ザ・ローリング・ストーンズ『Out Of Our Heads』:バンド初の全米1位を獲得した作品
アルバム『Out Of Our Heads』にて、ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)は個性と威勢の良い曲作りを見い出し、史上屈指のバンドになるきっかけのひとつを作った。
アメリカでは、ロンドン・レコードが1965年7月30日に『Out Of Our Heads』をリリースし、同アルバムは全米チャートでバンド初の1位に輝いた。デッカ・レコードからリリースされたUKヴァージョンは、その2か月後となる9月24日に発表され、大きく異なるトラックリストがフィーチャーされた。
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その背景
ザ・ローリング・ストーンズは1962年にブルース・バンドとしてスタートし、当初はロンドンのジ・アーリング・クラブ等のこぢんまりした会場でプレイしていたが、1965年の夏には、UKで最も有名なバンドのひとつになっていた。
同年7月29日、ストーンズは新たなレコード契約を結ぶ為、ロンドンのデッカ・オフィスを訪れた。彼等は同レーベルとそれまで2年間タッグを組み、既にA&Rマンのディック・ロウから信頼を得ていた。当日デッカの役員室には、さまざまな幹部と共に、グループのことをまるで理解していなかった、当時65歳の会長サー・エドワード・ルイス氏も同席していた。
バンドの各メンバーは初年度の報酬の保証として、2,500ポンドの小切手を受け取り、更にデッカ・レコードは彼等に、10年間毎年7,000ドル支払うという契約を交わした。バンドがレーベルとミーティングを行なった翌日、ザ・ローリング・ストーンズのアメリカ4枚目のアルバムがリリースされた。
『Out Of Our Heads』のレコーディングは1964年11月から1965年5月の間に、シカゴのチェス・スタジオ、ロンドンのリージェント・サウンド・スタジオ、ハリウッドのRCAスタジオのセッション中に行なわれた。
『Out Of Our Heads』のUSヴァージョン
アルバムのUSヴァージョンのオープニングを飾るのは、UK盤にも登場する6曲中の1曲であるドン・コヴェイの「Mercy Mercy」のロウなテイク。その他のクロスオーバー・ソング4曲は、ソウル・シンガーのヒット曲のカヴァーで、マーヴィン・ゲイの「Hitch Hike」、ソロモン・バークの「That’s How Strong My Love Is」、そしてサム・クックの「Good Times」及び「Cry To Me」だ。
それに加え、メンバーの共作「The Under Assistant West Coast Promotion Man」も収録された。この曲のクレジット名“ナンカー・フェルジ”は、バンドがグループで曲を共作した時に使用していたペンネーム。
同アルバムでベースをプレイし、バッキング・ヴォーカルを歌ったビル・ワイマンは、自身の著書『Rolling With The Stones』の中で、このペンネームはギタリストのブライアン・ジョーンズが時々見せる変な表情にバンドが付けた名“ナンカー”と、元アパート同居人のジミー・フェルジの姓を合わせたものだと述べている。
フィル・スペクターがプレイするダウン・チューニングしたエレキギターと、ジャック・ニッチェのハープシコードがフィーチャーされた曲「Play With Fire」もまた、このペンネームでクレジットされた。
3曲のオリジナル・ソング
しかし『Out Of Our Heads』が成功した要因は、ストーンズ自身が書き、 “Jagger; Richard”という誤った文字が刻まれた3曲「The Last Time」「The Spider And The Fly」、そして「(I Can’t Get No) Satisfaction」だった。
アメリカで2曲目のトップ10ヒットとなった「The Last Time」は、喜びに満ち溢れ、「The Spider And The Fly」は官能的な作品。しかしストーンズにとって真のターニングポイントとなったのは「Satisfaction」だった。
「Satisfaction」では、ジャガーが自分の中で大きくなっていたペルソナにぴったりくるテーマ(我慢できない不満)を見い出し、リチャーズはこの曲を皮切りに数多くのギターラインを作り出し、ほどなくして“ザ・ヒューマン・リフ”として支持されるようになった。
UKの週刊音楽雑誌“Melody Maker”によると、ミック・ジャガーは当時、こうと述べていたと伝えた。
「“Satisfaction”をロサンゼルスでレコーディングしたんだ。気に入ってはいたが、シングルには考えていなかった。そういう風には捉えていなかったんで、シングルとしてはあまり満足していなかったんだ。しかし今では、言うまでもなく、俺達は満足している」
この曲は時代の精神を捉えているように思われた。アメリカでシングル・リリースされた後、フォー・トップスの「I Can’t Help Myself (Sugar Pie Honey Bunch)」をトップの座から追い出し、1カ月に渡りナンバー1に輝き続けたのだ。
『Out Of Our Heads』のアメリカ・ヴァージョンには、EP『Got LIVE If You Want It!』にフィーチャーされた、ボ・ディドリーの「I’m Alright」のライヴ・ヴァージョンと共に、チャーリー・ワッツがダイナミックなドラミングを披露した、ミックとキースによる2分間のブルージーなポップ・ソング「One More Try」が収録された。
アルバム全体が、楽しみながらやっているバンドのサウンドに溢れ、それは一流英国人フォトグラファーのデイヴィッド・ベイリーが撮った、アルバム・カヴァーのムーディーなモノクロ写真とは対照的だった。
『Out Of Our Heads』のUKヴァージョン
同年9月、デッカがUKで『Out Of Our Heads』をリリースした時、ザ・ローリング・ストーンズは世界中でセンセーションになっていた。その月の初めに、ダブリンのアデルフィ・シアターで開催されたコンサートは、熱狂的な若いファン達がステージに一斉に押し寄せた為、スタート12分後に中止された。『Out Of Our Heads』が既にアメリカで発売されていた中、待望のアルバムのUK盤は、一気に全英チャートで2位まで駆け上がった。
デッカはUKヴァージョンに、USエディション収録曲6曲(「Mercy, Mercy」「Hitch Hike」「That’s How Strong My Love Is」「Good Times」「Cry To Me」「The Under Assistant West Coast Promotion Man」)を残しながら、その後のアルバムでアメリカでも発表される、ザ・ローリング・ストーンズの新曲を6曲収録した。
『Out Of Our Heads 』でフィーチャーされたUK限定ナンバーのひとつ、「She Said Yeah」は元々、ラリー・ウィリアムズが50年代末にリリースしたもの。イギリスのバンドが60年代にこぞってカヴァーした曲として知られ、ジ・アニマルズがレコーディングしたヴァージョン等があり、ザ・ビートルズもまたこの曲の大ファンだった。
「Talkin’ About You」はチェス・レコードからリリースされた、チャック・ベリーのヒット作のカヴァー。一方、「Oh Baby (We Got A Good Thing Going)」は、アメリカ人ブルース・ミュージシャンのバーバラ・リンが手掛け、グループが米国で発表した3枚目のアルバム『The Rolling Stones, Now!』で、アメリカ国内では既に披露されていた。
UK盤『Out Of Our Heads』でフィーチャーされたその他の新曲3曲(「Gotta Get Away」「Heart Of Stone」「I’m Free」)は、全てミックとキースによるオリジナル曲だった。
UK盤アルバム・ジャケット
UK盤のアルバム・ジャケットには、イギリスの撮影日程の都合がつかなかったデイヴィッド・ベイリーの代わりに、ストーンズのプロデューサー/マネージャーのアンドリュー・ルーグ・オールダムが選んだ19歳のジェラルド・マンコビッツが撮った写真が起用された。マンコビッツが手掛けたストーンズのクローズアップ写真は、60年代半ばにバンドのイメージを固める役割を果たした。マンコビッツは2015年にこう語っている。
「ストーンズとの仕事の基本は誠実さ、つまりストーンズの個性を、最新技術や大げさな装飾の類いで隠そうとするのではなく、彼等の人となりを伝えようとする強い思いに基づいて行われました。アンドリュー・ルーグ・オールダムが写真を気に入り、バンドがこれだけ長い間俺の仕事に満足していたのは、そうしたことが理由なんじゃないかな。私はありのままの彼等を撮っていたからね」
『Out Of Our Heads』は大西洋の両側で見事大成功を収め、当時ソングライターとしての地位を確実なものにしていたミックとキースのオリジナル曲に溢れ、1966年のアルバム『Aftermath』へ続く道を切り開いた。
Written By Richard Havers
ザ・ローリング・ストーンズ『Out Of Our Heads』(US Version)
1965年7月30日発売
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