ザ・ヴァーヴをインディー・ロックの神へといざないだ『Urban Hymns』
皆が熱狂的に待ちわびていたオアシスの3枚目のアルバム『Be Here Now』が1997年8月にリリースされた時、このアルバムはすぐさまチャートのトップに駆け上がり、全英チャート史上最速で売れた。しかし、その祝福は短く、不思議と目立つことがなかった。なぜなら『Be Here Now』を全英トップ40の頂点から引きずり下ろしたのが、ザ・ヴァーヴの『Urban Hymns』であり、これこそブリットポップが下降し始めた当時、そのツァイトガイスト(その時代の精神)をわし掴みにしたからだ。
カリスマ性溢れるフロントマン、リチャード・アシュクロフトと早くから才能を見せたバンドのリード・ギタリスト、ニック・マッケイブを含むランカシャー出身の理想主義のカルテットは、1991年にヴァージン・レコードの傘下のハット・レコードと契約した瞬間から、このように大きなことを成し遂げてみせると約束していた。ジョン・レッキー(レディオヘッド、ザ・ストーン・ローゼズ)をプロデューサーに迎えたザ・ヴァーヴの1993年のデビュー作『A Storm In Heaven』はこの世のものとは思えない、サイケデリアの美しさがあり、期待感溢れる作品だった。高く評価された次作、1995年発売の『A Northern Soul』はメインストリームにより近く、結果的に全英TOP20入りを果たした。
ブリットポップに根付いた快楽主義とは対照的に、内省的な『A Northern Soul』はそれでもイギリスでトップ30ヒット2曲、「On Your Own」とストリングスのキスが散りばめられたバラード「History」を収録。両曲とも、いかにリチャード・アシュクロフトが偉大なソングライターへと急速に進化しているかを物語っていた。
『A Northern Soul』はゴールド・ディスクとなり、ザ・ヴァーヴはクロスオーヴァーの成功に向けて準備万端と思えたが、燃え尽きや疲労がたたり、バンドはよくあるロックン・ロールの症状に見舞われ、シングルの「History」がチャートを登り始める前に、リチャード・アシュクロフトはバンドを解散をした。しかしご存知の通り、この時の解散は一時的なものだった。数週間のうちに、ザ・ヴァーヴはニック・マッケイブを除いて復活し、新しいギタリスト兼キーボーディストとして、リチャード・アシュクロフトとベースのサイモン・ジョーンズにギターを教えた昔の学友、サイモン・トングを迎えた。
この時点ですでに、「Sonnet」と「The Drugs Don’t Work」など、感情的な新曲はある程度出来上がっていた。「The Drugs Don’t Work」はリチャード・アシュクロフトが1995年初期にサイモン・ジョーンズのボロボロな黒のアコースティック・ギターを借りて作ったものだった。ザ・ヴァーヴの初期の作品に多かった実験的なジャムではなく、これらの鮮やかで研ぎ澄まされた曲は『A Northern Soul』の悲しげなバラード「History」と「On Your Own」の論理的な延長であり、このあと『Urban Hymns』となる作品に懸命にとりくむザ・ヴァーヴが進む方向性を示唆していた。
「あの2曲(「Sonnet」と「The Drugs Don’t Work」)は、もっと決定的な作り方だった…シンガー・ソングライターのアプローチというか」とリチャード・アシュクロフトは今、振り返る。「俺自身はその時点でもっと簡潔なものを作りたかった。そうしたら新しいメロディーや素材が溢れ出たんだ」
『Urban Hymns』はゆっくりとまとまっていった。ザ・ヴァーヴはイングランド西部のバースにあるピーター・ガブリエルのリアル・ワールド・スタジオでデモを制作。次に『A Northern Soul』のプロデューサー、オーウェン・モリスと、そしてプロデューサーのユース(ザ・シャーラタンズ、クラウデッド・ハウス)とクリス・ポッターと共に、ロンドンのバーンズにある有名なオリンピック・スタジオでアルバムのレコーディングを開始した。リチャード・アシュクロフトが、ストリングスのアレンジをウィル・マローン(マッシヴ・アタック、デペッシュ・モード)に依頼し、彼のスコアが「The Drugs Don’t Work」や「Lucky Man」など、アルバムのキーとなる曲にさらなる深みを与えた。
長引いたレコーディング・セッションの中で、ザ・ヴァーヴは再びニック・マッケイブを迎え入れ、5人組となった。彼の武器となるギターの中には、コーラルのエレキ・シタールとリッケンバッカーの12弦があり、それらをスタジオに持ち込んだ。その即興性も大いに歓迎され、事前にサイモン・トングが丁寧に弾いたギターにさらに真似しようのない、魔法のようなサウンドをもたらした。「ニックがやったことは本当に丁重だった」とサイモン・ジョーンズは振り返る「すべてがうまく絡み合うようにした。すでにあるものに尾ひれをつけ、その結果、本当に美しい作品が生まれたんだ」。
さらに、リチャード・アシュクロフト曰く、ユースのプロダクション手法の“ゆるい規律”に後押しされ、オリンピック・スタジオでの綿密なセッションを誇らしげに成し遂げたバンドは、インパクトのある音楽を作り上げたと確信していた。
「スタジオの歴史も知っていたし、今では自分たちもその一部になれたんだ」と、過去にはザ・ローリング・ストーンズやジミ・ヘンドリックスもレコーディングしたオリンピック・スタジオについて、リチャード・アシュクロフトは語る。「時代を超えた継ぎ目にたどり着いたんだ。ウィルがスコアを書き下ろして、巻き戻しを押せばいつでもまた聴き返せるというのが何よりも幸せだった。銀行に何百万ポンドにも相当する音楽を抱えて入っていくみたいな気持ちだったよ」と話す。
バンドの自信は『Urban Hymns』のファースト・シングル、「Bitter Sweet Symphony」が1997年6月に2位に急浮上した時に立証された。ウィル・マローンのストリングスとアンドリュー・ルーグ・オールダムによるザ・ローリング・ストーンズの「The Last Time」のオーケストラの編曲の4小節のサンプリングを核に作られたこの曲自体の不朽性と、リチャード・アシュクロフトが忙しいロンドンの歩道を歩き、周りのことなど一切気にしない姿を映したMTVウケしそうなPVのおかげで、さらに人気を博した。
彼等の評価が確実に上昇している中で、ザ・ヴァーヴは初のイギリス・ツアーを1997年9月から2年間のスケジュールで発表した。アルバムの2枚目のシングルで、その輝かしいオーケストラが高まる「The Drugs Don’t Work」が初の全英チャート1位を獲得したのと同じ頃だった。『Urban Hymns』からの魅力的なシングル曲たちは、アルバムが発売になってからも称賛され続けたのも必然的だ。しかし、アルバムも見事なまでに、バンドの典型的なサイケデリックで一風変わった曲(「The Rolling People」、「Catching The Butterfly」別れの言葉となった「Come On」)と、広大で、実存に対する嘆きの曲の「Space And Time」や「Weeping Willow」、そしてエレガントな「Sonnet」などの満ち引きが絶妙だったのだ。1秒たりとも無駄が存在しなかった。
『Urban Hymns』で、ザ・ヴァーヴは最初から約束していた卓越したマスターピースを実現させた。批評家にも好評で(メロディー・メーカー誌は「他に類を見ない美しいアルバム」と称した)、ファンは満場一致で称賛し、『Urban Hymns』は『Be Here Now』から全英チャート1位の座を奪っただけでなく12週間トップを維持し、全米チャートでも12位に急上昇し、全世界で1,000万枚ものセールスを記録した。
さらには受賞も続いた。ザ・ヴァーヴは1998年のブリット・アワードで2つの賞を受賞し、ローリング・ストーン誌のカヴァーを飾り、「Bitter Sweet Symphony」はグラミー賞のベスト・ロック・ソングにもノミネートされた。しかし、最高の時でもバンドが生み出したマジックは不安定だった。1999年にザ・ヴァーヴは2度目の解散を迎え、9年後に復活し、その傑作に続いて2008年に『Forth』をリリースした。
1997年はオルタナティヴ・ロックにとっては記念すべき年で、レディオヘッドの『OK Computer』やスピリチャライズドの『Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space』など、その時代を定義づけるような作品がリリースされていた中で、ザ・ヴァーヴの『Urban Hymns』は90年代に置いて最も画期的なアルバムの1枚と言える。
「すごいことになるって100%自信があったよ」とドラマーのピーター・サリスべリーはこの強烈だった時期を振り返る。「『Urban Hymns』はバンドとしての立ち位置を完璧にミックスしたアルバムだった。最高潮だったんだ」。
不要ではあろうがこのアルバムがどれぐらい受け入れられていたのか、その証拠がある。このアルバムの新しい6枚組エディションにはバンドの伝説的な地元ウィガンのハイ・ホールで行われたライヴが収録されている。1998年5月24日、3万人以上ものファンの前で行われた圧倒的なこのパフォーマンスから、多くの人に知られていたことを再認識させられるのだ。『Urban Hymns』時代のザ・ヴァーヴは自然の法則だったのだということを。
Written by Tim Peacock
■リリース情報(日本盤)
ザ・ヴァーヴ『アーバン・ヒムス』20周年記念デラックス・エディション
発売日:9月1日
形態:2SHM-CD
価格:3,600円(税抜)、3888円(税込)
品番:UICY-15605/6
日本盤のみ:英文ライナー翻訳/歌詞対訳付/SHM-CD仕様
ディスク1はアルバムの最新リマスター音源を収録。
ディスク2には98年5月24日に彼らの地元であるマンチェスターはウィガンのハイ・ホールで行なわれたコンサートの模様を中心に、97年3月11日のワシントンDC、9:30クラブでの「ア・ニュー・ディケイド」と同年11月8日のマンチェスター・アカデミーにおける「スライド・アウェイ」を加えたすべて未発表となるライヴ音源をコンパイル。
ディスク1 – オリジナル・アルバム(リマスター)
1. ビター・スウィート・シンフォニー
2. ソネット
3. ザ・ローリング・ピープル
4. ドラッグス・ドント・ワーク
5. キャッチング・ザ・バタフライ
6. ネオン・ワイルダーネス
7. スペイス・アンド・タイム
8. ウィーピング・ウィロー
9. ラッキー・マン
10. ワン・デイ
11. ディス・タイム
12. ヴェルヴェット・モーニング
13. カム・オン
ディスク2 – ライヴ1997/98 (全曲未発表ライヴ)
1曲目~11曲目: ハイ・ホール・コンサート 1998年5月24日
1. ディス・イズ・ミュージック
2. スペース・アンド・タイム
3. キャッチング・ザ・バタフライ
4. ソネット
5. ザ・ローリング・ピープル
6. ウィーピング・ウィロー
7. ドラッグス・ドント・ワーク
8. ラッキー・マン
9. ライフズ・アン・オーシャン
10. ヴェルヴェット・モーニング
11. ビター・スウィート・シンフォニー
12. ア・ニュー・ディケイド(ワシントンDC 9:30クラブ)(1997年11月3日)
13. ヒストリー(ブリクストン・アカデミー)(1998年1月16日)
14. スライド・アウェイ(マンチェスター・アカデミー)(1997年8月11日)
■iTunes購入リンク
1CD
2CD
SUPER DELUXE(Audioのみ)
■輸入盤購入リンク(*商品詳細は以下)
・1CD
・2CD DELUXE
・5CD+DVD SUPER DELUXE BOX SET
・6LP
・Universal Music Store限定 – 12インチシングル
THE VERVE “URBAN HYMNS 20th ANNIVERSARY EDITONS”
1) 1CD – STANDARD CD REMASTERED ALBUM
1. Bitter Sweet Symphony
2. Sonnet
3. The Rolling People
4. The Drugs Don’t Work
5. Catching the Butterfly
6. Neon Wilderness
7. Space and Time
8. Weeping Willow
9. Lucky Man
10. One Day
11. This Time
12. Velvet Morning
13. Come On
2) 2CD DELUXE
*国内盤と同内容
3) 5CD+DVD SUPER DELUXE BOX SET
CD1 – Remastered album
1. Bitter Sweet Symphony
2. Sonnet
3. The Rolling People
4. The Drugs Don’t Work
5. Catching the Butterfly
6. Neon Wilderness
7. Space and Time
8. Weeping Willow
9. Lucky Man
10. One Day
11. This Time
12. Velvet Morning
13. Come On
CD2 – B-sides
1. Oh Lord I Guess I’ll Never Know
2. Country Song
3. Bitter Sweet Symphony (James Lavelle Remix)
4. So Sister
5. Echo Bass
6. Three Steps
7. The Drugs Don’t Work – original demo
8. The Crab
9. Stamped
10. Never Wanna See You Cry
11. (Bitter Sweet Symphony) MSG
12. The Longest Day
13. Lucky Man (Happiness More or Less)
CD3 – B-sides (cont.) + 2 session tracks issued in 2004*
1. Bitter Sweet Symphony (extended version)
2. This Could Be My Moment *
3. Monte Carlo*
・BBC Evening session 27/8/97 – PREVIOUSLY UNRELEASED
4. Life’s An Ocean
5. A Man Called Sun
6. The Drugs Don’t Work
7. On Your Own
8. So Sister
CD4 – Live at Haigh Hall 24/5/98 – PREVIOUSLY UNRELEASED
1. This Is Music
2. Space and Time
3. Catching the Butterfly
4. Sonnet
5. The Rolling People
6. Neon Wilderness
7. Weeping Willow
8. The Drugs Don’t Work
9. Lucky Man
10. Life’s an Ocean
11. Velvet Morning
12. Bitter Sweet Symphony
CD5 – PREVIOUSLY UNRELEASED
・Haigh Hall Encore:
1. One Day
2. History
3. Come On
・Further live material (Washington / Brixton / Manchester – 1997/8)
4. A New Decade – Washington DC 9.30 Club (3/11/97)
5. The Rolling People – Brixton Academy (16/1/98)
6. On Your Own – Brixton Academy (16/1/98)
7. History – Brixton Academy (16/1/98)
8. The Drugs Don’t Work – Washington DC 9.30 Club (3/11/97)
9. Slide Away – Manchester Academy (11/8/97)
10. A Man Called Sun – Washington DC 9.30 Club (3/11/97)
11. A Northern Soul – Washington DC 9.30 Club (3/11/97)
12. Space and Time – Brixton Academy (16/1/98)
13. This Is Music – Manchester Academy (11/8/97)
14. Weeping Willow – Washington DC 9.30 Club (3/11/97)
15. Stormy Clouds (and Reprise) – Manchester Academy (11/8/97) 7.24
DVD – The Video 1996-1998 –originally issued as HUTVID1
・Later with Jools Holland – 01/11/97 – PREVIOUSLY UNRELEASED
1. Lucky Man
2. Life’s An Ocean
3. The Drugs Don’t Work
4. Bitter Sweet Symphony
・Live at Haigh Hall – PREVIOUSLY UNRELEASED
1. This Is Music
2. Space and Time
3. Catching the Butterfly
4. Sonnet
5. The Rolling People
6. Neon Wilderness
7. Weeping Willow
8. The Drugs Don’t Work
9. Lucky Man
10. Life’s an Ocean
11. Velvet Morning
12. Bitter Sweet Symphony
13. One Day
14. History
15. Come On
・The promo videos:
Bitter Sweet Symphony
The Drugs Don’t Work
Lucky Man
Lucky Man (US version)
Sonnet
4) 6LP – VINYL BOX SET
LP1 – Remastered album
・Side 1
1. Bitter Sweet Symphony
2. Sonnet
3. The Rolling People
・Side 2
4. The Drugs Don’t Work
5. Catching the Butterfly
6. Neon Wilderness
・Side 3
7. Space and Time
8. Weeping Willow
9. Lucky Man
10. One Day
・Side 4
11. This Time
12. Velvet Morning
13. Come On
LP2 – B-sides, session tracks issued in 2004*
・Side 1
1. Lord I Guess I’ll Never Know
2. Country Song
3. Bitter Sweet Symphony (James Lavelle Remix)
4. So Sister
・Side 2
5. Echo Bass
6. Three Steps
7. The Crab
8. Stamped
・Side 3
9. The Drugs Don’t Work – original demo
10. Never Wanna See You Cry
11. (Bitter Sweet Symphony) MSG
12. The Longest Day
・Side 4
13. Lucky Man (Happiness More or Less)
14. Bitter Sweet Symphony (extended version)
15. This Could Be My Moment*
16. Monte Carlo*
LP3 – Live at Haigh Hall – PREVIOUSLY UNRELEASED
・Side 1
1. This Is Music
2. Space and Time
3. Catching the Butterfly
4. Sonnet
・Side 2
5. The Rolling People
6. Neon Wilderness
7. Weeping Willow
8. The Drugs Don’t Work
9. Lucky Man
・Side 3
10. Life’s an Ocean
11. Velvet Morning
12. Bitter Sweet Symphony
・Side 4
13. One Day
14. History
15. Come On
*Universal Music Store限定 – 12インチシングル
・Side-A
Bitter Sweet Symphony Alt. Version (limited promo-only in 1997)
・Side-B
The Drugs Don’t Work – Washington DC 9.30 Club (3/11/97) (unavailable elsewhere on vinyl)