「Don’t Call Me Up」が大ヒット中のメイベル(Mabel)とは? ネナ・チェリーとマッシブ・アタックのプロデューサーの娘がデビュー
自由自在な語り手であり、ピュアで色づけされていない歌の才能と曲作りの資質を持つメイベル・マクヴェイ(Mabel McVey)。彼女には、2019年3月時点で23歳という年齢をはるかに超えた直感的なメロディの才が備わっている。事実、人々に大きな感銘を与えるようになったきっかけは、2015年9月に「Know Me Better」でシーンに衝撃を与えたことだった。彼女のサウンドクラウドでひそかにリリースされたこのシングルは、あっという間に知れ渡り、新世代女性R&Bシンガーの中で、彼女をフレッシュでエキサイティングな存在へと押し上げたのだ。
それから3年余りでメイベルは音楽的にも精神的にも視覚的にもとてつもなく成長した。2017年には「Finders Keepers」で驚異的なブレイクを果たし、プラチナムを達成。全英トップ10に5週間とどまり、ブリット・アワードのクリティクス・チョイスに初めてノミネートされる快挙を成し遂げた。緊張気味に内輪だけで行っていたショーから、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズとツアーをするまでになったメイベルは、彼女メインのコンサートをロンドンのブリクストン・アカデミーを含む世界中でソールドアウトさせるようになり、その過程で徐々にちょっとシュールな演出も行うようになった(ウェンブリー・スタジアムではバーバリーのキャットスーツに身を包み、レインボー・フラッグを手にしてプレイしたこともある)。UKではシングルを200万枚以上売り上げ、5億回以上のストリーミングを記録。幼い頃心に誓った約束をすべて果たしながら、様々なアイデンティティ(性、人種、個人)、今日の恋愛事情、自分は何者で何を求めているのか、といった歌を通して、彼女はUKで最もポジティブで率直な歌い手の一人として浮上した。
音楽一家に生まれたメイベルには、生まれながらに音楽の才能が備わっていたと言っていいだろう。父親はマッシヴ・アタックやポーティスヘッド、シュガーベイブス、オール・セインツらとの作品で知られるプロデューサーのキャメロン・マクヴェイで、今も英国音楽界で最も尊重される番人の一人だ。母親はネナ・チェリー、世代を超えた音楽とスタイルをもつスーパースターで、音楽ジャンルなどものともしなかった女性である。メイベルに引き継がれているのは、音楽のカルチャーを一つにまとめるシームレスな才能であり、今彼女は眼の前にある輝かしい道へと足を踏み出している。
メイベルはスペインのマラガ山で生を受け、姉妹たちと世界中を移動しながら子ども時代を過ごした。ノッティング・ヒルやスウェーデンのストックホルムなどで暮らした彼女は、名高いリトムス・ムシーケルイムナーシエット音楽学校で学んだ(ロビンとトーヴ・ローは卒業生)。彼女は一人でいることを好み、自身の音楽に慰めを見出していたという。
「子どもの頃は友だちがあまりいなかった。他の子にあまり興味がなかったの。大人たちに放っておかれるのもとても嫌だったわ。周りの人たちと相性があまり良くないことに、私はすでに気づいていたんだと思う。そういう意味では、子どもらしい無垢なところはなかったんじゃないかって気がする」と彼女は打ち明ける。その中でメイベルは自身に備わった曲作りの能力に没頭し、一風変わった人生経験を利用して、音楽の背後に隠れた女性をあらわにするトラックを作ってきた。
それが集約されたのが、デビュー作のミックステープ『Ivy To Roses』だった。これはまとまりのある巧みに作られた楽曲のコレクションで、今日の恋愛事情における支配や、それを失う瞬間を掘り下げている。美しいピアノがリードする「Ivy」は、家族や友人に敬意を表し、新たな人生のスタートを告げる歌であり、同時に彼女の寝室で生い茂り(何度切り戻されても)伸びてゆく本物のアイビーを表現した歌でもある。
それ以来、己の作品群に、自信に満ちた女性を歌った一連のヒットシングルが追加された。例えば「Fine Line」では、始まったばかりの恋の交わりを表現しながら、女性たちへ舵を取るよう促している。「自分自身を全く見失うことなく何かに夢中になること、また、どんなにワクワクしてもそこには危険が潜んでいるってことを歌っている」という楽曲「One Shot」は「その気がないふりをしながら、自分が求めているものを知ろうとする」歌だ。そして2019年、メイベルの野心は果てしなく広がった。メイベル、スティーヴ・マック(エド・シーランのヒット曲Shape Of Youや、Years & Years、If You’re Over Meで知られる)、そしてカミーユ・パーセル(リトル・ミックス、ミスト、クリーン・バンディット)の3人で手がけた曲「Don’t Call Me Up」で、彼女は、恋人と別れる悲しいバラードを力強く前へ進む歌へとひっくり返している。
「Know Me Better」から、ずっと自分自身を探求し続けながら、メイベルはブリティッシュ・ポップ界でも最もさわやかでポジティブな若者のロールモデルとして成長した。混血だったり、入り組んだ文化を抱えていたり、ありのままの自分に納得できる努力をしたりと、悩みながら不安と戦ってきたことを、彼女は自ら語り(子供の頃、学校を退学に追い込まれてもいる)、時には率直に歌ってきた。メイベルの音楽は、彼女だけでなく、とりわけ若い熱心な女性ファンにとって、こういった弱さをどうやって強みに変えるかをテーマにしたサウンドトラックだ。そして正直で開放的な性格もあって、メイベルは自由にのびのび活動するようになった。彼女は音楽、ファッション、ダンス、アートの世界を行き来し、ストームジーやテート・モダン美術館とコラボレートしたり、ナイキ、トミーヒルフィガー、トップショップ等 のキャンペーンと提携したりしている。Not3、コジョ・ファンズ、ジャックス・ジョーンズ、レイ、ステフロン・ドンらとコラボしてきたメイベルは、ブリティッシュ・ポップ界の新たな黄金世代として、次々と現れるアーティストたちの中心に位置している。
メイベルにとって、結局すべては自身の音楽のルーツへ戻って行く。この2000年代のR&B黄金世代の申し子は、大好きなデスティニー・チャイルド時代のビヨンセのエネルギーや、スティービー・ワンダー、ミニー・リパートンといったレジェンドたちのヴォーカル・スタイルを身につけている。曲の美しさと、想像力豊かな物語を紡ぐナチュラルな親近感は、次に英国発となるビッグなポップ・アーティストの有力候補にふさわしい。「‘自分探し’って表現は嫌いだけど、私がしてきたことはそれかなって気がしてる。私は全員を喜ばせることはできないけど、自分自身をハッピーにさせるものを作り上げることはできるわ。それが一番大切なこと。まだ始まったばかりよ」
メイベル『High Expectations』
2019月8月2日
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