ザ・フーと再始動後の全米成功を支えた『CSI:科学捜査班』の関係 by 長谷川町蔵

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2006年のアルバム『Endless Wire』以来となる新作を現在レコーディング中のザ・フー。本国ではザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズと並んで三大バンドと称される彼らの魅力と、アメリカでのザ・フーと再評価のきっかけとなった大ヒットドラマシリーズ『CSI』について、映画や音楽関連だけではなく、今年3月には2作目となる小説『インナー・シティ・ブルース』も発売されるなど幅広く活躍されている長谷川町蔵さんに寄稿いただきました。


本国イギリスではビートルズローリング・ストーンズと並ぶ3大ロックバンドと呼ばれるザ・フー。でも日本では前二者と比べて語られることが少ない気がする。彼らの背景にあるユース・カルチャー、モッズがイギリス特有のムーヴメントだったため、遠い存在に思われているのかもしれない。

しかし3大ロックバンドの中でリスナーに最も寄り添ってきた存在は間違いなくザ・フーだ。若者を賛美した「My Generation」、マスターベーションについて歌った当時としては画期的な「Pictures of Lily (リリーのおもかげ)」、そして『Tommy (ロック・オペラ “トミー” )』や『Quadrophenia (四重人格)』といった思春期のエモさをアートに昇華したコンセプト・アルバムの数々。

ライブ・パフォーマンスも凄まじい。今年の夏、ようやくブルーレイ化された『ザ・ローリング・ストーンズ ロックンロール・サーカス』を観て欲しい。ストーンズの主催で1968年に撮影を行いながらお蔵入りしていたこのテレビショーには、ストーンズ、ビールズのジョン・レノンのソロ・プロジェクト、ザ・ダーティ・マック(リードギターはエリック・クラプトン)、そしてザ・フーと実質的に3大バンドが揃い踏みしているのだが、ザ・フーのパフォーマンスが突出して素晴らしいのだ。(*『ロックンロール・サーカス』詳細および購入はこちら)

ピート・タウンゼントのギターが鋭いリズムを刻む一方で、ベースのジョン・エントウィッスルがメロディを弾き、キース・ムーンがタムを叩きまくる、通常のロックバンドとは異次元の演奏が展開される中、ロジャー・ダルトリーが圧倒的な声量で歌い上げる姿には吹っ飛ばされること間違いなしだ。

 

こうしたパフォーマンスを、2004年にようやく初来日するまで体験できなかった日本に対し、ツアーを精力的に行なっていたアメリカにおけるザ・フーの人気は一貫して高かった。1983年の一時解散後も、映画監督キャメロン・クロウが自作にザ・フーのナンバーを使ったこともあって、新たなファンを獲得し続けたのである。

そして1996年に本格再始動してから四年後の2000年、アメリカでザ・フーの再評価を決定づける出来事が起きた。それが、CBSで放映開始された『CSI:科学捜査班』(主演:ウィリアム・ピーターセン。のちにローレンス・フィッシュバーン、テッド・ダンソンと交代していく)である。

ハリウッドの大物プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマー(『パイレーツ・オブ・カリビアン』など)が製作総指揮を手掛けた同作は、カジノの街ラスベガスを舞台に、科学捜査班(CSI = Crime Scene Investigation = 犯罪現場捜査、日本では鑑識班)の活躍を描いた警察ドラマだった。このドラマのテーマ曲に、1978年のアルバム『Who Are You』の表題曲(全英18位、全米14位)が使用されたのだ。

ソーホーの玄関口で目が覚めたんだ / 警官が俺の名を知っていた / 奴は言う
今夜は家で寝ろよ、もしお前が起き上がって歩いていけるんならって / 一体お前は誰なんだ?

歌詞を見ても分かる通り、もともとこの曲は、警官が曲の語り手の個人情報を掴んでいる状況の不安を歌ったものだった。だが『CSI:科学捜査班』で使われたことによって、あたかも事件現場に残された僅かな証拠から犯人を突き止めるCSIのクルーたちについて歌った曲であるかのように響いたのだ。

最高のテーマソングを得た『CSI:科学捜査班』は大ヒット、2015年まで続くロングラン作品となった。ちなみにアメリカの警察には番組開始当時、CSIという名前の部署は実在しなかったそうだが、就職希望者が殺到したことで実際にCSIが設立される現象を巻き起こしたらしい。現実はアートを模倣するのだ。

2002年には海上捜査や移民問題といった中南米への玄関であるマイアミという都市の風土を反映した『CSI:マイアミ』(主演:デヴィッド・カルーソ)、2004年には主人公が妻をアメリカ同時多発テロ事件で失っている設定のシリアスな『CSI:ニューヨーク』(主演:ゲイリー・シニーズ)という二つのスピンオフ作がスタートした。

この二作でぞれぞれテーマ曲として採用されたのが、ザ・フーが1971年にリリースしたアルバム『Who’s Next』収録曲「Won’t Get Fooled Again (無法の世界)」(全英9位、全米15位)と「Baba O’Riley」だった。

いずれも当時はポップ・ミュージックで用いられることが殆ど無かったシンセサイザーをハードロックに導入した、デジロックの先駆けとなるようなナンバーで、緻密な科学捜査と派手な銃撃戦(本家『CSI』と異なり、ふたつの番組は銃撃戦が多めだった)がミックスされた番組の内容にぴったりだった。

『CSI:科学捜査班』に続き、『マイアミ』、『ニューヨーク』のいずれも高視聴率を記録し、アメリカの視聴者は週3ペースで科学捜査班の活躍を楽しむようになった。たまに行われる番組またぎのクロスオーバー・エピソード(複数の捜査班が協力してひとつの事件を追う)はアメリカのテレビ界にとって一大イベントとなった。この三作は同一世界の物語という設定だったのだ。ザ・フーは三作を結びつける役割も果たしていたというわけだ。

2012年に『マイアミ』、2013年に『ニューヨーク』が完結すると、入れ替わるように2015年にスタートしたのが『CSI:サイバー』(主演:パトリシア・アークエット)だった。タイトル通り、インターネット上の犯罪を追うFBIチームの活躍を描いたドラマである。

この『サイバー』でテーマ曲として起用されたのが1967年のアルバム『The Who Sell Out』収録曲「I Can See for Miles」(全英10位、全米9位)だった。

僕は君の手のうちを知っている / だって僕の目には魔法が掛かっているから
僕はどこまでも見ることができるんだ / どこまでも、どこまでも遠くまで

もともと熱烈なラブソングとして書かれたはずなのに、まるで科学捜査班が自分たちの能力を誇示しているように聞こえるのが面白い。

この『サイバー』が2016年に放映終了して以来、『CSI』の新作は製作されていない。しかしいまだに熱狂的なファンを抱えるこのシリーズのことだ。いつ復活してもおかしくない。そのときは2019年のうちにリリースされるという噂のザ・フーのニューアルバムから是非テーマ曲をピックアップしてほしいものだ。

Written By 長谷川町蔵



名盤『Tommy』をフルオーケストラで再現!
ロジャー・ダルトリー『The Who’s Tommy Orchestral』
2019年6月14日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify



『CSI』シリーズ放送情報
2019年7月1日から、AXNに全CSI : シリーズが集合!
現在放送中の「CSI : 科学捜査班」に加えて、
「CSI : マイアミ」「CSI : NY」、さらには「CSI : サイバー」が第1話から放送スタート!
AXN公式サイト

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