カニエ・ウェスト『The Life Of Pablo』解説:ストリーミングのみで初めて全米1位となった快作
カニエ・ウェスト(Kanye West)のアルバムが退屈だったことはないが、『The Life Of Pablo』は彼の基準から考えてもかなり大それた作品となっている。それは創造主である彼と同じぐらいに素晴らしく魅力的、そして時には猛烈にエキセントリックである。
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アルバムの完成まで、そして発売後に与えた影響のどちらもそれぞれ報道価値のある出来事だった。無料で曲を金曜日に公開するグッドフライデーとして何枚ものシングルを先行で発表し、どの曲がアルバムに収録されるのかを当てるのと同じぐらいに、アルバム・タイトルを推測することをファンたちは楽しんだ。
カニエはまず『So Help Me God』を選び、それから『SWISH』へと変更し、最終的には『The Life Of Pablo』と名付けた。彼の洋服ブランドYeezy 3の発表と共に、発売日の3日前の2016年2月11日にマディソン・スクエア・ガーデンにて、このアルバムをプレミア公開したのだ。
有り難いことに、アルバムは大々的なプロモーションに値する作品となった。それまでで最も露わで物議を醸す大胆なリリックを使用し、多様なスタイルでサウンド的にも革新的な作品となっている。オープニング・トラック「Ultra Light Beam」は、カニエが約束した通りのゴスペル・ラップが完璧な形で提供されており、壮大なバックコーラスに合わせて彼とゲストのチャンス・ザ・ラッパーが考え込まれた内省的なバースを乗せていく。
リアーナとのコラボレーション「Famous」では、冷たいシンセとビート、そしてシスター・ナンシーの有名なレゲエ・トラック「Bam Bam」を融合し、カニエはテイラー・スウィフトをいじるあの悪名高いリリックをラップしている。
不快なインダストリアル・ラップの傑作「Feedback」は彼の前作『Yeezus』に光を当て、クリス・ブラウンがフィーチャリングされた「Waves」は途切れながら上昇するシンセ、ソウルたっぷりのボーカル、そしてトラップ・ビートを幸福感たっぷりで融合させている。「Fade」では80年代のシカゴ・ハウスへと逆戻りし、ミスター・フィンガーズの「Mystery Of Love」をサンプリングしている。
内省的なカニエは、夢心地な「Real Friends」など、トラックごとにその時の考えを露わにする。「Real Friends」では、有名になったことで起きた友人や家族との問題を取り上げており、従兄弟にラップトップを盗まれたことについてラップする。ダークで気怠い感じの「FML」では、レクサプロを呑み忘れたことを冗談っぽく言い、いつものように冷淡な様子で心の問題を抱えていることを認めている。「Feedback」ではその問題をまるで祝うかのようにこうラップする。「もう長いこと正気ではない…クレイジーじゃない天才なんているのか?」
2016年2月14日の正式なリリースから数週間後、『The Life Of Pablo』に幾度も磨きをかけることで、カニエ・ウェストは“命あって呼吸し、そして変化し続けるクリエイティブな表現”を届けるという約束を守った。さらにはサンファをフィーチャリングした「Saint Pablo」を追加した。
このアルバムはフィジカルでのリリースはしておらず、当初はTidalでストリーミングでしか提供されなかった『The Life Of Pablo』だが、それにもかかわらず全米アルバムチャートでは初登場1位を獲得し、ストリーミングのみで1位となった初のアルバムとなった。
Written By Paul Bowler
カニエ・ウェスト『The Life Of Pablo』
2016年2月15日発売
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