ジャズの未来を担う若手ジャズ・ミュージシャン13人:必聴トラックの動画付き

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Photos: Lauren Desberg (Joel Ross), Fabrice Bourgelle (The Comet Is Coming), Concord Records (Esperanza Spalding), Jacob Blickenstaff (Jazzmeia Horn)

ジャズの未来はいつも、新たな表現の形を志向する若いジャズ・ミュージシャンにより形作られてきた。これら13人のアーティストは、変わりゆく彼らの時代を音楽に反映させている。


20世紀初頭にニューオーリンズの売春宿で生まれたとされるジャズは、これまで一度も廃れたことがない。新たな表現を志向する若いジャズ・ミュージシャンが形作るジャズの未来は、作り手の感覚を形成する時代の変容をいつも映し出してきた。

21世紀に入って10年が過ぎ、即興を本質としたジャズの音楽は再び繁栄をみせている。若い世代のリスナーは、ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンなど、ジャズの地位を回復する革新的な人物に注目している。広く世間に知られるようになった新世代のミュージシャンはジャズのDNAを伝承し、ほかのジャンルと融合させ音楽の形を変えながらジャズを生かし続けている。

21世紀に入って既に20年が経過したが、本記事に登場する若いジャズ・ミュージシャンは、同音楽はしばらく安泰だと思わせてくれる。今後のジャズの未来を形作る彼らがいれば、ジャズの勢いが衰えることはないだろう。

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1. シャバカ・ハッチングス / Shabaka Hutchings

ロンドン生まれバルバトス育ちで35歳のハッチングスは、サックスとクラリネットを操るマルチ・リード奏者で賞にも輝いている。カリプソ・バンドでキャリアをスタートさせたが、現在では英コンテンポラリー・ジャズ界の重鎮とみなされている。

彼が率いる3つのバンドは、どれもジャズの未来を担うグループ (8人組のシャバカ&ザ・アンセスターズ、4人組のサンズ・オブ・ケメット、そしてトリオ編成のコメット・イズ・カミング) だ。後者はパンク的な姿勢でジャズと電子音楽を融合させる未来志向のグループである。

必聴のトラック : コメット・イズ・カミング「Summon The Fire」

 

2. カマシ・ワシントン / Kamasi Washington

若者の間でジャズ人気が再燃した理由のひとつに、ロサンゼルス生まれのサックス奏者による2015年の革新的デビュー・アルバムの存在がある。長大な3枚組の同作『The Epic』で彼は、職人気質の雇われサックス奏者からスピリチュアル・ジャズの伝道師まで自在に変身してみせる。

昨今の若手ジャズ・ミュージシャンには少なくないが、ワシントンの音楽もジャズだけでなくヒップホップから多大な影響を受け、その証拠に彼はケンドリック・ラマーのビジョン溢れるアルバム『To Pimp A Butterfly』にも参加している。

必聴のトラック : 「Truth」

 

3. クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアー / Christian Scott aTunde Adjuah

ジャズ発祥の地であるニューオーリンズ生まれのアジュアーは同ジャンルの伝統を重んじ、鮮明で艶のあるトーンを鳴らすトランペッターだ。一方で彼はオルタナ・ロックやアフリカン・ミュージック、映画音楽やヒップホップとの融合でジャズの未来を見据えてもいる。示唆に富み多文化的な自身のスタイルを彼は”ストレッチ・ミュージック”と呼ぶ。柔軟性のある特徴を表した名称だ。アジュアーの音楽は社会・政治的な側面も持っている。

必聴のトラック : 「West Of The West」

 

4. エスペランサ・スポルディング / Esperanza Spalding

まるでリターン・トゥ・フォーエヴァーのフロントに若い頃のジョニ・ミッチェルを迎えてさらに強化したようなサウンドだ。ポートランド出身で34歳のシンガー/作曲家/ベースの名手であるエスペランサは、ロックやファンク、ラテン、フュージョン、アヴァンギャルドなど垣根を超えた音楽でジャズの可能性を広げている。

スポルディングは創作のツールとしてソーシャル・メディアを積極的に活用しており、2017年のアルバム『Exposure』は、インターネットで配信しながら77時間かけてレコーディングされた。間違いなく彼女は、現在のジャズ界で屈指の独創性と先進性を持ったアーティストだ。

必聴のトラック : 「12 Little Spells」

 

5. ヌバイア・ガルシア / Nubya Garcia

イギリスが誇る新進気鋭の若手ジャズ・ミュージシャンのひとり、ガルシアはロンドン出身で28歳のテナー・サックス奏者/作曲家で、マイシャというスピリチュアル・ジャズ・グループでも活動している。英国の若手ジャズ音楽家を世間に発信しているミュージシャン養成機関、トゥモロウズ・ウォーリアーズから彼女も輩出された。

2017年のデビュー・アルバム『Nubya’s 5ive』が高い評価を得た彼女は、サンズ・オブ・ケメットやエズラ・コレクティヴ、マカヤ・マクレイヴンのレコーディングにも参加した。

必聴のトラック : 「Lost Kingdoms」

 

6. マカヤ・マクレイヴン / Makaya McCraven

パリ生まれアメリカ育ちのドラマー/コンポーザーであるマクレイヴンは、”ビート・サイエンティスト”と自称する。ヒップホップ的な姿勢でグルーヴ重視のアヴァンギャルド・ジャズを演奏する彼は、ジャズの未来をしっかりと見据えている。

自然体を自負する彼が発表した3枚のアルバム (『In The Moment』『Highly Rare』『Universal Beings』) にはすべてライヴ音源が含まれている。マクレイヴンが取材で明かした目標は「技術的に無理はないが社会を変える」音楽を作ることだという。

必聴のトラック : 「Young Genius」

 

7. ビンカー&モーゼス / Binker And Moses

作品賞にも輝いた2016年のアルバム『Dem Ones』でデビューした熱情的なデュオ。サックス奏者のビンカー・ゴールディングとドラマーのモーゼス・ボイドのふたりは、英国ジャズ界のジョン・コルトレーンとラシッド・アリと呼ばれるようになった。

壮大な2枚組のセカンド・アルバム『Journey To The Mountain Of Forever』では一部の曲にベテランの英アヴァンギャルド・サックス奏者、エヴァン・パーカーを迎えるなど音楽性をさらに広げてみせた。その後発表したライヴ・アルバム『Alive In The East?』では、ステージでの即興演奏の直感的で生身の力強さが感じられる。

必聴のトラック : 「Fete By The River」

 

8. ケンドリック・スコット・オラクル / Kendrick Scott Oracle

テキサス州ヒューストン出身のドラマー/コンポーザー、スコットの独特で品のあるポスト・バップ・ジャズには、R&Bやヒップホップの要素が散りばめられている。彼の直近のバンドによる12曲入りのセカンド・アルバム『A Wall Becomes A Bridge』はブルー・ノートから2018年4月にリリースされた。同作はピアノ、サックス、ギターという伝統的なジャズ楽器奏者とともにDJが参加した、6人によるアルバムである。

必聴のトラック : 「Mocean」

 

9. ジャズメイア・ホーン / Jazzmeia Horn

テキサス出身の27歳のヴォーカリスト、ジャズメイア・ホーンは、その名前の通りジャズを歌うために生まれてきたようなシャンソン歌手だ。カルメン・マクレエやエラ・フィッツジェラルドを思わせる健康的なジャズ・シンガーである彼女は、2015年の”セロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティションで優勝し、コンコード・レコードとの契約を勝ち取った。

2017年のデビュー・アルバム『A Social Call』は復活したプレスティッジ・レーベルから発表。激賞を受けた同作でホーンはジャズの新たな顔として地位を確立した。

必聴のトラック :「Tight」

 

10. マイルズ・モスリー / Miles Mosley

カマシ・ワシントンのツアー・バンドを支えるハリウッド生まれのモスリーは、伝説的なレイ・ブラウンに師事したコントラバス奏者だ。エフェクターを駆使する彼は、その界隈ではあまりに現代的なミュージシャンである。

クリス・コーネルやケニー・ロギンス、ローリン・ヒルなど幅広いアーティストのバンドで演奏してきたモスリーのソロ・デビュー作『Uprising』はヴァーヴ・レコードから2017年にリリース。ジャズやファンク、ソウル、ロックが融合したジャンル分類不能の同作で彼は、ベースの妙技だけでなくヴォーカルや作曲者としての才能も存分に発揮した。

必聴のトラック :「Abraham」

 

11. ジョエル・ロス / Joel Ross

名手ミルト・ジャクソンやボビー・ハッチャーソン、近年ではステフォン・ハリスなどブルー・ノートには歴代、ヴィブラフォンの名プレイヤーが在籍してきた。そして今、新たな名ヴィブラフォン・プレイヤーが登場した。それがジョエル・ロスだ。

シカゴ生まれでポスト・バップのスタイルを得意とするロスのデビュー・アルバム『KingMaker』は5月3日にリリースされた。彼はハービー・ハンコックらの大物とも共演してきたが、マカヤ・マクレイヴンやジェイムズ・フランシーズ、マーキス・ヒルらの革新的なジャズ・アルバムでの仕事でよく知られている。

必聴のトラック :「Ill Relations」

 

12. エレーナ・ピンダーヒューズ / Elena Pinderhughes

未来のスターとなるであろうカリフォルニア出身のフルート奏者/ヴォーカリストだ。彼女のデビュー作は今年の後半にヴァーヴ・フォアキャスト・レコードからリリース予定である。ピンダーヒューズは9歳で初めてのアルバムを制作し、以来、ハービー・ハンコックやヒューバート・ロウズらの大物とも共演。ジョシュア・レッドマンやアンブローズ・アキンムシーレ、クリスチャン・スコットら近年のトップ・ミュージシャンのアルバムにも参加してきた。幸運にも彼女の演奏を生で見た人は、彼女がジャズの未来を担う存在だとわかっているはずだ。

必聴のトラック : 「Completely」 (with Christian Scott aTunde Adjuah)

 

13. アシュリー・ヘンリー / Ashley Henry

王立音楽アカデミーやブリット・スクールで学んだロンドン南部出身のピアニスト。26歳のヘンリーは、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズというフレンチ・ポップ・グループのキーボーディストとしてツアーを回った経験もある。彼のデビュー・アルバム『Beautiful Vinyl Hunter』は2018年9月にリリース。

メジャー・レーベルと契約した英国のジャズ・ミュージシャンは彼を含めてふたり (もうひとりはシャバカ・ハッチングス) しかいない。ヘンリーは、ジャズにヒップホップやグライム、R&B、パンクの要素までも融合させた独特で印象的なスタイルのアーティストだ。

必聴のトラック :「Dark Honey」

Written By Charles Waring


UK現代ジャズ・ミュージシャンたちによる名曲カバー集Various Artists 『BLUE NOTE RE:IMAGINED』
2020年10月2日CD発売 / 配信・輸入盤10月16日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify




 

 

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