ザ・ルーツ『Things Fall Apart』解説:1999年に発売された革新的なヒット・アルバム
90年代の大部分の間、ザ・ルーツは知る人ぞ知るヒップホップ・グループだった。彼らは既にステージ上で腕を磨き、最高のライヴ・パフォーマンスを披露するグループとして、カルト的な支持を集めていた。しかし『Organix』『Do You Want More?!!!??!』『Illadelph Halflife』と3枚のアルバムをリリースしたあとも、メインストリームでの成功は得られずにいた。
しかし、続く4枚目のアルバムでタイトルはチヌア・アチュベの同名の小説から取られている『Things Fall Apart』で彼らは自らのアーティスティックな信念を曲げることなく、ついに商業的な成功を手にすることになった。
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「ザ・ルーツが本当の意味で頭角を現したアルバム」
このアルバムでザ・ルーツが使った録音場所は、有名なエレクトリック・レディ・スタジオだった。エレクトリック・レディはネオ・ソウル・ムーヴメントやソウルクエリアンズの火付け役となっていたスタジオで、ディアンジェロの『Voodoo』(2000年) 、エリカ・バドゥの『Mama’s Gun』(2000年) 、コモンの『Like Water for Chocolate』(2000年) といった画期的なアルバムを生み出していた場所だ。
『Things Fall Apart』を1999年2月23日にリリースする前、ザ・ルーツは転換期にあり、彼らの次のプロジェクトに対する期待は高まっていた。2014年に『Complex』のインタビューで、ブラック・ソートは当時自分たちの使命をどのように評価し直していたのかをこう振り返っている。
「あれは俺たちのキャリアの中でも比較的初期の段階でした……。『Do You Want More?!!!??!』が俺たちの最初のメジャーなリリースだったと考えている人もいるけれど、俺の考えでは、ザ・ルーツが本当の意味で頭角を現したのは『Things Fall Apart』でのことだった」
このアルバムには、クエストラブ、キャメル・クレイ、ジェイムズ・ポイザー、ジェイ・ディー、スコット・ストーチによる見事なプロデュース作品が並んでおり、彼ら全員が、ザ・ルーツの以前のアルバムとはまったく違う傑作に大きく貢献している。
グループの比類のない演奏に加え、過去の名曲からのサンプリング (たとえばジェームス・ブラウンの「Funky Drummer」) も駆使した『Things Fall Apart』は、ヒップホップの画期的な名盤となった。ただし、このアルバムは音作りだけが見事だったわけではない。この作品をきっかけに、ブラック・ソートはヒップホップのエリートMCの仲間入りを果たしている。
熱烈かつすばらしい歌詞
ブラック・ソートが単なるMCとは違う存在であることを示し始めたのは、『Things Fall Apart』でのことだった。彼が「Double Trouble」でモス・デフと繰り広げたインタープレイは、歴史に残る名パフォーマンスのひとつであり、このアルバムに収められたもうひとつの名曲「Act Too (The Love Of My Life) 」では、ソートとコモンがヒップホップに対する愛着を熱烈に表現している。
このアルバムからの最初のシングル「Adrenaline!」では、もともとは偉大なる故ビッグ・パンが参加する予定だった (ソートは、パンのデビュー・アルバムで「Super Lyrical」にゲスト参加していた) 。しかしパンが逮捕され、ザ・ルーツもアルバム制作の締め切りが迫っていたため、結局はロッカフェラ・レーベルと契約する前のビーニー・シーゲルがこの曲でゲストを務めることになった。ここで初めてレコーディングに参加したシーゲルは一躍注目を集め、フィラデルフィアから生まれた新世代のスターとして名乗りをあげた。
『Things Fall Apart』には伝説的な曲がたくさん詰まっているが、その中でも特に光り輝いているのが「You Got Me」である。スコット・ストーチがプロデュースしたこの曲は、ツアーと恋愛の両立に苦しんだソートの実体験が元になっている。サビには当時は無名の詩人/歌手だったジル・スコットが参加。またヴァースに参加したヴォーカリストは「イヴ・オブ・ディストラクション」とクレジットされているが、その正体はのちにラフ・ライダーズで活躍するイヴだった。
この曲のフックではジルが歌っていたが、ザ・ルーツのレーベル側はもっと有名な歌手を起用することにこだわった。そうして選ばれたのがエリカ・バドゥだった。彼女のヴォーカルが加わり、さらにクエストラヴの印象的なドラムソロが入った「You Got Me」は傑作となった。この曲はザ・ルーツにとって初めてチャートのトップ40に入るヒットとなり、最高39位を記録。グラミー賞では最優秀ラップ・パフォーマンス (デュオまたはグループ) 部門も受賞している。
メインストリームでの成功
ヒップホップの世界で最も勤勉なグループとして10年近く奮闘したあと、ザ・ルーツは『Things Fall Apart』でその努力にふさわしい商業的な成功を手にした。このアルバムは彼らにとって最初のゴールド・ディスクとなり、やがて売り上げは100万枚を超えることになった。
ザ・ルーツはこのあとさらにスタジオアルバムを何枚かリリースし、テレビ番組『Late Night With Jimmy Fallon』のハウス・バンドを引き継ぐことになる。それらのアルバムもすばらしい内容だったが、このグループの最高傑作といえばやはり『Things Fall Apart』になる。これは、ザ・ルーツがただのジャズ色の強いヒップホップ・グループではなく、一般大衆にもアピールするような革新的でオルタナティブなヒップホップを作れる有能なグループであることを示していた。
Written By Rashad Grove
ザ・ルーツ『Things Fall Apart』
1999年2月23日発売
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