来日&映画『ある少年の告白』公開直前記念:トロイ・シヴァン インタビュー
トロイ・シヴァンは1995年6月5日南アフリカ生まれ、オーストラリア育ちのシンガー・ソングライター。2016年にフジロックフェスティバルで初来日。2018年8月セカンド・アルバム『Bloom』リリースし全米アルバム・チャート4位。これまでの世界ストリーミング再生総数は40億回以上。世界各国の音楽/ファッション/カルチャー誌の表紙を飾り、米TIME誌が“2018年の完璧なポップ・スターだ”と評している。
2018年10月にはクイーンを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』公開記念として、「Somebody to Love」のカバーを公開。また、俳優としても知られ、2009年に公開された映画『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』では主人公の幼少期を演じ、2018年11月全米公開、日本では2019年4月19日に公開される映画『ある少年の告白』にも出演している。
2019年4月24日には、東京・豊洲PITにて一夜限りの来日公演も決定している彼の2018年6月18日に行った日本用のインタビューを掲載します。
―フジロックフェスティバル’16で初来日が実現してから、そろそろ2年が経ちます。あのあと東京に数日滞在したそうですね。日本について何か特に印象に残っていることはありますか?
あの時は完全に東京に圧倒されて、すっかり惚れ込んでしまったのを覚えている。東京に限らず、日本全てに言えることだけどね。何年も前から日本に行ってみたいと思っていたけど、実際行ってみたら期待を遥かに超える場所だったし、クレイジーな体験だった。本当に楽しかったよ!
―さて、3年ぶりの新作『Bloom』がいよいよ完成しましたが、少し時間がかかりましたね。
うん。前作を発表後、かなり長い間ツアーをしたからね。そしてツアーが終わってから3カ月くらい休暇をとったんだ。でも3カ月が経つ頃には、スタジオに戻りたくてウズウズしていたよ。なにしろこの間に曲のアイデアがものすごくたくさん貯まっていたし、僕自身も、自分の人生において、曲作りのインスピレーションとなる体験を数えきれないほど重ねてきた。そんなわけで、色々新しいことを試す準備がすっかり整っていて、本当に興奮していたんだ。
―着手するにあたってどんなことを考えていたんですか?
まずサウンド面で、色々頭の中を巡っているアイデアがあったかな。たくさん掘り下げてみたいことがあった。一方の歌詞については、なんというか、とにかく自分の中からとめどなく流れ出てきたんだ。ほんと、スタジオに戻るのがうれしくて、みるみるうちに曲が勝手に生まれた気がする。この上なく楽な作業だったよ。
―あなたが言うサウンドというのは、すでに聴かせて頂いた曲から判断するに、よりアップビートでダンサブルなサウンドということですか?
間違いなくそうだね。とにかく全般的に、喜びに溢れたサウンド、と言えるのかな。実際には、ダンスには適さないサウンドの曲もあるし、アップビートな曲ばかりだとも限らないんだけど、全編に共通するのは、ファースト・アルバム『Blue Neighbourhood』に比べると圧倒的に軽くなったと思うんだ。
―そういうサウンドを構築するにあたって、誰か参考にしたアーティスト、よく聴いていたアーティストはいますか?
うん。と言っても、僕が聴いていたものはすごく幅広いけどね。例えばスカイ・フェレイラにカーリー・レイ・ジェプセン、それからディス・モータル・コイルやケイト・ブッシュ……。ほんと、かなりバラバラだ。でもこういったアーティストたちそれぞれに、大きな刺激を与えてくれる要素を見出して、自分なりの解釈を加えて取り入れてみようと思ったのさ。
―なんだか女性ばかりですね!
ちょっと待って……間違いなく男性アーティストも含まれていたんだけど。と言うか、男性もいないとおかしいよね(笑)。あ、フィル・コリンズの影響も受けているよ。
―アーティストとして置かれている状況も、デビューした時とは随分違いますよね。世界的なブレイクを果たした今、このアルバムが大きな注目を浴びて、大勢の人の耳に届くだろうという意識は、曲作りをするにあたって何らかの影響をあなたに与えましたか?
いいや、そうでもないね。というのも僕は最初からこのアルバムを、何よりもまず、自分自身のために作りたかった。前作の時より優れた曲が書けるに違いないという自信があったから、本当に興奮していたんだよ。とにかく、自分のベストを尽くすことしか考えていなかったな。
―冒頭を飾るのは、タイトル通り17歳の頃を振り返っている曲「Seventeen」です。アルバムとしては専ら現在のあなたを描いているのに、こうして最初に過去に目を向けているのはなぜなんでしょう?
この曲を書いて冒頭に配置することは、僕にとってすごく大切なことだったんだ。なぜって17歳の頃というのは、そもそも僕が成長する上で重要な時期だったし、のちの人生に多大な影響を及ぼした気がするんだよね。だからこそ1曲目にした。ある意味、まずは昔を回想して、過去を一旦封印するような感じなのかな。そしてそれを踏まえて、そのあとに続く曲の数々で、今この瞬間の自分に目を向けているんだ。
―前作から今作に至る時期、つまり10代の終わりから20代初めは、人間が最も大きく変わる時期ですよね。そういう時期の体験を消化する上で、ソングライティングは役立ちましたか?
それは間違いないね。ほら、僕はソング・ライティングを、色んな悩みや葛藤と向き合って消化するためのメカニズムとして、常に活用しているんだよ。だから日々体験するあらゆることについて、いつも曲を綴っている。それがごく些細な出来事であろうと、重大な出来事であろうと関係なく。ほんと、何もかも曲にしているんだよ。
―コラボレーターの名前をチェックしてみると、アレックス・ホープを筆頭に、EPの時から組んでいる人たちが多く含まれていますよね。気心知れた人たちと一緒に成長したいというような狙いもあったんでしょうか?
確かにその通りだよ。音楽作りの環境として、自分がリラックスしている時のほうがいい仕事ができるように感じるしね。そういう意味で、これらのソング・ライター/プロデューサーたちとは親友と呼べる間柄にあるし、彼らと共作すると、より優れた曲が誕生する。そんなわけで、以前から知っている仲間を再び呼び集めて、新しいことを試してみようと思ったのさ。ここ数年間にそれぞれの身に起きたことや、今の自分を取り巻く状況を、みんなで話し合いながら曲を作ろうじゃないかとね。
―ならば曲作りのプロセスそのものも、そうやってお喋りして、人生体験を共有する作業がベースになっているんですね。
そうだね。
―一番最近公開された曲は、アリアナ・グランデをフィーチャーした「Dance to This (feat. Ariana Grande)」です。これはどんな経緯で生まれたんですか?
当初はデュエットにするとか、特に何も考えずに作った曲なんだ。その後しばらく放ってあって、なんとなくこの曲からは女性の歌声が聞こえてくるような気がずっとしていた。でもそれがアリアナの声だと悟るまでに、少し時間を要したんだよね。で、悟った瞬間に彼女に連絡をとって、共演が実現したのさ。
―あなたはこの曲の告知をする際に、アリアナを“僕のポップ・クイーン”と呼んでいましたが、アーティストとしての彼女をどんな風に見ていますか?
まずはとにかく、あの声がアリアナを抜きんでた存在にしていると思う。本当に信じられないくらい素晴らしい声の持ち主だよ。それに加えて、素晴らしいセンスの持ち主でもある。だから彼女が作る音楽を僕は愛しているし、人と接する時にも、彼女はすごくリアルで、裏表がない。まさにリアルで誠実でクールな人だからこそ、多くの人に愛されているんじゃないかな。アリアナのことが嫌いな人って、僕は会ったことがないよ(笑)。
―女性シンガーと言えば、2018年5月にテイラー・スウィフトのコンサートにも飛び入りしました。彼女は以前からあなたを応援してくれていますが、あなたにとってどんな存在なんですか?
僕にとってテイラーはどんな存在なのかと考えてみた時、彼女は、自分の活動をあらゆる面で自らコントロールしているように感じられて、そこに一番インスパイアされるんだ。本当にクールだと思う。自分で曲を書いて、ちゃんと自分のヴィジョンがあって、常に変化して、成長し続けているよね。そういう意味で、間違いなくお手本として尊敬しているよ。
―アルバムの話に戻りますが、『Bloom』というアルバム・タイトルに込めた意味は? 同名の曲が先に生まれたんでしょうか?
実は“bloom”という言葉を先に思いついたんだよ。かなり長い間、心に留めてあって、当初はアルバム・タイトルにしようと考えていたわけじゃないんだけど、とにかく言葉としてすごく気に入っていた。それにこの言葉は、人生において僕が今立っている場所をうまく総括しているように感じた。今の僕が日々体験していることを表すのに、ぴったりの言葉だったんだよね。そこから始まって、最終的には「Bloom」というタイトルの曲も生まれるに至ったのさ。
―実際、その「Bloom」や「My My My!」を聴くと、まさに花咲いている感じが窺えますが、ほかの曲も含めて、主なテーマを教えて下さい。
このアルバムで扱っている題材は主に、成長することであり、成長して愛を知ること。それがメイン・テーマなんだと思う。早い話が“ラヴ”だね。そしてその延長上で、成長して人間としての自分を確立することや、自分自身に自信を持つことについて歌っていて、ひとりの青年としてこの世界に自分の居場所を見つけ出そうとしている僕の姿を、描いているのさ。
―自信と言えば、「Bloom」のミュージック・ビデオでは自分のセクシュアリティを存分に見せつけているわけですけど、ああいう挑戦的な表現は、自分に自信が持てるようになった今だからこそ作れたんでしょうか?
ああ、それは間違いないね。というか、ここに至るまでの道のりは、決して楽なものではなかったんだ。今みたいな自信が身に付くまで、途方もない努力を必要とした。でも、自信を持って行動できた時には、毎回すごくハッピーになれるんだよね。この自信を維持するにも努力が必要だし、いつも気を抜かずに、意図的に自分にハードルを課さなくちゃいけない。全力を尽くすことが要求されるシチュエイションを、自ら進んで作り出すように意識しているんだよ。
―性的マイノリティのアーティストとして、このミュージック・ビデオ然りで、自分を率直に表現するあなたにインスパイアされ、救われている若者たちが世界のどこかにいることを、やっぱり常に意識しているんですよね?
うん。真剣な話、僕は毎日のように色んな人と出会う。辛い時期に僕の音楽を聴いて切り抜けたと言ってくれる人だったり、自分の人生体験を分かち合ってくれて、僕をインスパイアしてくれる人だったり……。そういう人と接することで、僕は本当に興奮させられるし、もっと努力をし続けなければと駆り立てられる。そして、自分がやっていることは間違っていないと教えてくれるんだよ。だから、うん、間違いなく心のどこかに引っかかっていて、常に意識しているよ。
―その一方で、そういうあなたの姿に困惑し、抵抗を感じている人もいるんでしょうね。
うん! 絶対にいるはずだよ(笑)。
―アルバム・ジャケットも美しいですね。こういうシンプルなポートレイトを選んで、しかも背中を向けたのはなぜなんでしょう?(注:日本盤CDは正面を向いている写真)
う~ん、まず僕はなんというか……ジャケットでは自分の顔をはっきり見せない傾向があるんだよね。それはなぜかというと、音楽作品に自分の顔を貼りつけることに、ちょっと違和感を覚えるんだ。なんだか、音楽と顔写真は100%関連性があるとは限らないような気がして(笑)。だから今回も引き続き、そういう要素をなんらかの形で取り入れたかったというのがひとつある。と同時に、これまでよりもう少し自分をさらけ出したいとも思った。なぜって、このアルバムの内容を正確に反映したジャケットにしたかったんだよ。何しろこれは極めてパーソナルなアルバムで、僕という人間がここには深く刻まれている。だから、例えば15年後にこのアルバムを振り返って聴き直した時に、今の僕がどういう時期にあったのか、どういう心境にあったのか、鮮明に思い出せたらなと願っているんだ。そして同時に、このジャケットを見た時に「うん、あの頃の僕はまさにこういう顔をしていた」と確認できたらうれしい。
―撮影したのはエディ・スリマンです。彼とは以前から知り合いだったんですか?
2年くらい前から友達なんだよ。まだサンローランのデザイナーだった頃に、彼に頼まれてショウでモデルを務めたことが一度あって、それがきっかけだった。その後2回くらい撮影してもらったこともある。で、今回のジャケットに関しては、非常に古典的な肖像写真を想定していたんだ。さっきも言ったように、今この瞬間の僕を正確に、ありのままにとらえた写真をね。それを実現してくれる人は、エディしかいないと思った。とにかく彼は最高なんだよ。だから、エディに撮影してもらえて本当にうれしかった。
―究極的に、このアルバムを聴き手にどう受け止めて欲しいですか?
僕自身が掲げていた主なゴールは、正直な作品作ることだった。正直な曲を書けば、それを聴いた人たちが、僕が描いている状況を自分の体験や自分の人生に重ねて、感情移入できるはず。だから、みんなにこのアルバムを聴きながら踊って欲しいし、このアルバムを聴きながら恋に落ちてくれたらと願っているよ! このアルバムを通して、みんなの色んな人生体験にサウンドトラックを提供できたらうれしいな。うん! それが僕のゴールだよ。
―思えば少年時代の体験を描いた前作のデビュー・アルバム『Blue Neighbourhood』は、故郷パースを舞台にしたアルバムでしたよね。
そうだね。
―そういう意味で、『Bloom』はアメリカで暮らすようになってからの体験を描いた、LAのアルバムと呼べるのでしょうか?(*トロイは南アフリカ生まれ、オーストラリア育ち)
そうだね、そんな風に呼んで構わないのかもしれない。確かにこのアルバムは、主にLAでの僕の生活に根差していて、LAで体験した恋愛関係、友人関係、自分が巻き込まれた様々な環境を描いている。そして……この街で僕が見つけた大きな喜びを伝えているんだ。もちろんホームシックを患うこともあるよ。普段の生活でもそうだし、それは、アルバムにも反映されている。でも究極的には、今のLAでの生活に関するアルバムだね。
―あなたの場合、あまりオーストラリア人ぽくない印象も与えると思うんですが、自分ではそんなことはないんですか?
うん、僕はすごくオーストラリアンな人間だと思っているよ。あそこが僕の故郷で、あそこで育って、今も家族が暮らしているしね。最近はあまり頻繁に帰ることができなくなってしまったけど、心の底から愛しているし、日々恋しくてしかたないんだ。
―以前、オーストラリアのパースに帰ればいつでも昔の自分の戻れて、地に足を着けていられると語っていたことがあります。あまり帰れないという今は、どう公私のバランスをとっているんですか?
普段の生活では、今もいたってノーマルな人間なんだ。毎日電話で両親と話しているし、週末にパースの幼馴染みが遊びに来るし、相変わらず故郷との結び付きは強い。だから人間としてすごく大切な部分では、僕はたいして変わっていないんだ。そして、今後もそこは変えたくないね。
―音楽性にもオーストラリアンな部分があると思いますか?
どうかな。僕が思うに、オーストラリアの音楽には特定のサウンドがあるわけじゃない。あまりにも広範囲に広がっていて、多様な影響を受けているからなのかもしれない。でも、すごくインスパイアされるよ。
―サウンドというより感覚的なものなのかもしれないですね。
うん。まあ、僕の意見は偏っていると思うけど、オーストラリアの音楽を貫く共通項は、往々にしてそれがグッドだってことだよ!(笑)
―そういえば今年(2018年)は久しぶりに、11月に公開予定の映画『ある少年の告白』でスクリーンにも復帰しますね。今後また役者業にも力を入れるんですか?(日本公開は2019年4月)
そのつもりだよ。『ある少年の告白』の撮影を自分が楽しめるかどうか、ちょっと様子を見てみようと思ったんだ。そうしたらもう本当に楽しくて、だったらまた積極的に役者業に取り組もうじゃないかという気持ちになれたんだよね。
―今回はゲイ男性の役ですが、今エンタメ界には、LGBTQのキャラクターはLGBTQの俳優が演じるべきか否かという議論がありますよね。あなたはどう感じていますか?
どうなんだろうね。この世界には、本当に大勢の才能豊かなLGBTQの役者がいて、みんな必ずしも活躍の機会を豊富に与えられているわけではないよね。本来はもっと活動の場があるべきなのに。だから、例えばゲイのキャラクターを演じる役者を探していて、それを演じるに相応しいゲイの役者がいるのだとしたら、そういう人を積極的に探し出す努力がなされてもいいんじゃないかと、僕は思っているよ。
―ちなみにこれは、『Bloom』に因んだ質問ですが、あなたが好きなお花は?
それはいい質問だ! う~ん……僕が大好きなのは、ほら、キャベツみたいな花があるよね?(注:葉牡丹のことだと思われる) 名前が分からないんだけど、あれがすごく好きなんだ(笑)。あと、少し薄い色合いの、褪せたようなピーチ・カラーの薔薇が大好きだよ。
―最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
とにかく、応援してくれてありがとう。また日本に行くのが待ち切れない。日本に行くことを本当に長い間夢見ていたしね。みんなに近いうちに会えることを楽しみにしているよ。
Interviewed & Written by 新谷洋子
トロイ・シヴァン来日公演(Sold Out)
2019年4月24日(水)豊洲Pit
企画・制作・招聘: Live Nation Japan
詳細はこちら