ザ・フー『Who’s Next』解説:ビートルズの『White Album』と比較されるバンド唯一の全英1位作品
ザ・フー(The Who)がデビュー以来、全英チャートの1位の座に着いた期間は何週間あったと思われるだろうか? その答えは驚くなかれ、わずかに1週間である。その1週間とは、1971年9月18日、ピート、ロジャー、ジョン、そしてキースの4名の傑作アルバム『Who’s Next(フーズ・ネクスト)』によって1位を飾った時だ。
長らく1位の座を独占していたサイモン&ガーファンクルの『Bridge Over Troubled Water(明日に架ける橋)』のすぐ下にチャート・インした『Who’s Next』は、2週目に入って彼らに取って代わり、その1週間後にディープ・パープルの『Fireball』にその座を明け渡したのだった。
彼らにとってイギリスでトップ10入りしたのはこのアルバムで5枚目となり、その後は2006年の『Endless Wire』を含めて合計10回を記録している。2015年7月、ザ・フーの50周年ツアーの最中にリリースされたベスト盤『The Who Hits 50』が11位にランクイン、2019年に発売された13年ぶりのアルバム『WHO』は3位を記録しているが、いずれにせよ1位を獲得するには至っていない。
グリン・ジョンズとバンドとの共同プロデュースによる『Who’s Next』は、アメリカでも彼らにとって最も成功を収めたアルバムになった。全米チャートにランキングされていた41週間の中で、前作の『Tommy』と同じく最高4位を記録し、トリプル・プラチナム(300万枚)を獲得している。ちなみに、1973年リリースの『Quadrophenia(四重人格)』は、最高2位にまで上昇したもののシングル・プラチナム認定(100万枚)しか獲得していない。
「Baba O’Riley」で始まり、ザ・フー不朽のクラシックと呼べる「Bargain」や「Behind Blue Eyes」、そして威厳に満ちたスケール感のある「The Song Is Over」などを挟み「Won’t Get Fooled Again(邦題:無法の世界)」で幕を下ろすこの『Who’s Next』を、ザ・フー史上最高の時間だと言う者は多い。
1971年8月14日にリリースされた『Who’s Next』に対し、ロック・ライターのデイヴ・マーシュはクリーム誌にて「このアルバムはザ・フーにとって、ザ・ビートルズの『White Album』にあたる作品だ」と評した。これはつまり、ザ・ビートルズは『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』があり、ザ・フーは『Tommy』という、両バンドとも素晴らしいコンセプト・アルバムがあり、今作はその次作にあたるスタジオ作品であるということであった。
デイヴ・マーシュは、「ザ・フーはザ・ビートルズと等しく成功した」とレヴューを締めくくった。彼は『Who’s Next』について「ダンスをすることも、考えて聴き込むことも出来るとても素晴らしい作品であり、この作品でザ・フーは歴史に名を残した。『White Album』がとてつもないアルバムだった様に、これはとてつもないことだ」とも書いている。
『Who’s Next』の共同プロデュサーを担当したグリン・ジョンズは、1969年に『Abbey Road』のエンジニアを務めたこともあり、このふたつの英国音楽界の大物バンドを繋ぎ合わせる役割となった。グリン・ジョンズは後に、このザ・フーのアルバムが当初思っていたよりもどうやって重要な作品になったのかを語っている。
「カッティングの作業をしている時、自分がとても興奮していることに気がつきました。ただこれ程までに重要な作品になるとは想像もしなかった。なぜなら、作っている最中は少し不安でもあり、人々がどう受け入れるかわからないものでしたから」
ザ・フーの研究家として知られるクリス・チャールズワース氏はアルバム収録曲の「Baba O’Riley」についてこう説明する。
「ピートはシンセサイザーが不思議な水の中にいる様な音が出ることを理由に使いませんでした。代わりに、彼は繰り返すループ音を作った。それはメロディを支えつつリズム・トラックを引き立てる効果を生み出したのです」
ピート・タウンゼントは後に自身の自叙伝『ピート・タウンゼンド自伝 フー・アイ・アム』(河出書房新社刊)で、「Baba O’Riley」について「ゆっくりではあったが、徐々に浸透し認知された」としつつ「酷いタイトルがつけられたけどね」と書いている。
とはいえ彼はプロデュサーのグリン・ジョンズに対し「初めてまともにレコーディングされたザ・フー作品」ができた賛辞を述べた。そして2007年、歴史的ベスト・アルバム・リストに他の多くの作品と共にランクインしたこともあり、『Who’s Next』はグラミーの殿堂入りを果たした。
1971年12月のBeat Instrumental誌上でのスティーヴ・ターナーとのインタビューで、ピートは次のように語っている。
「ロックには3分15秒以上の何かができるはずだっていう思いがいつもあったんです。とは言っても、じゃあ尺が伸びたところで具体的に何ができるかとなるとそれが疑問なんだけどね。アルバムにしてもライヴにしてもそうだけど、流れが読めてしまうのが今のザ・フーの悩みどころです。ロックの定番化した形式とは違う、新しい切り口を見つけたいという思いがある。しかもロックの根源にあるシンプルさというのは失くさずに。自分の今の原動力になっているのは、そういう自分達の足枷からグループをどう自由にできるかという点なんです」
Written by Paul Sexton
ザ・フー『Who’s Next』
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