『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』サントラ解説:ハロウィンを世界に広めた映画と音楽の魅力
映画監督/脚本家のティム・バートンは、作曲家ダニー・エルフマンの80年代ニュー・ウェイヴ・バンド、オインゴ・ボインゴについて、「いつもハロウィン色の濃いショウをやっていた」とよくジョークを飛ばていた。そんな経緯から、この2人がタッグを組み、世に大きな影響をもたらしたポップ・アートの傑作映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を創作し、以降その季節絡みの映画(ハロウィンであろうとクリスマスであろうと季節は問わず)の物差しとなるサウンドトラックが誕生したのはごく当然の流れだった。
ティム・バートンとダニー・エルフマンは、共にコスチュームに身を包むこの祭りが大好きで、ティム・バートンが90年代初頭に、クリスマスを題材としたアニメ映画を、ウォルト・ディズニー・スタジオに売り込む決意をした頃には、ハロウィンという明確なテーマを作品にしようと決めていた。
もっぱら晴れているカリフォルニア州バーバンクで育ったティム・バートンは、かつてその土地に暮らす住民が季節の変化を感じるのはホリデイの飾りつけを目にした時であり、街にある店の多くは利益を伸ばすために、毎年10月31日より遥か前から、ハロウィンとクリスマスを融合させていたと振り返る。これがキング・オブ・ハロウィンをクリスマスに侵入させるという、物語を生む下地になったとティム・バートンは説明し、こうした巧みなクリエイティヴ・ジャックは、ミュージカル映画にも通用すると考えていたという。
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カルト的人気を博す
アカデミー賞にもノミネートされた『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』サウンドトラックの音楽と歌詞を手掛けたダニー・エルフマンは、クリス・サランドンが声を務めたジャック・スケリントンの歌パートも担当し、さらに“ハロウィン・タウン・バンド”の中で、ダブルベースを演奏する赤毛の死体としてカメオ出演した。ダニー・エルフマンはこう語る。
「私はどちらかと言えばハロウィン映画として捉えていますが、実際にはクリスマスについての作品です。この映画はとにかく、公開後にカルト的な人気を博していくという、時々ある不思議なことが起こったのです」
映画は途方もない数のファンを獲得し、邪悪なキャラクター達と愉快で不気味な楽曲は、ハロウィンがそれまで以上に世界規模イベントへと成長するのに一役買うことになった。そんなこの映画の楽曲はポップ・ソングのようにはしたくないという点で、2人の意見が一致したとダニー・エルフマンは明かしている。
「コンテンポラリーではなく、時を超越したような曲を生み出そうとふたりで考えていました。クルト・ヴァイルからギルバート・アンド・サリヴァン、初期のロジャース・アンド・ハマースタインまで、色々なところから影響を受けています」
さらにジャズからの影響もあった。ダニー・エルフマンはデューク・エリントンの音楽から学びながら、独学で作曲を学んだと述べているが、俳優のケン・ペイジが歌う「Oogie Boogie’s Song(邦題:ウギー・ブギーの歌)」には、ジャズの時代の雰囲気が色濃く漂っている。そして過去にはブロードウェイ版ミュージカル『Ain’t Misbehavin’』に主演したことがあったケン・ペイジは、独自の派手なアプローチで曲に挑んだ。当時ケン・ペイジはこう語っている。
「‘Oogie Boogie’s Song’の声は、バート・ラー(『オズの魔法使い』の臆病なライオン)と『エクソシスト』の悪魔の声の中間みたいな感じて、そこにキャブ・キャロウェイとファッツ・ウォーラーを足したような歌にしようと思っているとスタッフに伝えていました」
これがハロウィン
オインゴ・ボインゴのギタリスト、スティーブ・バーテックは、サウンドトラックのオーケストレーションの監修に手を貸し、多くの歌い手たちの能力を最大限に引き出せたことに満足していた。お菓子をねだる子供として登場するロックの声を担当したポール・ルーベンスことピーウィー・ハーマンは、カナダ人俳優キャサリン・オハラと共に「Kidnap The Sandy Claws(邦題:サンディ・クローズを誘拐しろ)」を歌っている。
キャサリン・オハラは「Sally’s Song(邦題:サリーの歌)」の魅力的で邪悪なヴァージョンも披露。アコーディオンとヴァイオリンの伴奏で、 “この予感を振り払うことができないでいる/最悪のことがすぐそこまで迫っている”という一節を歌う。
強烈なメロディーに印象的な歌詞を伴った歌に溢れた『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』サウンドトラックのその他のハイライト楽曲は、「This Is Halloween(邦題:これがハロウィン)」「Jack’s Lament(邦題:ジャックの嘆き)」「What’s This?(邦題:クリスマスって何だ?)」等々。
そしてオープニングとエンディングに収められているのは、パトリック・スチュワートらしい贅沢な味わいのナレーションだ。同サウンドトラックは1993年のゴールデン・グローブ賞の作曲賞にノミネートされ、全米アルバム・チャート入りを果たした。
ハロウィンからクリスマスに定着
このような身の毛のよだつクリスマス作品のリリースに際し、不安があったとしたら、それは杞憂に終わったと言ってよいだろう。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は、公開から数年の間に、映画としても音楽としても多くのファンを獲得した。
2006年には、フィオナ・アップルによる「Sally’s Song」や、マリリン・マンソンが歌う「This Is Halloween」、フォール・アウト・ボーイがゲスト参加した「What’s This」などのボーナス・トラックが追加収録された『The Jack 2 Pack (The Nightmare Before Christmas)』も発表された。
フォール・アウト・ボーイのベーシスト、ピート・ウェンツはこのサウンドトラックへの思いをこう語っている。
「1曲やらないかとディズニーからマネージメントに依頼があったんだけど、僕達はあの映画とダニー・エルフマンの虜で、‘ナイトメア’タトゥーを入れているくらいなので、二つ返事でしたよ。この映画の楽曲は、最高傑作ばかりで、まさにエルフマン全盛期です」
この独創的なストップモーション映画は、制作に3年が費やされ、現代アニメの最高傑作として人々から支持されている。それは2018年10月に発売25周年を迎え、ハロウィン・ソングをクリスマス行事の一環として定着させた、この見事なサンドトラックに負うところが大きい。
Written By Martin Chilton
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス オリジナル・サウンドトラック スペシャル・エディション』
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