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史上最も奇妙な楽器リスト15選:テルミンからトランシアフォーンまで

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ルー・リードの1989年のアルバム『New York』のライナーノーツで、ルー・リード本人が「2本のギター、ベース、ドラムスに勝てるものはない」と書いていた。しかしルー・リードには悪いが、必ずしもいつもそうとは限らない。

時には何か耳慣れない、特別な楽器が使われたことで凡作が歴史に残る名盤へと押し上げられることがあるのは、ルー・リード自身が実感として知っていたはずだ。何故なら彼の在籍したザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、恐らく史上初めてヴィオラ奏者を擁した最初のロック・バンドだからである。

スタイロフォンからプール(ビリヤードの一種)のボールに至るまで、ロックの正典には実に印象深い風変わりなサウンドや異国情緒溢れる楽器の記録が目白押しだ。ここではその中でも、傑作と呼ばれるアルバムに登場している特に毛色の変わった楽器の幾つかを、総覧としてご紹介しよう。

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1. テルミン

1966年の時点で、ブライアン・ウィルソンは既に珍奇な楽器使いにかけては玄人だった。ちょうどビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』収録の「You Still Believe In Me」でバイシクル・ホーンを採用したばかりだった彼は、この電子楽器を「Good Vibrations」のキー・エレメントに据えることで更なる実績を挙げた。

この楽器にまつわる更なる神秘的な雰囲気を確立した1993年公開の映画『Theremin: An Electronic Odyssey』で、ブライアン・ウィルソンはパイオニアのひとりとして称えられている。

Good Vibrations – Theremin intro

 

2. アラベスク、スネイク・ギターElectric Larynx(電動式の人工喉頭)、Uncertain Piano(不確かなピアノ)

ブライアン・イーノの使用楽器クレジットはそれ自体が検証の価値があるもので、上記に挙げたものはブライアン・イーノが様々なソロ・アルバムにおいて演奏したとされる多くの楽器の中のほんの一部である。

これらの道具がどのような役割を果たしたのかを知っているのはブライアン・イーノだけだが、恐らくこれらがなければ作品はどこか物足りないものになっていたのだろう。

On Some Faraway Beach (2004 Digital Remaster)

 

3. コナンドラム(Conundrum)

アート・ロックにおけるもうひとつの伝統は、手製のパーカッションである。キング・クリムゾンの初期のアルバムには、それぞれにユニークな‘打撃物’が満載だ。だが、トム・ウェイツがそのキャリアにおいて前人未到の領域に踏み込んだ1992年の『Bone Machine』における最大の肝はパーカッシヴなカオスだった。

コナンドラムとは様々な金属製のガラクタや機械のパーツをどっさり集めたラックだ。それなしでは決してあのアルバムの不穏さは成立させることができなかっただろう。発明したのはどうやら彼の友人だったようだが、まさに当意即妙の名前をつけたのはトム・ウェイツ自身であるらしい。

訳注:conundrumとは「(シャレや語呂合わせを含む)なぞなぞ・判じ物/困難な状況」を指す単語

Tom Waits – "Earth Died Screaming"

 

4. オカリナ

この素朴な木管楽器にはかつて、中国や日本の文化においてたいそう大切にされていた時代があった。一方、アメリカではスウィート・ポテトと呼ばれていた。

現在この楽器はトロッグスの「Wild Thing」のソロに使用された楽器として永遠に親しまれている。我々の知る限り、その他にこの楽器がロックの正典に登場するのは、クリームの1968年のアルバム『Wheels Of Fire』収録の「Those Were The Days」の歌詞の中だけである。

The Troggs – Wild Thing

 

5. 口琴(Jaw Harp)

通常は比較的コミカルな音楽に使われるサウンド・エフェクトを、ザ・フーは「Join Together」のイントロでリード楽器に採用して。栄光の瞬間を味あわせた。ビデオではキース・ムーンとロジャー・ダルトリーが演奏しているように見せているが、実際に音を出していたのはピート・タウンゼントだった。

The Who – Join Together

 

6. ビリヤードのボール

初期のR.E.M.のアルバムは、ごくシンプルなギター/ベース/ドラムスだけで作られたレコードだと思われがちだが、溢れんばかりの創意工夫が凝らされている。

『Murmur』収録の 「We Walk」では、プロデューサーのミッチ・イースターがビリヤードのボールがぶつかり合う様を録音してテープの回転を遅くすることにより、深淵で不気味なサウンドを作り出していた。

R.E.M. – We Walk (Studio Version)

 

7. オンド・マルトノ(Ondes Martenot)

テルミンにごく近い親戚筋に当たるこの20世紀後期に生まれた道具は、音色の不気味さこそ似ているものの、より正確な音階の音を出しやすい仕様だ。

現在における最も有名な支持者のひとり、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドはアルバム『Kid A』の中の不思議な雰囲気の演出に利用しており(特に分かりやすいのは 「How To Disappear Completely」)、それ以降もゴリラズや、ダフト・パンクの 「Touch」などでも重宝されている。

How to Disappear Completely

 

8. アフェックス・オーラル・エキサイター(Aphex Aural Exciter)

このサイコ・アコースティックな楽器に魅了された代表格となるプロデューサー、ピーター・アッシャーは、リンダ・ロンシュタットやジェイムス・テイラーの多くのアルバムでアフェックス・オーラル・エキサイターをよく使用していた。

実のところこれが何をするものかと言えば、ミキシングの段階で周波数をぐっと押し上げ、レコーディングしたものをより‘ホットな’サウンドにしてくれるのである。

Make Mixes Brighter, not Harsher: Aphex Exciter Tutorial

 

9. ハーディ・ガーディ(Hurdy-gurdy)

ある種の見方によっては、レッド・ツェッペリンはずっと挫折したフォーク・バンドだったと言えるかも知れない。彼らはサード・アルバムにトラッド調のバラード 「Gallows Pole」を収録したが、ジミー・ペイジとロバート・プラントがアルバム『No Quarter』とそのツアーでこの曲を蘇生させた際には、ジミー・ペイジがバグパイプに似た音を出す風変わりな昔の英国の楽器であるハーディ・ガーディを演奏した(*訳注:弦楽器の一種)。

オリジナルのツェッペリン・ヴァージョンにはハーディ・ガーディは入っていなかったが、実はレッド・ツェッペリンの曲で唯一、ジミー・ペイジがバンジョーをプレイしている曲である。もうひとつオマケの皮肉な偶然がある。

様々な噂によれば、レッド・ツェッペリンのメンバーが初めて一緒にプレイする機会を持ったのはドノヴァンのレコーディング・セッションの場で、あろうことかその曲は「Hurdy Gurdy Man」だったそうだ。

Page & Plant: Nigel Eaton's Hurdy Gurdy Solo/Gallows Pole 2/13/1996 HD

 

10. スタイロフォン(Stylophone)

デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」にフィーチュアされた、あの宇宙空間へと飛び立っていくキーボード・サウンド(印象的なアコースティック・ギターのリフの後のインストゥルメンタル・ブリッジ部分に入っている)は、キーボードの魔術師リック・ウェイクマンが考え出したものではない。

デヴィッド・ボウイ本人が、音楽玩具スタイロフォン(訳注:1970年代に英国で発売され、デヴィッド・ボウイやクラフトワークらが使用して一大ブームを巻き起こしたポケット・シンセサイザー。2007年に復刻版が発売されている)を使ってあの原始的なシンセのようなサウンドを出していたのである。

David Bowie – Space Oddity (Official Video)

 

11. オプティガン(Optigan)

スタイロフォン同様、オプティガンも一度は短命に終わりながら、自由な発想を持つロッカーたちの手にわたったことで新たな命を得た音楽玩具だ。オプティガンには据え付けのレコード・プレイヤーがあり、そこでフレキシ・ディスクに入ったストリングスやホーンをはじめとするオーケストラ楽器のサウンド・サンプルを読み込む。そして演奏者はそのサンプルのトーンやピッチを変えて使うことができるのだ。

元ジェネシスのギタリスト、スティーヴ・ハケットは、この楽器の可能性をいち早く発見した1人だった。彼のアルバム『Defector』に収録されている「Sentimental Institution」は、オプティガンのビッグ・バンド・サウンドを基盤に構成されている。

更によく知られているのは、ロス・ロボスがアルバム『Kiko』でオプティガンのループを使って夢の中のようなフィーリングを作り出したトラック 「Angels With Dirty Faces」だろう。

Sentimental Institution (Remastered 2005)

 

12. 笑い袋(Laugh Bag)

70年代初期に流行った‘笑いの詰まった袋’とは、ボタンを押すとヒステリックに笑う男の録音された声が流れ出す仕掛けの小さなオレンジのポーチのことだ。それを『Larks Tongues In Aspic (太陽と戦慄)』収録の 「Easy Money」の最後の締めにあしらい、不朽の名声(無論、不気味な効果という意味でだが)を与えたのはキング・クリムゾンだった。

King Crimson – Easy Money

 

13. ストリッチとマンゼロ(Stritch And Manzello)

ジャズマンのラサーン・ローランド・カークは非凡なテクニックの持ち主で、2本あるいは3本のサックスやフルートを同時にプレイすることが出来た。しかもその全てで見事にジャムをこなすのだ。

彼はまた鼻でフルートを吹き、これら2つのお手製の楽器(ストリッチとマンゼロ)を演奏していた。どちらも、普通のサックスでは彼が必要な音のすべてが手に入らないからという理由で、彼自身が改造したサックスである。

Rahsaan Roland Kirk "The Inflated Tears & Haitian Fight Song" on The Ed Sullivan Show

 

14. クラグホーン(Claghorn)

ラサーン・ローランド・カークのファンだったイアン・アンダーソンはこの手製の木管楽器をジェスロ・タルのファースト・アルバムで披露している。「Dharma For One」に出てくる独特の音色は聞き逃しようがないはずだ。

それから20年の時を経て、ジェスロ・タルのスペシャル・ボックス・セットのブックレットの中で、イアン・アンダーソンはようやくファンにその楽器の全貌を披露した。

Jethro Tull: Dharma for One

 

15. トランシアフォーン(Tranceaphone)

ヴァイオレント・ファムズが結成当初バスキングをしていた折、ドラマーのヴィクター・デロレンゾによって発明されたのは、フロア・タムの上に金属製の桶をマウントしたものである。これはステージの上では一層オーディエンスの目を惹き、ファムズ最初の名盤となったデビュー・アルバムでも重要な役目を果たした。

Violent Femmes, "Prove My Love", 1983, Milwaukee "At Twelve" w/Howard & Rosemary

 

そして最後に、最も奇妙なクレジットについて触れておこう。「Other Instruments(その他の楽器)」である。これはザ・キュアーのアルバム『Disintegration』で、結成メンバーのローレンス・トルハーストが公式に演奏したとされる楽器で、ギターでもベースでもドラムスでもなければ、ヴォーカルでもホーンでもキーボードでもない、謎の楽器だった。

後に判明したところによれば、ローレンス・トルハーストは同作のレコーディングには一切参加していなかったが、その時点で(まだ)バンドを辞めていなかったため、恐らく彼の存在はまだそこに感じられるだろう、ということだったらしい。

Written By Brett Milano



トム・ウェイツ
アイランド・レコード5作品リマスター発売
2023年9月1日発売:Swordfishtrombones/Rain Dogs/Franks Wild Years
2023年10月6日発売:Bone Machine/The Black Rider
CD&LP



 

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