最終シーズンのサントラが配信開始。『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』作曲家インタビュー
ディズニープラスで配信中の『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』最終章となるシーズン3のオリジナル・サウンドトラックがリリースされたことを記念して、『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』、『スター・ウォーズ 反乱者たち』、『スター・ウォーズ:テイルズ・オブ・ジェダイ』、『スター・ウォーズ:アソーカ』の音楽を担当してきたケヴィン・カイナーと、娘で共同作曲者のディーナ・カイナーに独占インタビューを行いました。
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― まず、日本とのつながりについてお話しいただけますか?
ケヴィン:1980年頃、指揮者としてアジア・ツアーに参加した際に訪れたのが最初です。新宿の街やクラブを訪れて、カルチャーショックを受けました。世界の広さを感じた一方、世界は一つなのだなと実感しました。
また、私の子供たちは日本のアニメの大ファンなんです。家では、『もののけ姫』の音楽がいつも流れていました。私たちの音楽にも、日本文化の影響が表れていると思います。
― どのようにして『スター・ウォーズ』の音楽を制作されるのですか?
ケヴィン:私が、『スター・ウォーズ』作品の中で最初に作った曲の一つが『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』のアソーカのテーマでした。この曲は、ジョージ・ルーカスとデイブ・フィローニのもとで作ったのですが、その情景は今でもはっきりと覚えています。この曲は、尺八で演奏することをイメージして作曲したんです。
旋律はすぐに浮かびました。自分でも、どうやって生み出したのかわからない、魔法のような、見えないけれど感じられるものとでも言うのでしょうか。あの頃は、ジョン・ウィリアムズのスタイルを尊重しながら、同時に物まねにならないように、新しいスタイルを築くために尽力していました。
今では、もう18年も『スター・ウォーズ』の音楽を作っていますから、体の一部になりましたし、音楽も進化してきたように思います。一方で、ジョンは『スター・ウォーズ』の音楽を生み出したマスターですから、今も常に尊敬し続ける存在です。
ディーナ:ケヴィンが『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』でアソーカのテーマを短時間で作り上げたのとは対照的に、『スター・ウォーズ:アソーカ』の音楽制作には時間がかかりました。
もともとは、エピソードごとに異なるエンド・クレジット曲を作る予定だったのですが、試行錯誤の結果、それらをまとめて、アソーカというキャラクターの過去を反映しながらも、彼女の今を総合的に表せるような共通の楽曲を作ることになりました。
また、『スター・ウォーズ:アソーカ』では、「Teaching You How to Lead」という曲でも尺八の響きが使われています。
―『スター・ウォーズ』の音楽は、長期間にわたる壮大なサーガを描いていることもあり、キャラクターの成長に合わせて音楽も進化させる必要があるのですね。
ケヴィン:『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』では、少女オメガが成長していくにつれ、彼女のテーマ曲の響きも変化していきます。
前シーズンの最後には大切な仲間が亡くなりましたし、シーズン3でも様々な出来事が起こります。私たちは、制作チームが紡いだ物語や映像に合わせて音楽を作っていくのですが、物語の進展と共に、曲調がダークで複雑になっていく様を感じていただけると思います。
― 最新作『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』シーズン3の音楽制作はどのようなものでしたか?
ディーナ:これまでで最も難しい作業の一つでした。『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』ファイナル・シーズンの時とも似ているのですが、親しんだキャラクターたちと別れを告げるのは、私たちにとっても辛いことでした。
特に、私たち自身、オメガには深く感情移入していました。思いが強いだけに、終幕に向けて、何度も書き直した楽曲もありました。時間はかかりましたが、とても幸せで誇らしいプロセスでした。
ケヴィン:視聴者の皆さまにとっても、今までとは全く異なる経験になると思います。音楽も、ユニークでヒプノティックなものになったと思っています。オメガや仲間たちと別れを告げるのは寂しいことですが、成長したオメガとそれを反映した音楽を、新鮮な気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。
― 最近では、家族3人で協働しながらの作曲作業ですね。
ディーナ:作曲家の父を持った私たちは、幼い頃から父の仕事を身近に見てきました。その後、私はバークリー音楽大学に入り、映画音楽を専攻することにしました。
でも、1学期が終わって、夏休みに実家に戻り、父の仕事を改めて見てみると、「私にはとてもできない」と思ったんです。怖くなったんですね(笑)。そこで、専攻を作曲に変え、歌詞を書くこと、歌うこと、そして、様々な楽器について学びました。
そんな中、ある日、父が短いフレーズを作ってみて欲しいというので作ってみたんです。最初は、兄のショーンと一緒にピアノの前で。そして、少しずつ一緒に曲を作るようになっていきました。
協力しながら一緒に作る人がいるというのは、音楽をより良いものにする上で、とても素晴らしいことです。『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』でも、一人ひとりが分担して曲を作るわけですが、曲ができると二人に相談をするんです。お互いのスタジオを行き来して、ここはこうしてみようかとか、ここは私が演奏してみようかといったやりとりをします。キャラクターの内面や未来に基づき、もう少し変えてみようなどと話し合うのです。
― 先ほど、尺八のお話がでましたが、今もワールド・ミュージックを取り入れているのですか?
ケヴィン:『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』を作り始めた頃、ジョージ・ルーカスから、「すべての惑星には独自の民族と文化が存在する。それを表すために、世界の様々な楽器を使用してほしい」という話がありました。世界の音楽を拝借するのではなく、行ったことのない星のユニークさを表すために、エキゾチックなドラムの響きを用いたり、ブルガリアの女性コーラスに参加してもらったりすることもありました。最初の3シーズンでは、特にワールド・ミュージックを積極的に取り入れていましたね。
― 日本の音楽の影響もありましたか?
ケヴィン:私自身、久石譲さんの音楽が大好きでよく聴きますし、ジョージ・ルーカスやデイブ・フィローニは黒沢映画の大ファンですから、黒沢映画の音楽も沢山聴いてきました。
もちろん、『スター・ウォーズ』の音楽といえば、ジョン・ウィリアムズの音楽が一番のベースですが、侍が大好きなジョージ・ルーカスが作り上げた世界観ですから、音楽の面でも日本文化の影響は大きいと思います。
ディーナ:中でも、宮崎駿監督と久石譲さんがスタジオジブリの映画とその音楽を通して描いた「人間」と「自然」とのつながりは、私たちに大きなインスピレーションを与えてくれるものでした。『スター・ウォーズ:テイルズ・オブ・ジェダイ』のサウンドトラックにある「Birth of Ahsoka」や森のシーンの音楽からは、その影響を感じ取っていただけるかもしれません。
― ケヴィンさんは、もともとガレージバンドのギタリストでした。それゆえ、ロックとクラシックが融合したようなユニークな音楽が生まれるのでしょうか?
ケヴィン:私は、12歳の頃にバンドを初めて、高校生の頃は、ナイトクラブでバンド演奏をしていました。ロックが大好きで、レッド・ツェッペリン、イエス、ブラック・サバス、イーグルスなどの曲を聴いては、カバーしていました。
編曲の仕事をするようになると、ビッグバンドの音楽にも親しみましたね。そして、70年代の終わり頃、まだ20代でしたが、ジョン・ウィリアムズの音楽に出会ったんです。『スター・ウォーズ』や『スーパーマン』の音楽には大きな衝撃を受けました。ジョンの音楽は、どれもが名曲で、私にとっては音楽の父といっても過言ではないほどです。そこから、ジョンの音楽について勉強し始めました。また、ジョンの音楽のルーツにも関心をもち、クラシックについても学ぶようになったんです。
今では、息子のショーンと娘のディーナと共に音楽を作っていますが、3人異なる音楽的基礎がありますし、異なるアプローチがあるんです。それが私たちの強みだと思っています。私は、ジミー・ペイジのギターをチェロで表現するようなアプローチ。ディーナは、また別の種類のバイブスをオーケストラにもたらしてくれます。
『スター・ウォーズ』作品を観て下さる皆さまが楽しんでいただけるように、私たちにしかできない音楽を目指し続けられたらと思っています。
― 『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』や『スター・ウォーズ 反乱者たち』等、もともとは別の物語が、今、大きなサーガを形作りつつあります。中でも、音楽がそのつなぎ役になっていますね。
ディーナ:そうですね。その際、登場当初は幼かったキャラクターも成長していきますから、そのテーマ曲も、成長に合わせて進化させていく必要があります。
例えば、『スター・ウォーズ:アソーカ』では、『スター・ウォーズ 反乱者たち』から長い歳月がたった世界が描かれます。何年も前に生まれたテーマ曲に、キャラクターたちの成長や人生を重ねて、音楽的にどう表現するのか。キャラクターたちの経験、生き方に鑑みて、キャラクターたちが「今、何を感じているのか」を重視して、音を作っていきます。
ケヴィン:その上では、デイブ・フィローニの助言も有用です。キャラクターや楽曲と共に、私たち制作者も成長していく必要があるんですよね。その場面においてそのテーマ曲がその形で登場するのが適切なのかどうかといった話し合いをすることもあります。まさに、コラボレーションの強みだと思いますね。
― そして、それが世代を超えて世界中の視聴者に届き、音楽の力で勇気や感動を届けているのですね。
ケヴィン:このような仕事に携わることができて光栄です。30年近く前、映画館でジョン・ウィリアムズの音楽に触れ、人生が変わる経験をしました。今、自分たちの音楽が人々にインスピレーションを与えることができているとすれば、本当に光栄なことだと思います。信じられないほどです。
今では、私の子供たち、ショーンやディーナも制作に参加してくれ、その影響にも感謝しています。今では、二人が作ったテーマ曲も多くなり、物語において重要な役割を担っています。
ジョン・ウィリアムズは映画界において最高の作曲家ですから、彼の代わりなどありえませんが、これからも3人で一生懸命力を合わせて、音楽を生み出していけたらと思っています。
― 『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』のサウンドトラックをきっかけに、これまでの作品を振り返ろうというファンも多いと思います。
ケヴィン:まずは、『スター・ウォーズ』のマスターであるジョン・ウィリアムズのエピソード1から9までの音楽に触れていただきたいですね。そして、『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』のオリジナル・サウンドトラックの音楽も是非聴いていただきたいですし、ファイナル・シーズンの音楽も新たな方向性を試みたものですので、楽しんでいただけると思います。そして、過去から最新の音楽まで、是非、時系列で聴いてみていただきたいですね。全部聴いていただこうとすると1年くらいはかかるかもしれませんが(笑)。
敢えて私のお気に入りをリストするとすれば、『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』の「Meet Ahsoka」や「General Loathsom / Ahsoka」では、アソーカの様々なテーマ曲を聴いていただけますし、シーズン5の「Ahsoka Leaves」もお勧めです。『スター・ウォーズ 反乱者たち』のエズラのテーマ、『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』からは「Bad Batch Theme」、『スター・ウォーズ:テイルズ・オブ・ジェダイ』からは「Birth of Ahsoka」、『スター・ウォーズ:アソーカ』からは「Ahsoka – End Credits」なども聴いていただけたら。
是非、ご自身のお好きな楽曲を集めて、オリジナルのプレイリストも作っていただきたいですね。
ディーナ:ジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』の音楽を聴くと、物語や場面がありありと浮かんでくると思います。私たちも同じようできたらと願いながら楽曲を制作してきました。是非、音楽を通して、物語やキャラクターを感じていただきたいです。
私のお気に入りとして、『スター・ウォーズ:アソーカ』の「It Worked, Didn’t it?」は、過去の作品との結びつきも大切にしつつ、新しさを追求した作品で、大好きです。そして、『スター・ウォーズ:テイルズ・オブ・ジェダイ』の「Sanctity of Life」。自然とのつながりを意識して、オーガニックで実験的な音楽を目指しました。
また、『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』ファイナル・シーズンの「Buring the Dead」や『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』シーズン2の「The Sacrifice」は、痛みに溢れた楽曲ですが、3人で力を合わせて作曲した印象深い曲です。
― 現在進行中のプロジェクトについてお聞かせいただけますか?
ケヴィン:言えるのは、ルーカスフィルムと一緒に作業を続けているということです。それ以上はまだ言えません(笑)。
ディーナ:私にとって、今まででもっともお気に入りの音楽を作りましたので、是非楽しみにしていただきたいです。
― 最後に、日本のファンの皆さまに一言お願いします。
ケヴィン:日本の皆さまに音楽を聴いていただけることをとても光栄に思います。距離は遠く、言葉も異なりますが、音楽や物語、そして、何より『スター・ウォーズ』を通して、とても近くに感じています。ご期待に応えられるように、これからも楽しみながら制作を続けていきたいと思います。
ディーナ:是非、日本の皆さまにも、お一人おひとりの物語を紡いでいっていただきたいですし、ご自身の音楽を奏で続けていただきたいです。皆さんは特別な存在で、世界中に影響を与えてこられたからです。これからも素晴らしい芸術を作り続けていただきたいと思います。
Written By 井筒 節
ケヴィン・カイナー
『スター・ウォーズ:バッド・バッチ – シーズン3: Vol. 1 (エピソード 1-8) (オリジナル・サウンドトラック)』
2024年3月29日配信
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スター・ウォーズ公式プレイリスト
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