最高のトリビュート・アルバム40選:偉大なアーティストを讃える名盤たち
トリビュート・アルバムは、何十年ものあいだにわたってミュージシャンにインスピレーションを与え、ファンを喜ばせてきた。1950年、最初の33回転LPが登場してからわずか2~3年という時期に、オスカー・ピーターソンは偉大なるデューク・エリントンを讃えるため、エリントンの曲だけでアルバムを1枚作り上げた。それ以来、無数のトリビュート・アルバムが発表されてきた。
たとえばビートルズに捧げられたトリビュートだけを見ても、50枚以上ある。最高のトリビュート・アルバムではさまざまなアーティストたちが自分に影響を与えた曲を自らの作品として咀嚼し、敬意に満ちたオマージュを捧げている。
そして、トリビュート・アルバムは今も次々に生まれてきている。たとえばジャズ・ヴォーカリストのグレゴリー・ポーターがレコーディングした『Nat “King” Cole & Me』、アフロ・ビート・ドラマーのトニー・アレンがアート・ブレイキーに捧げた『The Source』、ジャズ・ドラマーのルイス・ヘイズがホレス・シルヴァーに捧げた『Serenade For Horace』といったすばらしいトリビュート・アルバムが出ている。
今回は、歴史に残る最高のトリビュート・アルバムを40枚ご紹介しよう。ほかにもお気に入りのトリビュート作品がある方は、どうかコメント欄に書き込んでいただきたい。
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1. オスカー・ピーターソン『Plays Duke Ellington』 (1952年)
偉大なるジャズ・バンドリーダー、デューク・エリントンは、カナダ人のピアニスト、オスカー・ピーターソンにとって音楽の英雄だった。ピーターソンはそのエリントンに捧げるトリビュート・アルバムを2枚録音している。
そのうち最初のアルバムは、ヴァーヴ・レコードの子レーベル、クレフ・レコードから1952年に発表された。ヴァーヴの社長だったノーマン・グランツは、ピーターソンが一流作曲家に捧げて録音したアルバムの中ではこれが最も「自然な」仕上がりに感じられたと述べている。グランツは次のように説明する。
「エリントンはピアニストでもあるが、今の時代における最も偉大なジャズ作曲家だ。ジャズで演奏する曲は、多くの場合、もともとはジャズで演奏するために作られた曲ではなかった。けれどエリントンは、何よりもまずジャズを念頭に置いて曲を作っている」
このアルバムのハイライトとしては、「Don’t Get Around Much Anymore」と「Sophisticated Lady」のきらめくようなカヴァーが挙げられる。エリントンに捧げるトリビュート・アルバムは、この1952年の作品以降、30枚以上作られてきた。たとえばソニー・スティットやメル・トーメも録音しているし、1993年にはミシェル・ペトルチアーニがブルーノート・レコードから『Promenade With Duke』をリリースしている。
2. エラ・フィッツジェラルド『Sings The Duke Ellington Song Book (1957年)
オスカー・ピーターソンはエリントンに捧げるインストゥルメンタル・アルバムをレコーディングした。また一方で、エリントンの最高に優れた楽曲の一部には歌詞もついている。そうしたヴォーカル曲を最高のかたちで録音したのが、このヴァーヴ・レコードのトリビュート・アルバムである。ここではエラ・フィッツジェラルドの比類なき歌声がフィーチャーされている。
さらには、参加ミュージシャンの顔ぶれも実に豪華だ。その中には、ディジー・ガレスピー、レイ・ブラウン、ハーブ・エリスといった偉大なジャズ・ミュージシャンたちが並んでおり、ほとんど無敵の陣容と言っていいだろう。
エラはすばらしいトリビュート・アルバムを実にたくさん録音している。さらに彼女自身も、その後はトリビュートを捧げられる立場になった。とはいえ、『Sings The Duke Ellington Song Book』が歴史に残るトリビュート・アルバムのひとつであることに変わりはない。
ちなみに、エラに捧げられたトリビュート・アルバムの中では、ディー・ディー・ブリッジウォーターが1997年にリリースした『Dear Ella』が優れている。またヴァーヴから、『We All Love Ella: Celebrating The First Lady Of Song』という名盤も出ている。
こちらはエラのエリントン・トリビュートの50年後に発表されたアルバムで、ダイアナ・クラール、kdラング、ナタリー・コール、ダイアン・リーヴスといったスターたちが「ジャズの女王」の有名曲をカヴァーしている。このアルバムには、エラとスティーヴィー・ワンダーのデュエット「You Are The Sunshine Of My Life」も収録されていた。
3. ダイナ・ワシントン『Dinah Sings Bessie Smith』 (1958年)
1950年代に「ブルースの女王」と呼ばれたダイナ・ワシントンが、元祖「ブルースの女帝」であるベッシー・スミスを讃えるのはごく当然のことだったのかもしれない。
エマーシーから出たこの名作の収録曲は華麗な内容になっており、バック・ミュージシャン (たとえばドラマーのマックス・ローチやトランペッターのクラーク・テリーなど) が「After You’ve Gone」、「Backwater Blues」、「Send Me To The ‘Lectric Chair」などの曲で元気溌剌としたリズムを奏でている。
ただしアルバムではなく曲単位でベッシー・スミスのカヴァーについて語るのなら、ニーナ・シモンが歌う「I Want A Little Sugar In My Bowl」を挙げなければならない。あれは別格だ。
4. アニタ・オデイ『Trav’lin’Light』 (1961年)
「ヴァーヴでレコーディングした作品群の中で特に気に入っているのは、自分のアイドル、ビリー・ホリデイに捧げたトリビュート盤だった」 ―― アニタ・オデイはそのように語っている。
ビリーは、そのアルバムが出る2年前になくなったばかりだった。アニタの吹き込んだカヴァー曲である「What A Little Moonlight Can Do」「Miss Brown To You」、そしてアルバムのタイトル・トラックはただただ喜びに満ちている。それに加えて、ギタリストのバーニー・ケッセルやサックス奏者のベン・ウェブスターといったすばらしいミュージシャンたちが絶頂期のアニタをバックで支えている。
こうした顔ぶれが揃えば、ジャズの歴史に残る最高のトリビュート・アルバムができるのも当然だ。ビリーに捧げられたトリビュート・アルバムはほかにもあり、たとえばチェット・ベイカーやトニー・ベネットなども吹き込んでいる。
5. スティーヴィー・ワンダー『Tribute To Uncle Ray』 (1962年)
スティーヴィー・ワンダーがレイ・チャールズに捧げたトリビュート・アルバムは、当時12歳の若者らしい活力にあふれている。取り上げられた楽曲の中には、「Drown In My Own Tears」「Hallelujah I Love Her So」「Come Back Baby」といったヒット曲が並んでいた。
モータウンの名プロデューサー、クラレンス・ポール (彼はスティーヴィーの師匠でもある) は、レイの楽曲を生き生きとしたカヴァー・ヴァージョンに仕上げている。ライナーノーツでは、「リトル・スティーヴィー・ワンダー ―― タムラの11歳の天才音楽家」が録音したこのアルバムが絶賛されていた。
この後スティーヴィー自身もトリビュート・アルバムを捧げられる側となり、その数は1ダースにものぼる。たとえば2004年にリリースされた『Blue Note Plays Stevie Wonder』という興味深いアルバムには、ジャズ界の伝説的ミュージシャンたち (スタンリー・タレンタイン、ハービー・ハンコック、スタンリー・クラークなど) が参加している。
6. Various『The Charlie Parker 10th Memorial Concert』 (1965年)
ライヴ録音されたトリビュート・アルバムという点では、ヴァーヴから出たこのジャズの名盤『The Charlie Parker 10th Memorial Concert』に勝るものはない。このアルバムは1965年3月27日にカーネギー・ホールで実況録音されたもので、伝説的なサックス奏者チャーリー・パーカーを讃えたトリビュート・アルバムの中では最高の部類に入る作品だ。
そのライヴのステージにはさまざまなスターが参加し、チャーリー・”バード”・パーカーに敬意を表していた (参加者の中には、コールマン・ホーキンス、リー・コニッツ、ディジー・ガレスピー、ロイ・エルドリッジ、ケニー・ドーハムといった人たちも含まれていた) 。
パーカーは音楽界でとりわけ影響力の大きい人物のひとりであり、これまでにたくさんのアーティストたちが単独でトリビュート・アルバムを発表している。その例としてはソニー・スティット、レッド・ロドニー、アイラ・サリヴァンのアルバムが挙げられる。最近では、ジョー・ラバーノもブルーノートからアルバム『Bird Songs』を出していた。
7. ハリー・ニルソン『Nilsson Sings Newman』 (1970年)
1960年代後半にこのアルバムを制作したハリー・ニルソンは、若きランディ・ニューマンの曲作りの才能に「畏れ多い気持ちを抱いていた」と認めている。ニルソンのゴージャスなヴォーカルは、ニューマンの歌詞にある感傷的かつ辛辣な部分をうまく表現していた。
ニューマン本人もこのアルバムでピアノを弾いており、それから23年後にはニルソンに捧げるトリビュート・アルバム『For The Love Of Harry』にニューマンが参加している。そこで彼が歌っているのは「Remember (Christmas)」だった。
8. ウィリー・ネルソン『To Lefty From Willie』 (1977年)
レフティ・フリゼルは、ことによるとカントリー・ミュージック界で最も軽んじられているソングライターのひとりかもしれない。彼はロイ・オービソンに影響を与えたミュージシャンであり、パティ・グリフィンやギリアン・ウェルチのお気に入りでもある。
ウィリー・ネルソンは2012年に次のように語っている。
「今でもレフティ・フリゼルが大好きだ。ただし彼の作品をよく知っているのは、私と同年代の人たちだけじゃないかな。けれど若い世代も彼の曲を音楽を知っておいたほうがいい。私はいつも“If You’ve Got the Money”を歌っているんだ」
このすばらしい出来栄えのトリビュート・アルバムで、ネルソンはフリゼルの驚くべき楽曲の良さを見事なまでに引き出していた。ここには、「That’s The Way Love Goes」「Always Late (With Your Kisses) 」「I Want To Be With You Always」と言った名曲の数々が収められている。
9. ジェニファー・ウォーンズ『Famous Blue Raincoat: The Songs Of Leonard Cohen』 (1987年)
ジェニファー・ウォーンズは、1970年代にレナード・コーエンのバック・シンガーを務めていた。そのジェニファーが作り上げたこのアルバムは、米ビルボード誌のアルバム・チャートでトップ100にランク入りしている。
これは心のこもった感動的な作品であり、ギタリストのスティーヴィー・レイ・ヴォーンといったスター・ミュージシャンの演奏もフィーチャーされている (レナード・コーエンに捧げられたトリビュート・アルバムはほかにもいくつかあり、その中にはフランスのミュージシャンたちが作ったものもある)。
このジェニファーのアルバムのライナーノーツにはコーエン本人が描いた漫画風のイラストが掲載されており、そこではたいまつをリレーする絵に「ジェニーが歌うレニー」という説明が添えられている。この2人のアーティストのつながりを考えれば当たり前のことだが、『Famous Blue Raincoat』はレナード・コーエンのトリビュート・アルバムの中でも最上の部類に入る1枚だ。
10. Various『The Bridge: A Tribute To Neil Young』 (1989年)
1970年代にその名を轟かせた偉大なるシンガー・ソングライターたち (たとえばドリー・パートン、キャット・スティーヴンス、JJ・ケイル、ジョン・マーティンなど) を対象としたトリビュート・アルバムはこれまでにたくさん作られており、その中には魅力的な作品も数多くある。
とはいえあの時代のスターに捧げられた最高のトリビュート・アルバムといえば、キャロライン・レコードが出したニール・ヤング・トリビュートを忘れてはいけない。
このアルバムのハイライトとしては、ザ・フレーミング・リップス、ピクシーズ、ニック・ケイヴなどによるカヴァーがあげられる。特にソニック・ユースの「Computer Age」は抜群だ。
11. Various『Two Rooms: Celebrating The Songs Of Elton John & Bernie Taupin』 (1991年)
ケイト・ブッシュが吹き込んだ「Rocket Man」のレゲエ風のカヴァー・ヴァージョンは、2007年に『Observer』誌の読者投票で「史上最高のカヴァー」に選ばれた。この録音は、名ソングライター・コンビ、エルトン・ジョン&バーニー・トーピンを讃えるマーキュリー・レコードのトリビュート・アルバムに収録されていた楽曲だ。
このアルバムには、ほかにも数多くのスーパースターが参加している。たとえばシニード・オコナーの「Sacrifice」はゴージャスな仕上がりだ。さらにジョー・コッカー、エリック・クラプトン、スティング、ジョージ・マイケルも才能あふれるカヴァーを披露している。
12. Various『Stone Free: Tribute To Jimi Hendrix』 (1993年)
1970年にわずか27歳でこの世を去ったジミ・ヘンドリックスは、エリック・クラプトンやジェフ・ベックといった同時代のギタリストたちを虜にした。そのクラプトンとベックが参加したヘンドリックス・トリビュートは、この伝説のギタリストを讃えるアルバムとしては間違いなく最高の部類に入るだろう。
このアルバムにはさまざまなハイライトがあり、その1つとしてはクラプトンがカヴァーした「Stone Free」 (ヘンドリックスの1966年の曲) が挙げられる。ここでバックを務めている顔ぶれの中にはナイル・ロジャース、バーナード・エドワーズ、トニー・トンプソンという元シックのメンバー3人も含まれていた。
またスラッシュも、ヘンドリックスがかつて組んでいたグループ、バンド・オブ・ジプシーズの面々を従えて参加している。一方ザ・キュアーは名曲「Purple Haze」をカヴァーしている。
13. Various『If I Were A Carpenter』 (1994年)
カーペンターズが残した作品の数々は驚くべきものであり、2017年に12枚組LPボックス『The Vinyl Collection』にもまとめられている。そうした作品は長年にわたって数多くのミュージシャンにインスピレーションを与えてきた。
カーペンターズを讃えるトリビュート・アルバム『If I Were A Carpenter』はバラエティに富んだ内容だ。参加したミュージシャンはシェリル・クロウ、グラント・リー・バッファロー、ソニック・ユース、クランベリーズという意外な顔ぶれだったが、結果的には成功している。その理由のひとつは、参加者が明らかに愛情たっぷりにカヴァーを録音していたことにあった。
14. Various『No Prima Donna: The Songs Of Van Morrison』 (1994年)
ポリドールは、ベルファスト生まれのアーティスト、ヴァン・モリソンを讃えるため、さまざまな方面からミュージシャンを集めた。さらには、俳優のリーアム・ニーソンも起用している。ニーソンは、まるで詩のようなモリソンの歌「Coney Island」を朗読していた。またシニード・オコナーは「You Make Me Feel So Free」を優雅な雰囲気で歌っている。
このアルバムにはモリソンの娘シャナも参加していた。一方モリソンのファンであるエルヴィス・コステロは「Full Force Gale」を彼ならではのものに仕立て直している。
15. Various『Beat The Retreat: Songs By Richard Thompson』 (1995年)
リチャード・トンプソンは最高に独創的なソングライターのひとりである。それゆえ、1995年にキャピトル・レコードから出たこのアルバムが、最高のトリビュート・アルバムのひとつとして数えられているのも不思議なことではない。
ここに参加したアーティストたちは、トンプソンの辛辣で巧みな曲を実に想像力豊かにカヴァーしている。たとえばR.E.M.は「Wall Of Death」を取り上げ、ロス・ロボスは「Down Where The Drunkards Roll」を優れた録音に仕上げている。
またショーン・コルヴィンとルードン・ウェインライトは「A Heart Needs A Home」で見事なデュエットを披露していた。さらには、フォーク界の伝説的歌手であるジューン・テイバーが「Beat The Retreat」を優雅さと気品のあふれるかたちで吹き込んでいる。このときテイバーをバックで支えていたのは、ベースのダニー・トンプソン、ギターのマーティン・カーシーとデヴィッド・リンドリーといった一流のミュージシャンたちだった。
16. Various『Encomium: A Tribute To Led Zeppelin』 (1995年)
トリビュート・アルバムには実にさまざまなものがある。たとえばKISSのようなロック界のスターを讃えたものもあれば、ファッツ・ドミノやバディ・ホリーといったロックのパイオニアを讃えたものもあるし、さらにはクルト・ワイルのような前衛的な作曲家を讃えたものさえある。
とはいえこうした数々のアルバムにも共通点がある。つまり、アルバムのテーマとなるアーティストには、未来のミュージシャンにインスピレーションを与える力が備わっていたのである。このレッド・ツェッペリンを讃えるアルバムには、フーティー&ザ・ブロウフィッシュ、デュラン・デュラン、シェリル・クロウだけでなく、ツェッペリンの結成メンバーであるロバート・プラントさえもが参加している。ロバート・プラントは、1975年の曲「Down By The Seaside」でトーリ・エイモスとデュエットしている。
17. Various『Chuck B Covered: A Tribute To Chuck Berry』 (1998年)
チャック・ベリーはロックンロールの創始者のひとりである。それゆえ、彼を讃えるトリビュート・アルバムが最高の出来になるのも当然のことだ。チェス・レコードのスター、ベリーに捧げられたこのアルバムは、ユニバーサル・ミュージックのHip-Oというレーベルから発表された。
ここには、さまざまな音楽の巨人たちをフィーチャーした14曲が収められている。その中には、リンダ・ロンシュタットが歌う「Back In The USA」、ジェリー・リー・ルイスが歌う「Sweet Little Sixteen」、ロッド・スチュワートが歌う「Sweet Little Rock’n’Roller」 (もともと1974年のアルバム『Smiler』のために録音された) などが含まれていた。
とはいえハイライトのひとつとして、エミルー・ハリスによる「You Never Can Tell」の力強いカヴァーを忘れてはいけない。
18. Various『Return Of The Grievous Angel: A Tribute To Gram Parsons』 (1999年)
26歳という若さで亡くなった故グラム・パーソンズは、カントリー・ロックのパイオニアだった。この1999年の素敵なトリビュート・アルバムは、かつて彼のデュエットのパートナーだったエミルー・ハリスが共同プロデューサーを務めている。彼女はハイライトのひとつである「Sin City」をベックとのデュエットで歌っている。
また、ギリアン・ウェルチが吹き込んだ「Hickory Wind」もすばらしい出来栄えだ。参加者の中にはエルヴィス・コステロ、スティーヴ・アール、カウボーイ・ジャンキーズなども含まれている。
19. B.B.キング『Let The Good Times Roll: The Music Of Louis Jordan』 (1999年)
もしもB.B.キングのような偉大なアーティストが自らのアルバム1枚全体を費やしてほかのミュージシャンにトリビュートを捧げるのなら、そのミュージシャンは特別な存在だったはずだ。ルイ・ジョーダンは、8年間 (1943年~1950年) に渡って「ジュークボックスの王様」だった。その時期の彼の曲は、合計で113週間もR&Bチャートの首位にあった。
ナンバーワンを獲得した曲は18曲、トップ10に入った曲は54曲あり、そうしたヒット曲の中には「Is You Is or Is You Ain’t My Baby」「Caldonia」「Choo Choo Ch’Boogie」などが含まれていた。ここに挙げた3曲はすべて、B.B.がすばらしいかたちでカヴァーしている。B.B.はジョーダンについて次のように語っていた。
「私に大きなインスピレーションを与えてくれた人物のひとりがルイ・ジョーダンだった。彼の曲だけでアルバムを1枚レコーディングできたことをとても嬉しく思っている。彼はすばらしいミュージシャンで、フレージングについて本当に多くのことを教えてくれた」
B.B.が抱くこうした尊敬の念は、最高のトリビュート・アルバムのひとつとして結実した。ジョーダン本人がこうあって欲しいと思うようなトリビュート・アルバムは、まさにこういうものだったのかもしれない。
20. Various『Stoned Immaculate: The Music Of The Doors』 (2000年)
偉大なるバンド、ドアーズは、かなり風変わりなトリビュート・アルバムのテーマとなった。このアルバムにはドアーズの元メンバーが参加しているだけでなく、故ジム・モリソンをフィーチャーした音源も収録されている (ジョン・リー・フッカーとのコラボレーション「Roadhouse Blues」) 。
さらにはボ・ディドリーのようなベテラン・ミュージシャンに加えて、ストーン・テンプル・パイロッツやクリードといった若手ロック・アーティストも参加者の中に名を連ねている。
21. Various『Timeless』 (2001年)
ハンク・ウィリアムスを讃えるトリビュート・アルバムは数多く存在する。とはいえ、彼はカントリー・ミュージックの巨匠なのだから、オールスター・キャストでアルバムを作るのがふさわしい。そして『Timeless』は、最高のトリビュート・アルバムのひとつとなった。
ここにはボブ・ディラン、キース・リチャーズ、トム・ペティ、マーク・ノップラーなどが録音したカヴァーが収録されている。またジョニー・キャッシュは、「I Dreamed About Mama Last Night」のカヴァーでグラミー賞にノミネートされた。
とはいえ、若手ミュージシャンによる2曲も珠玉の名演となっている。そのうちの1つはベックが音数少なくカヴァーした「Your Cheatin’ Heart」。もうひとつはライアン・アダムスの厭世感漂う「Lovesick Blues」だった。
22. Various『Poet: A Tribute To Townes Van Zandt』 (2001年)
テキサス出身の吟遊詩人タウンズ・ヴァン・ザントは52歳で亡くなった。それから4年後、ガイ・クラーク、ナンシー・グリフィス、スティーヴ・アール、エミルー・ハリス、ウィリー・ネルソンといったカントリー・ミュージックの巨匠たちが、このすばらしいアルバムでオマージュを捧げた。
その後スティーヴ・アールは、単独でもヴァン・ザントに捧げる2枚組トリビュート・アルバムをレコーディングしている。
23. Various『This Is Where I Belong: The Songs Of Ray Davies & The Kinks』 (2002年)
キンクスは、第二次大戦後のブリティッシュ・ロックの世界でとりわけ大きな影響力を持っていたバンドの1つだ。このキンクスの中心人物レイ・デイヴィスはとてつもない才能に恵まれたソングライターである。ジム・ピットがプロデュースしたこのアルバムにはデイヴィス本人も参加し、ブラーのデーモン・アルバーンと「Waterloo Sunset」をデュエットしている。
ティム・オブライエンが録音した「Muswell Hillbilly」のカヴァーもすばらしい。もうひとつのハイライトと言えるのがベベル・ジルベルトの「No Return」である。これは、デイヴィスが歌手のアストラッド・ジルベルトを念頭において作ったと言われるボサノヴァの曲だ。
24. Various『Enjoy Every Sandwich: The Songs Of Warren Zevon』 (2004年)
故ウォーレン・ジヴォンは独創的で風変わりなソングライターだった。このトリビュート・アルバムの題名は、ジヴォンが肺がんと診断され、人生のはかなさについて何かメッセージはないかと尋ねられたときの言葉から来ている。彼は次のように答えた。
「ひとつひとつのサンドイッチを美味しく食べろ」
このトリビュート・アルバムにはさまざまな顔ぶれが集まっており、その中には俳優のビリー・ボブ・ソーントンも含まれている。有名どころのミュージシャンでは、ジャクソン・ブラウン、ドン・ヘンリー、ライ・クーダー、ボブ・ディランなども参加していた。またブルース・スプリングスティーンは、「My Ride Is Here」のすばらしいライヴ・ヴァージョンを提供している。
25. Various『Killer Queen: A Tribute To Queen』 (2005年)
今や伝説と化している比類なきロック・バンド、クイーンを讃えるこのトリビュート・アルバムでは、ブライアン・メイのブルース・ソング「Sleeping On The Sidewalk」をロス・ロボスが見事にカヴァーしている。
クイーンは多くのアーティストを魅了しており、このバンドのファンの中にはジョス・ストーンもいる。ストーンは、1981年の曲「Under Pressure」 (メイ、フレディ・マーキュリー、デヴィッド・ボウイの3人が共作した曲) をまた新たなかたちでアレンジし直していた。
26. Various『A Case For Case: A Tribute To The Songs Of Peter Case』 (2006年)
筆者は、過小評価されがちなミュージシャンについてプロデューサーのT・ボーン・バーネットに尋ねたことがある。そのとき彼は、ピーター・ケースの名を挙げて次のように語っていた。
「ピーター・ケースは最高に露骨で、最高に信じられないようなソングライターだ。ストーリーやキャラクターを作る才能がとてつもなくすごかった」
そんなピーター・ケースを讃えるために、2006年、3枚組48曲入りのトリビュート・アルバムが作られた。このアルバムに招集されたのは、ジョー・イーライ、モーリーン・オコンネル、ヘイズ・カールといったミュージシャンたちだった。
ここに収められたすばらしい楽曲の数々を聴けば、ブルース・スプリングスティーンがケースの曲作りの大ファンである理由がわかるだろう。そして、この『A Case For Case』が歴史に残る最高のトリビュート・アルバムのひとつに数えられる理由もわかるはずだ。
27. Various『A Tribute To Joni Mitchell』 (2007年)
ジョニ・ミッチェルは、歴史に残る偉大なシンガー・ソングライターのひとりである。2007年、一流ミュージシャンたちが彼女にトリビュートを捧げるために集まった。
その中にはジェームス・テイラー の「Rain」やエルヴィス・コステロによる「Edith And The Kingpin」に加えて、自らも比類のないスタイルを持つプリンスすら含まれていた。プリンスは、ジョニの傑作「A Case Of You」の印象的なカヴァーを披露している。
28. Various『Broken Hearts & Dirty Windows: Songs Of John Prine』 (2010年)
ジョン・プラインの曲作りは、ボブ・ディランやクリス・クリストファーソンといった有名人から尊敬されている。ただし、この2010年のトリビュート・アルバムには普通ではないところが1つあった。それは、起用されたアーティストの中にジョン・プラインと同世代のアーティストがいなかったことである。
参加したミュージシャンは、ドライブ・バイ・トラッカーズ、マイ・モーニング・ジャケット、ジャスティン・タウンズ・アール、オールド・クロウ・メディスン・ショーといった顔ぶれだった。 (ちなみにカントリー・ミュージシャンのジェフリー・フーコーも、プラインの楽曲を称えたゴージャスなソロ・アルバムを発表している)。
29. ウィリー・ネルソン、ウィントン・マルサリス、ノラ・ジョーンズ『Here We Go Again: Celebrating The Genius Of Ray Charles』 (2011年)
これは明らかに関係者全員の熱意でできたアルバムだった。ウィリー・ネルソン、ノラ・ジョーンズ、ウィントン・マルサリスが同じステージに立つという話を耳にしたら、あなたはどういう反応を示すだろうか。きっと、近年まれに見る最高のトリビュート・アルバムのひとつになるのではないか ―― そう思うに違いない。そのような期待は裏切られなかった。
2009年2月にニューヨークのジャズ・アット・リンカーン・センターでライヴ録音されたこのアルバムでは、レイ・チャールズの楽曲にマルサリスがオリジナル・アレンジを施している。ここでは、チャールズの最高傑作の数々がさまざまなスタイルで演奏されている。たとえばゴスペル、バップ、R&B、ワルツ、スウィングなどなど。楽しさがあふれんばかりの内容だ。
30. Various『Chimes Of Freedom: The Songs Of Bob Dylan Honoring 50 Years Of Amnesty International』 (2012年)
楽曲カタログのすばらしさという点で、ボブ・ディランと肩を並べるミュージシャンはそうそういない。それゆえ、このノーベル文学賞受賞ソングライターのトリビュート・アルバムは30枚以上も存在する。この『Chimes Of Freedom』だけでも、カヴァーされている曲の数は75曲に及ぶ。
参加したミュージシャンも実に多彩で、ピート・タウンゼント、アデル、スティーブ・アール、ジギー・マーリー、マルーン5、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、ブライアン・フェリー、マイリー・サイラスといった豪華な顔ぶれが並んでいる。
31. Various『The Music Is You: A Tribute To John Denver』 (2013年)
ジョン・デンバーといえば、花柄のカウボーイ・シャツ、楽しげな笑顔、長髪のヘアスタイル、おばあさんのような丸メガネが思い出されるかもしれない。とはいえ彼は非常に有能なソングライターでもあり、アメリカだけで4枚のプラチナ・アルバムと12枚のゴールド・アルバムを獲得している。
彼のベスト盤『Greatest Hits』はチャート入りした期間が175週にも及んだ。2013年に出たこのトリビュート・アルバムには、ルシンダ・ウィリアムスのようなカントリー・ミュージックのスターやインディ・ロックの若手ミュージシャンが参加し、デンバーの名曲の数々を見事なかたちでカヴァーしている。
取り上げられた曲の中には、「Take Me Home Country Roads」や「Leaving On A Jet Plane」なども含まれていた。
32. ドクター・ジョン『Ske-Dat-De-Dat: The Spirit Of Satch』 (2014年)
“サッチモ”ことルイ・アームストロングを讃えるトリビュート・アルバムは数多くあり、その中にはヴォーカル・グループのマンハッタン・トランスファーが録音したものさえある。とはいえ、サッチモを讃える最高のトリビュート・アルバムのひとつは、ドクター・ジョン (本名マック・レベナック) が2014年に発表している。
このアルバムは、ドクター・ジョンの上品なピアノと深みのあるヴォーカルというフィルター経由でブルース、ソウル、ゴスペル、そしてジャズをたっぷりと取り入れたゴキゲンな作品に仕上がった。この13曲のカヴァーに含まれた遊び心は、ニューオーリンズ音楽の真髄と言える。
またここでは、ゲスト・ミュージシャンのすばらしい演奏も聞ける。たとえばテレンス・ブランチャードは、「Wrap Your Troubles In Dreams」を素敵なトランペットで飾っている。
33. Various『Looking Into You: A Tribute To Jackson Browne』 (2014年)
ジャクソン・ブラウンは、現代のソングライターの中でもとりわけ力強く情感豊かな曲を作り上げてきた人だ。このトリビュート・アルバムでは、そんな彼が作った楽曲のうち23曲が取り上げられている。ブルース・スプリングスティーンや故ジミー・ラフェーヴといったスターたちによるカヴァーは新鮮な視点から録音されており、愛情たっぷりのアレンジが施されているのだ。
またさまざまな女性ヴォーカリストによる解釈も興味深い。たとえばサラ・ワトキンス (「Your Bright Baby Blues」は名演) 、ボニー・レイット、ショーン・コルヴィンらの録音は、どれもオリジナルに新たな何かを加えている。とはいえ、一番のハイライトははルシンダ・ウィリアムスだろう。その痛々しいほどに悲しげな声は、「The Pretender」の切望と挫折を嘆く歌としての側面を強調している。
34. Various『Joy Of Living: A Tribute To Ewan MacColl』 (2015年)
このトリビュート・アルバムでは、フォーク・ミュージシャン、イワン・マッコールの楽曲を21人のヴォーカリストが讃えている。たとえば「The First Time Ever I Saw Your Face」のカヴァーという難題を任されたのはポール・ブキャナンだった。またスティーヴ・アールが吹き込んだ「Dirty Old Town」は猛烈な内容だ。
一方スコットランドのフォーク歌手ディック・ゴーガンは、彼ならではの硬質なすばらしい歌声で「Jamie Foyers」を歌い、感動的なカヴァーに仕上げている。
35. Various『God Don’t Never Change: The Songs Of Blind Willie Johnson』 (2016年)
ブラインド・ウィリー・ジョンソン (1945年に48歳で死去) は初期ブルースの偉大なるミュージシャンのひとりで、シニード・オコナーやマリア・マッキーといった現代のスターにもインスピレーションを与えている。
このアルバムは地味な内容かもしれないが、それでも最高のトリビュート作品のひとつと言える。なぜなら、トム・ウェイツやルシンダ・ウィリアムスが参加した曲が見事な出来栄えになっているからだ。トムは「The Soul Of A Man」と「John The Revelator」の2曲を録音している。
一方ルシンダは、アルバム・タイトル曲と「It’s Nobody’s Fault But Mine」の痛烈なカヴァーで、彼女ならではの力強さと深みを存分に発揮している。後者の録音では、ダグ・ペティボーンがすばらしいスライド・ギターを弾いている。
36. ザ・ローリング・ストーンズ『Blue & Lonesome』 (2016年)
ストーンズを讃えるトリビュート・アルバムは、長年にわたってたくさん発表されてきた。とはいえ、ストーンズ自身が録音した『Blue & Lonesome』もグラミー賞にノミネートされており、史上最高のトリビュート・アルバムの1つと言っていいだろう。これは、彼らがキャリア後期になってブルースに捧げたラブ・ソングだ。
ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツは、若い頃にブルースから多大なるインスピレーションを得ていた。このアルバムには、ハーモニカの名手リトル・ウォルターが世に広めた「Just Your Fool」の陽気なカヴァーも収められている。またハウリン・ウルフの「Commit A Crime」のカヴァーもすばらしい出来栄えだ。
37. Various『Gentle Giants: The Songs Of Don Williams』 (2017年)
カントリー歌手のドン・ウィリアムスは、このすばらしいトリビュート・アルバムが発表された直後の2017年9月に亡くなった。現代のカントリー・ミュージックを代表する偉大なミュージシャンたち (レディ・アンテベラム、ジェイソン・イズベル、アリソン・クラウスなど) が参加したこのアルバムは、評論家たちから絶賛された。
アルバム中のハイライトのひとつは、クリス・ステイプルトンがシンプルなライヴ演奏で録音した「Amanda」だ。ここには彼の妻モーガンも参加している。
38. ルイス・ヘイズ『Serenade For Horace』 (2017年)
最高のトリビュート・アルバムには、歴史が刻まれたものがたくさんある。このアルバムもそのひとつだ。1956年、ティーンエイジャーだったルイス・ヘイズは、デトロイトからニューヨークに向かった。それは、著名なハード・バップ・ピアニストで作曲家のホレス・シルヴァーのバックでドラムを叩くためだった。やがてヘイズは、その年に出た画期的なアルバム『6 Pieces Of Silver』に参加することになる。
そんな彼がブルーノート・レコードと契約後の初リーダー・アルバムとして『Serenade For Horace』を録音したのは、まさに当然の成り行きと言えよう。ドン・ウォズとの共同プロデュースで作り上げたこのアルバムは、恩師シルヴァーに捧げるすばらしいトリビュートだった。当時80歳のヘイズを支える参加ミュージシャンの中にはヴィブラフォン奏者のスティーヴ・ネルソンもいた。ここでのネルソンは、すばらしい演奏を披露している。
シルバー本人は2014年に亡くなっているが、彼もトリビュート・アルバムにゲスト参加したことがある (ディー・ディー・ブリッジウォーターが1995年にヴァーヴから発表した『Love And Peace:A Tribute To Horace Silver』) 。
39. トニー・アレン『A Tribute To Art Blakey』 (2017年)
このミニ・アルバムは、ナイジェリア出身のドラマー、トニー・アレンがブルーノート・レコードと契約後に初めて出した作品だった。フェラ・クティやディーモン・アルバーンとの共演で知られるアレンは7人編成のバンドでこのアルバムを録音している。
ここではアート・ブレーキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの「Moanin’」、「A Night In Tunisia」、「Politely」、「Drum Thunder Suite」といった名曲がアフロビートで解釈されており、脈打つようなエネルギーがあふれている。
40. グレゴリー・ポーター『Nat “King”Cole & Me』 (2017年)
ナット・キング・コールを讃えるトリビュート・アルバムといえば、1996年にダイアナ・クラールが『All For You:A Dedication To The Nat “King” Cole Trio』をインパルスから発表している (こちらも、コールに捧げられた最高のトリビュート・アルバムのひとつとして数えていいだろう)。
それに続くかのように、グレゴリー・ポーターはロンドン・スタジオ・オーケストラと共にこの愛情あふれるトリビュートを録音した。ヴィンス・メンドーサの優れたアレンジは、コールの数々の名曲からうまく情感を引き出している。
ビッグ・バンド・アレンジの「Ballerina」はエネルギーに満ちており、ポーターの歌声も「Mona Lisa」の哀愁を上手に表現している。ポーターはナット・キング・コールに捧げるトリビュートのレコーディングを「非常に感動的な経験」だったと語っている。なぜなら、このアルバムの録音はポーター自身が子供時代に親しんでいた歌を讃えることを意味していたからだ。
Written By Martin Chilton
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