20年ぶりの全米TOP10となったZZトップ『La Futura』成功の秘密
神聖なるロックの殿堂の廊下には、”壊れていなければ、修理するな”と記載された独自の音を奏でてきたアーティスト達が掲げられた一角がある。もし我々があなたに「AC/DC」と言ったら、あなたの思考は即座に、何百万回も見たことがあるバーでの喧嘩と二百万回以上の二日酔いのBGMとなった激しいブルース・サウンドを思い起こすだろう。もしモーターヘッドと言ったら、レミーのベース講義を思い出すより先に、あなたはきっと地響きの様な彼のベースで内臓が揺らされることを考えるだろう。猥褻で、ビールまみれで、しゃがれ声といえばZZトップを思い出すかもしれないが、こうしたクラシック・ロック・バンドにとって21世紀はおかしな時代であり、中でも彼らが2012年にリリースしたアルバム『La Futura』は最も奇妙なアルバムとなった。
2003年にZZトップは、お気に入りと言われる結果とはならなかった14枚目のスタジオ・アルバム『Mescalero』をリリース。そこにはこれまでの古き良きテキサスのバンドらしいブギーが聴けるものの、中には奇妙なメキシカン・テハーノ(スペイン語でテキサス人の意)調のカントリー・ソングや、「Punk Ass Boyfriend」ではインダストリアル系なサウンドスケープへの浮気まで見せた。このアルバムには「La Grange」や「Gimme All Your Lovin’」のような曲はそこにはなかった。
ジョニー・キャッシュのアメリカン・シリーズを手掛け、彼の人生も音楽も軌道に乗せたプロデューサー界の重鎮リック・ルービンは、メタリカからニール・ダイヤモンドまで、ニューヨーク生まれの導師のミダス・タッチ(*訳注:ギリシャ神話に出てくる何でも黄金に変えてしまう手)のミキサー卓にかかると商業的にも評価的にも成功し、再びキャリアを取り戻すことを約束されるまでの評判となった。
『Mescalero』で試みたテックス・メックス(テキサスのメキシコ系アメリカ人による音楽)路線の大失敗がまだ記憶に新しい中、そしてそんなリック・ルービンの評判を持ってしても、彼らの復帰作となった『La Futura』のオープニング曲がヒューストン出身のDJ DMD・フィーチャリング・リル・ケケ・アンド・ファット・パットの90年代にリリースしたトラック「25 Lighters」のカヴァーだったことに誰もが耳を疑ったのも不思議ではないだろう。
「25 Lighters」がG・ファンクなベースにサザン・ヒップホップな早口ラップだったのに対し、ZZトップはタイトルを「I Gotsta Get Paid」と変え、沼から這いずるような曲調にした。バンドのトレードマークとも言える、生意気で粋なノリを取り戻し、卑猥なギターも冴え渡り、聴くもの誰もが過剰にマルボロとジャック・ダニエルを一度に摂取した感覚に襲われるくらいである。
まさしく、復帰作として作られた発射台としては最高だった。
発射から2曲目となった「Chartreuse」は「Tush」直系のハード・シャッフルで、激しく騒がしい嵐のような3分半を奏で、setlist.fmによると既にZZトップのライブセットで400回弱のプレイ回数を記録するまでの曲となった。
「I Don’t Wanna Lose, Lose You」と「Flyin’ High」は、不発に終わってしまったAC/DCのアルバム『Ballbreaker』でリック・ルービンが1995年に成し得なかった地獄のようなハード・ロッキン・ブルースを聴かせている。(この2曲に関してその後さらに付け加えるならば、アルバム・リリース前に「Flyin’ High」が初めて披露されたのは、メンバーの友人でありNASAの宇宙飛行士であるマイク・フォッサムが、宇宙飛行船ソユーズで国際宇宙ステーションに向かう機内の中であった)
『La Futura』によって、ZZトップは自らの勘とそれ以上のものを再発見することが出来た。継続と自分達の過去に忠実でありながら、コンテンポラリーなハードロック・バンドであり続けるという度胸と絶対的なパワーを兼ね備えたことで、1990年代にリリースした『Recycler』以来、22年ぶりに全米アルバム・チャート6位をという高いポジションを記録した。
リック・ルービンとZZトップという、老いも若きファンもが夢見たタッグが実現したのだ。さらに『La Futura』は、ひとつのスタジオに最も多くの髭が集まった音源として世界記録を樹立した、、かもしれない。
Written By Terry Beeze
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