自らのR&B帝国を築き上げたザ・ウィークエンド:ネットから生まれた音楽経歴を振り返る
2010年代初頭、自らの作品をインターネット上で公開するR&Bアーティストが相次いで世に出てきた。そしてそうしたアーティストたちは、ネット上でおびただしい数のファンを獲得することになり、彼らの中からメインストリーム・ポップに進出する者も大勢いた。フランク・オーシャン、ジェネイ・アイコ、ティナーシェといったアーティストはその一例である。そしてそうした一群の中でも突出した存在感を放つ者がいた。それがザ・ウィークエンド(本名エイベル・マコネン・テスファイ)である。レコード・レーベルXOやファッション・ブランドを設立した彼は、自らのR&B帝国を築き上げた。平凡なアーティストには、とても太刀打ちできる相手ではない。
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音楽的にはザ・ウィークエンドのサウンドはシンプルなように聞こえるが、実はもっと複雑だ。YouTubeにアップロードされた謎めいたビデオでたまたま彼を知った人たちは、2011年のデビュー・ミックステープ『House Of Balloons』でそのことに気づくことになった。陰鬱なオルタナティヴR&Bや80年代のドリーム・ポップといったさまざまなジャンルを融合させた『House Of Balloons』には、別の宇宙で生まれたように聞こえる斬新なトラックが収められていた。冒頭の「High For This」は、歪んだ鋭いビートで貫かれている。一方アルバムのタイトル・トラックでは、イギリスのパンク/ニュー・ウェイヴ・バンド、スージー&ザ・バンシーズの「Happy House」がサンプリングされていた。
『House Of Balloons』は、ザ・ウィークエンドの歌詞のテーマが「セックス・ドラッグ&ロックンロール」であることをはっきり示していた。「Glass Table Girls」でのほとんど語りのようなヴォーカル、あるいは「The Morning」で「Girl put in work, girl, girl put in work」と繰り返される誘いを聴けば、彼がR&Bから現れた最新のバッド・ボーイであることがよくわかるはずだ。ザ・ウィークエンドのスタイルはザ・ドリームやボビー・ブラウンを思わせるところがある。しかしあの熱を帯びたファルセット・テナーは、彼にしかない独特の持ち味となっている。
『House Of Balloons』に続いて出た『Thursday』と『Echoes Of Silence』も評論家から絶賛され、ザ・ウィークエンドの評価は定着した。この3つのミックステープはすべてリマスタリングを施され、2012年のコンピレーション『Trilogy』に収録されている。この『Trilogy』は、リパブリック・レコードの傘下で設立した独自のレーベルXOから発表された。このコンピレーションをあえてジャンル分けするならば、「クラウドR&B」と呼ぶのがふさわしいだろう。このクラウドR&Bのサウンドは、ドラッグによるトリップ感を再現したようなものになっており、それが全体の音作り、ヴォーカル、ロマンティックな歌詞に反映されている。
「Wicked Games」
こうした活動の中で、ある有名人もザ・ウィークエンドのファンになった。彼の名はドレイク。ザ・ウィークエンドとおなじくカナダ出身のドレイクは、『Thursday』に収録された「The Zone」に客演し、「She in love with my crew」というラップを披露している。続くふたりのコラボレーション「Crew Love」は、ドレイクの2011年のアルバム『Take Care』に収録された。そちらのアルバムで、ザ・ウィークエンドは「Shot For Me」や「The Ride」といった曲でも曲作りとプロデュースに関わっている。その結果、彼は初めて世界のメインストリームで脚光を浴びることになった。
その後『Trilogy』はアメリカでダブル・プラチナ・アルバムに認定され、評論家の2010年代のベスト・アルバム・リストに選ばれるまでになった。第1弾シングル「Wicked Games」を聴けばわかるように、『Trilogy』にはサイケデリック・ロックの影響も加えられていた。ハイウェイでの孤独な旅を描いたこの曲のミュージック・ビデオはさらに彼のファンを増やした。また、トレードマークであるボサボサのドレッドロックスも新しいファンを惹き付けていった。
2013年、ザ・ウィークエンドはデビュー・スタジオ・アルバム『Kiss Land』をやはりXO/リパブリックから発表。ここでは彼ならではのクラウドR&Bとダーク・ウェイヴが融合している。それはあたかも、デペッシュ・モードの名盤『Violator』で聴けるポスト・パンクと『Trilogy』が合体したかのようなサウンドだった。『Kiss Land』の代表曲「Wanderlust」は、マイケル・ジャクソンの80年代スリラー・ポップにも似たレトロな感触があった。2015年には次のアルバム『Beauty Behind The Madness』も発表。同じ路線のサウンドで仕上がった「Can’t Feel My Face」は、全米シングルチャートで首位を獲得している。
『Beauty Behind The Madness』で、ザ・ウィークエンドは国際的な大スターの座に登り詰めた。ドラマティックな「The Hills」もやはりチャートで首位を獲得。また「Earned It」は大ヒット映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の挿入歌となり、この曲でザ・ウィークエンドはアカデミー賞にもノミネートされた。『Beauty Behind The Madness』は、2016年のグラミー賞で最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を受賞している。
『Starboy』
ザ・ウィークエンドの3作目のスタジオ・アルバム『Starboy』は、レトロで宇宙的な音色で明るく飾られていた。ダフト・パンクをフィーチャーしたアルバム・タイトル曲は、孤独の中に密かな自信を漂わせている。歌詞も自らが手にした富と名誉を見せつけるような内容だ。チャートで首位を獲得したこの曲と同じように、他のアルバム収録曲(「Party Monster」「Reminder」「Six Feet Under」)も明るい雰囲気を醸し出しており、トラップR&Bからの影響が感じられる。アルバムを締めくくる「I Feel It Coming」は、「Starboy」と同じくユーロポップ色が強い。このサード・アルバムで、ザ・ウィークエンドは二度目のグラミー賞最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を受賞している。
2018年、ザ・ウィークエンドはファーストEP『My Dear Melancholy』を発表。これはさまざまな面で『Trilogy』の斬新なサウンドに回帰する作品だった(特に「Call Out My Name」)。また、フランスのプロデューサー/DJ、ゲサフェルスタインとコラボレーションすることで、「Starboy」の路線も続いている。2019年初頭、両者のコラボ・シングル「Lost In The Fire」が発表された。ここでザ・ウィークエンドは「I can’t lose you baby」とささやき、孤独と傷心という自らの中心テーマを再び採り上げている。
一方ザ・ウィークエンドが率いるXOレーベルは、契約アーティストがすべてカナダ出身ということで異彩を放っている。ヒット曲「Earned It」を共作したベリーは、2016年にシンガーのケラーニををゲストに起用して「You」を発表。これは官能的なトラップR&Bに仕上がっていた。またナヴはクラウド・ラップ、エモ・ラップ、マンブル・ラップといったシーンで成功を収めている(特にトラヴィス・スコットの「Beibs In The Trap」でのラップは要注目)。「Bali」でも、ナヴはXOのデュオ、88GLAMとコラボレートしている。興味深いことに、ここに挙げたアーティストはみな、「孤独と戦うプレイボーイ」というイメージでザ・ウィークエンドと共通している。
ザ・ウィークエンドやXOの所属アーティストを他から際立たせているものは何だろうか。それは、現代のサウンドと旧時代のサウンドを融合させるスタイルである。コカインやエクスタシーで誘発された80年代の陶酔感、あの時代のオルタナティヴ・レイヴ・シーンがリスナーの目の前に蘇ってくるのだ。
それは意外でも何でもないことだ。なにしろそうした楽しい乱痴気騒ぎは、たいてい週の終わり(ウィークエンド)に行われていたのだから。
Written By Da’Shan Smith
ザ・ウィークエンド『After Hours』
2020年3月20日発売
CD&LP / iTunes /Apple Music
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