ポールとともに全米1・2位を同時獲得したジョージ・ハリスンの「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」
「時には、口を開いて自分がこれから何を言うのかわかっていないことがある。そうして口から飛び出てきたものが何であろうと、それが何かのきっかけになる。もしそういうことが起こって、運に恵まれれば、それがたいてい曲になる。この曲は祈りであり、個人的な意見表明でもある。つまり、僕と神様と、この曲を気に入ってくれた人たちとのつながりについての意見表明なんだ」。
ジョージは自分の代表曲のひとつ「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」についてそう語っている。この曲はアルバム『Living in the Material World』の冒頭に収められ、アルバムからの第1弾シングルとしても発売された。
それまでジョージは『The Concert for Bangladesh(邦題:バングラディッシュ・コンサート)』のアルバムと映画をまとめる作業で忙しかったため、『All Things Must Pass』に続くアルバムの制作になかなか入れずにいた。ようやく1972年なかば、アルバム作りに取りかかった彼は当初プロデューサーのフィル・スペクターと組むつもりだった。しかしスペクターが当てにならない状態だったため、さらに作業が遅れてしまい、結局ジョージはスペクターなしでレコーディングを進めることを決意し、プロデュースも自分で行うことにした。
前作『All Things Must Pass』には大勢のミュージシャンが参加していたが、1972年秋に「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」のレコーディングに召集された人数はずっと少なくなっていた。この曲ではジョージのスライド・ギター(1973年初頭にオーヴァーダビングされた)も素晴らしかったが、ニッキー・ホプキンスのピアノもまた格別だった。他の参加ミュージシャンは、元スプーキー・トゥースのオルガン奏者ゲイリー・ライト、旧友クラウス・フォアマン(ベース)、それにデラニー&ボニーやジョー・コッカーのバンドのメンバーだったジム・ケルトナー(ドラムス)という顔ぶれになっている。
「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」はたちまちヒットし、それから何年も経った今でもジョージの名曲のひとつとして高い人気を保っている。その理由は聴けばすぐにわかる。一見シンプルな曲ではあるけれど、それでいてサウンドにも歌詞にも深みが感じられるのである。どの楽器も、ミックスの中で完璧に配置されている。ライトのオルガンが土台となり、その上でケルトナーのドラムスが元気一杯でありながらリラックスしたビートを叩き出す。そして当時ロック・ピアニストの中でも一二を争う高評価を集めていたホプキンスは、ジョージの完璧な引き立て役となっていた。ここでのジョージは、スライド・ギターで実に見事な装飾音やソロを弾いている。
「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」は1973年5月7日にアメリカで発売。その2週間後にはイギリスでも売り出された。5月19日にはBillboard誌のチャートにランク入り。この週にチャート入りした曲の中では最も高い位置(59位)につけた。このとき同時にチャート入りした他の曲は、スリー・ドッグ・ナイトの「Shambala」(71位)、ポール・サイモンの「Kodachrome(邦題:僕のコダクローム)」(82位)、そしてピンク・フロイドの「Money」(84位)だった。その6週間後、ジョージはこの曲でポール・マッカートニー&ウィングスの「My Love」をBillboard誌のシングル・チャートの首位から引きずり下ろした。ザ・ビートルズの元メンバー2人が全米チャートの1位・2位を独占したのはこのときだけだった。
「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」はイギリスやカナダのチャートでもトップ10入りを果たしている。ちなみにアップル・レーベルの米国盤を配給していたキャピトル・レーベルは、シングル「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」をアルバム・ヴァージョンよりもやや早回しにして曲のピッチを上げていた。そのほうがラジオでの印象が良くなる……というのがキャピトルの判断だったのだ。
ジョージ・ハリスンはソロ・アーティストとしてのツアーをあまりやらなかったが、数少ないツアーでは「Give Me Love (Give Me Peace on Earth)」を必ず演奏していた。この曲のライヴ・ヴァージョンは1992年のアルバム『Live in Japan』に収録されている。またこの曲は何度もカヴァーされており、たとえばエリオット・スミス、ロン・セクスミス、スティング、ジェームス・テイラー、エルトン・ジョンなどが取り上げている。
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