映画『ライオン・キング』サウンドトラック解説:エルトン・ジョンら関係者が語る傑作が出来るまで

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Cover: Courtesy of Disney

1994年公開、ディズニーによる32作目の長編アニメーション映画『ライオン・キング』であり世界中で大きな成功を収めた同作が、当初は失敗するリスクのある作品とみなされていたことは驚きだ。というのも同スタジオがオリジナル・ストーリーを基に長編映画を制作した前例はなく、すべてのキャラクターが動物というのも (1942年作『バンビ』がそれに近いものではあったが) ディズニー史上初の試みだった。その上、同作は1989年の『リトル・マーメイド』から1999年の『ターザン』までの時期を指す”ディズニー・ルネサンス期”において、ブロードウェイの作曲家以外の人物が劇中歌を担当した初めての作品だったのだ。

最後の点については、必要に駆られての決断だった。というのも、1992年の『アラジン』制作中に作詞家のハワード・アシュマンが他界。それにより『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』のサウンドトラックをともに手がけてきた、作曲家のアラン・メンケンとの名コンビに終止符が打たれてしまったのである。

そこでディズニーは、英国人作詞家のティム・ライスに協力を要請。作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバーとミュージカルの楽曲を共作したことで知られるライスは『アラジン』の仕事をアシュマンから引き継ぎ、さらには次なる長編映画『ライオン・キング』への参加を打診されたのだった。

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エルトン・ジョンの登場

『ライオン・キング』のオリジナル・プロダクション・ノーツにおける本人の回想によると、ティム・ライスはまず作曲のパートナー探しに着手した。彼はこう振り返る。

「誰か心当たりはあるかとスタジオ側から聞かれたんだ。世界中の誰でもいいから、ベストな人材を選んでほしいと言われてね。だから僕はこう返したんだ。“それなら、エルトン・ジョンを呼べたら最高だ。でもおそらく、彼に頼むのは無理だろう。だって彼はすごく多忙だし、こういう映画音楽には25年近く関わっていないはずだから”とね。でも彼らは実際に声をかけた。そして驚くことに、エルトンは承諾してくれたんだ」

エルトン・ジョンは2019年に出版された自伝『Me エルトン・ジョン自伝』の中で、ライスに声をかけられた際のことについてこう記している。

「ティム・ライスから突然の電話がかかってきて、また一緒に仕事をしてみないかと言われたとき、僕らが最後に曲を共作してからは10年の月日が経っていた。話によると、どうやらディズニーが既存の作品ではないオリジナル・ストーリーのアニメ映画を初めて作ろうとしていて、ティムがその作品に僕を誘いたいということだった。そして、僕はその話に興味をそそられたんだ。…… 劇中歌は、ストーリーを伝えるものでなくてはいけない。僕たちは、それまでのディズニー映画のようにブロードウェイ・スタイルの音楽を作るのではなく、子どもたちに気に入られるようなポップな曲を作ろうと考えた」

エルトンの作曲の腕前に疑いの余地はなかった。だが初めのうちは、アフリカのサヴァナの風景をイメージ通りに想起させるようなサウンドに仕上がらない懸念があったという。ライスは1994年、当初抱いていた不安についてロサンゼルス・タイムズ紙にこう語っている。

「エルトンが“Can You Feel The Love Tonight (愛を感じて)”を歌う素敵なデモがあったんだ。でもそれは、エルトンがピアノを弾きながら歌っているだけの音源だった。だから映画を観ている人は、キャラクターの言葉として歌詞に共感するのが難しいんじゃないかと思った。……観客は“ああ、エルトン・ジョンの曲だ”と思うだけだろうとね。僕自身は単にそれだけの曲じゃないと分かっていたけど、観客にはそれが伝わらないだろうと思ったんだ」

スタジオの副会長だったロイ・ディズニーも、ロサンゼルス・タイムズ紙にこう話している。

「デモでのエルトンの演奏のせいだと思うけど、最初に聴いた音源は、映画で実際に使用されているものとはまったく違うサウンドだった。でも最終的なアレンジが仕上がるまで、彼を信じて辛抱してみようと思ったんだ」

 

ハンス・ジマーによるアレンジ

『ライオン・キング』のプロデューサーであったドン・ハーンは製作陣が求めていたサウンドについてこう説明している。

「僕らはポール・サイモンの『Graceland』をよく聴いていた。それで、レディスミス・ブラック・マンバーゾをはじめ『Graceland』に参加していた南アフリカのヴォーカル・グループの作品や、南アフリカのソウェト地区で生まれた音楽をたくさん聴くようになったんだ」

そしてライスとエルトンの共作する楽曲群が映画の本質を捉えられていないと感じた製作陣は、楽曲のアレンジに作曲家のハンス・ジマーを起用した。ジマーはロサンゼルス・タイムズ紙に話している。

「エルトンは本当に自由にやらせてくれたよ。自分の曲に手を加えられるのを彼が嫌がるんじゃないかと不安だった。可愛い我が子に新しい手足をつけたり、勝手に瞳の色を変えたりするようなものだからね。そうするとついつい感情的になってしまうものだ。実際、僕は彼の書いた曲に散々手を入れた。それなのに彼はいまでも僕に話しかけてくれるんだ。良い兆候だよ」

ジマーは楽曲に本格的なアフリカらしさを加えるため、南アフリカ人ヴォーカリストのレボ・Mを起用した。このことは、彼の見事な手腕を象徴しているといえよう。そしてその効果をもっとも顕著に感じられるのが、荘厳かつ壮大なオープニング・トラック「Circle Of Life」である。

ジョンとジマーが作り上げたこの感動的なバラードは、生命の繋がりが表現された一曲。劇中では、ライオンの子であり“プライド・ランド”の新たな王子となるシンバが、その姿を一目見ようと集まってきた動物たちに向けてお披露目されるシーンを見事に彩っている。レボ・Mは2019年のCNNの取材で、この物語に強く心を打たれたことを明かしている。

「僕は脚本を読んだだけで、すごく感情的になってしまった。自分が物語の中にいるように思えたんだ。そのストーリーは故郷を追われたシンバの物語でありながら、僕自身の人生を追体験しているかのようだった」

そうして「Circle Of Life」のヴォーカルを吹き込むことになったレボ・Mは、“プライド・ロック”の上に立つムファサ (シンバの父で、プライド・ランドの王) の姿を思い描きながら、映画の代名詞ともいえるズールー語のフレーズを歌い上げた。

「僕は“王を称えよ、王家に敬意を表せ”という意味のことを歌った。この言葉は、南アフリカ人のほとんどが思い描いていたビジョン、あるいは夢のようなものから影響を受けている。それはネルソン・マンデラが演壇に立ち、黒人初の大統領になるという光景だった。つまり、あの歌は二つの物語を同時に表現していた。喜ばしいことにその二つは化学反応を起こして、魔法は現実のものになったんだ」

 

『ライオン・キング』の音楽とその功績

「Circle Of Life」のあとも、劇中では魔法のような楽曲が続く。優雅な暮らしの喜びが表現された「I Just Can’t Wait To Be King (王様になるのが待ちきれない)」や、ムファサの邪悪な弟のスカーを演じたジェレミー・アイアンズのパフォーマンスが光る「Be Prepared (準備をしておけ)」、愉快でポップな間奏曲「Hakuna Matata」、そしてディズニー作品屈指の名ロマンティック・バラード「Can You Feel The Love Tonight」などである。

当初「Can You Feel The Love Tonight」は映画から外されていたというが、エルトンの申し入れで使用されることになり、最終的には米アカデミー賞の歌曲賞を受賞したのだった。

エルトン・ジョンは自伝『Me』の中で、『ライオン・キング』に携わったことは目新しい経験になったと綴っている。

「完成した映画を観て、すごく素晴らしい作品だと思った。僕は人を呼んで新作アルバムを聴いてもらうようなタイプのアーティストではない。でも『ライオン・キング』のことはあまりに気に入ってしまい、友人たちに見せるための上映会をプライベートで何度か開催した。あの作品に関しては、何から何まで本当に誇りに思う。仕事をしているときから、すごく特別な作品に携わっていると実感していた。それでも、これが史上屈指の興行収入を叩き出すような映画になるとは思っていなかった。あの作品で、それまでまったく馴染みがなかったような人にも僕の音楽を知ってもらえたんだ」

『ライオン・キング』は興行収入の面で驚くべき成功を収めた。だがそれだけでなく、同作のサウンドトラック・アルバムもアニメーション作品の音楽として史上最高のセールスを記録。その売上はエルトン・ジョンのキャリアにおいても、1974年のベスト盤『Greatest Hits』に次いで二番目の記録となっている。ここでも、リスクを恐れないディズニーの戦略が功を奏したのである。

Written By Jamie Atkins


Various Artists 『The lion King』
1994年5月31日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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