パンクの美学の具現化:セックス・ピストルズが残した刺激的なヴィジュアルやポスター
パンクの先駆者、セックス・ピストルズはロックン・ロールの行く先を変えた。それだけではなく、当時を見事に蘇らせる写真たっぷりの豪華本『1977:The Bollocks Diaries As Told By The Sex Pistols』を見るとわかるように、彼らはパンクのヴィジュアル感覚をも代表するグループだった。ジェイミー・リードやレイ・スティーブンソンなどの才能あるアーティストやグラフィック・デザイナー、フォトグラファーらと密接にコラボレートし、バンドは自分達のアートワークの制作に深く関わっていた。『1977:The Bollocks Diaries』が思い出させてくれるように、彼らはパンクの破壊的な要素をイメージとして捉え、最も衝撃的だったセックス・ピストルズのアートワークはポップ・カルチャーにおいて今もなお最も象徴的なものとして存在し続けている。
ということで、セックス・ピストルズが残したパンクのベスト・イメージをご紹介しよう。
■Poster Boys(ポスター・ボーイズ)
1977年7月の北欧ツアー、ノルウェイでのライヴの宣伝用に作られたポスターやチラシがある。そこで使用された陽気な写真は、バンドがジョン・ライドンにビールをかけられた光景で、フォトグラファーのピーター・ヴァーノンが撮影したものだ。この写真は、今日までセックス・ピストルズの記事に頻繁に活用されているが、もともとはEMIが所有していたビル・グランディ事件(*)が起きる前のプロモーショナル写真で、ロンドンにあったピストルズのマネージメント会社であるグリッターベスト内のバンドのマネジャー、マルコム・マクラーレンのオフィスにも飾られていた。(*ビル・グランディが司会を務めていたテレビ番組「Today」の中で放送禁止用語を連発し、抗議が殺到。この影響でEMIはバンドを解雇することになった)
■Held To Ransom(脅迫状スタイルのフォント)
最初にセックス・ピストルズのシングル「Anarchy In The UK」でボロボロになったユニオン・ジャックのイメージとともに映し出されたジェイミー・リードの脅迫状のようなスタイルの文字は、後にセックス・ピストルズのアートワークにおいて必須の要素となった。1977年12月の“Never Mind The Bans” UKツアーの広告にも効果的に活用されている。バンドは常に論争のまっただ中にいたが、クリスマスの日に開催されたハダースフィールドでストライキ中の消防士のためのチャリティ・コンサートを含め、ほとんどのコンサートを無事に成功させている。
■They Meant It, Maaaaaaaaaaaan!(本気だったんだぜ!)
オブザーヴァー紙が「パンク時代を最も象徴するイメージ」と述べたのは、伝説的写真家セシル・ビートンが撮影したシルヴァー・ジュビリー(エリザベス女王即位25年記念式典)のエリザベス女王2世のポートレートをもとにしてジェイミー・リードが作り上げたイメージだ。現在でもすぐにセックス・ピストルズの作品と認識することができる。
1977年5月に発表したシングル「God Save The Queen」の青と銀の7インチのスリーヴで女王の顔を裂いたイメージが最もよく知られているが、そこに至るまでに何通りかのアイデアがあった。下記の写真では、ジェイミー・リードがいかにしてこのセックス・ピストルズのアートワークを作り上げたの変遷がわかる。最初に脅迫状の文字を添え、次に下唇に安全ピンを通したが、この時点ではまだ目と口に加工はされていなかった。
女王の目と口を隠し、その上にセックス・ピストルズのロゴと曲名を置くことで、まさに我々が知る「God Save The Queen」のイメージは完成した。レコードのスリーヴに活用されただけでなく、宣伝ポスターにも使用され、伝統的なユニオン・ジャックの旗の上にそのイメージを貼り付け、さらにNME誌とサウンズ誌はシングルの広告としても使用していた。
■Shoplift It While You Can(今のうちにもらっときな)
「God Save The Queen」のプロモーションの中で、この曲はセックス・ピストルズのアルバムには収録されないと誤ってうたわれていたが、「長い間発売されない」という宣伝文句はそうそう現実から遠くもなかった。というのもこのシングルやバンドのデビュー・アルバム『Never Mind The Bollocks… Here’s The Sex Pistols(邦題:勝手にしやがれ!)』は、イギリスの高級百貨店(WHスミス、ウールワース、ブーツ)では販売拒否され、メインのメディア(テムズTV、BBC Radio 1)でのプロモーションも拒否されたのだ。
しかし、NME主催ライヴでのヴァージン・レコードが掲載した印象深い宣伝ポスターが示すように、バンドには上記のような多くの”敵”もいたが、DJジョン・ピール、キャピタル・レディオ、そしてインディ・レコード・ショップといったサポーターも存在していた。1977年の夏に「God Save The Queen」の破壊的な成功を祝福し、このイメージは2017年9月に発売されたセックス・ピストルズのCD3枚組のインタビュー・ボックス・セット『More Product』のジャケット写真に再登場している。
■Road To Nowhere(どこにも辿り着かない道)
なんとか禁止令を逃れ、ヴァージン・レコードはBBCにセックス・ピストルズの3枚目のシングル「Pretty Vacant」を『Top Of The Pops』で放映してもらうように説得した。プロモーション・キャンペーンではさらに衝撃的だが、他と比べると認知度の低い白黒の「Dance To The Sex Pistols」のポスターを制作し、元祖セルフィーとも言えるフォト・ブースでポゴ真っ最中の観客を捉えた写真だった。「Pretty Vacant」のシングル自体は、別のセックス・ピストルズの記憶に残るアートワークで飾られている。ジャケットには壊れた写真フレームと裏面にはジェイミー・リードの名作で、バンドのツアー・バスの行き先が “Nowhere(どこでもない)”と “Boredom(退屈)”と書いてあった。
■Cheap Dialogue, Cheap Essential Scenery(安っぽい会話、安っぽくて必要な背景)
セックス・ピストルズの4枚目のシングル「Holidays In The Sun」は、バンドが当時分断されていたベルリンの街を訪れた経験に基づいて作曲された。見事に破壊的なアートワークとそこから派生したポストカードは、当たり障りのないベルギーでの家族旅行を宣伝するアニメ調のパンフレットからインスピレーションを得ていた。オリジナルを微妙に加工し、ジョン・ライドンによる強制収容所や共産主義に支配される東ベルリンの歌詞を伝えている。しかし、これを当然面白く思わなかったベルギー観光協会はのちにバンドを訴えることになる。
■Retail Therapy(ショッピング・セラピー)
大衆やメディアに悪者扱いされても、『Never Mind The Bollocks…Here’s The Sex Pistols』のアートワークをノッティンガムのヴァージン・ストアの店舗でディスプレイしたことでわいせつ関連の訴訟が起きても、バンドは一切屈することはなかった。ヴァージン創設者のリチャード・ブランソンと彼のチームは、ロンドンのヴァージンのショップにも同じアルバムのアートワークをディスプレイし、ストリートのグラフィティ・アートが注目される以前の時代の人々に、目をひくコラージュ作品を提供してみせたのだ。
ヴァージンのアルバムプロモーション計画はさらに、今では普通に行われている発売前やリリース日限定特典の暗示していた。1977年11月6日を‘セックス・ピストルズの日’と宣言し、レーベルはファンに特別な割引券を提供した。これはヴァージンのノッティング・ヒル・ゲート店で11月6日の午後2時~午後6時まで限定で使用できる割引券で、これがあると『Never Mind The Bollocks…』を希望小売価格から割引で購入出来るものだった。さらに刺激的なことに、その1日は日曜日にあたり、当時のイギリスの店舗の営業時間に関する法律に反していたのだ。
■Unlimited Stock(無限の在庫)
1977年の『Never Mind The Bollocks…』の最初のリリースはそれ自体が伝説だった。1977年11月4日のイギリスのオフィシャル・リリース日に先駆けて、非公式にフランスのバークレー・レコードがプレスした盤がイギリス市場に溢れていた。それに対応するためにまずヴァージンは急遽正規盤から1曲少ない11曲を収録したアルバムを1,000枚のみプレス。これは「Submission」も収録されておらず、カヴァーもシンプルな黒のものだった。
次にヴァージンは同じ11曲のアルバムをビニール包装してリリースしたが、そこには片面7インチの「Submission」(カタログ番号SPOTS001)とバンドの4枚のシングルのスリーヴとその他の8曲のヴィジュアルを描いたコラージュ・スタイルのポスターが入っていた。そしてその数日後に、アルバムの最初のオフィシャルな12曲収録のイギリス盤を予定より早めて発売。それ購入したイギリスのファンも、ポスターをもらうことができた。
アメリカの『Never Mind The bollocks…』の輸入盤にも同じポスターが含まれたが、バンドのアメリカのレーベルだったワーナー・ブラザーズはさらにバンドの北米ツアーの宣伝ポスターも製作。特に記憶に残るこのセックス・ピストルズのアートワークには、ジョン・ライドンの粗い白黒の写真と「God Save The Queen」の歌詞の引用、そして1977年の春にベルリンで撮影されたバンドの写真も使用された。
Written by Tim Peacock
- セックス・ピストルズ アーティスト・ページ
- ピストルズ vs メディア:バンドを悪者に仕立て上げたメディアの当時の見出しを紹介
- ピストルズの『Never Mind The Bollocks』が発売日を早めて発売されUK1位となるまで
- 1976年8月のメロディ・メーカーのパンク特集「素晴らしいのか?それともインチキか?」
- イギリスで最初パンクのファンジン「Sniffin’ Glue」
- 一生モノのデザイン:パンクというアート
セックス・ピストル
『Never Mind The Bollocks: 40th Anniversary Deluxe Edition [3CD+DVD]』
2012年にリリースされた『35周年スーパー・デラックス・エディション』をコンパクトに纏めた商品で 3CD+DVD に48ページ・ブックレット付の形態でのリリース
『1977:The Bollocks Diaries As Told By The Sex Pistols』はカッセル・イラストレーテッド(£25, www.octopusbooks.co.uk)より出版される。