ケイティ・ペリー『Witness』解説:目を逸らすことができないケイティの新境地となった5作目
2008年の経済危機(リーマン・ショック)と、それ以降の扇情的な政治家の台頭によって、世界は何年も不安に苛まれていた。落ち着かない心境でいたのは、ケイティ・ペリーも同じだった。
2017年頃のケイティは、5枚目のソロ・アルバム『Witness』の制作を前に構想をまとめつつあった。それよりほぼ10年前にブレイクして以来、ずっと待ち望んでいた長い休養期間に入った彼女ではあるが、それまでの作品の中で穏やかに押し広げてきた境界線にもう少しプレッシャーをかけるべきではないかという思いもあった。勇気を出し、より力を加えて、従来うまくいっていたやり方をごちゃごちゃにかき混ぜるときが来たのだ。
2017年6月9日にリリースされた『Witness』は、ダンスフロアの薄暗い隅に潜むような作品になる予定だった。それまでのケイティの作品で欠かせないものとなっていたエネルギーはここでも健在だったが、そうしたビートとまばゆい光がもたらす陶酔感の傍らには、物事を観察し、疑問を投げかけ、そして、時には突然の戦慄を感じさせるようなクールな空気が必要だったのである。
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ファンがついてこれるかどうか確かめる
このアルバムでは、前作で多くの曲を手がけたマックス・マーティンが再びいくつかの曲でサポート役を務めている。しかし長年のコラボレーターだったドクター・ルークの姿はなかった。
全15曲収録の『Witness』は、最初から驚きを与えることを狙っていた。冒頭を飾るアルバム・タイトル曲は以前と同じくケイティのパワフルなヴォーカルが主役となっている。しかし、ここでは聞く人を和ませるようなコミカルなキャラクターは存在しない。これは、氷のように冷ややかで、しつこいくらいの歓迎の歌だった。それでもなお、この曲は彼女のトレードマークであるあのメロディーの素晴らしさが土台となっていた。
「Hey Hey Hey」は、伝統的なラジオの選曲担当者にはあまり受けそうもない「ゴールドフラップ+アバ」という強烈なカクテルを提供している。さらにアルバム3曲目の「Roulette」は1990年代のハウス・シャッフルを多用していた。ただしこの曲まで来ると、聴く側が期待していたポップなサウンドがようやく多少登場してくる。
『Witness』に収録された中で最も売れ線の曲であり、どう見てもファースト・シングルに選ばれそうな「Chained To The Rhythm」は、アルバムの中で9曲目に配置されていた。そのことが多くを物語っているだろう。これではまるで、「私なんか聞かずに、もっと聞きやすいアーティストを選んで」とケイティが望んでいるかのようだ……。ファンが自分の変化についてくるかどうか試しているようにも思えてしまう。
よりタイトな芸術的指向性
とは言うものの、『Witness』は挑戦的なほど難しい作品ではない。それどころか、このアルバムは、ケイティにとってこれまでで最も満足のいくものに仕上がった。けれど、この作品が以前よりも多くの集中力と熱意を聴く者に要求していることは確かだ。最初のデートで、いい仲になれるとは限らないのである。
たとえばニッキー・ミナージュをフィーチャーした「Swish Swish」はどうだろう。第一印象では、まとまりのないキャッチーなダンス・グルーヴという感じを受けるかもしれない。とはいえ、この曲は穏やかな足取りで2017年の夏のアンセムになった。そしてその繊細なメロディーはあなたの頭に入り込み、そこから離れなくなる。そしてこの曲は、ケイティの最もおしゃれな名曲のひとつとなった。
一方スモーキー・ロビンソンの「Being With You」を巧みにサンプリングした「Power」も、燃えはじめの炎は小さいかもしれない。しかし辛抱強く聞いてほしい。これも「Swish Swish」と似たような誘惑のスタイルを持っている。聴き込む価値は十分にある。
ミーゴスをフィーチャーした「Bon Appetit」は、もっと早くから耳に馴染んでくる。これは『Witness』のセカンド・シングルとして選ばれた。しかし、またしても強力なビデオ(ケイティのベスト・クリップである「Chained To The Rhythm」と張り合うくらいの出来だ)が作られたにもかかわらず、一般にはほぼ見過ごされがちな曲となった。
結局『Witness』の売上は『Teenage Dream』のような作品には及ばなかったが、それでもこのアルバムは、よりタイトな芸術的指向性とまとまりのあるサウンドで仕上げられた。そうしたサウンドはケイティのポップな個性を土台として構築されているが、より実験的なエレクトロニカで飾られている。
『Witness』は、アートワークはやや型通りの方向性になっていた。また、あからさまにダンス/クラブのノスタルジーを感じさせるサウンドも一部には含まれていた。その一方で、「Miss You More」は音数の少ないバラードに仕上がっている。こうした曲は、以前のアルバムであれば、シンセ・サウンドの中に浸っていただろう。しかしこの曲は、ケイティがこのアルバムをより本物志向の誠実なサウンドで彩っているとしていることを強く示していた。
もっと暗い心持ちを明かす作品
現在はスウェディッシュ・ポップの影響が全世界的に広がっているが、言うまでもなく、その源流は簡単に探り当てることができる。つまりABBA、エイス・オブ・ベイス、そしてロビンといったアーティストたちである。
『Witness』にも彼らの影響が見て取れるが、このアルバムは決してものまねではない。ケイティの真の姿を知っている人間はほとんどいないが、このアルバムを聴くと、彼女の内面に近づいたような気持ちになる。彼女はパーティーを賑やかにしてくれる存在だが、ここではもっと暗い心持ちも明かそうとしている。
1980年代の輝かしいポップ・ダンスが復活したかのような「Pendulum」で、彼女は「伝統から離れず、一級品のままでいて」と訴えている。すべては巡り巡って戻ってくる……そう彼女は歌う。
彼女の素晴らしいポップなサウンドは、やがて戻ってくるかもしれない。それまでは、『Witness』がひとつの証拠となるだろう。つまりケイティは、成功の上にあぐらをかくような人間ではないのである。
Written By Mark Elliott
ケイティ・ペリー『Witness』
2017年6月9日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music
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