ボビー・ウーマックを偲んで。その生涯と代表楽曲を振り返る

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Photo: Gijsbert Hanekroot/Redferns

2014年6月27日、ボビー・ウーマックが亡くなったというニュースを聞いても、意外に思わない人も多かったかもしれない。というのも近年の彼は体調を崩し、癌とアルツハイマー病の両方を患って闘病生活を送っていたからだ。とはいえウーマックはソウル・ミュージックの歴史における真のオリジネーターのひとりであり、世代を超えた影響力を持ち、50年もの長きにもわたって重要な作品を発表し続けてきた。

彼の革新性と天性のソウルフルさは、R&Bの世界にとどまらず、さまざまなスター(たとえばザ・ローリング・ストーンズやデーモン・アルバーン)に影響を与えた。そんな彼の生涯と代表曲を紹介しよう。

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ウーマック兄弟からヴァレンティノス

クリーブランド出身のボビーがウーマック・ブラザーズとして最初に頭角を現したのは、ゴスペルの世界でのことだった。ウーマック兄弟が結成したこのグループには、後にサム・クックの娘である妻リンダと共にウーマック&ウーマックで成功を収めるセシル・ウーマック、そして後にボビーのヒット曲「Harry Hippie」のインスピレーション源となるハリー・ウーマックも参加していた。

やがてボビーと彼の兄弟たちはサム・クックの目に留まった。クックはゴスペル歌手として活動していた時期に彼らの師匠となり、このグループがヴァレンティノスと名前を変えた後、1962年にデビュー・シングル「Looking For A Love」をプロデュース。それから12年後にボビーはこの曲をリメイクし、そのヴァージョンはポップ・チャートでもクロスオーバー・ヒットとなっている。

 

ウーマックとストーンズ

1964年、ヴァレンティノスはボビーの共作曲「It’s All Over Now」のオリジナル・ヴァージョンを吹き込む。この曲はまもなくストーンズがカヴァーし、彼らにとって初の全英チャート首位獲得曲となった。

ウーマックとザ・ローリング・ストーンズのお互いを讃え合う関係は、彼のキャリアを通して続いた。彼はストーンズのメンバーと良い友達になり、自分の曲を英米両方でヒットさせた彼らの功績に感謝していた。一方ストーンズのほうも、ウーマックならではの情熱的で知的な曲作りを高く評価していた。ウーマックはロニー・ウッドと特に親しくなり、1986年に彼らが「Harlem Shuffle」をリメイクしたとき、華々しいゲスト参加を果たしている。

 

ソロとして

話を1960年代に戻そう。彼はウィルソン・ピケットやアレサ・フランクリンなどのレコーディングにギタリストとして参加し、ソングライターとしても楽曲を提供するなどの活躍を見せていた。そして1968年にミニット・レーベルと契約すると、ソロ歌手として自らの素晴らしい作品を生み出していった。

ウーマックは、生々しく痛烈なソウルを作り出す優れた能力の持ち主だった。その例としては、「I Can Understand It」「That’s The Way I Feel About Cha」、あるいは映画『Across 110th Street』の素晴らしい主題歌などが挙げられる。しかしそれだけではない。彼は他の人の作品をカヴァーすることも得意としていたのである。取り上げる曲はポップス系の作品が多く、特にパパス・アンド・ザ・ママスの「California Dreamin’」やスタンダード・ナンバー「Fly Me To The Moon」は至高のカヴァーに仕上がっていた。

 

カバーされるボビーの曲

また彼の作品もたびたびカヴァーされていた。たとえばルーファス&チャカ・カーンは「Stop On By」をR&Bチャートのトップ10に送り込み、ジェームス・テイラーは「Woman’s Gotta Have It」をリメイクしていた(ウーマックも、テイラーの「Fire and Rain」をカヴァーしている)。

また、アメリカのファンク・バンド、ニュー・バースはウーマックの「I Can Understand It」をR&Bチャートのトップ5ヒットにしており、ジョージー・フェイムも「Daylight」の素晴らしいカヴァー・ヴァージョンを吹き込んでいる。

一方ウーマックはソウルやカントリーにも手を広げ、1976年にはカントリー曲のカヴァーだけを録音したフル・アルバム『BW Goes CW』をリリースしていた。そこに含まれていたチャーリー・リッチの「Behind Closed Doors」のカヴァーも注目だ。

 

80年代の復活

1980年代に入ると、ウーマックは驚くべき復活を遂げた。その大きな原動力となったのは、クルセイダーズのサックス奏者ウィルトン・フェルダーの1980年のアルバム『Inherit The Wind』だった。このアルバムの素晴らしいタイトル曲に、ウーマックがゲスト・ヴォーカルで参加したのである。それがきっかけとなり、彼は1981年にビヴァリー・グレン・レーベルから自らの素晴らしいアルバム『The Poet』を発表した。このアルバムには、「If You Think You’re Lonely Now」が収録されていた。

続いて1984年には『The Poet II』が発表され、「Tell Me Why」や「Love Has Finally Come At Last」などのさらなる名曲が送り出されることになった。

その後、1980年代にMCAからリリースされたいくつかのアルバムには、さらなるハイライトが収められていた(たとえば1985年の『So Many Rivers』に収録されている「I Wish He Didn’t Trust Me So Much」など)。

 

低迷と復活

しかし過去に何度もドラッグでキャリアを台無しにしてきたウーマックは、この時期もやはり悪癖に手を染めてしまい、再び低迷期に入った。

そんな彼が後年復活を遂げたのは、彼の崇拝者であるデーモン・アルバーンのおかげだった。ウーマックはゴリラズのサード・アルバム『Plastic Beach』の「Stylo」で雰囲気たっぷりのゲスト・ヴォーカルを披露している。

やがて本格的なコラボレーションがはじまり、デーモンとXLのリチャード・ラッセルが共同プロデュースしたウーマックのアルバム『The Bravest Man in the Universe』が2012年にリリースされ、各方面から絶賛されることになった。

それに次ぐアルバム『The Best Is Yet to Come』は残念ながら遺作となった。この作品でもデーモン。アルバーンとラッセルはプロデューサーを務めている。また報道によれば、参加者の中にはスティーヴィー・ワンダー、ロッド・スチュワート、エリック・クラプトン、ロニー・ウッド、ロナルド・アイズレー、B.B.キングなど豪華な顔ぶれが含まれている。

ボビー・ウーマックは1973年のインタビューでこう語っていた。

「私は音楽の中にある自由が好きなんだ。あなたが自由をうまく表現できたら、私の曲のエッセンスをうまく捕まえたことになる」

ウーマックは自由でソウルフルな魂を持っていた。そして彼の音楽は長く生き続けることになるだろう。

Written By Paul Sexton


2022年9月9日公開映画『グッバイ・クルエル・ワールド』
オープニングとエンディング曲に、ボビー・ウーマックが歌う楽曲が起用

映画のオープニング曲「What Is This」
楽曲を聴く:https://umj.lnk.to/Womack_WhatIsThis/

映画のエンディング曲「California Dreamin’」
楽曲を聴く:https://umj.lnk.to/Womack_Dreamin/


映画『グッバイ・クルエル・ワールド』

2022年9月9日劇場公開

出演:西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和、奥野瑛太、片岡礼子、螢、雪次朗、モロ師岡、前田旺志郎、若林時英、青木柚、奥田瑛二、鶴見辰吾

監督:大森立嗣
脚本:高田亮
公式サイト:https://happinet-phantom.com/gcw/



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