『ライブで歓声が聞こえる日 コロナ禍に抗う音楽業界』監督が見た洋楽招聘の今
“テレビも、SNSも超えて、映画で伝えたいことがある”をテーマにヒューマントラストシネマ渋谷にて2022年3月18日から3月24日まで開催される「TBSドキュメンタリー映画祭 2022」(他全国順次開催予定)。
全11作品が一挙公開されるこの映画祭のひとつに『ライブで歓声が聞こえる日 コロナ禍に抗う音楽業界』という作品がある。日本での邦楽及び洋楽のライブ・ビジネスが置かれた現状に様々な角度からスポットを当てたドキュメンタリー作品だ。洋楽のライブ業界に関しても様々な関係者への取材を基に、現状を打破すべく悩み行動する姿を描いた注目作品となっている。
今回はこの作品の監督、川西 全(TBS報道局)さんに、この作品を通じて描こうとした洋楽ライブ業界への思いを寄稿いただきました。
<関連記事>
・KISSのベストソング:一晩中ロックするための地獄の必聴楽曲20選
初めて生で観た海外アーティストは誰だったか、中学3年のときのポール・マッカートニー? いや、小学生のとき、親に連れられて、後楽園球場でマイケル・ジャクソンを観たような…いずれにしても、高校生になって以降は毎年、海外アーティストの来日公演を観てきた。受験があろうが、留年しようが、ADの仕事で家に帰れない日が続こうが、どんなに忙しくても、それは変わらなかった。…去年までは。
言うまでもなく、新型コロナによる影響である。
我々、そしてその上の世代では当たり前だった、海外アーティストの来日公演がある日常が今、失われようとしている。そして、それが日本の音楽シーンも変えようとしている。「断絶が起きようとしている」のである。この危機感を、果たしてどれだけの人が抱いているのだろうか。『ライブで歓声が聞こえる日』という作品の出発点は、こうした思いからであった。
コロナ禍であらゆる人々が困難に直面した。その中でも、もっとも影響が大きい業種のひとつがライブ・エンターテインメント業界、特に海外アーティストを招聘する洋楽プロモーターだと思っている。何しろ、時短営業どころではない、来日公演という“本業”が2年できていないのだから。そして、こうした事実にはあまり光が当たっていない。これは、音楽業界への取材は報道局が担当するのか? 情報制作局なのか? という“取材する側”と、ロック・ポップスは経産省管轄、ミュージカル・クラシックは文化庁管轄という“取材される側”の事情があったかもしれない。“二重のセクショナリズムの壁”によって、狭間に落ちてしまっているかも、ということだ。
海外アーティストが日本に来られなくなった要因は主に2つ、水際措置と収容人数の問題である。たとえばモトリー・クルーやオジー・オズボーンが7日間ホテル待機、というのを想像できるだろうか。また、もしもそれが実現したとして、最高級ホテルのエグゼクティヴ・スイート宿泊費をその間、誰が負担するのだろうか? ただでさえ、海外アーティスト招聘は経費がかかるのに、観客数が半数では単純にチケット代を2倍にしないとコロナ前のような収益はあげられない。しかし、それではビジネスとして成立しない⋯ここは、現在も洋楽プロモーターが背負っている“十字架”である。
今回、洋楽プロモーター10社による協力組織「インターナショナル・プロモーターズ・アライアンス・ジャパン(I.P.A.J)」の総会にカメラを入れさせていただいた。「海外アーティストは全世界を見て公演スケジュールを組む。このままでは日本が忘れ去られてしまう」「国の入国規制でコンサートがキャンセルになるのであれば、補助する仕組みをつくってくれないと安心して海外アーティストと交渉できない」。そこで行われる率直な議論は、なかなか我々部外者は見られないものだと思う。それだけではない。レコード会社社長、音楽プロデューサー、音楽評論家、さまざまな立場の方が今回の取材を快諾していただいた。それは、現場の悲鳴を聞いてもらいたい、という音楽業界の方々の真摯な思いからだと考えている。
2022年3月1日をもって水際措置も緩和され、徐々にではあるが、来日公演実現の機運も高まってきている。次なる目標となるのは、私の作品タイトルにもあるように“ライブで歓声が聞こえる日”、つまり観客の声出しだ。今の政府のガイドラインでは、定員の50%の収容であれば声を出すことは可能、となっているが、主催者側の自主規制などによって、多くのライブで声出しはまだ実現していない。
「I.P.A.J」の代表を務めるクリエイティブマンプロダクションの清水直樹社長はこう語っている。
「オアシスが再結成したとして、“Don’t Look Back in Anger”を大合唱できません、って言っていきたいかっていう話じゃないですか。日本だけで合唱が起こらなかったみたいな、そんな世界には決してしちゃいけないと思います」
配信ライブが増えてもいい、投げ銭などの新たな応援手段があってもいい。ただ、私は、もう一度日本で海外アーティストの来日公演が実現し、歓声があがる姿を見てみたい。
それこそが私たちの“復讐の叫び(Screaming For Vengeance)”である。
Written By 川西 全
『ライブで歓声が聞こえる日 コロナ禍に抗う音楽業界』
<上映日時>
2022年3月18日(金)15:20~ *舞台挨拶有り
2022年3月22日(火)15:45~
2022年3月23日(水)17:45~
2022年3月18~24日までヒューマントラストシネマ渋谷にて行われる「TBSドキュメンタリー映画祭2022」内にて上映。オンライン配信も予定
監督:川西 全
©TBSテレビ
公式HP:https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/