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ザ・ルーツのベスト・ソング20曲 : ヒップホップ界最高のライヴ・バンドによる必聴曲

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Photo: Robin Marchant/Getty Images for AMC

フィラデルフィアの伝説的存在であるザ・ルーツは、何十年ものあいだ、ヒップホップ界最高のライヴ・バンドとして活躍してきた。とはいえ、彼らのエキサイティングなライヴ・パフォーマンスは、ラップ・ミュージックの歴史の中でも最高に多彩な楽曲なしでは成り立たない。

彼らは初期のプロジェクトである『Organix』や『Do You Want More?!!!??!』ではジャズ風のグルーヴを披露し、さらに『Phrenology』や『Undun』といったアルバムでは限界を知らない実験的なサウンドも追求してきた。そうしてザ・ルーツはスタジオで精力的に録音を行い、さまざまな影響を吸収し、才能あるアーティストたちと枚挙にいとまのないほどコラボレーションを重ねてきた。

ザ・ルーツは、ジャズ、ロック、パンク、ドラムンベース、サイケデリック、アフロビートなどのサウンドをヒップホップに巧みに取り入れることで、同時代のどのアーティストよりも幅広い音楽性をもつグループとしてひとつのお手本になってきた。

彼らの作品には、12枚以上のスタジオ・アルバム、数多くのシングルB面曲、サイド・プロジェクト、ライヴ・アルバム、コラボレーション・プロジェクトが含まれている。そのためザ・ルーツのベスト・ソング・リストの決定版をまとめることはほぼ不可能と言っていい。それでも今回は、彼らのサウンドへの入門としての20曲を紹介していきたい。

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1. The Anti-Circle

1990年代初頭、ザ・ルーツはフィラデルフィアのサウス・ストリートでの路上ライヴで活動をスタートさせ、ヒップホップとジャズの融合を発展させていった。「The Anti-Circle」は、そうしたザ・ルーツの初期のサウンドを象徴する曲だ。

ここでは、洗練されたベース・ラインの上でブラック・ソートが巧みなラインとメタファーを駆使したライミングを繰り広げている。ザ・ルーツはこうしたサウンドをさらに進化させていくが、「The Anti-Circle」には、彼らのサウンドを支える重要な要素、つまり洗練されたMCと流れるように華麗な音楽性が既に含まれている。

The Roots – The Anti-Circle (1993)

 

2. The Session (Longest Posse Cut in History)

ヒップホップの世界では、4人以上のMCが集まってひとつの曲の中で技を披露し合うことを「ポッセ・カット」と呼ぶ。この「The Session」という曲では、ザ・ルーツは10人のMCをスタジオに集め、約13分間にわたってライミングの応酬を繰り広げた。

この曲でクエストラブとブラック・ソートは、ジャジーなミドルテンポのインストゥルメンタルに乗せてヴァースを交わしている。この曲には他にも、後にルーツのメンバーとなるマリクB、デ・ラ・ソウルの関係者であるショーティ・ノー・マス、さらにはフィリーの伝説的グループ「フォーリン・オブジェクト」のメンバーも参加している。この曲は、廊下やトイレや溜まり場に集まったMCたちが秘密の符丁でライミングをするという昔からの伝統を思い起こさせてくれる。

The Roots – The Session (Longest Posse Cut In History)

 

3. Distortion to Static

この「Distortion to Static」は、メジャー・デビュー・アルバム『Do You Want More?!!!??!』からの第1弾シングルだった。リリース時に注目を集めたが、今でも他の曲にはない個性的な楽曲に聞こえる。ここでは太く質感のあるドラム・ブレイクとダークなエレクトリック・ピアノのコードの上で、ブラック・ソートとマリク・Bが激しく饒舌なヴァースを交わしている。

コーラスはピンク・フロイドの『Dark Side of the Moon』を思わせる仕上がりになっており、バックではマリク、ブラック・ソート、クエストラブの3人が常軌を逸した笑い声をあげている。「Distortion to Static」は、このグループが行ったスタジオでの実験から生まれた初期作品だった。彼らはこうした実験をキャリアを通じて行うことになる。

The Roots – Distortion To Static

 

4. Proceed

『Do You Want More?!!!??!』のセカンド・シングルとして選ばれたのは、ファンキーさと爽快感を兼ね備えた「Proceed」だった。この曲はグルーヴィーなベースラインを土台として構築されており、ブラック・ソートとマリクの相性の良さがよく表れている。ザ・ルーツの初期作品の中でも、とりわけ親しみやすい部類に入るだろう。

また「Proceed」に関しては、ジャズ界の伝説的ミュージシャンであるロイ・エアーズをフィーチャーしたパート2や、フィリー・ラップのパイオニアであるバハマディアをフィーチャーしたパート3といった優れた別ヴァージョンが数多く作られている。

The Roots – Proceed

 

5. Essaywhuman?!!!??!

フィラデルフィアの伝説的なライヴハウス「The Trocadero」でライヴ録音された「Essaywhuman?!!!??!」は、ザ・ルーツが活動初期にライヴで披露していたパワフルさを垣間見せてくれる曲で、さながら即興とコール&レスポンスの極意が学べる特別上級クラスのようである。

ブラック・ソートがライミングとスキャットを披露すると、スコット・スターチ、ベーシストのレナード・ハバード、クエストラブ、サックス奏者のスティーブ・コールマンが短いインストゥルメンタル・フレーズでそれに応じていく。

Essaywhuman?!!!??!

 

6. Silent Treatment

ブラック・ソートが甘い歌声が響くフックと、そのバックで奏でられるメロウなインストゥルメンタル・グルーヴが特徴的な「Silent Treatment」は、ザ・ルーツの楽曲の中でも珠玉の名曲のひとつと言える。恋愛関係のもつれを鮮やかに物語るこの曲は、LL・クール・Jの「I Need Love」やザ・ファーサイドの「Passing Me By」と並んで、ヒップホップのラブ・ソングの代表的な作品として殿堂入りしている。

The Roots – Silent Treatment

 

7. Clones feat. Dice Raw&M.A.R.S.

『Illadelph Halflife』をレコーディングするにあたり、ザ・ルーツは意図的に音楽性を変化させた。以前よりもハードで無骨な音作りとアプローチに転換したのである。そうした新しいサウンドは、1996年のシングル「Clones」によく表れている。

ドラムスとクインシー・ジョーンズ/ヴァレリー・シンプソンの夢心地のサンプルをバックにしながら、ブラック・ソートとマリク・BはM.A.R.S.コープとダイス・ロウとのあいだで激しいやり取りを繰り広げている。

The Roots – Clones

 

8. What They Do feat. Raphael Saadiq

『Illadelph Halflife』から出た3枚目のシングル「What They Do」は、表向きはチルアウトしたソウル・ジャムだが、その中身はラップ業界に対する痛烈な批判になっている。

眠たげなフックやトニー・トニー・トニーのシンガー/ギタリスト、ラファエル・サディークのギターをフィーチャーしたこの曲では、ブラック・ソートが簡潔なヴァースをいくつか歌っている。一方、サディークの巧みなフレージングはジョージ・ベンソンとカーティス・メイフィールドの中間のような雰囲気を醸し出している。

The Roots – What They Do (No Subtitles) (Official Music Video)

 

9. You Got Me feat. Eve&Erykah Badu

この「You Got Me」がリリースされた1999年頃になると、ザ・ルーツは評論家のお気に入りバンドという地位を確立していた。とはいえ、本当の大ヒットと呼べるような作品はまだまだ出せずにいたが、やがてこのメランコリックなラブ・ソングによって、待望の商業的成功を手にすることになる。

この「You Got Me」はキーボード奏者のスコット・ストーチが作曲し、フィリー北部出身の未来のスーパースター、つまりジル・スコットが作詞しており、ソウル、ヒップホップ、ドラムンベースを融合させたインストゥルメンタルの上で、ブラック・ソートとイヴが愛と不信のストーリーを語っている。これはヒット曲になり、ザ・ルーツはグラミー賞を受賞。アルバム『Things Fall Apart』はプラチナ・ディスクに認定された。

The Roots – You Got Me (Official Music Video) ft. Erykah Badu

 

10. Dynamite! feat. ELO

ギターが効果的な躍動感あふれるビートに乗った「Dynamite!」は、アルバム『Things Fall Apart』の中でも際立った曲のひとつだ。ここではブラック・ソートとELOが大活躍しており、ふたりがやり取りするヴァースで楽しげな化学反応が生まれている。デトロイト・ヒップホップの伝説的存在であるJ.ディラがプロデュースしたこの曲は、今でもファンの人気を集めている。

Dynamite!

 

11. The Return to Innocence Lost feat. Ursula Rucker

ザ・ルーツの初期のアルバム(『Do You Want More?!!!??!』『Illadelph Halflife』『Things Fall Apart』)は、どれもフィリー出身の詩人ウルスラ・ラッカーの詩で締めくくられている。『Things Fall Apart』に収録された「The Return to Innocence Lost」は、この三枚のアルバムの中でも最も深く感情を揺さぶる曲かもしれない。

音楽的な面で言えば、「The Return to Innocence Lost」は優しく繊細な仕上がりだ。そんなサウンドをバックに、ラッカーは虐待、喪失、世代間のトラウマといった悲惨なストーリーを語っていく。

The Return To Innocence Lost

 

12. Water

この「Water」はザ・ルーツのカタログの中でもとりわけ複雑な曲のひとつだ。それと同時に、テーマの面でいえば、このバンドの楽曲の中でもとりわけプライベートで苦しみに満ちた作品のひとつでもある。シンコペーションの効いたグルーヴに乗せて、ブラック・ソートはライミングのパートナーであるマリク・Bが薬物依存症に陥ったときの恐ろしいストーリーを語り、マリクの苦悩とフィラデルフィアで蔓延していた悪名高いオピオイド(鎮痛剤)依存症を重ね合わせている。

10分を超える長さの「Water」の後半(「The Abyss」/「The Drowning」)では、依存症に引き裂かれた精神のイメージがアバンギャルドな音作りで表現されている。この「Water」では、ラップ・ミュージックを使って暗い感情の奥底を描き出すザ・ルーツの唯一無二の能力があらわになっている。

Water

 

13. Thought @ Work

「Thought @ Work」では、ブラック・ソートとザ・ルーツがとことんパーティ・ロック・モードになっている。人を誘い込むような魅力あふれるブレイクビーツに乗って、ブラック・ソートはジョークやエリートの自慢話、歴史的なエピソードなどをつなぎ合わせて核心に迫っていく。

この曲は、初期のヒップホップ・シーンにおける公園でのジャムに近い雰囲気がある。聞きながら目を閉じれば、壁のように積まれたスピーカーが轟音を立てコンクリートを揺らしている様子が想像できるだろう。

Thought @ Work

 

14. The Seed 2.0

ザ・ルーツの「The Seed 2.0」は、コーディ・チェスナットの「The Seed」をキャッチーな力強いアレンジでカヴァーしたものだ。それによってこの曲は、鋭角的でありながら親しみやすいアンセムに変身した。ブラック・ソートは、チェスナットの放蕩者じみた雰囲気からヒントを得て、それを拡大解釈し、セックス、ロックンロール、ドラッグの鮮烈なイメージを作り出している。

The Roots – The Seed (2.0) (Official Music Video) ft. Cody ChesnuTT

 

15. Stay Cool

トランペット奏者アル・ハートの「Harlem Hendoo」を独創的にアレンジした「Stay Cool」では、ザ・ルーツの特徴が最高に発揮されている。このグループは根本的にはすばらしい演奏力を持つバンドであり、どんな曲でも演奏できる。しかしそれだけではない。そうした曲をヒップホップのレンズを通して別のかたちに作り変えることができるのである。ここでのブラック・ソートとマーティン・ルーサーを聴くと、彼らの生き方も存在感も「クール」としか言いようがないと感じられる。

Stay Cool

 

16. In Love With The Mic feat. Dave Chappelle, Truck North & Skillz

これは、スキルズ、トラック・ノース、そしてコメディアンのデイヴ・チャペルをフィーチャーした騒々しくて混沌とした作品である。まずスキルズは、MC活動への愛着を長い比喩で語り始める。さらにデイヴ・チャペルのアドリブが、この曲に熱狂的なエネルギーを注ぎ込む。そして3番目のヴァースでトラック・ノースが登場し、主役のお株を奪うような大活躍を見せる。これは楽しいアップテンポの曲で、それぞれのMCが激しい技を披露している。

In Love With The Mic

 

17. Baby

2006年にリリースされた『Game Theory』の収録曲「Baby」は、ザ・ルーツの歴史の中でも飛び抜けてすばらしく、かつ異様な曲のひとつであり、ダークで心にまとわりつくようなインストゥルメンタルに、不倫関係や情熱的な犯罪を描写した歌詞が組み合わされている。

ハブのベースラインとカーク・ダグラスのトリップ感に満ちたギターはここで見事に融合しており、しばしのあいだ、聴く者をブルースの邪悪でサイケデリックな側面へと誘ってくれる。そしてわずか3分足らずで、ニック・ケイヴとハウリン・ウルフが出会う十字路にたどり着く。

Baby

 

18. Please Don’t Go

「Please Don’t Go」も、ザ・ルーツの楽曲の中では知名度があまり高くない部類に入るだろう。J.ディラがプロデュースしたこの曲はグルーヴィーで愛に満ちており、ブラック・ソートの滑らかな歌声がフックの主役になっている。

The Roots – Please Don't Go Demo (Prod. J Dilla)

 

19. Can’t Stop This

J.ディラの早すぎる死の直後に録音された「Can’t Stop This」は、亡くなった音楽仲間に捧げられた愛情あふれるトリビュートである。ブラック・ソートは、ディラのインストゥルメンタル曲「Time.Last Donut of the Night」を使い、ディラの思い出を讃えながら、犯罪や貧困、そしてそうした問題が引き起こす信仰の危機といったテーマに取り組んでいる。後半ではさらにサウンドが変化していき、ディラの友人たちや仲間たちが録音したボイス・メッセージが愛情、尊敬、称賛の言葉を語っていく。

Can't Stop This

 

20. How I Got Over

ザ・ルーツは『ジミー・ファロン・ショー』のハウス・バンドになるという決断を下したことで、劇的な転換を果たした。その1年後にリリースされた『How I Got Over』は非常に刺激的なアルバムで、バンドが非常に前向きに聞こえる瞬間がたくさんある。とはいえそれは、浮き沈みの激しい硬直したシニカルな世界観によって中和されている。

このアルバムのタイトル曲には、そうしたダイナミックさがはっきりと表れている。ファンキーでアップテンポなビートとダイス・ロウの高揚感に満ちたコーラスが印象的な「How I Got Over」は気持ちの良い曲ではあるが、その歌詞は生存と苦闘のほろ苦いストーリーを描き出している。ブラック・ソートの「俺は泣きながら育った」という言葉を聞く頃には、新しい活躍の場や商業的な成功によってザ・ルーツが暗いテーマから離れていくのではないかという懸念は跡形も無く消えているはずだ。

The Roots – How I Got Over

Written By John Morrison





『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
2021年8月27日 日本劇場公開
公式サイト

原題:SUMMER OF SOUL (OR, WHEN THE REVOLUTION COULD NOT BE TELEVISED
監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、ザ・フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン © 2021 20th Century Studios. All rights reserved.
北米公開:2021年7月2日(劇場/Hulu同時公開)


 

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