彼らはバッシングを受けました。そんな海外での反応を知る術もなかった時代でした。
アンディという存在
精神的にどん底を経験したビー・ジーズですが、弟アンディ・ギブのデビュー、そして彼がポップ・スターになったことで、ギブ・ファミリーの音楽的地位は固められていきました。
その頃、アメリカの音楽番組の司会をマリリン・マックーと務めていたアンディに会ったことがあります(正確には見た)。彼がキラキラと輝いていた時代でした。私は、その日の出演者のアダム&ジ・アンツに取材するために、LAのスタジオ収録に参加。楽屋でリック・ジェームスを見つけ、突撃インタビューをしたという大胆不敵な行動をとるのですが、アンディには廊下でちょいと接触ぐらいでした。(余談)
ドキュメンタリー『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』は、アンディの苦悩も赤裸々に描かれています。兄たちが心配していた彼を取り巻く人々。そして兄弟グループとしてのバランスの取り方、難しさなども描かれています。そこに登場するノエル・ギャラガーのコメントにはクスクスと笑ってしまいました。
さらに、ジョナス・ブラザーズ、ジャスティン・ティンバーレイク、クリス・マーティンなどのコメントは、憧れのアーティストへのメッセージだけではなく、同じアーティストとして音楽業界で生き残る難しさをコメントし、よりリアルなドキュメンタリーに仕上げられています。弟たち3人を亡くし、1人になったバリー・ギブは、現在もビー・ジーズの作品を歌い続けています。彼が最後に伝えた言葉があまりにも切なくて、涙・涙のラストです。
先日、『小さな恋のメロディ』日本公開50周年を記念したイベントで来日したマーク・レスターとトレイシー・ハイドにインタビューしました。「劇中に流れるビー・ジーズの音楽は、演じている私たちよりも、そのシーンの主役になっていた」と話していました。
それほどインパクトを残した音楽、歌声でした。60年代、70年代、80年代、90年代、ビー・ジーズは時代の中で、何度も大きな波を乗り越えて、シーンを彩ってきたグループ。このドキュメンタリー『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』で改めて感じることができました。
マーク・レスター、トレイシー・ハイドのインタビューは、FMヨコハマのPodcastで聞くことができます。
Written By 今泉圭姫子
ビー・ジーズ オリジナル・アルバム20タイトル
2022年11月23日再発
CD予約
アルバム・タイトル
①『Bee Gees’ 1st』(1967)
②『Horizontal』(1968)
③『Idea』(1968)
④『Odessa』(1969)
⑤『Cucumber Castle』(1970)
⑥『2 Years On』(1971)
⑦『Trafalgar』(1971)
⑧『To Whom It May Concern』(1972)
⑨『Life In A Tin Can』(1973)
⑩『Mr. Natural』(1974)
⑪『Main Course』(1975)
⑫『Children Of The World』(1976)
⑬『Spirits Having Flown』(1979)
⑭『Living Eyes』(1981)
⑮『E.S.P.』(1987)
⑯『One』(1989)
⑰『High Civilization』(1991)
⑱『Size Isn’t Everything』(1993)
⑲『Still Waters』(1997)
⑳『This Is Where I Came In』(2001)
ビー・ジーズ初の公式ドキュメンタリー
『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』
2022年11月25日より
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他にて公開
- ビー・ジーズ アーティストページ
- ビー・ジーズ、初の長編ドキュメンタリー映画日本劇場公開決定
- ビー・ジーズの20曲:熱狂的フィーバーの歴史
- ビー・ジーズ初のインターナショナル盤『Bee Gees’s 1st』
- “現実はアートを模倣する”『サタデー・ナイト・フィーバー』の意外な真相
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
- 第36回:テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサート
- 第37回:ポール・ウェラー、初来日や英国でのインタビューなどを振り返って
- 第38回:ザ・ヴァンプスが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第39回:セレーナ・ゴメス、BLACKPINKとの新曲と過去に語ったこと
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- 第55回:ザ・ウォンテッドの復活:休止前の想い出と最新インタビュー
- 第56回:アンとナンシーのウィルソン姉妹、ハートの想い出
- 第57回:80年代後半に活躍したグラス・タイガーを振り返る
- 第58回:ブライアン・メイのソロ2作目『Another World』を振り返る
- 第59回:ブライアン・メイ復刻盤『Another World』の聴き所
- 第60回:ポリスのドキュメンタリー『Around The World』とインタビュー
- 第61回:フィル・ライノットの生涯と音楽を振り返るドキュメンタリー映画
- 第62回:10代のジャネット・ジャクソンとのインタビューを思い返して
- 第63回:ブロンディのデボラ・ハリーとUK音楽シーンの女性達を振り返る
- 第64回:セバスチャン・イザンバールが語る新作や、故カルロス・マリンへの想い
- 第65回:クイーン『The Miracle』当時の想い出と未発表の新曲「Face It Alone」
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」