解散を発表したSUM 41の今までを振り返る
カナダのハードコア/メロディアス・パンク・グループ、Sum 41は1996年から活動を開始し、その約5年後にはデビューアルバムとなる名盤『All Killer, No Filler』を発表して国内でブレイクした。それは口先だけの自慢ではない。
『All Killer, No Filler』は、UK、アメリカ、そしてもちろんカナダでプラチナ・ディスクに認定され、母国ではスーパースターとして祭り上げられたのだ。いきなりこのような成功を収めた後でそれに続くヒットを飛ばすのは大変なことのように思えるが、彼らはそのハードルを次作『Does This Look Infected?』で見事にクリアしてみせた。
<関連記事>
・SUM 41、最新作リリースと最後のワールドツアーをもって解散を発表
・スケート・パンク/ポップ・パンク特集
・女性パンクの歴史:“ロックン・ロール”という男性社会と性別の固定観念への抵抗
その評価とサウンド
Sum 41は全世界で500万枚以上のセールスを記録し、ツアー・スケジュールの過酷さも伝説的なものとなっている。彼らはライヴで自らのサポート・アクトとして登場することでも知られており、その場合はヘビーメタル・バンドのペイン・フォー・プレジャーと名乗っている。
こうして彼らは世間の注目を浴び続け、活動内容も猛烈に高い水準を維持し続けている。それは、『Chuck』『Underclass Hero』、そして『Screaming Bloody Murder』といったアルバムを聴けばわかるはずだ。そんな名声を裏付けるかのように、彼らはカナダのグラミー賞であるジュノー賞を2度受賞。この賞は通常であればニッケルバック、ダイアナ・クラール、サム・ロバーツといったカナダのスターたちが受賞しているが、そんな場所でも彼らは足跡を残しているのである。
2012年のグラミー賞の”Best Hard Rock/Metal Performance”部門では、彼らの実に素晴らしい名曲「Blood in My Eyes」がフー・ファイターズの「White Limo」に阻まれ、惜しくも賞を逃した。とはいえ彼らが心の底から求めているのは業界内で大げさに評価されることではない。彼らは、ファンからの賞賛を切に欲しているのである。
このバンドは時代を経るにつれ、より複雑なサウンドの枠組みを追い求めるようになり、単純なパンク・ロックの範疇に収まりきる存在ではない。彼らのルーツにあるメタルやハードコア的な要素は消え去ることなくずっと保たれているが、彼らはガレージ・ロックも上手にこなせるし、作り出すメロディーも素晴らしい。また、影響を受けたバンドとして、バッド・リリジョン、ランシド、グリーン・デイ、スレイヤー、ニルヴァーナ、さらにはザ・ビートルズの名前もあげている。
このSum 41の中心となっているのは、カリスマ的なフロントマンでメイン・ソングライターのデリック・ウィブリーだ。さらにベーシストのジェイソン・マクキャスリンとリード・ギタリストのトム・タッカーが長年のメンバーとして在籍している。ウィブリーは命を危うくするような個人的な問題を以前克服した。とはいえ、やはり回復の途上にあった友人たち ―― すなわちイギー・ポップ、ダフ・マッケイガン、マット・ソーラム、トミー・リーと一緒に過ごしたことで、現在の彼は良い状態にある。
その経歴
オンタリオ州エイジャックスで結成されたこのバンドは、当初キャスパーと名乗っていた。ウィブリーと創設メンバーであるドラマーのスティーヴ・ジョクスはギターにデイヴ・バクシュ、ベースにジェイソン・マクキャスリンを迎え、主にカヴァー曲を演奏していた。そして、「長い夏休み」を意味するSum 41というバンド名に改名した。
2000年に発売したEP『Half Hour of Power』にはティーンエイジャーのスケート・ロック「Makes No Difference」が収録されており、これが注目を集めた結果、さらに良い条件でレーベル、アイランド・レコードとの契約が結ばれた。
2001年に彼らは正式なデビュー・アルバム『All Killer, No Filler』を完成させる。このアルバム・タイトルは、ジェリー・リー・ルイスから拝借したものだった。このアルバムにはSum 41のエッセンスが詰まっている。たとえば「Fat Lip」「In Too Deep」「Motivation」「Handle This」といった楽曲は、プロデューサーのジェリー・フィン (ブリンク182、モリッシー、オフスプリングなど) と共に磨き上げた作品だった (フィンは2008年にあまりにも早すぎる死を迎えた) 。
グリーン・デイなどが開拓したメロディアスなパンクに傾倒していたSum 41は、当時のティーンエイジャーの時代精神を見事に捉えていた。不条理なほどキャッチーな「Fat Lip」は米ビルボードのモダン・ロック・トラックス・チャートのトップを飾り、UKでもチャートの8位に到達した。
簡潔な曲で鋭い衝撃を与える手法にこだわっていたSum 41は、当時のマネージャーだったグレッグ・ノーリのエンジニアとしての手腕を活用し、セカンド・アルバム『Does This Look Infected?』を発表した。前作は彼らのもともとのファンが抱いていた心の不安に狙いを定めていたが、この新しいアルバムは鬱、不眠症、無軌道な快楽主義の危険性を取り上げていた。
これは全体を通してアグレッシブでヘヴィーな仕上がりになっており、ゾンビを描写したアートワークと「The Hell Song」や「Over My Head (Better Off Dead)」といった不気味な楽曲も相まって、コンサート会場の客席が激しく荒れ狂うのは確実となった。ここに収録された楽曲は奇妙で驚くほどウィットに富んでおり、ハードコアというジャンルに収まりきらない多様性を持っている。
デイヴ・バクシュはサード・アルバム『Chuck』 (2005年ジュノー賞でロック・アルバム・オブ・ザ・イヤー受賞) を作る頃まではバンドに留まっていた。このころSum 41は、慈善団体ウォー・チャイルド・カナダの代理としてコンゴを訪問し、現地で非常に危険な目に遭った。『Chuck』は、そのときの身の毛もよだつような経験にちなんだ題名だ (アルバム・タイトルの”チャック”は、この旅で仲介役を務めた国連の和平調停者チャールズ・ペルティエを指している) 。
自らの過去の作品と張り合うかのように、『Chuck』の曲は、死、無政府状態、世界の終末をテーマにしているが、決して下品なものにはなっていない。どの曲も抜群の仕上がりだが、その中でも特に「No Reason」「We’re All to Blame」、実に不気味「Pieces」などが聴きものだ。
このアルバムを聴けば、彼らが急速なスピードで進化していたことがよくわかる。これもまた、アメリカ、日本ではゴールド・ディスクに、カナダではプラチナ・ディスクに認定されている。
さらにキーボード、ヴォーカルのハーモニー、次第に複雑度を増してきた歌詞を加えながら、ウィブリーと仲間たちはかなりの時間を費やしてアルバム『Underclass Hero』を作り上げた。これは、現代社会の混乱とフラストレーション、若者文化の解離状態と怒りをテーマとしたコンセプチュアルな作品だった。このアルバムに無力感が漂っているのは偶然ではない。なぜならここでウィブリーはジョン・レノンの「Working Class Hero」を取り入れ、ザ・フーの「青年の荒廃」のバリエーションを描き出しているからだ。
この野心的で長大な作品には多少の欠点もあったが、これがSum 41の最もバラエティに富んだアルバムであることは確かだ。このアルバムではウィブリーとカナダ人シンガー、アヴリル・ラヴィーン (当時の妻) の関係、親との確執 (「Walkin’ Disaster」) なども取り上げられており、セミ・アコースティック・スタイルのナンバー「With Me」も聞くことができる。そうした点から見れば『Underclass Hero』はこのバンドの最もプライベートな作品ではあるが、その一方で普遍的な要素も含んでいる。ここでウィブリーが自らプロデューサーとなったのも決して不思議なことではない。
彼は『Screaming Bloody Murder』(2011年) でもプロデューサーを務めている。このアルバムは、昔の彼らが抱いていた怒りと幻滅が再び蘇ったことを示していた。ハードコアのルーツに回帰したことは、アルバム・タイトルにもよく表れている。『Screaming Bloody Murder』によってSum 41は再びUKのヒット・チャートに返り咲いた。さらにこのアルバムは米ビルボード誌のロック&オルタナティブ・チャートで5位を獲得し、ヨーロッパでもかなりの人気を集めた。
野太いコード、強烈なヴォーカル、リズム・セクションの絶え間ない攻撃はこのバンドにとって当たり前のものだ。とはいえロジャー・ジョセフ・マニング・ジュニアがキーボードをかぶせ、ギル・ノートンが魔法のようなミックスでドラム・サウンドを仕上げると、そこにさらに細やかなニュアンスが加わってくる。
ウィブリーは同じカナダ人のトム・タッカー (ゴブ) とアルバムのタイトル・トラックを共作し、「Baby, You Don’t Wanna Know」ではミュージシャンのマット・スクワイアとコンビを組んでいる。この曲は、1960年代のザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズを彷彿させるストレートなロック・チューンだ。また「Blood in My Eyes」は思いがけなくヒットを記録しており、このバンドがこれまで出した中でも最高に挑発的な意見表明となっている。
彼らはスタジオ作品に加え、『Live At The House Of Blues』や『Cleveland 9.15.07』などのライヴ・アルバムや、コンピレーション・アルバム『All the Good Shit: 14 Solid Gold Hits 2000-2008』も出している。
2016年にはインディー・レーベルのホープレスに移籍にして『13 Voices』を、2019年には『Order in Decline』を発売。そして2023年5月には、最後のアルバム『Heaven :x: Hell』と最後のツアーを発表、その後にバンドを解散することを発表した。
Sum 41はひどく過小評価されているバンドだ (ただしファンや同業者からの評価は高い) 。現在の彼らは活動休止状態だが、次回作が待ち遠しい。我々は、デリック・ウィブリーが描き出す「どこでもない場所の年代記」の続きが気になるのである。
Written By uDiscover Team
- スケート・パンク/ポップ・パンク特集
- SUM 41、最新作リリースと最後のワールドツアーをもって解散を発表
- 女性パンクの歴史:“ロックン・ロール”という男性社会と性別の固定観念への抵抗
- メロディ・メーカーのパンク特集「素晴らしいのか?それともインチキか?」
- 英米以外で発展した世界のパンク
- ポスト・パンクの登場:PiLからスージー&ザ・バンシーズを経てザ・キュアー
- パンクの勃興とピストルズ、そしてパンクから生まれたグランジ