TikTokで話題のベニー(BENEE)とは? ニュージーランド発、20歳の新星の経歴と魅力
短尺動画投稿プラットフォームのTikTokでベニー(BENEE)というアーティストの「Supalonely feat. Gus Dapperton」という曲が大きな話題となっています。
4月6日現在でこの楽曲を使った動画はTikTok内で870万本も作られ、各国のチャートやポップ・シーンでもその名前が急上昇しているニュージーランド人のシンガーソングライター、ベニー。2000年1月生まれの彼女の経歴と魅力について、ライターの松永尚久さんに解説いただきました。
動画投稿アプリで話題沸騰のダンス・ポップ
今年の春頃から動画投稿アプリ「TikTok」を中心に、ある楽曲がバズを呼んでいる。太陽のようにカラッとしたディスコ風ポップなサウンドにのせて、多くの人がダンスをするなど、ユニークな動画を次々アップし、視聴数が日々増加しているというのだ。その楽曲とは、ベニーというシンガーソングライターが発表した「Supalonely feat. Gus Dapperton」なのであるが、「TikTok」でたくさんの動画が投稿されるにしたがってヒットチャートも上昇をみせ、Spotifyのグローバルチャートではトップ20入り(4月6日時点で15位)、トータルで1億再生も目前にまで迫るほどの勢いを持っている。早くも2020年を代表するポップ・アンセムという声も出ているほどだ。またこの楽曲のミュージック・ビデオで繰り広げる、独特のカラフルでキッチュな世界もインパクトが高く、ベニーは、「ポスト・ビリー・アイリッシュ」的な存在感も放っている、注目のミュージシャンである。
地元では音楽賞を席巻するほどの注目株
ベニーは、2000年ニュージーランド・オークランド生まれ。本名はステラ・ベネット。レディオヘッドやビョークなどが好きな両親のもとで、さまざまな音楽に親しみ、8歳の頃からギターやサックスを演奏するようになったそう。その後、2017年にネットにてナールズ・バークレイなどのカバー曲を発表していたところ、後にコラボレーター(プロデューサー)となる同郷バンド、LEISUREのメンバーでもあるジョシュ・ファウンテンと出会い、オリジナル楽曲の制作をスタートさせる。同年にはデビュー曲「Tough Guy」をリリースし、翌年発表した楽曲「Soaked」で注目を集めたのだった。
どこか気怠い雰囲気をまとったR&B的なサウンドにのせて、離れてしまっても「ずっと忘れられない(頭がそのことで浸りっぱなしなってしまった)」元恋人の存在を歌ったこの楽曲は、有名ファストファッション・ブランドのインスタグラムのBGMとして投稿されるなどし注目、そして多くの共感を集め、翌年に地元チャートでトップ20入り。年間チャートでもトップ30にランクインするなど、ロングヒットを記録したのだった。
また、この楽曲も収録された初EP『Fire on Marzz』に収録された「Glitter」は、タイトル通りキラキラした雰囲気のあるサウンドでありながらも、今ではその「輝き」は自分にはなく元恋人に奪い去られてしまったという喪失感を綴ったナンバー。そのキャッチーでほろ苦い世界観が人気を呼び(TikTokでも多く使用されるように)、ニュージーランドのチャートでトップ3入り、さらに全豪でも7万枚をセールスしたのだった。結果、この作品で2019 New Zealand Music Awardsでは、「最優秀ソロ・アーティスト」をはじめ4つの賞を獲得。ニュージーランドの音楽シーンにセンセーションを巻き起こし、「Supalonely」のヒットへ導くベースを築いた。
“失恋した自分を笑い飛ばせるような曲を作りたかった”
そして2019年11月には2作目となるEP『Stella & Steve』をリリース(タイトルは彼女の本名と、愛車の名前なのだとか)。そこに収録され、シングル化されたのが「Supalonely feat.Gus Dapperton」なのである。昨年末におこなった初来日公演で熱狂を呼んだNY在住シンガーソングライターであるガス・ダパートンをフィーチャーし、完成させた楽曲。「恋愛をすることが面倒」なボーイフレンド(ガスの役割)に振り回され、結局捨てられてしまうという哀れな女の子の姿を、キュートでキッチュなビートで描いている。彼女は「Supalonely」について海外メディアのインタビューでこう語る。
「恋愛において悲しかったり、苦しかった出来事をあっけらかんと笑い飛ばせるような楽曲を作りたかったんです。失恋って、とっても悲しいものだけど、それを乗り越えていけるような音楽を作りたいと思ってました」
またミュージック・ビデオに関しても、辛い経験をあっけらかんと笑い飛ばせるカラフルなものにしたかったという。
「私は、最終的にはみんなをハッピーにさせるものを発信したい。失恋をただ嘆くのではなく、とんでもない恋愛をしていたんだなって、自分で自分を笑ってしまえるような映像・作品にしたかったんです」
辛い経験を乗り越えて、心にビタミンのようなカラフルな世界を見せる「Supalonely」。しかし、彼女はこの楽曲が「TikTok」を通じて世界的に知れ渡ることは、想像もしていなかったという。
「つい最近そのことを知らされて、正直驚きました。ソーシャル・メディアでの反響を考えて作った楽曲じゃないし。そもそも私、TikTok使ったことないですし。でも、こういうことをきっかけに自分の音楽に興味を持っていただけたことは、純粋に嬉しいと感じています」
自分の音楽はいろんなことに興味を張り巡らせた「クモ」
大きな話題を呼んでいる「Supalonely」を筆頭に、ベニーの作る楽曲は「失恋」などの恋愛関連のトピックが目立つ。そこで生じるさまざまな思いにどう向き合っていけばいいのかを、共に悩みながら進んでいるような「親近感」があり、それが多くの反響を呼んでいるのではないかと思う。
「私の場合たいてい、夢の世界からサウンド・イメージが膨らむことが多いかも。それをベッドの側に置いてあるスマホなどにメモを残しておいて、あとから楽曲が完成させるって感じです。扱うトピックに関しては、恋愛関連が多いかな。でも、それにはこだわらずに実生活から思い浮かんだものを言葉や音楽にする感じ。例えるなら“クモ”みたいなイメージ。いろんな場所や考えに巣を貼って、それに引っかかったものを表現するような」
だが、決して「Supalonely」のようなカラッとした失恋ソングばかりが彼女のレパートリーではない。「Blu」では、それこそ彼女の夢の世界を描いたような、メランコリックで浮遊感のある仕上がりになっている。
「この楽曲に関しては、前日にパーティで騒いでいたせいで疲れて果てていて、とことん悲しい(落ち込める)楽曲を作りたかった。それで他の楽曲とは異なる手法で完成させました」
また、劇場のステージに立ち、アンニュイな表情でこの楽曲を歌い上げる「Blu」のミュージック・ビデオも「Supalonely」とは異なる印象で、その変幻自在ぶりにドキリとする。
「悲しい楽曲なので、それに見合いながらも、ちょっと奇妙な雰囲気のある映像にしたかったんです。最初から劇場のステージで歌うこともイメージしていました」
この映像からは、同郷のグラミー獲得ミュージシャンであるロード(Lorde)のようなたたずまいを感じる人も少なくないのでは?ロードの印象についてベニーは以下のように語っている。
「ロードは本当に素晴らしいミュージシャンだと思います。彼女が残したこれまでの功績はニュージーランドのミュージシャンでも、こうすれば世界的に成功できるという『お手本』を示してくれたこと。私たちに多くの可能性を与えてくれた存在です」
「カッコいい」と思える音楽を追求したい
彼女の楽曲を聴いていると、これまでの音楽やミュージシャンにリスペクトを捧げつつも、従来のセオリーに縛られない自由な感性をそのまま作品としてアウトプットしている印象だ。
「いい曲に(ヒット)するために『ここでコーラスを入れよう』とか、そういうルールに縛られることが好きじゃありません。フリースタイルで、思い浮かんだものを表現したいんです」
彼女の音楽はR&Bやインディー・ロックからの影響が多いような印象であるが、そこでカテゴリーされるのも本望ではない様子。
「ヴィジュアル面でもそうなんだけど、面白いことは何でも取り入れたいんです。だから最終的にどうなるか・なりたいかなんてヴィジョンはないけど、とにかく『カッコいい』と思えるものを作り続けられたらいいな」
2020年は、「サッド・ポップ・プリンス」と呼ばれ9月に開催される「SUPERSONIC 2020」への出演がアナウンスされているコナン・グレイの全米ツアーにも登場する予定の彼女。「Supalonely」をきっかけに広がったカラフルで自由な世界は、今後さらに進化を遂げて新たな音楽の可能性の幅を広げていくのだろう。
Written by 松永尚久
「Supalonely feat. Gus Dapperton」収録EP
ベニー『STELLA & STEVE』
2019年11月15日配信
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