ザ・ウィークエンドの20曲:アンダーグラウンドから頂点へと昇りつめた異端児【全曲動画付】
その曖昧な芸名そのままに、ザ・ウィークエンド(The Weeknd)の音楽は、深夜の豪遊から、後に酔いが醒めていくまでを生き生きと物語る。本名アベル・テスフェイとして生まれたこの男は、過去10年でアンダーグラウンドのR&Bアーティストからポップ・ミュージック界の異端児へと昇りつめた。
何本ものミックステープを発表しながら、R&B界のハミ出し者たちの仲間入りを果たした後、ポップ・ミュージック界での闘いへと身を投じ、そこでの主要な立役者となったスウェーデン出身のスーパー・プロデューサー、マックス・マーティンとタッグを組み、現在我々が知るような世界的スーパースターの地位を獲得したのだ。
だが毎回新たな作品を発表する度に、ザ・ウィークエンドの歌詞のテーマは刻々と変化している。変わらないのは、彼が常にセックス、ドラッグ、そして過激な感情の熱心な記録者であるということだけだ。時代を先取りするのみならず、時代そのものになるというその天賦の才能で、彼はポップ・ミュージック界で最も偉大な破壊者のひとりとなり、2010年代に出現したジャンルレスな音楽的ランドスケープの創造に貢献している。ここにご紹介するザ・ウィークエンドの20曲を検証していけば、彼をいかにしてそれを成し遂げたのかがお分かりいただけるはずだ。
20.「House Of Balloons / Glass Table Girls」
実質的に2つの曲がひとつになった「House Of Balloons / Glass Table Girls」は、スペイシーなシンセのイントロで幕を開け、パーティーでの対照的な場面を描き出しながら、徐々に感動的な後半部分へと展開していく。ザ・ウィークエンドは2部構成の扱いには手馴れており、互いにコール・アンド・レスポンスを交わす形式の曲も珍しくはないが、 スージー&ザ・バンシーズの楽曲をサンプリングしながらパーティーが徐々にダークな装いをおびていく様が時間軸と共に語られる「House Of Balloons / Glass Table Girls」は、彼の生まれながらの語り部としてスキルを凝縮した完璧な見本といえる。
19.「The Fall」
『Echoes Of Silence』に収録されているこのトラックで、怖いもの知らずの領域へと踏み込んだザ・ウィークエンドは、私たちに「堕ちる(fall)ことなど怖くない」と告げている。このアーティストの失敗を恐れないという勇気ある主張が、スターダムや金への執着を吹き飛ばすんだと歌うその歌詞の破壊力を強めているのだ。彼はあくまで刹那に生きることに拘っているだけであり、今この瞬間の儚さについて歌うシンガーの中でも屈指のクオリティーを誇っている。
18. 「Drunk In Love (Remix)」
アーティストたちがこぞってビヨンセの「Drunk In Love」のリミックスをサンプリングしていた時期があったのを憶えているだろうか?ザ・ウィークエンドもまた2014年にそこに名乗りを上げたひとりだったが、彼の声はあのトラックにお誂え向きだった。R&Bクルーナーとしての彼が、あえて“love”よりも“drunk”の要素に寄ることでこの曲に独自の色を添え、たとえオリジナル曲でなくとも自らの個性を発揮することができるということを証明した楽曲である。
17.「High For This」
アルバム『House Of Balloons』のオープニングを飾る「High For This」は、狙い澄まして何かを企んでいるかのような、どこか不吉なイントロで聴き手に心の準備を整えさせた上で、一気に感情が目まぐるしく上下するジェットコースターのような彼の世界へと誘う。ザ・ウィークエンドはパーティー中に女性を慰めているのだ。彼の得意技でもある。
16.「Wasted Times」
「Wasted Times」はしばしばザ・ウィークエンドの最高傑作のひとつに挙げられる。2018年に発表したEP「My Dear Melancholy」に収録されているこの曲は、自分の行動をより成熟した目線で悔いている作品で、このR&Bアーティストのロマンティック・ライフのまた違った側面に光を当てている。プロダクションは『House Of Balloons』を大いに彷彿とさせつつも、ザ・ウィークエンドの私生活にもう一歩踏み込んだ洞察を加えたナンバーである。
15.「Wicked Games」
ザ・ウィークエンドのファンの多くが、彼の音楽に最初に触れたきっかけとして挙げるのがこの「Wicked Games」である。この曲で歌われているのは、誰もが共感できる孤独感であり、そのごく一時的な解決策として性的な喜悦が提案されている。ほとんど何もない背景の中で、ザ・ウィークエンドがカメラに向かって歌いかけるモノクロのMVは、その孤独感に主観を与えているのだ。言うまでもなく我々の多くが彼の感情に共感を覚え、以来何度もくり返しこの曲を聴いてしまう。
14.「Often」
ザ・ウィークエンドの曲には、セクシャルなランデヴーとドラッグ使用がテーマとして繰り返し登場するが、「Often」での彼はその両方に対して磊落な態度を覗かせる。様々な解釈が可能な歌詞と大言壮語的な比喩で、夜と朝の境目は限りなく曖昧だ。その生き方は我々一般人の常識からはかけ離れているように思えるが、彼にとっては単なる日常に過ぎない。彼の2枚目のスタジオ・アルバム『Beauty Behind The Madness』からのヒット曲である「Often」は、アメリカでトリプル・プラチナムを獲得し、彼の生まれ故郷であるカナダでもゴールド・ディスクに認定された。
13.「Can’t Feel My Face」
ザ・ウィークエンドは昔から変わらずマイケル・ジャクソンを自らの音楽的影響として挙げているが、それが明確に表れているのが 「Can’t Feel My Face」である。おそらく彼の作品の中でも最も有名な曲であるこの「Can’t Feel My Face」 は、ディスコ・ファンク系のサウンドとクセになるコーラスで、瞬く間に全米No.1へと駆け上がった。
この曲のMVでは、ザ・ウィークエンドがカラオケのステージ上で一世一代のマイケル・ジャクソンのアクションを披露し、ブーイングを浴びている。そのむっつりとしたヴィジュアル・イメージからは滅多に観られない、愉快な一面だ。
12.「The Hills」
「The Hills」もまたアルバム『Beauty In The Madness』から生まれた全米1位ソングで、アメリカ以外の世界5カ国で TOP10入りした実績を持っている。 「When I’m f__ked up, That’s the real me / イカれてる時の俺、それが本来の俺なんだ」 というリリックは、2015年には誰もが口ずさむほどリスナーを魅了し、低音が利いたこのトラックはダイヤモンド・ディスクを獲得し、ザ・ウィークエンドのこれまでのキャリアを通して最大のヒット曲のひとつとなった。
11.「Earned It」
グラミー賞に輝いたこのシングルは2015年に全米のラジオを席巻した。これも『Beauty Behind The Madness』の収録曲だが、映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のサウンドトラックに起用されたことで、ザ・ウィークエンドを一気にメインストリームへと押し上げた。
この映画のサウンドトラックによって彼の魅惑的な声は一躍脚光を浴び、全米シングル・チャートで最高3位を記録した「Earned It」は、彼にとって最初のTOP5シングルとなった。この曲に合わせて作られたNSFW(職場では観ない方がいい)ミュージック・ビデオは煽情的な映画と肉欲的なこの曲の内容にぴったりマッチしている。
10.「The Zone (featuring Drake)」
2011年のドレイクのアルバム『Take Care』でまだ駆け出しだったザ・ウィークエンドがゲスト・ヴォーカルとして迎えられて以来、2人は断続的にコラボレーションを続けている。2011年にザ・ウィークエンドが発表したミックステープ『Trilogy』からの「The Zone」にはドレイクが飛び入り参加を果たし、ザ・ウィークエンドへの借りを返している。
このスロー・テンポのシングルでは、ザ・ウィークエンドがある女性と一夜を共にしようとしながら、頭の中では別の誰かのことを考えているという様子があからさまに綴られている。この曲のメッセージ自体には新味はないものの、彼は驚くほどの無防備さを表現する術を心得ており、ファンにしてみれば何度聴いても飽き足らない作品となっているのだ。
9.「Loft Music」
2011年に開かれたありとあらゆるパーティのサウンドトラックになっていたであろうアルバムが『House Of Balloons』で、中でも「Loft Music」の歌詞には誰もが心を掴まれたに違いない。ビーチ・ハウスの「Gila」がサンプリングされているこの曲では、朝目を覚まし、昨夜のドラッグ使用がまるで白日夢だったかのように思えるきわどいファンタジーの世界へと身を投じることになるのだ。若さゆえの向こう見ずな日々を、これほど巧みに歌で表現できるヴォーカリストは彼おいて他にいない。この才能豊かなシンガーからこれからどんなものが飛び出してくるのか、世間の期待値が一気に高まった大胆なトラックである。
8.「Tell Your Friends」
『Beauty Behind The Madness』に収録の、カニエ・ウェストがプロデュースを手掛けるこの楽曲は、ザ・ウィークエンドが味わった名声にまつわる経験を詳細に歌った、ピアノが際立つ美しいトラックだ。かつてないほど無防備なその斬新な歌詞こそが、ザ・ウィークエンドにとってこのアルバムが過去最大のヒット作となっている所以なのだろう。いつものムーディーなシンセの代わりに、ザ・ウィークエンドはこの曲で「Can’t Stop Loving You」というソウルの名曲のサンプリングに用い、自らのシルキー・ヴォイスを乗せている。このシングルはプラチナ・ディスクに認定され、全米シングル・チャートにもR&Bチャートにも長く居座った。
7.「The Morning」
「The Morning」はザ・ウィークエンドの全カタログの中でも最高傑作と言われている楽曲のひとつで、このトラックが彼のキャリアに与えた影響は測り知れない。言わずもがなこの曲の主題であるセックス、ドラッグ、旅、そしてロック・スターのライフスタイルが、朦朧としたシンセとくらくらするようなブルースのリフの中で歌われている。
この「The Morning」によって、ザ・ウィークエンドはR&B界にハングオーヴァー(二日酔いの)・ジャムという新たなサプ・ジャンルを生み出した。 ちなみにこの曲は2019年のNETFLIX映画『アンカット・ダイヤモンド』の中で、 ザ・ウィークエンド(本人として出演)が照明が落とされたナイトクラブでパフォーマンスするシーンで使われている。
6.「Rolling Stone」
彼のミックステープ3部作に収録されていた「Rolling Stone」では、謎多きシンガーが少しだけ警戒心を緩め、ファンへのオープンレターを添えたミュージック・ビデオを公開している。「僕は口下手なので、僕がどんなことを感じているか、どんな視点を持っているのかを伝えるためにこのビデオを作りました。正直、僕はオーディエンスに噛み砕いて伝えたりするのは好きではありませんが、様々なシンボリズムを駆使して物語を伝えてくれる語り手たちを崇拝してきた僕にとってはその例に倣うことはごく自然な流れだったのです」。カメラに向かってギターでシンプルなメロディを奏でる彼は、何とも内省的な様相を呈している。
5.「The Birds Pt.2」
ああ、彼女は彼の警告に耳を貸さなかった、そして今彼女は銃をぶっ放している。「The Birds Pt.2」冒頭の泣き声と銃声、そしてカラスの鳴き声というコンビネーションは、何とも不吉な場面を想像させる。このダークなトラックでは、語り部としての ザ・ウィークエンドの職人技が際立っており、彼が生んだ数々のヒット曲の中でも傑作のひとつに数えられている。
4.「The Birds Pt.1」
ザ・ウィークエンドはしばしば自らの恋愛における難しさについてしみじみと語っているが、この曲などはまさに文字通り、彼と恋に堕ちてはいけないという警告だ。「The Birds Pt.1」の中で、彼と恋愛することは「もう後戻りできないところまで堕ちていく」ことに等しいと説明している。終わりまでくると、この曲を聴いた世の女性たちには是非その注意を聞き入れて欲しいと願わずにはいられない。だがもしそうすれば、一体彼の音楽はどうなってしまうのだろうか?
3.「Starboy (featuring Daft Punk)」
「Starboy」はザ・ウィークエンドが名声に足を踏み入れ、自らの才能に酔いしれている様を描いた曲だ。そのミュージック・ビデオでは彼が大豪邸の中を歩き回り、自らが受賞したゴールドディスクなどを叩き壊している。同シングルとプラチナ・ディスクを獲得した同名のアルバムは、ザ・ウィークエンドがスターしての名声の敷居を越え、音楽の新章へと前進していることを象徴している。
フランスが誇るエレクトロニック・ミュージック・デュオ、ダフト・パンクとタッグを組み、シンセをふんだんに取り入れたこのトラックは、全米セールスが700万枚を突破し、全米シングル・チャートとR&B/ヒップホップ・チャートを両制覇した。
2.「King Of The Fall」
ザ・ウィークエンドはこれまでも少なからず、それ相応の自慢話を自身の楽曲の中で披露してきたが、中でも「King Of The Fall」 はとりわけ強気なメッセージが聴ける曲だ。彼はここでも再び、自らの快楽主義的放蕩の主人公としての見解を語り聞かせ、いつもは物憂げなパフォーマンスをあえてスピードアップしている。2014年の『King Of The Fall』ツアーに先駆けてシングル・リリースされたこのトラックには、翌年発表されることになる『Beauty Behind The Madness』の予告編的な役割があったのかもしれない。
1.「Coming Down」
ミックステープ『The House Of Balloons』は、ザ・ウィークエンドの恋愛関係における駆け引きの物語の序章としては完璧だった。「Coming Down」では、自身がドラッグでハイになっている最中の恋人への感情や、自らの行いに対する謝罪の念(だが実のところは本気で悪いと思っているわけではない)について赤裸々に明かしている。この曲の中で歌われているのは、強烈な高揚状態から徐々に醒めてくる朦朧とした感覚と、容赦ない現実と向き合おうとするまでのプロセスだ。
Written By Alyson Lewis
ザ・ウィークエンド『The Highlights』
2020年2月5日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify
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