ザ・ビートルズ「Taxman」解説:9割以上の超重税とジョージ・ハリスンの義憤
英国で成功したグループは、どうすれば自分が成功したとわかるのだろうか。それは必ずしも、熱狂的なファンの数、チャート上位のヒット曲の数、あるいは壁に飾られたゴールド・ディスクの数によるものではない。英国歳入関税庁(*日本でいう国税庁)から心臓が止まるほど高額な税金の請求書が届いたとき、本当に成功したことがわかるのだ。
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高額な重税
ザ・ビートルズは、世界を征服した最初のポップ・グループの一つであり、彼らが『Revolver』のレコーディングを開始した1966年4月には、おそらく彼らが英国で最も裕福なミュージシャンだっただろう。
その前月、英国ではハロルド・ウィルソン首相率いる労働党政権が圧倒的多数で再選され、直ちに国内の高額所得者への税率が引き上げられたが、これはザ・ビートルズに大きな影響を与えた。そのわずか1年前に、エンターテインメントへの貢献と英国経済の活性化を理由に、ザ・ビートルズ4人に大英帝国勲章を授与したウィルソン首相が、この増税を主導したことは、苦い皮肉としか言いようがない。
当時の英国の通貨は1ポンド=20シリングだったが、労働党政権下でザ・ビートルズは最高税率を支払うことになり、彼らが1ポンド稼ぐとその約90%(正確には19シリングと6ペンス)が政府に取られることになったのだ。
ジョージ・ハリスンは、この時、他のザ・ビートルズよりもグループのビジネス事情に関心があり、自分たちの労働の成果が奪われること、さらにはグループが破産してしまうかもしれない事態を知り、危機感を覚えたという。さらに、その税金が武器製造の資金になることも懸念していた。
その結果、ザ・ビートルズ初のプロテストソングとなった「Taxman」を書き、その不満を爆発させたのだ(この曲は、ジョージ1人の作品とされているが、彼の協力も得ている)。1968年、ジョン・レノンはこう明かしている。
「ジョージが書いて、僕が手伝ったんだ。彼が望んだから、一、二行ぐらいだけ手伝ったよ」
ジョージはハロルド・ウィルソン首相の名前を出しているが、政治的なバランスを取るために、野党である保守党の指導者エドワード・ヒースも名指しで歌っている。ポール・マッカートニーはこの曲を「ジョージの義憤」と表現しているが、この曲のトーンは辛辣であり、後のパンクバンドたちがその姿勢にインスピレーションを得た可能性もある。例えば、ザ・ジャムの1980年のシングル「Start」は、「Taxman」に大きな借りがあるといえるだろう。
そのサウンドとレコーディング
ポール・マッカートニーのカウントインで始まる「Taxman」は、ハードでファンキー、アメリカンR&Bの要素を取り入れ、特にジェームス・ブラウンの「I Got You (I Feel Good)」のかすかな響きが特徴的である。
シンプルなブルースの構成で、ポールのモータウン的なベースラインとギザギザのオフビート・ギターコードが組み合わさって推進されていく。この曲のユニークな点は、曲の真ん中に配置され、フェードアウトでも繰り返される短いが激しいインド風のリード・ギター・ソロで、これはポールによってオーバーダビングされたものであった。
ザ・ビートルズはアビーロード・スタジオで3日間、プロデューサーのジョージ・マーティンとともに「Taxman」に磨きをかけた。これは1963年のデビュー・アルバム『Please Please Me』を1日で完成させたのに比べて、はるかに長い時間である。
また、「Taxman」は、ザ・ビートルズのLPのオープニングを飾る最初の、そして結果的には唯一の、ハリスンの曲であるという特徴を持っている。『Revolver』に収録されたジョージ作曲の3曲のうちの1曲でもあり、バンドでの地位の向上とソングライターとしての成長を反映している。
サウンド面では、「Taxman」は、大胆で画期的なアルバム『Revolver』とともに、ザ・ビートルズとポップミュージック全般にとって新しい章を開くものとなった。サイケデリアやカウンターカルチャーの影響を受けながら、より進歩的な音楽作りを目指したのだ。この曲は、1960年代後半以降のロック・ミュージックの形成に貢献した。しかしながら、ザ・ビートルズに対する税金は増えるばかりだった。
Written By Charles Waring
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