全ての壁を破壊する2020年代のロックスター、ヤングブラッドが語る最新アルバム『weird!』

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2020年12月4日に発売となったヤングブラッド(YUNGBLUD)のセカンド・アルバム『weird!』。2019年に米ロックチャート4曲がトップ10入りし、昨秋発売したEP『The Underrated Youth』は全英6位を記録。毎年期待の新人に送られる“BBCサウンド・オブ2020”の3位にランクインした2020年代のロックスター、ヤングブラッドのオフィシャル・インタビューを掲載します。

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デビュー・アルバムとの違い

――セカンド・アルバム『weird!』は、ファースト・アルバム『21st Century Liability』に比べると音楽的にもアティチュードの上でも大きく変わっていて、リスナーを驚かせるに違いありません。『weird!』に取り掛かるにあたってどんなヴィジョンを描いていたのですか?

俺が思うに……ファースト・アルバムは怒りに満ちていて、10代のフラストレーションと、若者の苦悩と、不安と、情熱と、純真さが混然一体となっているアルバムでした。だからこそ美しい作品だったんです。そしてあのアルバムでの俺は、めちゃくちゃたくさんの疑問を抱えていて「俺みたいなヤツがほかにもどこかにいるんだろうか?」って。すると、ビックリしたことに、俺みたいなヤツが世の中には大勢いて(笑)。

じゃあセカンド・アルバムはどうかと言うと、これは彼らのアルバムなんだ。俺が耳にした全てのストーリーと、俺が出会った全ての人たちに関するアルバムなんです。俺が前作で問いかけたクエスチョンへの回答みたいなもの。でも回答を得ると同時に、新たな疑問が湧いてくる。そんなのクレイジーな話なんだけど、このアルバムは本当にエモーショナルです。今の俺は自分の人生において、そういう時期にあるんだと思う。ヤングブラッドってものを作り出し、俺がエモーショナルになれるよう、俺が警戒を解くことができるように、力を貸してくれるコミュニティが確立されたことで、このスペースで生きていけるように感じられる。ここなら本来の自分を一切抑制することもないし、自分が愛されるだろうってことが分かっているんですよ。

――じゃあ結果的に、狙った通りのアルバムになったということですか?

そう思います。このアルバムでやりたかったのは……今起きている世界規模のパンデミックなんか忘れよう、これは、俺らの人生で一番ヘンテコ(=weird)な時期に関するアルバムなんだ。誰もが経験して知っている、人間の成長の物語を伝えているんです。あらゆる人に宛てて。年なんか関係なくて、例えば84歳になってようやく大人になる人がいてもおかしくない。84歳の時に「そうか、ようやく自分がどういう人間なのか分かった!」と感じるかもしれない。そしてこのアルバムは、アイデンティティについてのストーリーを伝えています。セクシュアリティ、セックス、ドラッグ、ラヴ、失恋、鬱、不安、苦しみ、情熱についてのストーリーを伝えている。俺と俺のコミュニティは、人生において今そういう時期にあると思うんですよね。

――では、ファースト・アルバム『21st Century Liability』を振り返ると、今とは違う自分がいますか?

あのアルバムの時の俺は、世界について今ほど知識がなかった。ニュー・アルバムのどこが違うかっていうと、俺は『21st Century Liability』を発表してから18カ月から2年くらいにわたってツアーをし、世界のほとんどの大陸を訪れて、そこで暮らすキッズと会って、あらゆることについて話をしてきました。彼らがどんなことをしていて、何が好きで、何が好きじゃないのか。

――そうやってキッズがあなたを信頼して色んな話をしてくれるのは、なぜなんでしょう?

俺は真実を語るからさ。みんな真実を語らないからね。それに俺にはたくさんのラヴがある。ファンのみんなが大好きでしょうがないんですよ。俺にはこういう、ひとつの確かなコネクションがあって、彼らこそ俺の生きがいなのさ。ヤングブラッドは仕事じゃないし、ヤングブラッドってものが必ずしも俺だけを指しているわけじゃないってことが、素晴らしいんだ。ヤングブラッドは俺たちのこと。ヤングブラッドは俺たち全員を指しているんです。ドム(=ヤングブラッドの本名ドミニクの愛称)はヤングブラッドのごく一部分に過ぎないし、それぞれがヤングブラッドの意味を決めればいい。何を意味するかは、人によって違うんです。

――だとすると、新作を大勢の人が心の待ちにしているという事実が、ソングライターとしてのあなたの心境に影響を与えたということですね。

100%そう! それって俺にとってはマジにクレイジーな話なんだ。なぜって、人々がそれぞれの人生について色んなことを話してくれるのを聞いていると、俺も自分の人生についてたくさんのことを学べるんですよ。彼らが世界の反対側に住んでいて、全然違う考え方の持ち主だったとしても。ここにきてようやく誰かが俺の言葉に耳を傾けてくれているという実感は、途方もなくスペシャル。だからこそ人々は俺の周りに集まってきて、ずっとそこに留まる。なぜって、この世界で自分の言葉に耳を傾けてもらえるっていうことは滅多に起きないから。あまりにも雑音が多過ぎるんだ。でも俺たちはものすごく親密な関係を築いていて、最高ですね。

アルバム・タイトルに込めた意味

――アルバム・タイトルを『weird!』にした理由を教えて下さい。

俺はいつも“weird!(ウィアード=へんてこ)”っていう言葉を口にしていたんです。何もかもめちゃくちゃウィアードだからね。今年はウィアードな年だし、俺の手はウィアードだし、俺の指はウィアードだし、俺の顔もウィアードで、過去1年半は、俺の全人生において一番ウィアードな18カ月間だったなって気付いた。何しろ俺は、交通事故で母親を亡くすところだった。俺はものすごくスピーディーに有名になった(笑)。俺は恋に落ちた。俺は失恋した。その一部始終がインターネットに出回った(笑)。俺はこれでもかっていうくらいツアーをした。俺は望んでいたものをすべて手に入れた。なのに相変わらず不安が拭えなくて、気分が落ち込んでいて、なぜそうなっちゃうのか理由が分からないでいた。

その後俺たちは、ロンドンのブリクストン・アカデミー(注:現在は正確な名前はO2アカデミー・ブリクストン)でライヴをやったんです。あそこは6000人収容のハコで、6000枚のチケットが売り切れて、公演日の2日前から会場の前に行列ができた。2日間みんな外で待っていたんだよ。思えば2年半前の俺は、今住んでいる家のキッチンの広さしかない、寝室が二つの狭いアパートで、ギタリストとドラマーと同居していたっけ。で、みんなでブリクストン・アカデミーが出てくるビデオを見ながら、「あんな場所でライヴをやれたら、めっちゃヤバイよな」とか言っていたんです。なのに俺たちは実際にそこでプレイし、チケットは一瞬で売り切れちゃって、それって俺にしてみると本当にウィアードなことなんです。

当然ライヴが終わったあとはみんなで出かけて、酔っ払って、ロックンロール・スターにだけ許される良からぬことにも興じたわけだけど、朝の4時頃に俺は、プリムローズ・ヒルを登った。ロンドンにあるでっかい丘なんだ。そして、そこでタイトルトラックの歌詞を書いた。その瞬間に全てが動き始めたんだよ。なぜってあの曲はファンのみんなが書かせてくれたものだから。俺は人生最大のライヴを終えたばかりで、今まで感じたことがないレベルの情熱が会場を満たしていたんだからね。彼らのストーリーと一緒に。

――最近のあなたはブリング・ミー・ザ・ホライズンやマシン・ガン・ケリーら、様々なアーティストとのコラボレーション・シングルを発表していました。にもかかわらず、アルバムには一切ゲストがいません。そこには何か意図があるのでしょうか?(編注:急遽マシン・ガン・ケリーがゲスト参加した「acting like that」を追加したヴァージョンも同時配信に

自分のアルバムでは基本的に、俺自身に、俺のストーリーに集中するんです。これは彼らのストーリーでもあり、これは彼らのアルバムでもあるからね。そんなわけで、少なくともこれらの12曲にはゲストはいない。でも『weird!』って言うアルバムは、計25曲くらいにまで膨らむと思う。これからもリリースを続けて、予定では3月にデラックス盤を出すつもりです。そのヴァージョンにはコラボレーション曲とか、色々ぶっ飛んだアイデアが詰まっているはず。ただ、最初に発表するヴァージョンは出発点としての『weird!』であり、これがそのストーリーってことで、俺にはしっくり感じられる。これらの曲がひとつの世界を構築しているんだよ。

――では今回は、あなた自身の体験だけでなく、世界中で出会った人々の体験もインスピレーションにして、歌詞を綴ったんですね。

100%そうですね。

――リスナーにはこのアルバムを通じてどんなことを伝えたいと思っていますか?

このアルバムが人々の人生の一部分になって、これからの人生を形作って、その土台を築くようなものになればいいなと思う。聴いている人が何歳だろうと関係ない。なぜって、俺にとってもそういうアルバムだから。このアルバムは、残りの人生をどういう風に生きるのか、俺に色んなアイデアや教訓を与えてくれたし、ほかの人たちにも同じことを提供したいんです。

このアルバムがみんなの友達に、みんなの恋人になったら素晴らしいし、みんなに闘いを与え、セックスを与え、ドラッグを与え、混乱を与えられたいい。みんなにこういう色んなエモーションを感じて欲しい。だって究極的に、人生ってとんでもなくウィアードで、俺たちがやるべきなのは、信念を持って、真実を語り、出来る限り大勢の人を愛するってことだけ。そうすることによって俺たちは人生ってヤツに成功するんだよ。“成功”が何を意味するにしても。

セクシャリティを解放する楽曲とあるファンとの体験

――先週公開された最新シングル「cotton candy」のインスピレーション源について教えて下さい。ビデオも素晴らしいですね。

ありがと! すごくカラフルなんだけど、そこに意味があるんですよ。俺がここで歌っているのはフリー・ラヴであり、セックスであり、性的表現であり、性的アイデンティティであり、もはや俺たちを抑制するものなんかないってこと、自分らしく生きること、色々試すっていうのは賞賛されるべきだってこと。恥じる必要なんかない。

セックスとセクシュアリティに関しては、自分が何者なのか見極めるために、可能な限り大勢の人から学ばなくちゃいけないと俺は思うし、それをこの曲で訴えているのさ(笑)。それって、笑えることだし、倒錯しているし、際どいことなんだけど、真実なんですよ。だからって俺は何も、「大勢の人とセックスしろよ」って言っているわけじゃない。まあ、そういうことでもあるんだけど、ほかの人たちから学び、ほかの人たちの観点から学べば、何か身に付くことがあるんじゃないかな。

 

――次のシングルは「mars」になるそうですが、こちらはどんな曲なんですか?

これは恐らく、俺がこれまでの人生で体験した中で、マジな話、一番情熱的で一番シュールなエモーションのとばしりがあったんです。まるで自分が映画の中にいて、世界が静止したかのような気分だった。不思議な気分で、永遠に忘れないよ。

アメリカのメリーランド州で、若いトランスジェンダーの女の子が、俺に話しかけてきた。彼女が言うには、両親は彼女を分かってくれなくて、女性なんだってことを受け入れてくれなかった。息子ではなくて、ずっと娘だったってことを。一時も息子だったことはない。でも両親はそれが全く理解できなくて、一時的なもので、単に反抗しているだけとか、気を引こうとしているだけだと思い込んでいた。でもそうじゃなかったんだよ。本物の女の子なんだ。彼女は自分が女の子だと信じている。つまり彼女は女の子なんだよ!

で、彼女はひとつのアイデアを思い付いた。いい成績を取ってお金を貯めたら、両親を連れてヤングブラッドのライヴに行けるかもしれない、そこでコミュニティを見てもらえるんじゃないかってね。彼女はまさにそれを実行し、両親が一緒にライヴにやってきて、彼らは目撃したんです、そこにある情熱と、自分らしく生きることしか受け入れられない俺のファンの頑なな姿勢を。そして、自分の娘と似たキッズをね。

それをきっかけに、自分に正直に、女性として生きようとする彼女を両親は受け入れて、性転換する手助けをしてくれた。俺は圧倒されちゃいました。なぜって、俺たちが属するコミュニティがこれを成し遂げたんだから。俺自身じゃない。俺は何もしてない。俺たちみんなでやったことなんだ。“俺たち”っていうところが重要なんです。独りの人間の在り方をみんなで変えたわけで、衝撃的でしたよ。

ファッションと政治

――さて、最近のあなたのファッションを見ると、従来以上にワイルドになっていますよね。あなたにとってファッションとは何を意味するのでしょう?

フリーダムですね。ファッションは、音楽と同じようにフリーダムを意味する。一言も語らずして、世界に対してメッセージに発信している。自分が着ている服が、何も言わなくても、たくさんのことを伝えている。それって素晴らしいと思う。ファッションが大好き。夢中なんです。

――特に最近お気に入りのスタイルはありますか?

ヴィヴィアン・ウェストウッドが大好き。ヴィヴィアンに夢中で、クローム・ハーツにもハマってます。ヴィヴィアンの昔の服が気に入っていて、彼女は天才だと思う。俺の場合、全てはヴィヴィアンから始まりますね。

――パンク時代のヴィヴィアンの服も持っているんですか?

ノッティング・ヒルにあるパンク専門のお店で手に入れたビンテージを持ってますよ。本当にクールなんです。だから日本に行かなくちゃ。日本には最高にクレイジーな、ヴィヴィアンのビンテージの店があるって訊いたんだよね。早くそっちに行かないと。俺の分を取っといてね!

――このアルバムではポリティカルな題材を扱った曲が減りましたが、世の中には相変わらずたくさんの問題があって、あなたも引き続きSNSなどで発信しています。今一番強く関心を抱いている社会問題とは?

人種間の平等、ブラック・ライヴズ・マターですね。特にアメリカでは実際に活動に参加しているから。すごく危険な状況にあるけど、これはひとつの国に限定されたことじゃない。俺の世代は世界に関心を抱いているからね。俺たちは基本的に、人間に思いやりを持っている。そして肌が何色かとか、どれだけデカい人間かとか、サイズや体型やセクシュアリティに関わらず誰もが平等であるべきだと考えている。誰もが同じように愛し愛されるべきだとね。それは俺たちの人権だから。

それから、LGBTQ+コミュニティに対する抑圧。これらふたつの問題に関しては、大声で叫び続けなくちゃいけない。なぜって、人間がありのままに存在することが受け入れてもらえないなんて……そんなのクソだから。それに気候変動に関しても、やるべきことが山ほどある。これは俺たちの家で、俺たちの星なんだから、ちゃんと守らないと。

――サウンド面では、かなりロック色が強まった気がします。そういう方向性を選んだ理由は?

俺はとにかく、やりたい放題やったんです。自分がそれを望んでいたから。セカンド・アルバムって難しいものだよね。いきなり大勢の人が首を突っ込んでくるし、俺をノーマルにしたいって言う。どういう意味だか分かんないんだけどね。クレイジーでしょ?「 ポップ・ミュージックの世界ではスーツは着ちゃいけない」とか言うし、そんなの知るかよ!って話。 俺は自分がやりたいことをやる。ロックンロールは俺にとってあまりにも大切なものだし、愛しているし、ビッグな音が好きだし、ビッグな音が鳴っているアルバムが好きなんです。その音でアリーナを一杯にしたいんですよ。

――つまり、あなたの野心が今回のサウンドに表れているんですね。

そうですね。それに加えて、エモーションと情熱の表れでもある。ちっちゃい曲にはなり得なかった。なぜって、その中にあるアイデアとハートとエモーションがちっちゃくないから。フィーリングはちっちゃくないんだ。

――2020年3月に予定されていた初来日が直前になってキャンセルになり、日本にはがっかりしているファンが大勢います。そんな日本のファンにメッセージをお願いします。

みんなに会うのが待ち切れない! 一日も早くみんなを抱きしめて、キスしてあげたいし、日本に行きたい。特に日本のアートは大好きだし、俺の美意識にも合っているし、昔から日本に行くことを夢見ていたんですよ。日本のカルチャーは素晴らしいと思うし、みんなに早く会いたいし、ロックンロール・ミュージックを日本でプレイしたい。ヤバいことになるから!

――このパンデミックが終わったあとの世界はどうあるべきかという議論が、今盛んになされていますよね。あなたは、今後世界がどんな風に変わればいいなと願っていますか?

パンデミックが始まった時よりも、いい世界にしたい。それだけですよ。この時間は、色々たくさん考えるべきことを与えてくれたし、今の社会、みんなちゃんと考えないで、すぐに行動してしまう。でも、俺たちはもうちょっと考えるべきですよ。

――こうして有名になると当然、メディアで色んなことを言われるものですが、誤解されているなと感じる部分はありますか?

俺が単に生意気なガキで、自分が何を言っているのか全然分かっていないと思われているみたいだけど、別に構わない。そう思うんだったら、俺たちが言うことに耳を傾けるべきですね。俺たちのコミュニティに耳を傾けるべき。自分自身について学べることがあるかもしれないから。

――このアルバムから、今のあなたを一番正確に表している歌詞を選んでもらえますか?

「god save me, but don’t drown me out」の‟And I won’t let my insecurities define who I am, I am/Not gonna waste my life ’cause I’ve been fucked up/’Cause it doesn’t matter(自分に自信がないことで限定されたくない/人生を無駄にしないよ、なぜって俺はバカなことをやっていたから/どうでもいいことなんだから)”ですね。



ヤングブラッド『weird!』
2020年12月4日発売
日本盤CD(ボートラ6曲) / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




 

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