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ウィーザーの歴史を振り返る:時代の期待を裏切らない無敵のパワー・ポップ・バンド

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Photo: Ethan Miller/Getty Images for iHeartMedia

2024年11月1日に愛称“ブルー・アルバム”こと『Weezer』の30周年が発売され、2025年1月4日と5日に幕張メッセにて開催される洋楽フェス「rockin’on sonic」にヘッドライナーとして出演が決定(5日)、1月7日には大阪、1月8日には愛知にて単独公演も決定しているウィーザー。

そんなウィーザーの歴史を振り返る記事を掲載。また、来日公演の予習となるプレイリストも公開中(Apple Music / Spotify / YouTube)。

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期待を裏切らないバンド

アメリカが誇る偉大なロック・バンドであるウィーザー(Weezer)は、評価が年々揺るぎないものになっていくタイプのグループだ。リヴァース・クオモ率いる彼らの楽曲は、記憶に残るメロディーや、一筋縄ではいかないフック、ウィットに富んだ歌詞の展開などに関して期待を裏切らない。

彼らはパワー・ポップ調の作風を脱し、インディーを経由してメタルの領域にまで到達したが、そうしたサウンドの変化を一曲の中で表現することも少なくない。そんな彼らの初期の作品は、巧妙でしばしばノスタルジックなサウンドに、現代風の捻りを加えたものだった。ウィーザーは当時から頭の切れるグループだったが、かといって人を小馬鹿にしたような感じになることもなかった。

トリプル・プラチナ(300万枚)に認定されたセルフ・タイトルのデビュー作『Weezer』から、『Pinkerton』『Maladroit』『Make Believe』、そして最新作の『Van Weezer』に至るまで、ウィーザーの名作は時代の流行を常に意識しつつ、しばしば流行の先を行くような内容だった。

また、スパイク・ジョーンズがポップで象徴的なビデオを撮った「Buddy Holly」や「Undone – The Sweater Song」、そして「Say It Ain’t So」や「Pork And Beans」といった輝かしいシングルは、流行りやジャンル分けにとらわれるものではなく、そこには時代を超越する魅力がある。それはつまり、ウィーザーがニルヴァーナやベン・フォールズのように若者の想いを代弁しているということなのだ。

他方、彼らは長年に亘ってグループを追う熱狂的なファンをこれまで繋ぎ止めてきてもいる。彼らの大部分のアルバムや素晴らしいコンピレーション・アルバム『Death To False Metal』 (ロバート・ピットが手がけたジャケットのイラストにも驚かされる) の存在は私たちにとって喜ばしいことだし、彼らのアルバムはすべて英米両国のチャートに入っている。

中でも『Pinkerton』は世界で360万枚以上を、『Make Believe』はさらに多くの枚数を売り上げた。彼らは一つのバンドとして常にトップにいたわけではないが、どうにか自分たちなりの成功を維持してきたのである。

ベスト・コーストのベサニー・コセンティーノが参加した彼らのシングル「Go Away」は、1960年代のポップ、グランジ風のコード、ドゥー・ワップなどを組み合わせた魅力的な一曲だ。そう聞くと不思議に思えるだろうが、あまり頭で考えすぎないでほしい。ウィーザーは大切に愛でるべきバンドであって、分析は重要ではないのだ。

Weezer – Go Away

 

歴史の始まり:ブルー・アルバム

ウィーザーは1992年、ジャズ・ドラマーのフランクと母ビヴァリーのあいだに生まれたリヴァース・クオモパトリック・ウィルソン (ドラム) 、マット・シャープらと手を組んだことでロサンゼルスにて結成された。そこへのちに、スコット・シュライナー (ベース) やリズム・ギタリストのブライアン・ベルが加わったのである。

世界全体で1,700万枚以上にのぼるウィーザーのアルバム売り上げも、ほとんどはこれらのメンバーによる功績だ。リヴァースが喘息持ちだったことからウィーザー(喘息の際、気道の狭窄や炎症によって引き起こされる呼吸をするときに起こる甲高い口笛のような音のこと)と名乗るようになった彼らは、ザ・カーズのリック・オケイセックの見事なプロデュースの手腕にも助けられながら、”ブルー・アルバム”の通称で知られるデビュー作『Weezer』を制作。同作は彼らなりの風変わりなポップ・サウンドに仕上がった。

そして収録曲の「Undone – The Sweater Song」は、ゲフィン・レコードから1stシングルとしてリリースされるとすぐにヒットを記録。だが、オタクっぽい人物が主人公の「Buddy Holly」は、それ以上の人気曲になった。”oo-wee-oo”というフレーズも最高にキャッチーな同曲のコーラス・パートでは、曲名にもなっているバディ・ホリーとアメリカ人女優のメアリー・タイラー・ムーアの名前も登場するのだ。

Weezer – Buddy Holly (Official Music Video)

さらに、胸に迫るような内容の「Say It Ain’t So」も、その2曲同様に10代の若者たちの不安を歌った楽曲。これらの楽曲は、彼らの主たるリスナーである若年層からの共感を呼びながら、長年の音楽ファンを楽しませたのだ。

Weezer – Say It Ain't So (Official Video)

批評家の中には、ウィーザーがエモ・ムーヴメントを先取りしていたと後知恵で評価する者もいる。だがいずれにせよ、彼らがそうした領域に身を置いていたのは短いあいだだけだった。というのも、グループはよりワクワクするような楽曲をアリーナ級の会場で演奏しようと決意していたのだ。

1994年のデビュー・アルバムはその後の多くのアルバムの始まりになった作品であり、初心者にもお勧めのアルバムだ。チープ・トリックやラズベリーズを思わせる曲調や、パンク的な態度でメタルからの影響を取り込んだ演奏のおかげで、同作はいま聴いても新鮮に響くのである。

2004年にリリースされた同作のデラックス・エディションには、「Dusty Gems And Raw Nuggets」と題されたボーナス・ディスクも付属。そこにはレア音源や、”キッチン・テープ”と呼ばれるグループの初期のデモ、オケイセックを迎えての正式なレコーディングに先んじて録音された音源などが収められている。

 

後に評価された2nd

続く『Pinkerton』 (1996年) は、クオモがハーヴァード大学での課程を終えようとしていたころに作られたアルバムだ。デビュー作よりは幾分ダークで物悲しい作風になったが、とはいえ『Pinkerton』には壮大な楽曲も収められている。「The Good Life」、「El Scorcho」、性的な欲望を歌った「Pink Triangle」などが収録された同作は、グループのセルフ・プロデュースにより作られた。

諸々の状況から見えてくるのは、このアルバムの随所に「“蝶々夫人”のようなコンセプトのロック・オペラを作る」という当初の構想の影響が表れているということだ。実際、タイトルの”ピンカートン”とは、このプッチーニの傑作オペラの登場人物の名前である。

Weezer – The Good Life

あろうことかメンフィスのバンド、ビッグ・スターとビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンの作風を組み合わせたような同作は、リリース当時は過小評価されていた。だがその後発売されたデラックス・エディション (2010年) を聴けば、同作がクオモのキャリアを代表する傑作であることや、ライヴ・バンドとしての当時のウィーザーの魅力を痛感させられる。

彼らが会場を熱狂の渦に巻き込んだ1996年のレディング・フェスティヴァルの音源をぜひチェックしてみてほしい。

Pink Triangle (Live at Reading Festival / 1996)

 

“グリーン・アルバム”

そののち、短くない休止期間の中でさらに勉学にも励んだクオモは、やがて3作目のアルバムを制作するためメンバーたちを集めた。そしてこのアルバムにも、『Weezer』 (とはいえ誰もが”グリーン・アルバム”の通称で認識している) という紛らわしいタイトルがつけられた。

自然な流れを大切にしたいと考えるウィーザーの面々は、再びオケイセックと手を組んで原点に回帰。結果として同作は、「Hash Pipe」のようなハード・ロック調のトラックと、「Island In The Sun」 (この曲のグルーヴにはビーチ・ボーイズのような多幸感がある) をはじめとするポップ寄りのオルタナティヴ・ロック・ナンバーが混在するアルバムになった。

なおこのアルバムでは、レンタルズでの活動に専念するためグループを脱退したマット・シャープに代わり、新たなベーシストとしてマイキー・ウェルシュが加わっているが、彼の在籍期間も長くは続かなかった。

Weezer – Island In The Sun (Official Music Video)

 

大ヒットした『Make Believe』

続く『Maladroit』(2002年)も、前作の水準を維持した出来栄えの一作。このアルバムから正規ベーシストとしてスコット・シュライナーが加わったが、「Dope Nose」や見事なまでに被害妄想的な「Keep Fishin’」などの主要曲にメンバー交代の負の影響は感じ取れない。この『Maladroit』は短く愛らしい作品といえるかもしれないが、33分間に強烈なメロディーを詰め込んだ同作は、ポップの魔法と呼ぶに相応しいアルバムなのだ。

そして限定発売されたEP『The Lion And The Witch』の発表を挟んだあと、クオモ率いるグループはプロデューサーにリック・ルービンを迎えて『Make Believe』(2005年) を制作。社会問題に切り込んで物議を醸した「We Are All On Drugs」は、リヴァースが世間を騒がせることにまだ執念を燃やしていることを示す一曲になった。

Weezer – We Are All On Drugs

彼はメインストリームを手中に収めていたが、それでも”ウィーザーらしさ”を損なうようなことはしなかったのである。また、ロサンゼルス的な要素が詰まった「Beverly Hills」のビデオには雑誌プレイボーイの発刊者であるヒュー・ヘフナーがカメオ出演。しかし、そこにハリウッドの過剰なやり方をからかう意図はないように思える――あるいは、そういう意図だったのだろうか?

Weezer – Beverly Hills

 

レッド・アルバム

2008年、ウィーザーの面々は6作目のスタジオ・アルバムを制作し、それをまたも『Weezer』 (通称”レッド・アルバム”) と名付けた。リック・ルービンはジャックナイフ・リーとともにプロデューサーの席に残ったが、同作ではグループもそれに加わった。

このアルバムに収められた名曲「Heart Songs」は、クオモが自分にとってのヒーローたちに敬意を表したノスタルジックな一曲。その曲中には、ゴードン・ライトフット、キャット・スティーヴンス、ブルース・スプリングスティーン、デビー・ギブソン、ニルヴァーナらの名前が登場するのだ。

Heart Songs

また、所々に実験性が垣間見える同作は「Pork And Beans」、「Troublemaker」、そしてエアロスミスの影響を受けた「The Greatest Man That Ever Lived (Variations On A Shaker Hymn)」などのためだけでも一聴する価値のある作品だ。

特に後者では、再びニルヴァーナや、エルヴィス、グリーン・デイ、スリップノット、ジェフ・バックリーらにオマージュが捧げられている。そのほかにもパトカーのサイレンや、リヴァースの武器の一つであるファルセットのヴォーカルなどが盛り込まれた同曲は、なかなかの秀作といえる出来栄えだ。

The Greatest Man That Ever Lived – Weezer & Warren Miller

 

他ジャンルへの興味と傾倒

彼らのポップ・センスというフィルターを通してではあるが、やがてウィーザーはヒップホップへの関心を高めていった。その中で制作された『Raditude』(2009年) 、ぜひチェックすべき一作である。

シンセのノイズを多用し、リル・ウェイン、ケニー・G、ジョシュ・フリーズ、ニシャート・カーンらがゲスト参加した同作は、彼らのキャリアの中でもっとも型破りなアルバムといえるかもしれない。メタルを得意とするサウスギャング出身のブッチ・ウォーカーは作品の冒頭から冒険心を発揮し、プログラミングや処理が施されたキーボードへ傾倒した作風にはジャックナイフの影響が色濃い。

Love Is The Answer

アメリカのオルタナティヴ・チャートで首位に輝いた同作は、ウィーザー史上もっとも多くのコラボレーターを迎えた作品だ。だがその中でも、洗練されたポップ・サウンドの「 (If You’re Wondering If I Want You To) I Want You To」や、サイケデリックなリフが特徴の「I’m Your Daddy」には目を見張るものがある。

Weezer – (If You're Wondering If I Want You To) I Want You To (Official Music Video)

そんな『Raditude』のデラックス・エディションには、ボーナスとしてファンから高い人気を集める「Run Over By A Truck」や「The Prettiest Girl In The Whole Wide World」も収録。

またiTunes限定版には、収録曲のクラブ・ミックスのほか、クラッシュの名曲「Should I Stay Or Should I Go」を歯切れの良いサウンドでカヴァーしたライヴ・テイクも収められている。

Should I Stay or Should I Go? (Live)

 

『Everything Will Be Alright In The End』

ほとんどの人が普通だと考える基準にウィーザーが迎合しないことは、誰の目にも明らかだ。『Hurley』(2010年)や、幅広い時期の音源を集めた『Death To False Metal』(2010年)もその証左であるといえよう。

本題に戻ると、グループは『Everything Will Be Alright In The End』(2014年) で初期作品の”サウンドとエネルギー”を取り戻すべく、リック・オケイセックと三度手を組んだ。同作のハイライトには、アメリカ独立戦争を題材にした「The British Are Coming」や風変わりなサウンドの「Da Vinci」も挙げられよう。だが長年の熱心なファンは、彼らのデビュー作に入っていてもおかしくない仕上がりの「Cleopatra」に夢中になった。とにかく、このアルバムも必ずチェックすべき作品なのである。

Weezer – Cleopatra (Audio)

熱烈なクオモ支持者は、彼が自宅で録音した音源を集めた『Alone』シリーズの三部作や、『Not Alone: Rivers Cuomo & Friends Live at Fingerprints』(2009年) にも手を出したくなることだろう。中でも『Alone: The Home Recordings of Rivers Cuomo』は、グレッグ・アレクサンダー (ニュー・ラディカルズ) の「The World We Love So Much」のカヴァーや、実に感動的な「Wanda (You’re My Only Love) 」などを含む魅力的なアルバムである。

The World We Love So Much

 

移籍でも多作なグループ

その後バンドはクラッシュ・ミュージックに移籍(アトランティック配給)して、2年に1枚、または1年に2枚といったハイペースでアルバムをリリース。

2019年にリリースしたこれまた『Weezer』と名前が付いた通称“ティール・アルバム”では、80年代のポップ・バンドからメタル・バンドといった自身が影響を受けたアーティストの楽曲をカバーしてサプライズで配信リリースを行った。

コロナ禍となった2021年1月にはピアノやストリングスをフィーチャーした優しいサウンドの『OK Human』をリリースしたかと思えば、 同年5月にはハード・ロックやヘヴィ・メタルに影響を受けた楽曲を収録し、タイトルもある意味でそのままの『Van Weezer』を発売。2022年には『SZNZ』と題した四季をテーマにしたEPを1年に4枚もリリースしており、彼らの創造力は衰える様子は全くないようだ。

2024年に入ると、デビュー・アルバム『Weezer』の発売30周年を記念した北米ツアーを発表。このあライヴでは『Weezer』の完全再現を含めたセットを披露し、11月1日には、未発表36トラックが追加収録される『Weezer』の30周年記念盤も発売となる。

Weezer's The Voyage to the Blue Planet Tour with The Flaming Lips & Dinosaur Jr.

そんなウィーザーについて一つ確かなことがある――。私たちは、ウィーザーの”W”のハンド・サインを頭上に掲げたり、彼らの作品を聴いて長寿ドラマだった『ハッピーデイズ』やビーチ・ボーイズのことを思い出したり、高揚感溢れるニュー・メタルとポップの融合を楽しんだりするたび、アメリカの偉大なロック・バンドの存在を再認識させられるのである。そして、それこそがこの記事の出発点でもあるのだ。

Written By Max Bell / uDiscover Team



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