ノラ・ジョーンズのベスト20曲:ジャンルレスな音楽性と語り部としての才能を持つ唯一無二の存在

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Photo: Patrick McBride

2002年、ノラ・ジョーンズは彗星の如くシーンに姿を現し、デビュー・アルバム『Come Away With Me』で世界征服を果たした。そのヴェルヴェット・ヴォイスと個性溢れる語り部としての能力、そしてごく控えめなピアノ演奏によって、ニューヨーク生まれテキサス育ちの歌姫は瞬く間に世界的な人気を確立していった。

グラミー賞も欲しいがままに手にした彼女は、物怖じすることなく様々な実験や冒険を試みながら、実力派のソングライターへと成長を遂げた。そんなノラ・ジョーンズのソロ・アルバムからサイド・プロジェクトまで、その珠玉の楽曲を並べてみれば、彼女のアーティストとしての目覚ましい成長ぶりは一目瞭然だ。

ここにあなたにとってのノラ・ジョーンズのベスト・ソングが入っていない場合は、是非下のコメント欄で教えていただきたい。

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20.「Here We Go Again」(2004年)

ノラ・ジョーンズのキャリアの中でもハイライトのひとつが、故レイ・チャールズから誘いを受け、このR&B界のレジェンドが1967年にABCから発表したシングルの魅力的な再録ヴァージョンでデュエット相手を務めたことだ。2人の声の質感は全く対照的であるにも拘わらず、実に見事に互いを引き立て合っている。

ビリー・プレストンの清らかなオルガン・ソロもフィーチャーしたこの音源は、グラミー賞で2部門に輝いた。ちなみにこの曲が収録されているのはレイ・チャールズのデュエット・アルバム『Genius Loves Company』で、これが彼の生涯最期のスタジオ作品となった。

 

19.「Jesus, Etc.」(プスンブーツ名義、2014年)

ソロとしてのキャリア以外に、ノラ・ジョーンズは2つのグループに参加している。ザ・リトル・ウィリーズ、そして女性メンバーで結成したトリオ、プスンブーツだ。その後者において、彼女はオルタナ・カントリー・バンド、ウィルコのジェフ・トゥイーディーによる楽曲の心温まるこのカヴァーでリード・ヴォーカルを担当している。ハーモニーを歌っているのはサーシャ・ドブソンとキャスリーン・ポッパーで、プスンブーツがブルーノートからリリースした第一弾アルバム『No Fools, No Fun』に収録されている。

 

18.「Tell Your Mama」(2009年)

軽快なツー・ステップのリズムが特徴的なカントリー調の決別の歌で、ノラ・ジョーンズは大ヒットを記録した自身のデビュー・シングル「Don’t Know Why」の共作者であるジェシー・ハリスと再びタッグを組んでいる。とげとげしく非難的なトーンの「Tell Your Mama」で彼女が演じるのは、長年彼女のことをないがしろにし続けてきた恋人に苦しめられてきたが、真理に目覚め、もうこれ以上時間を無駄にはしないと心に決めた女性だ。

 

17.「Love Me」(ザ・リトル・ウィリーズ名義、2006年)

ノラ・ジョーンズはその18年あまりのキャリアの中で数々のサイド・プロジェクトに参加してきたが、そのうちのひとつがカントリー界のスーパーグループ、ザ・リトル・ウィリーズだ。このグループの楽曲で最もよく知られているのが、過去2作のアルバムのうち、最初の作品に収められている「Love Me」で、エルヴィス・プレスリーが1950年代にレコーディングした、リーバー&ストーラーによる名曲の哀切極まるカヴァーである。ノラ・ジョーンズは、オリジナル・ヴァージョンの切なさはそのままに、独自のソウルフルな解釈を加え、楽曲を自分のものにするひと工夫を施している。

 

16.「Unchained Melody」(2017年)

ノラ・ジョーンズはフィリップ・K・ディックによるディストピアSF小説が原作となったAmazonのTVシリーズ『高い城の男(原題:The Man In The High Castle)』のサウンドトラックのために、1965年のザ・ライチャス・ブラザースによるブルー・アイド・ソウルの名曲に独自の魅惑的なアレンジを施している。この曲のプロデュースを手掛けるのは、2012年の彼女のアルバム『Little Broken Hearts』で共作したデンジャー・マウス(本名ブライアン・バートン)である。

 

15.「Happy Pills」(2012年)

ノラ・ジョーンズとデンジャー・マウスとの意外なコラボ曲で、アルバム『Little Broken Hearts』の収録曲の中では比較的キャッチーな「Happy Pills」は、失った恋愛の亡霊を追い払うことを歌ったポップ・ロッカーだ。デンジャー・マウスと共作したこの「Happy Pills」で、彼女は自身初の全米ロック・ソング・チャート入りを果たし、最高位44位を記録した。

 

14.「Wintertime」(2019年

ノラ・ジョーンズから生まれるゴスペルとカントリーの見事な融合は、彼女が音楽的に多大な影響を受けてきた2人の巨匠、レイ・チャールズとウィリー・ネルソンからくるものだ。ウィルコのギタリストでプロデューサーでもあるジェフ・トゥイーディーが書き下ろしたこの侘しげな冬を連想させるバラードにも、自身の感性のフィルターを通してはいるものの、彼らの存在が音のDNAとして脈々と息づいているのが感じられる。シングルとして先行リリースされたこの曲は、後にジョーンズの2019年のミニ・アルバム『Begin Again』に収録された。

 

13.「Tragedy」(2016年)

ノラ・ジョーンズと共同プロデューサーのセーラ・オダが一緒に書き上げた共作した「Tragedy」は、彼女がアコースティック・ピアノをメインにした初期のスタイルに回帰した6枚目のアルバム『Day Breaks』からの傑出したナンバーである。余分なものを一切削ぎ落としたピアノ・ソロと共に、彼女の飾らず控えめなヴォーカル・スタイルの真骨頂が聴ける、メロウでロマンティックなバラードだ。

 

12.「After The Fall」(2012年)

余醒めやらぬ失恋を歌った「After The Fall」は、ノラ・ジョーンズがプロデューサーのデンジャー・マウスとタッグを組んだアルバム『Little Broken Hearts』のハイライト楽曲のひとつである。恋人たちの別れのきっかけとなった出来事を遠回しに振り返る彼女の歌声は、ギター、シンセ、ピアノ、ストリングスが複雑に絡み合う、稠密に織り重ねられた音のタペストリーの上を浮遊するように、どこかこの世のものとは思えぬ、精霊のような雰囲気を湛え、心を揺さぶる。

 

11.「Chasing Pirates」(2009年)

グラミー賞にもノミネートされたノラ・ジョーンズのアルバム『The Fall』からのリード・シングルであるこの曲の音楽的背景は、それまでの彼女の作品とは根本的に異なっていたが、寸分違わぬ彼女の美しい歌声は健在だ。ノラ・ジョーンズが自ら曲を書き、キングス・オブ・レオンらの作品で知られるジャクワイア・キングがプロデュースを手掛けた「Chasing Pirates」は、いささか風変わりなトーンと、ファジーなロック調のヴァイブで、彼女が自身のルーツであるジャズを容易に飛び越えられることを証明するナンバーとなった。

 

10.「Thinking About You』(2007年)

ノスタルジックな雰囲気を漂わせながら、自らの欲望を肯定するミッドテンポのこの曲は、ノラ・ジョーンズがソロ・デビューの足がかりをつくったプロジェクト、ワックス・ポエティックのメンバーだったイルハン・エルシャヒンとの共作だ。リー・アレキサンダーがプロデュースを手掛けるこの曲は、彼女のサード・アルバム『Not Too Late』の先行シングルとしてリリースされ、 「Don’t Know Why」以来の全米シングル・チャート入りを果たした。その一年後、ニュー・オーリンズが誇る伝説のシンガー、アーマ・トーマスがカヴァー・ヴァージョンを発表している。

 

9.「What Am I To You」(2004年)

ノラ・ジョーンズのソングライターとしての成長を感じさせるセカンド・アルバム『Feels Like Home』には、彼女が書き下ろしたオリジナル曲が5曲収められており、ソウルフルなミッドテンポのバラード「What Am I To You」もそのひとつである。自分と同じ深い愛情と献身を共有していて欲しいと願いながら、正直な気持ちを聞かせて欲しいと、彼女が自らの心を曝け出して恋人に懇願する切ないラヴ・ソングだ。

 

8.「Those Sweet Words』(2004年)

繊細なピアノと柔らかなギターコードのシンプルながらも雄弁な組み合わせがノラ・ジョーンズの優美なヴォーカルを包み込むこのメロウなロマンスの瞑想曲は、彼女のきわめて控えめなだながらも、いつまでも記憶に残る歌唱スタイルの真髄を示す好例である。収録アルバム『Feels Like Home』のプロデューサー、リー・アレクサンダーと共作したこのトラックには、 「Don’t Know Why」のソングライターだったジェシー・ハリスもギターでフィーチャーされている。表面的には簡素でありながらこれだけ心に沁みるパフォーマンスに繋がっているのは、ノラ・ジョーンズの天賦の才である音楽的洗練性に裏打ちされているからなのだ。

 

7.「Turn Me On」(2002年)

この曲は、アメリカのシンガー、マーク・ディニングの1961年のMGMからのシングル「Lonely Island」のB面に収録され、後にニーナ・シモンにもカヴァーされたものだ。知る人ぞ知るジョン・D・ラウダーミルクが作曲したこの曲に、ノラがオールドスクールなR&Bのヴァイブを注入し、驚くほどソウルフルなカヴァーに仕上げている。憧れと欲望の黙想とも言うべき彼女の「Turn Me On」カヴァーは、2003年の映画『ラブ・アクチュアリー』のサウンドトラックに収録されている。

 

6.「It’s Not Christmas ’Til You Come Home』(プスンブーツ名義、2017年)

Spotify限定シングルとして同社のニューヨークのスタジオでレコーディングされたこの曲は、ノラ・ジョーンズの最初の2作のアルバムのような親密なカントリー寄りのスタイルで、希望と憧憬をテーマに書き下ろされた質の高い彼女のオリジナル楽曲である。彼女は後にこの曲を、即席的に結成したトリオ、プスンブーツの2019年のEP『Dear Santa』のために、異なるアレンジを施したライヴ・ヴァージョンでレコーディングしている。 ノラ・ジョーンズのレパートリーとして既にファンの間では人気を博しているこの曲は、いずれクリスマス・シーズンのお気に入り楽曲に加えられる運命にあるだろう。

 

5.「Seven Years」(2002年)

ノラ・ジョーンズのデビュー・アルバムは伝統あるジャズ・レーベル、ブルーノートからリリースされたが、作品自体はそのスタイル、コンセプトのどちらもビバップの世界からはかけ離れたものだったことを、このフォーキーで穏やかな黙想の歌が鮮明にしている。リー・アレキサンダーが書いたこの曲では、ケヴィン・ブライトの優しいアコースティック・ギターが紡ぎ出す繊細な装飾音と、ブルージーなスライド・ギター・ソロがアクセントになっている。そこには感情をありのままにぶつけるという、ノラ・ジョーンズの歌に対するアプローチの定義が、ひとつの極致として明確に示されているのだ。

 

4.「Carry On」(2016年)

2009年の『The Fall』や2011年の『Little Broken Hearts』といった実験的なスタイルのアルバムでは、ひとしきりギターを演奏し、オルタナティヴ・ロックやエレクトロニック・ミュージックにのめり込んでいたノラ・ジョーンズだったが、よりジャズ色を前面に打ち出したアルバム『Day Breaks』では、トレードマークだったピアノへと回帰した。恋愛で味わった失望を振り払い、前に進もうと歌うこの自作曲「Carry On」は、彼女の初期作品にみられた親密なカントリーとゴスペルのアプローチを再現している。

 

3.「Sunrise」(2004年)

ノラ・ジョーンズのヴォーカルが持つ真の力は、その繊細なフレージングと会話のように無理のない発声、そして濃やかなニュアンスが行き届いた感情表現である。これらのクオリティが余すところなく見事に展開されているのが、彼女のセカンド・アルバム『Feels Like Home』からの第一弾シングル「Sunrise」だ。優しく寄せては返す波のような、フォーク色も感じさせるこのバラードが聴く者の心を掴んで離さないのは、ひとえに彼女の強い磁力を持ったヴォーカル・パフォーマンス故なのだ。彼女はベーシスト兼プロデューサーのリー・アレクサンダーと共作したこの曲でゴールド・ディスクを獲得している他、グラミー賞の最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス部門にも輝いた。

 

2.「Come Away With Me」(2002年)

ノラ・ジョーンズのデビュー・アルバム『Come Away With Me』からの印象的なタイトル曲は、ニューヨーク生まれのシンガーが単なるゴージャスな声の持ち主というだけなく、高度な技術を伴う、感情を刺激するような曲を書けるのだという新事実を世に知らしめることとなった。夢の中にいるようなムードを漂わせ、焦がれる思いを表現した「Come Away With Me」は、カントリー・テイストを感じさせるバラードで、その揺らめく美しさはいつまでも耳に残る。彼女のセカンド・シングルとしてリリースされたこの曲は世界各国でヒットし、アメリカでは全米アダルトTOP40チャートで最高位20位を記録した。

1.「Don’t Know Why」(2002年)

我々が選ぶノラ・ジョーンズのベスト・ソング20曲の頂点に輝いたのは、ベテランR&Bプロデューサーのアリフ・マーディンがプロデューサーを務め、ジェシー・ハリスが作曲した「Don’t Know Why」だ。彼女のシンガーソングライターとしてのキャリアの起点であり、瞬く間に定番曲として親しまれていった作品である。ソウル、ジャズ、カントリーの各要素を絶妙にブレンドし、落ち着いた雰囲気漂うこの曲は、温かさと親しみやすさを感じさせる彼女の独特のヴォーカル・スタイルの典型的な縮図でもある。世界中で2,500万枚以上のセールスを記録したデビュー・アルバム『Come Away With Me』からのファースト・シングル「Don’t Know Why」は全世界的なスマッシュ・ヒットとなり、ノラ・ジョーンズにグラミー賞5冠の栄誉をもたらした。

 

Written By Charles Waring



ノラ・ジョーンズ『Pick Me Up Off The Floor』
2020年6月12日発売
CD / iTunes / Apple Music




 

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