【全曲動画&解説付】月にまつわる洋楽曲ベスト20

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地球の周りを公転する天体である月は、人類にとって重要な創造力の源泉であり続けている。シェイクスピア、ワーズワース、ジェイムズ・ジョイスといった作家や、レンブラント、ゴッホ、マグリットといった画家たちも月から作品のヒントを得ていたのである。また、ザ・ビートルズ (「Mr. Moonlight」) 、ザ・ローリング・ストーンズ (「Moon Is Up」) 、ピンク・フロイド (アルバム『The Dark Side Of the Moon(狂気)』 ) など数々のアーティストが、月にまつわる楽曲をレコーディングしてきた。

月は「Fly Me To The Moon」をはじめとする不朽のヒット曲を生んだだけでなく、ローレル&ハーディの「Lazy Moon」や、60年代にチャートを制したスターゲイザーズの「I See The Moon」といったコミック・ソング 、ギル・スコット・ヘロンの「Whitey On The Moon」などの政治的な楽曲、そしてエンヤの「Shepherd Moons」など無数のインストゥルメンタル・ナンバーの題材にもなってきた。

さらに”月”や”宇宙”といったイメージは、途方もないほどの感情の象徴としてバラードでもしばしば使用されてきた。極端な例では、メル・トーメがヴァーヴに残した1960年のアルバム『Swingin’ On The Moon』は、その全編が月をテーマとする楽曲で構成されている。

1976年にはカーペンターズも、そうした楽曲の一つである「Calling Occupants Of Interplanetary Craft (星空への旅立ち [コーリング・オキュパンツ])」を録音。この曲は、宇宙からの訪問者にテレパシーでメッセージを送るという内容だった。また、”宇宙飛行における孤独”というテーマからはデヴィッド・ボウイの「Space Oddity」が作られ、それがさらにエルトン・ジョンとバーニー・トーピンの共作による「Rocket Man」の誕生に繋がった。

今回は月や宇宙飛行を題材にした20の名曲を取り上げたい。ただ、ポール・サイモンの「Song About The Moon (月に捧げる想い)」が入っていないように、お気に入りの楽曲が漏れている可能性もある。取り上げられるべきだと思う楽曲があれば、是非コメント欄を通じて教えていただきたい。

このリストの楽曲をまとめたプレイリストも公開中(Appl Music / Spotify / YouTube Music)。

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20位:グレン・キャンベル「The Moon Is A Harsh Mistress (月は無慈悲な夜の女王)」(1974年)

ジミー・ウェッブは現代を代表する偉大なソングライターであり、この「The Moon Is A Harsh Mistress」には彼の優れた作詞能力が顕著に表れている。

温かな金色の光を放っているのに
月は冷酷な女王のようだ
時として月はとても冷たいんだ
Though she looks as warm as gold
The Moon’s a harsh mistress
The Moon can be so cold

という一節はその好例だ。ウェッブ作のこの曲は、ジュディ・コリンズ、リンダ・ロンシュタット、ジョーン・バエズなど、数え切れないほど多くのスターたちにカヴァーされている。だが、グレン・キャンベルの1974年作『Reunion: The Songs Of Jimmy Webb (復活)』に収録されたこのヴァージョンは、その中でも決定版といえる名演である。

 

19位:ジョニ・ミッチェル「Moon At The Window」(1983年)

一部の批評家は「Moon At The Window」について”奇妙な”楽曲だと断じた。だが、ジョニ・ミッチェル本人はこの曲を通じて「ジャズのルールにとらわれないハーモニーを奏でながら、自分史上もっともジャズに接近できた」と話している。

江戸時代後期の詩人、良寛禅師の俳句 (“盗人に 取り残されし 窓の月”) からその名を取ったという同曲では、ウェイン・ショーターが奥深いソプラノ・サックスの演奏を披露。この曲はミッチェルの1983年作『Wild Things Run Fast』に収録された。

 

18位:ナンシー・グリフィス「Once In A Very Blue Moon」(1984年)

パット・アルジャーはカントリー界のソングライターとして尊敬を集め、その楽曲はエヴァリー・ブラザーズ、ガース・ブルックス、クリスタル・ゲイルらにカヴァーされてきた。

ナンシー・グリフィスが1984年に制作したアルバムの表題曲「Once In A Very Blue Moon」はそんなアルジャーの作品の中でも特に優しげな1曲で、グリフィスの代表曲にもなった。実際、彼女はのちに、自身のオーケストラに同曲にちなんだ名前を付けているほどである。また、メアリー・ブラックやドリー・パートンといったシンガーも、この「Once In A Very Blue Moon」を取り上げている。

カントリー界のミュージシャンたちも月に着想を得ることが少なくなく、ハンク・ウィリアムズ (「Howlin’ At The Moon」) 、ライル・ラヴェット (「Moon On My Shoulder」) 、パティ・グリフィン (「Moon Song」) 、ダー・ウィリアムズ (「Calling The Moon」) らも、月を題材にした有名カントリー・ナンバーを残している。

 

17位:トム・ウェイツ「Drunk On The Moon」(1974年)

トム・ウェイツが月にまつわる楽曲を自作してきたのは何ら不思議なことではない。「Grapefruit Moon」などもその好例だが、彼の1974年作『The Heart Of Saturday Night (土曜日の夜)』に収められた「Drunk On The Moon」はその中でも最高の1曲といえるだろう。同曲では、深夜のような空気感をもつジャジーなサウンドが発想力豊かな歌詞を引き立てている。

The Moon’s a silver slipper
It’s pouring champagne stars
銀色のスリッパみたいな三日月から
シャンパンのような星が降り注いでいる

また、ルイ・ベルソン、チェット・ベイカー、カウント・ベイシーらとの共演歴をもつテナー・サックス奏者、ピート・クリストリーブによる巧みな演奏もこの曲の魅力の一つだ。コロラド州デンヴァーにあるターミナル・バーをヒントに書かれたという「Drunk On The Moon」について、ウェイツ本人はこう語っている。

「月には色んな種類がある。銀色のスリッパみたいな三日月や、ビリヤードの手玉みたいな満月、それにバターみたいな色の月や、片側に溶けてしまったような形の月もある。“Drunk On The Moon”では、マスカットみたいな月のことを歌っているのさ」

 

16位:ボブ・シーガー「Shame On The Moon (月に吠える)」(1982年)

「Shame On The Moon」を最初に録音したのは、作曲者でもあるロドニー・クロウエルだった (妻のロザンヌ・キャッシュがバック・ヴォーカルを担当) 。そののち、デトロイトを代表するミュージシャンであるボブ・シーガーが、シルヴァー・ブレット・バンドを率いて同曲をカヴァー。このヴァージョンは1982年のアルバム『The Distance』からのシングルに選ばれ、大ヒットを記録した。

そんな同トラックでは、リトル・フィートのメンバーであるビル・ペインの才気溢れるピアノ・ソロも聴くことができる。ボブ・シーガー本人はこう話している。

「これはカウボーイ・ソングのような1曲で、バックの演奏には非の打ち所がない。アルバムの中で一番タイトだし、一番完成度の高い曲だ。レコーディングは2時間くらいで終わった。奇跡のようなトラックだとみんな口を揃えて言っていたよ。だけど、アルバムに収録するかどうかは考えものだった。『The Distance』は直球勝負のロック・アルバムにするつもりだったからね……。結局はキャピトル・レコードの連中に”あの曲をシングルにしろ!”って言われたんだ。とにかく、この曲を書いたロドニーには恩義を感じているよ」

 

15位:ブライアン・イーノ「An Ending (Ascent)」(1983年)

ブライアン・イーノのキャリアにおける重要作である『Apollo: Atmospheres and Soundtracks』。同作はアポロ11号による月面着陸からちょうど50年が経過した2019年に、アルバム1作分に相当する新曲を加えてリイシューされた。

もともと1983年に発表された同アルバムの収録曲は、これまで映画やテレビ番組、コマーシャルなどで度々使用されおり、この「An Ending (Ascent)」は2012年にロンドン・オリンピックの開会式で流れたことでも知られる。なお、2019年の拡張盤に収められた新曲の中には、彼がロジャー・イーノと共作した「Under The Moon」という楽曲も含まれている。

 

14位:グレン・ミラー「Moonlight Serenade」(1939年)

グレン・ミラーによるスウィング・ジャズの名バラード「Moonlight Serenade」は、2019年4月に発表から80年を迎えた。この曲はバンドリーダーであるミラーの代表作であり、そのメロディーはポピュラー音楽界でも指折りの知名度を誇る。

のちにミッチェル・パリッシュの手で歌詞が付けられ (“I stand at your gate/And the song that I sing is of moonlight  きみの家の門の前に立ち/僕は月明かりの歌を歌う) 、フランク・シナトラも月にまつわる楽曲を集めたアルバム、1965年録音の『Moonlight Sinatra』に同曲を収録。しかし、現在に至るまで愛され続けているのはミラーによる素晴らしいインストゥルメンタル・ヴァージョンの方である。

なお、このほかにもデューク・エリントンの「Moon Mist」、マイルス・デイヴィスの「Moon Dreams」、ルイ・アームストロングとオスカー・ピーターソンの「Moon Song」、ステファン・グラッペリとジャンゴ・ラインハルトの「Moonglow」など、月をテーマにした楽曲を作曲/演奏したジャズ・ミュージシャンは数多く存在する。

 

13位:ニック・ドレイク「Pink Moon」(1972年)

ニック・ドレイクは1972に発表したアルバムのタイトル・トラック「Pink Moon」の中で、アコースティック・ギターとミニマルなピアノ・ソロを弾いている。だがその歌詞には、愛らしいピアノ・ソロに似合わないほど陰鬱な雰囲気が漂っている。

Saw it written and I saw it say
Pink moon is on its way
And none of you stand so tall
Pink moon gonna get ye all
僕の読んだ話では
ピンク・ムーンがじきにやってくる
誰も堂々となんてしていられない
みんなピンク・ムーンに飲み込まれてしまうんだ

約2分間のこの名曲は、ドレイクがロンドンはヘイヴァーストック・ヒルの小さなアパートで暮らし、うつ病に苦しんでいた時期に書いたもの。その題名になっている”ピンク・ムーン” (あるいは”ブラッド・ムーン”) は『ヨハネの黙示録』が書かれたころから、不吉な出来事の予兆とされてきた。そのためこの曲も、ドレイクが暗い未来の訪れを予見した内容だと考えられてきたのである。

ピンク・ムーンというモチーフはまた、シドニー・ベシェが「Blood On The Moon」で披露した情熱的な長尺のソロにも影響を与えたとされる。ベシェはレコーディングの時間が迫る中、このソロをスタジオの中で考案したのだという。

 

12位:ポリス「Walking On the Moon」(1979年)

スティング作の耳に残る1曲「Walking On the Moon」は、1979年12月の全英チャートで首位を獲得。作曲した本人の話では、ミュンヘンで酒に酔ったある晩、この曲のリフが頭に浮かんできたのだという。

同曲がヒットした要因の一つでもある陽気なミュージック・ビデオは、その数ヶ月前にフロリダ州のケネディ宇宙センターで撮影されたもの。ところどころにNASA提供の映像が挿入されたこのビデオでポリスの面々は、宇宙船をバックに楽曲の”当て振り” ―― スチュワート・コープランドはサターンVの船体をドラム・スティックで叩いてもいる ―― をしている。

スティングのアルバム『My Songs』には「Walking On the Moon」の新録版も収められているが、このトラックについて本人は”現代風のサウンドを志向した”自身のヒット曲の”再構築”ヴァージョンであると説明している。

 

11位:R.E.M.「Man On The Moon」(1992年)

R.E.M.の8thアルバム『Automatic For The People』の収録曲である「Man On The Moon」は1992年に大ヒットを記録。現在でもR.E.M.の代表曲として親しまれている。そんな同曲はこのリストで唯一、1969年の月面着陸が捏造だったという陰謀論を扱った楽曲である。

その共作者であるマイク・ミルズによれば、彼らが同曲にコメディアンのアンディ・カウフマンの名を登場させたのは、彼の死が同様に捏造されたという都市伝説があるからだという。ミルズは2018年にこう語っている。

「この曲では、”月面着陸は本当にあったのか?” ”エルヴィスは本当に死んだのか?”というように、既成事実に疑問を投げかけている。彼はその”ツアーの案内役”としてこれ以上ない人物だったんだ。カウフマンが表舞台に立っていたのは少しのあいだだけだった。そういう意味で彼は、少年時代からの人生を振り返っていくような内容の1曲をまとめ上げる上で完璧な存在だったんだよ」

 

10位:ヴァン・モリソン「Moondance」(1970年)

Can I just have one more moondance with you, my love
もう一度だけ、きみと月明かりの下で踊りたいのさ

という一節に代表されるヴァン・モリソンの才気溢れる歌詞は、聴く者の心を惹きつける。だがその詞は実のところ、楽曲が出来上がってから書かれたものなのだという。1973年、ベルファスト出身のシンガーであるモリソンはこう話している。

「“Moondance”ではメロディーを先に書いたんだ。ソプラノ・サックスでこのメロディーを思い付いて、曲に仕立てられると思った。そのあとで、このメロディーに合う歌詞を考えたのさ。“Moondance”は洗練された曲だと僕は思う。フランク・シナトラが歌っていてもおかしくないんじゃないかな」

なお、レコーディングの際にサックスのパートを担当したのは故ジャック・シュローアーであった。

 

9位:エルヴィス・プレスリー「Blue Moon Of Kentucky」(1954年)

作曲者のビル・モンローが1946年に「Blue Moon Of Kentucky」を録音したとき、その演奏はゆったりとしたワルツ調だった。その8年後、若き日のエルヴィス・プレスリーはギタリストのスコティ・ムーア、ベーシストのビル・ブラックとともにサン・スタジオで遊び半分に曲を合わせていた。スコティ・ムーアはこう回想する。

「ちょっとした休憩時間に、ビルがベースを弾きながら“Blue Moon Of Kentucky”を歌い始めた。ビル・モンローの真似をして、ハイ・トーンの裏声で歌っていたよ。するとエルヴィスがそこに加わって、一緒に歌い始めた」

プロデューサーのサム・フィリップスはそのアレンジに可能性を見出し、ブルースを基調としたアップビートなトラックとして同曲を録音させた。そしてレコーディングからたった12日後の1954年7月19日に7インチ・シングルとしてリリースされた「Blue Moon Of Kentucky」は、すぐにチャートを駆け上がり始めたのである。

 

8位:キャット・スティーヴンス「Moonshadow」(1970年)

心に残る情景を描き出すことにかけては右に出る者がいないキャット・スティーヴンス。1970年9月にシングルとして発表され、その後アルバム『Teaser And The Firecat』に収録された「Moonshadow」は、そんな彼が自らの全作品の中でお気に入りに挙げる1曲だ。

スティーヴンスは、ロンドン中心部の活気溢れる街、ホルボーンで育った。希望を滲ませたこの曲を書こうと彼が思い立ったのは、ある週末の出来事に触発されてのことだったという。

「ロンドンのウェスト・エンドでは街が明るかったから、暗闇の中で月の光だけを見る機会がなかった。街灯がどこにでもあったんだ」

そう話す彼は、現在ではユスフ・イスラムと名乗っている。

「空の澄んだある晩、水辺に行くと月が輝いていた。ふと視線を落とすと、自分の影が出ていたんだ。すごく素敵だと思ったね。あんな経験は初めてだった」

 

7位:サラ・ヴォーン「Moon River」(1963年)

これから何年経っても、人びとが「Moon River」と聞いてまず思い出すのは、1961年の映画『ティファニーで朝食を』の劇中でオードリー・ヘップバーンが歌ったヴァージョンであろう。聴き心地が良くロマンティックな同曲は、ヘンリー・マンシーニとジョニー・マーサーが共作し、アカデミー賞やグラミー賞にも輝いた名曲だ。

発表以来、現代のポピュラー音楽界を代表するシンガーたちにカヴァーされており、ジュディ・ガーランド、アレサ・フランクリン、ロッド・スチュワート、エイミー・ワインハウスらもこの曲を録音。サラ・ヴォーンも、1963年にヴァーヴ・レコードから発表したアルバム『Sarah Vaughan Sings The Mancini Songbook』に素晴らしいカヴァー・ヴァージョンを収録している。

また、男性シンガーによる感動的な歌唱が聴きたいなら、ルイ・アームストロングの晩年のアルバム『Hello, Dolly!』に収められたヴァージョンをチェックしてみてほしい。そこでは彼の美しいトランペット・ソロも聴けるが、同じくジャズ・トランペッターのディジー・ガレスピーが発表したインストゥルメンタル・ヴァージョンも負けてはいない。

最後に、「Moon River」が色褪せない魅力を持った楽曲であることは、フランク・オーシャンが2018年に発表した素晴らしいヴァージョンからも明らかである。

 

6位:レス・ポール&メアリー・フォード「How High The Moon」(1951年)

ジャズのスタンダード・ナンバーである「How High The Moon」はもともと、1940年のブロードウェイ・ミュージカル『Two For The Show』の劇中歌としてモーガン・ルイスが作曲、ナンシー・ハミルトンが作詞したもの。

同曲のインストゥルメンタル・ヴァージョンを最初に録音したのはベニー・グッドマンだったが、長く愛され続けているのはレス・ポール/メアリー・フォード夫妻による1951年1月の録音だ。キャピトル・レコードからリリースされた同ヴァージョンは、ビルボード・チャートで9週に亘り首位を獲得。その中でポールは、難解ながらも活気に満ちた演奏を披露しているが、彼はこのプレイ・スタイルで後進のギタリストに多大な影響を与えることとなった。

そんな「How High The Moon」にはほかにも数多くのカヴァー・ヴァージョンが生まれており、チェット・ベイカー (ジャズ) 、マーヴィン・ゲイ (ソウル) 、グロリア・ゲイナー (ディスコ) 、エミルー・ハリス (カントリー) などそのジャンル/スタイルも実に幅広い。

 

5位:クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル「Bad Moon Rising」(1969年)

月はロマンスや神秘の象徴であると同時に、破滅の前触れとみなされることもある。1930年代にハリウッドのMGMで脚本家として働いていた作家のクリストファー・イシャーウッドは、イングリッド・バーグマン主演のスリラー映画『天国の怒り』 (1941年) の脚本も担当。その際、彼は「月が巨大な目玉のように、私をじっと見つめている」という台詞で、月の醸し出す不吉な雰囲気を見事に表現してみせた。

ジョン・フォガティは、同じく陰鬱なハリウッド映画『悪魔の金』に着想を得て「Bad Moon Rising」を作曲。その歌詞は本人曰く、「僕らが迎えようとしていた終末」を歌ったものなのだという。コメディ/ホラー映画『狼男アメリカン』 (1981年) の劇中でも効果的に使用されていた同曲は、ジェリー・リー・ルイスやエミルー・ハリスにもカヴァーされている。

 

4位:ビリー・ホリデイ「Blue Moon」(1952年)

「Blue Moon」はもともと、MGMによる映画のサウンドトラックを制作する過程で生まれた楽曲だ。クラーク・ゲーブル主演の映画『男の世界』に使用する目的でこの曲を完成させたのは、リチャード・ロジャースとロレンツ・ハートの二人である。

Blue moon/You saw me standing alone
Without a dream in my heart
Without a love of my own
青い月よ/一人で佇む私を見たのね
心に抱く夢もなく
愛だって知らない私を

という美しい歌詞は、才能溢れるシンガーたちにより歌い継がれてきた。だがその中でも屈指の完成度を誇っているのは、ビリー・ホリデイがヴァーヴに残したヴァージョンである。ギターはバーニー・ケッセル、ベースはレイ・ブラウン、ピアノはオスカー・ピーターソンと、バックの演奏はジャズ界きっての名手たちが務めた。

他方、エルヴィス・プレスリー、メル・トーメ、エラ・フィッツジェラルド、ディーン・マーティンといったアーティストもこの名曲を録音しているので、是非お気に入りのヴァージョンを探してみてもらいたい。また、孤独をテーマにしたベックの素晴らしい楽曲「Blue Moon」は、同じ曲名を使用することでロジャースとハートにオマージュを捧げた1曲だ。

 

3位:フランク・シナトラ「Fly Me To The Moon」(1964年)

偉大なるスタンダード・ナンバー「Fly Me To The Moon」を書いたのは作曲家のバート・ハワードだが、そのもともとの題名は「In Other Words」というものだった。そんな「Fly Me To The Moon」に関しては優れたヴァージョンがあまりに多く作られており、最良の録音を選ぶのは不可能に近い。

その中でも代表的なカヴァーにはドリス・デイ、アニタ・オデイ、アストラッド・ジルベルト、ナット・キング・コール、ジュリー・ロンドンらによるものが挙げられるが、もっとも有名なのはフランク・シナトラによる1964年の録音だろう。

シナトラの同ヴァージョンは、1969年5月に月を周回したアポロ10号のミッション中に再生されたことでも有名。また一説によると、この曲は月面で最初に再生された音楽であるともいわれる。アポロ11号の乗組員であったバズ・オルドリンが、月面に降り立ったあとポータブル・カセット・プレイヤーで同曲を再生したと報じられたのだ。しかし当のオルドリンはのちに、正確なことを思い出せないと話している。

 

 

2位:エルトン・ジョン「Rocket Man (I Think It’s Going To Be A Long, Long Time)」(1972年)

エルトン・ジョンはデヴィッド・ボウイの「Space Oddity」に”衝撃を受けた”と話し、同曲に多大な影響を受けたことを認めている。そのため、バーニー・トーピンが宇宙飛行に関する楽曲を考えついた際 ―― レイ・ブラッドベリの短編集『刺繍の男』の一編からも着想を得たという。

エルトンはそのチャンスに飛びつき、「Rocket Man (I Think It’s Going To Be A Long, Long Time)」を録音したのである。エルトンはまた、プロデューサーにもボウイと同じ人物を起用していた。この曲でも、元デッカ・レコードのガス・ダッジョンがプロデュースを担当しているのだ。

なお、ボウイがこの世を去った2016年、エルトンはステージで「Space Oddity」のインストゥルメンタル・ヴァージョンを披露。そのまま自身のヒット曲「Rocket Man」に繋げるという演出で観客を沸かせた。その「Rocket Man」はこれまでに50万回近くダウンロードされているほか、エルトンの半生を描いた2019年のヒット映画のタイトルにもなった。

 

1位:デヴィッド・ボウイ「Space Oddity」(1969年)

アポロ11号の打ち上げが行われる5日前、そしてニール・アームストロング船長が人類として初めて月面に降り立つ9日前の1969年7月11日に、シングル「Space Oddity」は急遽リリースされた。

デヴィッド・ボウイが映画『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』に大きく触発されて書いたという同曲の歌詞は、宇宙空間に取り残されたトム少佐を主人公とした不気味で物悲しい内容である。

Here am I floating round my tin can
Far above the Moon
Planet Earth is blue
And there’s nothing I can do
僕はブリキ缶の中を漂っている
月のはるか上空で
青い地球が見えるが
僕にできることは何一つない

そんな同曲は、アポロ11号のミッションについて報じるBBCのニュースの中で実際に使用された。ボウイ本人はこう話していた。

「BBCは歌詞をまるで聴いていなかったんだろう。月面着陸の映像と一緒に流して気持ちの良い内容ではないからね。もちろん、僕自身は流してもらえてすごく嬉しかったよ」。

なお、ボウイは後年の楽曲である「Ashes To Ashes」や「Hallo Spaceboy」にもトム少佐を登場させている。

Written By Martin Chilton


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