最高のジャズ・アルバム・カヴァー100選
事実はこうだ。1940年代にジャズを78 rpmディスク(SPレコード)、その後に10インチLPでリリースしていたジャズ・レコード・レーベルは、LPのデザインの最先端にいた。理由は他でもない、ジャズはその頃最もヒップで、クールで、最もプログレッシヴなタイプの音楽であり、多くの若きデザイナー達がこの音楽に魅きつけられており、そんな彼等は自分達の疑いなき才能を、このジャンルに提供してくれたのだ。
ノーマン・グランツがマーキュリー・レコーズでジャズを形に残すことを始めた時、そのデザインを依頼したのはデヴィッド・ストーン・マーチンであり、氏はその後クレフ、ノーグラン、後期ヴァーヴを飾る美しい作品を手掛けることになる。
彼はストーン・マーチンとアッシュ・レコーズとの仕事を通じてグランツと出会い、ふたりは友情と共に仕事相手として密接な関係を育んでいった。1948年、グランツは彼にクレフ・レコーズのアート関連全般を担当する仕事を依頼した。
マーチンはフリーランスとして働く傍ら、時間を設けては人に教えることもしており、手掛けたカヴァー・アートの凄い分量を鑑みるだけでも、その活動量が並外れていることは明白だ。彼の署名が刻まれたクレフ、ノーグラン、ヴァーヴ作品は約400作に及ぶと推測される。例えばチャーリー・パーカーのシリーズ等、マーチンの作品だとすぐに分かるものもあれば、彼が手掛けるビリー・ホリデイのアルバム・カヴァーの幾つかは、彼のスタイルだとは分かりにくい。マーチンらしいカヴァーとして多くの人が見過ごしてしまう作品といえば、エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロングの『Porgy And Bess(邦題:ポーギーとベス)』(1957)ではないだろうか。
一方ブルーノートでは、ジャズに熱い思いを寄せるグラフィック・デザイナーが他にいた。レーベル初期のアルバムのデザインを数多く手掛けた、ポール・ベーコンである。レーベルが1950年代初期にLPの初回生産をリリースした時、そのジャケットを飾ったのは、27歳のニューヨーカーのベーコンがデザインしたものだった。熱心なジャズ・ファンだったベーコンは、地元の小さな広告代理店に勤めていて、ニューワーク・ホット・クラブを通じてアルフレッド・ライオン(ブルーノートの創始者)を知る。ベーコンのジャケットの中には、フランシス・ウルフが撮影したアーティスト写真が含まれることもあり、それが作品を際立たせていた。
新しい12インチ・フォーマットが登場する頃、目立った活躍をするようになるのは、エスクァイア誌で働いていた28歳のデザイナー、リード・マイルスだった。彼のブルーノート・デビュー作は、ジョン・ハーマンセイダーと共にデザインした、1955年末のハンク・モブレー・カルテットの10インチ・アルバムのカヴァーだったが、彼の名リード K.マイルスが単独で載った初の作品は、その数か月後にリリースされた、モダンとはほど遠いシドニー・ベシェの作品だった。
ブルーノートのアルバム・ジャケットが、モダン・ジャズ・カヴァーと、そしてその他ほぼ全てのアルバムの評価の基準にされるようになったことを考えると、多分何よりも皮肉なのは、リード・マイルスがジャズ・ファンではなく、クラシック音楽愛好者だったことだろう。けれども、この音楽との距離が彼のまた力となり、何にも邪魔されることなく、基本的なディテール、アルバム・タイトル、その音楽のフィーリング、そしてセッションに拘ったデザイン・アプローチが出来たのかもしれない。言うまでもなく、彼はフランシス・ウルフの素晴らしい写真を使用した。
ウルフはリード・マイルスの大胆なトリミングに対し、苛立ちを感じることもあった一方、写真撮影に興味を持っていたマイルスは、ウルフの写真にピンとこない場合には、自らが撮影を行なうようになる。
マイルスに対する支払いは、カヴァー1枚に対し約$50と、あまり多くはなく、フルタイムの仕事が休みの土曜日に、アルバム幾枚かをデザインすることが多かった。次の10年間彼は、ブルーノートのカヴァーのほぼ全てを担当しながらも、仕事に忙殺されていた時には、カヴァーデザインを友人等に任せることもあり、その中には当時手数料を必死で求めていた売れないアーティストだった、若きアンディ・ウォーホルもいた。ウォーホルはジョニー・グリフィンのアルバム・ジャケットを1枚、ケニー・バレルの作品を3枚制作。後年、リード・マイルスはボブ・ディラン、シカゴ、ニール・ダイアモンド、チープ・トリックのアルバム・カヴァーをデザインすることになる。
これに加え、プレスティッジやリヴァーサイドといったレーベルもまた、エスモンド・エドモンズのデザインによるザ・マイルス・デイヴィス・クインテットの『Relaxin’』等、素晴らしいアルバム・カヴァーを幾つか発表している。それからドン・マーティンが手掛けた『Miles Davis and Horns』や、トム・ハナンによるザ・セロニアス・モンクやソニー・ロリンズLPの素晴らしいデザインもある。
コロムビア、キャピトル、RCAビクター、アトランティック、ユナイテッド・アーティスツ等の会社や、幾つかの小規模インディペンデント・レーベルからも、素晴らしいデザインの作品を発表しており、全てこの後のリストに登場する。
現代に入り全盛期は過ぎ去ってしまったかもしれないが、それでもこの最高のジャズ・アルバム・カヴァー100選からお分かりのように、今でも名作が幾つかある。みなさんが一番好きなジャズのアルバム・カヴァーについてのご意見を、ぜひ。“リーダーズ・チョイス”決定版を作ろうと思っているからだ。
ちなみに、この順序の特に意味はなく、従ってウェス・モンゴメリーはナンバー1でもナンバー100でもない。
(*本記事およびリストは本国uDiscovermusicの翻訳記事です)