ザ・ローリング・ストーンズの名曲「Tumbling Dice / ダイスをころがせ」に隠された物語

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Photo: Estate Of Keith Morris/Redferns

南フランスにあるのどかなリゾート地、コート・ダジュール。この隠れた名所であり、絵のように美しい海辺の町ヴィルフランシュ=シュル=メールに、地中海の波打ち際を見下ろす19世紀の大邸宅ネルコートがある。1971年夏の5ヶ月間、この静寂の楽園は、ザ・ローリング・ストーンズがニューアルバム『Exile on Main St.(メイン・ストリートのならず者)』をこの歴史的な大邸宅の塀の中で必死に、そして雑に録音しようとしたため、混乱に包まれた。

バンドは、母国UKによる多額の税金から逃れるためにフランスのリビエラに逃避し、ややこしい財務状況を切り離そうとしていた。バンドは、キース・リチャーズの新居を仮設スタジオにし、外にはバンドの移動式レコーディング・ユニットを置いて、フランスにて作業を続ける決意を固めた。

このスタジオでのセッションは、その場にいるミュージシャンとともにレコーディングを行うという不規則なものだった。外はどんよりとした天気、室内は我慢の限界、そしてヘロインが蔓延しており、怪しげな客に機材が盗まれることもあった。そして、地元警察の息もかかっていた。そんな状況であったので新しい曲は当然ながらうまく進化せず、彼らは古い未完成のアイデアが創作活動を軌道に乗せるための良い賭けだと考えた。

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レコーディングの様子

そんな未完成の楽曲「Good Time Women」は、幸運な火花が再び散った1曲だった。その1年前、ストーンズはミック・ジャガーの英国にあるスターグローブスのスタジオで録音した『Sticky Fingers』のセッションで、このエレクトリック・ブルース・ナンバーを録音していた。ミック・ジャガーのヴォーカルは「一晩中パーティーをする」のが好きな「赤い光の女たち」という、まるで最終稿を待っている歌詞の実験場のような表現で、その未熟さを物語っている。まだ仕上がるには時間が必要だった。

フランスでのレコーディングでは、「Good Time Women」が修正のためにピックアップされ、ストーンズはその進展に悩んだ。エンジニアのアンディ・ジョンズはこう回想する。

「少なくとも2週間は、ただベーシック・トラックのためだけの作業だった。ベーシック・トラックを作るためだけに、100リールもテープを使ったんだよ」

ジャムを繰り返し、時間の許す限り曲に磨きをかけるというこの作業方法は、キースによって推進されたものだ。「曲を遠くまで追いかければ、ネズミのように追い詰めることになるんだ」と、後に彼は語っている。やがて「Good Time Women」は別のものに変化し始めた。

 

キースの試行錯誤とビルの不在

オリジナルの威勢のいいリズムと楽器を受け継ぎながらも、そこにクリエイターを満足させる魔法が必要だった。そこでキースは、何度も試行錯誤を繰り返した末に、この曲の救いの手を見いだした。

「2階のとてもエレガントな部屋でリフを書いて、同じ日の夜にそれを1階に持って行ってカットしたんだ」

その鳴り響き、下降するリックは、この曲のイントロ、コーラスのフック、そして決定的な特徴になった。キースはオープンGチューニングを採用し、5本の弦と4フレットのカポだけで演奏することで、このギターの刺激的なサウンドを実現している。このスタイルについて、彼はこう語っている。

「自分のトレードマークを確立し始めたところだったんだ。マイナーコードやサスペンデッドコードの作り方など、他のすべての動きを見つけ始めていた。そうしてカポをつけると5弦がとても面白くなることを発見したんだ。そうすると、操作の幅がぐっと広がるんだよ」

マスターテイクは、8月3日、ベーシストのビル・ワイマンがその日の仕事を終えた後に録音された。ギタリストのミック・テイラーがこう話す。

「ビルは初期のリハーサルに参加していたが、どういうわけか、最終テイクを録る時にビルがいなかったので、僕が参加したんだ。つい最近、彼に再会して、そのことを気にしたかと聞いたら、彼は完全に満足していると言っていたよ」

 

楽曲の歌詞とチャーリーのドラム

フランスでのセッションが終わると、アルバム・テープはロサンゼルスのサンセット・サウンズスタジオに運ばれ、1971年の冬から翌年にかけて、バンドは不均一なベーシック・トラックに手を加えて装飾を施した。ミック・ジャガーはここでようやくリード・ヴォーカルをとり、その歌詞は、フランス滞在からインスピレーションを得たものであった。ミック・ジャガーはこう明かしている。

「“Tumbling Dice”は、ネルコートがカードゲームやルーレットといったギャンブル場と化していたことと関係があるのかもしれない。モンテカルロはその角にあったんだ。(ストーンズのサックス・プレイヤー)ボビー・キーズとキャッツはそこに一度か二度行ったよ」

「サイコロ遊びのことは何も知らなかったが、サイコロ遊びの人たちが使う専門用語はたくさん知っていた。カジノでギャンブラーたちが大声で叫んでいるのを聞いたことがあるんだ。家政婦にサイコロをやるかどうか聞いてみた。すると、家政婦がサイコロをやっていて、その専門用語を教えてくれたんだ。それがきっかけだよ」

こうして「Tumbling Dice」は、ミック・ジャガーがプレイボーイ・ギャンブラーとして、自分を消耗させる浮気な女性たちから離れ、「毎晩現場で遊ぶ、孤独なクソシューター」として打って出たのだ。

この曲はL.A.で、ゴスペル・ソウルのタッチを加えるバック・ヴォーカリストのヴェネッタ・フィールドとクライディー・キングを加え、さらに増強された。また、ビートを強化するために、チャーリー・ワッツのドラムのダブル・トラッキングも行われた。チャーリーはこの曲のエンディングのグルーヴを掴むのに苦労しており、エンジニアのアンディ・ジョンは「チャーリーは時々、特にミックやキースが簡単なことにすごく難癖をつけると、精神的に参ってしまっていたよ」と明かしている。そのため、プロデューサーのジミー・ミラーが代理として、よりスイングした最後の小節を打ち込むことになった。エンジニアのアンディ・ジョンズは「スタイルの違いを聴くことができるよ」と述べている。

その後、過酷なミキシング作業が続いた。ジョンは、ミック・ジャガーが改善を求める中、2ヵ月間汗を流した。ミックは最終的に出来上がったものに不満だったようだが(「あれは間違ったミックスだったと思う」と彼は言っていた)、「Tumbling Dice」の強さはそのまとまりやすさにあることは否定できない。ローリング・ストーンズが最も力を発揮するのは、常に不屈の闘志を燃やすときであり、「Tumbling Dice」の音の対称性は、彼らの統一戦線としての力を示す典型的な例となった。

 

ミックとキースによる正反対の曲への評価

「Tumbling Dice」は1972年4月にシングルとしてリリースされた。アメリカとカナダでは7位、UKでは5位を記録し、『Exile On Main Street』のシングルとしては唯一トップ20入りを果たした。

ファンの間で根強い人気を誇る「Tumbling Dice」は、ストーンズがステージ演奏したきて楽曲の中で4番目に演奏された曲であり、50年間一貫してステージで演奏され続けている。しかも、この曲はバンドだけではなく、ストーンズのファンや同業者にも不滅の人気を誇っている(リンダ・ロンシュタット、ブラック・クロウズ、キッド・ロック、ボン・ジョヴィ、キース・アーバンらがカヴァー)。そういった事実にもかかわらず、ミックは「Tumbling Dice」をまだ手放しで大好きだとは言えないようだ。

「この曲のどこが好きなのか、俺にはよくわからない。俺らのベストだとは思わない。歌詞もいいとは思わない。でも、みんな本当に好きみたいだから、それは良かったよ」

幸いなことに、キースが「Tumbling Dice」を愛しているおかげで、ストーンズが転がり続ける限り、「Tumbling Dice」も転がり続ける。キースはこの曲についてこう熱く語っている。

「ずっと好きな曲なんだ。一晩中演奏してもいいくらいだよ」

Written By Simon Harper



ザ・ローリング・ストーンズ『Exile On Main St.』

1972年5月12日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / SpotifyAmazon Music


ザ・ローリング・ストーンズ『Live at the El Mocambo』
2022年5月13日発売
CD / 限定LP / iTunes Store / Apple Music / Amazon Music


ザ・ローリング・ストーンズ『LICKED LIVE IN NYC』
2022年6月10日発売
①DVD+2CD / ②SDブルーレイ+2CD / ③2CD



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