サム・クックのベスト・ソング20曲:ゴスペルとソウルの必聴曲【楽曲視聴動画付】
サム・クック(Sam Cooke)は、現在の私たちが考えるところの‟ソウル・ミュージック”を発明した人物だ。彼はもともと人気ゴスペル・シンガーだったが、そこからポップス界に転身し、世界で最も影響力のあるポップ・アイコンのひとりになった。それは、ポピュラー・ミュージックの中でも特に衝撃的な出来事だった。彼は真の意味でオリジナルな存在であり、その影響力は今もなお薄れていない。
ゴスペル歌手たちは常に感情と声が織り成すアクロバットを披露している。それは魂の愛を征服した結果なのだ。サム・クックは“ソウル・スターラーズ”のリード・シンガーとしてその技術を習得。その後、一般的には神の力を示す神秘主義に、憧れや愛、10代の反抗、社会正義の必要性といった当時の世代が抱えていた感情を自身の歌に吹き込んでいく。
クックは、33歳という早すぎる死を迎えたが、亡くなるまでにたくさんの作品を残していた。彼のカタログは、どこから聴き始めてもいい。しかし、伝説的なシンガーソングライターであるサム・クックの全体像を知りたいという人は、まずこのベスト・ソング・リストに挙がっている曲から聴いてみるのがいいだろう。そうすれば、彼が本当に偉大なアーティストであったことがわかるはずだ。
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ゴスペルの人気シンガー
1931年1月22日、ミシシッピ州クラークスデールに生まれたサミュエル・クック (もともとのファミリー・ネームは“Cook”だったが、彼は歌手として活動を始めると、最後に“e”を加え、“Cooke”とするようになった) は牧師の息子として育ち、幼いころからゴスペル・グループで歌い始めた。そして1950年に19歳の若さでソウル・スターラーズに参加すると、全国的に注目を集める存在になった。印象的なヴォーカルの抑制力と個性的なビブラートは、たちどころにセンセーションを巻き起こした。そうした声の特徴は、その後のポップ・ヒット・ナンバーの数々を飾っていくことになる。
ハンサムな青年で、どんな部屋でも静まり返るような魅力的な声を持つクックは、ほかのゴスペル歌手よりも若い観客を引きつけていた。彼のカリスマ性は、「Jesus Gave Me Water」や「Touch the Hem of His Garment」などのヒット曲を次々と生み出した。ソウル・スターラーズのライヴに若い女性客が増えてくると、クックがソロとして独立するのは必然的な流れのように思えた。しかしソロ活動を始めた彼が、ゴスペルを完全に捨て去ることになるなどとは、ほとんどの人が予想していなかったことだろう。
ロマンティックなソウルの歌い手
ゴスペルからポップスに転身するというサム・クックの決断は物議を醸した。長年の彼のファンの中には、それをきっかけにクックから離れた人もいた。しかし、彼がポップスの世界で成功を収めると、失ったファンの数をはるかに上回るほどの膨大な数の支持を新たに集めることになった。ポップ・アーティストとしてのクックにとってすべての出発点となったシングルは「You Send Me」だ。
クックが作り1957年にリリースされたこの曲を聴けば、彼がシンプルなリフレインからどれだけ豊かな情感を呼び起こすことができるのか、ありありとわかるだろう。この曲の中心となるロマンチックな願いの声は、2分41秒のあいだほとんど変わることなく繰り返される。テレビ番組での熱唱ぶりも記憶に残るものとなっており、たとえば“The Ed Sullivan Show”では感動的なパフォーマンスが披露されている。
1960年にソングライター・チームのルー・アドラー&ハーブ・アルパートと共作した「(What A) Wonderful World」は、クックの遊び心が最高に表れた曲だ。この曲は彼のキャリアを代表する大ヒット曲のひとつでもある。穏やかなアレンジに乗せて、主人公は自分が口説こうとしている女の子に「”歴史”や”生物学”と言った学校の勉強はあまり得意じゃない……」と告白している。しかし彼は、相手の愛情を勝ち取るためならものすごく努力すると誓うのだ。
翌1961年にリリースされた「Cupid」では、クックは違うアプローチをしている。愛の使者であるキューピットに‟弓を引いて”と頼み、‟あの子のハート”を射抜いてもらおうとしているのだ。いずれにせよ、女性の心を射止めるのに絹のように滑らかな彼の歌声だけでは足りないのだとすれば、何かしらの神の力が必要になるのは仕方のないことだろう。
「You Send Me」のシンプルなメッセージとよく似た「It’s Alright」は、基本となる恋心とクックの唯一無二の歌声を最大限に活用した曲だ。この曲は1961年のシングル「Feel It」のB面に収録され、クックのライヴでは観客から喝采を浴びる定番の1曲となっている。
サム・クックの過小評価されがちなラヴ・ソングのひとつとして、1964年の「Rome (Wasn’t Built in a Day) 」がある。この曲でクックは、とこしえの愛を見つけるためには物事をゆっくりと進める必要があると強調している。彼は、「もしジュリエットが彼の誘いを断り、気のないふりをして焦らしたとしたら、ロミオはどんな気持ちになるだろうか?」と問いかけている。「もちろん彼は努力を続けるはず……」というのがその答え。なぜなら「光があるところには希望がある」からだ。
“ミスター・ソウル” パーティーの火付け役
サム・クックのポップ・ミュージックへの転身は大成功を収め、ビルボードのR&Bチャートやブラック・シングル・チャートのトップ10に20枚のシングルがランク入りした。これらのアップテンポなシングルの多くは、若者の「反抗的」な態度を反映していた。たとえば「Twistin’ the Night Away」や「Havin’ a Party」のような曲は、若者たちが群れ集まって、悩みを忘れて踊りたいという野性的な欲求に訴えかけていた。もちろん親や教会の話などは一切出てこない。
また、クックは「Good Times」という曲で、日常生活から抜け出したい若者たちのそわそわした心の動きを実にうまくまとめている。「Come on, let the good times roll (さあ、楽しもう)」と彼は歌う。「We’re gonna stay here until we soothe our souls, if it takes all night long (たとえ一晩中かかっても、心がスーッと静まるまでここにいよう) 」と。
クックが亡くなる1ヶ月前に録音され、没後の1964年12月にシングルとしてリリースされた曲「Shake」は、ダンスフロアに向けて彼が最後のシャウトを浴びせた作品だった。これは歴史に残る陽気なソウル・ソングのひとつであり、サビの「Shake」というコーラスはまさしくシュプレヒコールのようだ。
このグルーヴを聴いた人間は、肩を鷲掴みにされ、背骨を無理やり揺さぶられてしまうだろう。この曲は、クックの忠実なる信奉者たちによって無数にカヴァーされている。その中には、オーティス・レディング、スモール・フェイセス、アイク&ティナ・ターナーなども含まれている。
スタンダード・ナンバーのカヴァー
ヴォーカリストとしての技量を確かめる場合、「グレート・アメリカン・ソングブック」と言われるアメリカのスタンダード曲は便利な目安となる。サム・クックはこれらの曲をスリリングな方法で新たなかたちに仕立て直し、オリジナル・ヴァージョンがもはや必要ないと思えるほど見事な出来栄えだった。
たとえばジョージ・ガーシュウィンが作曲した「Summertime」や1940年代のヒット曲「 (I Love You) For Sentimental Reasons」での歌声は、過去にほかの歌手が歌っていたとは信じられなくなるほどの堂々たるものになっている。
同じことがスピリチュアルな「Nobody Knows the Trouble I’ve Seen」のカヴァーにも言える。1963年のクックのヴァージョンは闇の騎士が自らの心境を告白する歌のような雰囲気であり、常に傷つき続けた人生に涙しているように聞こえる。
そうした中でおそらく最も印象的なのは、1947年のカントリー・ヒット曲「Tennessee Waltz」のカヴァーだろう。クックは、オリジナル・ヴァージョンのような悲しげなホンキー・スウィングではなく、テンポの速いシャッフルでこの曲を歌っている。ダンスのパートナーを自分の旧友を紹介したところ、その子を旧友に取られてしまうという歌詞はそのまま歌われているが、その悲しい夜のことを思い出す時の絶叫は聴く者の予想をはるかに上回っている。
唯一無二のエンターテイナー
サム・クックのベスト・ソングを紹介する場合、『Sam Cooke At The Copa』や『One Night Stand: Live at the Harlem Square Club』といったライヴ盤の曲も避けては通れない。
1964年にニューヨークの有名なクラブで2晩にわたって録音された『Sam Cooke At The Copa』は、その会場に合わせた雰囲気に仕上がっており、バック・バンドはグルーヴよりもジャジーなスウィング寄りの演奏をしている。また、「This Little Light of Mine」やピート・シーガーの名曲「If I Had a Hammer」の演奏では、クックのゴスペルっぽいステージングを多少なりとも楽しむことができる。
『Sam Cooke At The Copa』ではクックがスムーズでロマンティックなエンターテイナーとなっているが、『One Night Stand: Live at the Harlem Square Club』はソウル全開の爆発的なライヴとなっている。1963年の冬にマイアミの有名なクラブで録音されたこのアルバムでは、クックは自分のヴォーカルを限界まで張り上げており、ここではすべてが荒々しく、男らしい激しさに満ちている。バック・バンドの控えめな演奏に支えられながら、クックはステージを完全に支配していたのだ。特に「Chain Gang」では観客が大合唱になり、全員が彼の魔法にかかっているのがわかる。
このアルバムで何よりもすばらしいのは、彼の代表的なヒット曲のひとつ「Bring It on Home to Me」である。この曲の演奏は、アルバート・“ジューン“・ガードナーが叩くタイトなリズムと共に始まる。クックは、ドラマチックなクレッシェンドでバック・バンドに好き勝手に演奏するように指示して「You Send Me」の長いリフレインを延々と続けていく。このすばらしい脱線のあと、バンドは「Bring It on Home to Me」に突入する。
彼とバンドが積み重ねてきた緊張感は火薬庫のように爆発し、観客席は熱狂に包まれる。この音源は録音から20年の時を経てリリースされたが、この世に数あるライヴ・アルバムの中でもこれ以上に生演奏の迫力を伝えるものはそうそうないだろう。
重要曲「A Change Is Gonna Come」
サム・クックがこれまでに作った中でとりわけ重要な曲のひとつが「A Change Is Gonna Come」である。1963年、RCAのアルバム『Ain’t That Good News』の曲作りをしていたクックは過渡期にあった。ゴスペルからダンス・ポップスへと転身した彼は、ポップスをより意味のあるテーマのある音楽に発展させるにはどうしたらいいだろうと考えていた。若きプロテスト・シンガー、ボブ・ディランの「Blowin’ in the Wind」を聴いて深い感動を覚えたクックは、それまでアメリカ社会の中で目の当たりにしてきた不正を自らの声で取り上げるべき時が来たと考えたのだ。
「A Change Is Gonna Come」のオープニングで、クックはアフリカ系アメリカ人が何世代にもわたって感じてきたフラストレーションと怒りを言葉で表している。「私が生まれたのは小さなテントの中/そのテントは川のそばにあった」とクックは歌う。「そしてその川のように私はずっと走ってきた」。
抑えきれない感情を迸らせるクックは、苦悩のすべてを曲の最後のヴァースで沸騰させ、より良い日々への希望を見出そうと立ち上がる。「もう長くは続かないと思っていた時もあったけれど、今は続けられると思う」。残念なことに、この曲のメッセージは最初にレコーディングされた当時と同じくらい今の社会状況にも当てはまっている。
結局、この曲がクックの最後に吹き込んだものとなった。この曲がリリースされる2週間前の1964年12月、クックはホテルの支配人と争っている最中に銃で撃たれた。この夜の出来事についてはさまざまな説があるが、最終的な結論は出ていない。クックが33歳という悲劇的な若さで亡くなった事件は、未だにポピュラー音楽の世界で最大の謎のひとつとなっている。
「A Change is Gonna Come」は当時大ヒットになった。しかし、この曲のインパクトはその後も増すばかりだった。この曲はアレサ・フランクリンやオーティス・レディングにもカヴァーされ、スパイク・リーの映画『マルコムX』のクライマックスにも使われている。2007年、米国議会図書館はこの曲をナショナル・レコーディング・レジストリの一部として保存すると発表した。この曲が遺した意義、そしてクックが遺した作品は永遠に生き続けるだろう。
Written By Pat King
- サム・クック、死後初のヒット作「Shake / A Change Is Gonna Come」
- サム・クック人生最後のヒット曲「That’s Where It’s At」
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劇中にサム・クックが登場する話題の新作映画『あの夜、マイアミで』サントラ
『One Night In Miami… (Original Motion Picture Soundtrack)』
2021年1月15日発売
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