ドレイクの『Thank Me Later』は彼の未来を予想していた:ラップとR&Bの距離を縮めた“弱さ”を見せるラップするシンガー

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世界的スーパースター、モックネックの流行仕掛け人、そしてヒップホップの未来についての無数の解説記事の対象になる以前のドレイクは、カナダ出身の成り上がりMCで、リル・ウェイン率いるヤング・マネーの最も若い弟子としても活躍しながら、ブレイクのきっかけとなったヒップ・ホップの方向性を変えた2009年のミックステープ『So Far Gone』を制作に励み、メジャー・デビューを果たす寸前だった。

2010年6月15日に『Thank Me Later』がリリースされ、同月にはプラチナムを獲得した。ドレイクの場合、発売するすべての作品が技術的にもスタイル的にも前回を上回るものになる。カニエ・ウェストの『808s & Heartbreak』が中断していたところから、そのラップR&Bスタイルを引き継いだ彼は、ヴォーカリストとしての自分をみつけ始めていた。

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スターの素質溢れる作品は、彼がすぐに支配することとなるメジャー・シーンを指し示し、同時に名声、信憑性、そして恋愛の悩みで奮闘するトロント出身のMCの姿も見せていた。『Thank Me Later』発売からまもなく10周年を迎えるにあたり、若きオーブリー(*ドレイクの本名)が未来の青写真がどのように創り出していったのかを振り返りたい。

ドレイクは“弱さ”が資産になりうることを証明している

通常、ヒップホップの世界に“弱さ”が入り込む余地はないが、ドレイクは『Thank Me Later』とその後のすべての作品を通じて20代のラッパーとしての自信だけではなく不安をも伝えている。「Karaoke」でキャット・スティーヴンスを引用し、「Resistance」では祖母と疎遠になっていることへの罪悪感を伝える。そんなことができるMCは他にいるだろうか? その脆弱さと真実が、当時のメジャーレーベルで活躍していたラッパーたちから彼を際立たせ、忠実なファンを獲得した。ドリジー(*ドレイクの愛称)は翌年発売した『Take Care』以降も作品ごとにさらに心の内を打ち明けるようになっていく。

 

ドレイクはラップするシンガーで、歌うラッパーではない

『So Far Gone』のリリース以来、ドレイクはラップだけではなく歌のスキルも評価されるようになった。アッシャーの「Climax」をカヴァーする予定はないだろうが、『Thank Me Later』でさらにラップとR&Bの距離を縮め、「Miss Me」ではリル・ウエインと息をぴったり合わせ、ベッドルームへと誘う「Shut It Down」ではザ・ドリームがフィーチャリングされている。

語りかけるようなヴォーカル・スタイルを独自に作り出し、ミックステープ発売後にはヴォーカル・コーチを雇って新たなレベルを目指した。彼が「Karaoke」での披露したヴォーカル領域は、「Hold On We’re Going Home」をはじめとする未来のヒット曲への道を切り開いた。

カニエ・ウェストの『808s & Heartbreak』は一度限りの珍品と見做されがちだが、ドレイクはそれが勝利の方程式であるかも知れないことを証明し、さらにヒップホップ界の卓越したラッパーするシンガーとしての地位を確立した。

 

ドレイクは女性ファンを受け入れる

ヒップホップと女性との関係には、女性蔑視や偏見があるラップの存在もあり、トラブルがつきものだと思われがちである。確かにノトーリアス・B.I.G.の曲がかかったら私たちは喜んで一緒に歌ってしまうが、そろそろジャンル自体に少し成長してもらう時期がやってきたのかも知れない。他のほとんどのラッパーとは異なり、ドレイクは女性の精神を理解するだけではなく、女性のリスナーたちのためにトラックを書く。TVシリーズ『インセキュア』の中でイッサ・レイは、「ドレイクは女の気持ちがわかるの」と言っている。

 

謂わゆる“レディースナイト”トラックからは離れて、ドレイクは「Fancy」で女性たちのためのアンセムを提供し、そこには手堅くT.I.がフィーチャリングされている。彼の場合、失恋の歌でさえも敵対心よりも誠実さを感じさせるのだ。ラッパーもエモくなれるのか? ドレイクはまさしくそこに賛成の論を唱えている。

 

アーティストたちにリスペクトされている

『Thank Me Later』のライナーノーツを見ると、師匠のリル・ウエイン、UKインディーズ・バンドのザ・エックス・エックス、そして膝を手術してくれた医者に至るまで、ドレイクは、エミリー・ポストと張り合えるぐらい多くの人々に感謝の気持ちを伝えている。しかし、カニエ、ジェイ・Z、アリシア・キーズ、ヤング・ジージーニッキー・ミナージュザ・ドリーム、リル・ウェイン、T.I.ら豪華顔ぶれをフィーチャリングし、大ヒットを記録したドレイクのデビュー作にヤング・マネーのメンバーを起用したことにより、その感謝はお互い様となった。

彼のコラボレーションはジャンルの垣根も超え、「Fireworks」のプロデュースを手掛けたインディーポップ・グループのフランシス・ アンド・ザ・ライツは彼のツアーにも帯同した。また、 2015年のミックステープ『If You’re Reading This It’s Too Late』では、彼らの曲「Get in the Car」を「Madonna」の中で引用している。

 

ドレイクは芸が細かい

「Light Up」の中で「仲間がパーティーを楽しんでる間に、俺はあいつらがパーティーでかけるトラックを作ってる」と歌っているように、彼はスタジオに篭っている時は徹底的に仕事に打ち込むことで知られている。しかし『Thank Me Later』は彼がスタジオで費やした時間が無駄ではなかったことを証明している。プロデューサーのBoi-1da(OVOの一員)とノア“40”シェビブと共に、雰囲気溢れるアルバムの土台を作り、カニエ・ウェストとスウィズ・ビーツにもトラック制作を依頼している。

その後もドレイクとプロデューサーたちとの絆はさらに深まっていく。すべてのラップ・トラックの息が長いわけではないが、『Thank Me Later』には「Fancy」やニッキー・ミナージュをフィーチャリングした「Up All Night」など時代を超えて今でもリスナーを盛り上げるヒット・トラックが収められている。

By Laura Stavropoulos


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