ラッシュ『Signals』解説:シンセを導入しサウンドを刷新した名盤
ラッシュ(Rush)は、アルバムごとに自分たちのサウンドを刷新することで常に称賛されてきた。しかし、1982年の『Signals』は、その中でも最も大きな改革だったのかもしれない。
『Signals』は「キーボード時代」の始まりであり、アレックス・ライフソンのギターと同等にシンセサイザーを目立たせた最初の作品である。しかし、それと同じくらい重要なのは、『Signals』でグループが曲作りを合理化したことだ。壮大な長さの曲はなくなり、メロディーを前面に押し出すようなアレンジが施された。
ポリス、ピーター・ガブリエル、トーキング・ヘッズ、そしてボブ・マーリーなど、モダン・ロックの最高峰からインスピレーションを得た楽曲が、『Signals』ではラッシュならではのアレンジで聴けるようになったのだ。ラッシュは“プログレ”バンドではなく、進化するという真の意味での“プログレッシブ”・バンドとなったのである。
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アルバムの内容
このアルバムは、雰囲気のあるオープニング・トラックを持つ最初のラッシュのアルバムだった。「Subdivisions」では、リード・ギターの代わりにミニモーグのサウンドが大きく使われている(鍵盤はすべてライフソンとゲディ・リーが演奏し、ステージで二役をこなすことになった)。
その他にも、新しい試みがあった。ゲティ・リーはより広い音域で繊細に歌うようになり、ニール・パートはSF的な歌詞のテーマから切れ味鋭く社会批判をするようになった。「Subdivisions」は、郊外の息苦しさを歌ったロックンロールの伝統にふさわしい曲である。しかし、この曲はさらに一歩進んで、社会的な期待に従わない子供たちが仲間はずれとみなされ、歌詞では「順応するか、追い出されるか」という選択が描かれる。
驚きの展開は続く。『Moving Pictures』で始まった“Fear”三部作第二部である「The Weapon」は、6分間にわたって緊張感を高め、そこにニール・パートによるドラムのアクセントが効いている。
「The Analog Kid」では、ギターを多用したサウンドに少し戻るが、豊かでエモーショナルなコーラスが加わっている。「Digital Man」では、歌詞にラスタファリアンのイメージを取り入れ、ラッシュが初めてレゲエを取り入れたことが分かる。
その影響は、ラッシュのキャリアで最も成功したシングルとなった「New World Man」にも現れている。この曲はラッシュが全米でトップ40に入った唯一の曲であり、カナダでもバンドの最初で最後の1位を獲得した。
ラッシュの前作ともこれからとも違う曲
ここまでの『Signals』のサウンドは、メロディックでありながら筋肉質なものである。しかし、エンディングの2曲「Losing It」「Countdown」は、ラッシュの前作ともこれからとも違うものとなった。
「Losing It」はバロックに近いイントロを持ち、全編にわたってヴァイオリンが演奏されている。ラッシュの曲の中で最も心に残る曲のひとつで、その歌詞は時間の経過とともに創造力が失われていくことを訴えている。80年代のロックスターの多くがあまり触れたがらなかったテーマだが、ラッシュは次のアルバム『Grace Under Pressure』で再びこのテーマに触れることになる。
対照的に、「Countdown」は文字通り高揚感を与える曲となった。NASA初のスペースシャトル「コロンビア」の離陸を目撃した後、バンドはこの曲を書いた。そして「Countdown」は、その出来事を文字通り音楽で表現したもので、アレンジでは効果音が重要な役割を担っている。
バンドは管制塔からの合図に終始反応し、その下でエンジンの回転が上がる音が聞こえる。歌詞では、ラッシュのお気に入りのテーマの一つである人類が達成する栄光を称えている。また、この曲は『Signals』全体の良いメタファーにもなっている。勇敢な新世界へ飛び立つというのは、まさにこのアルバムのテーマなのだ。
Written By Brett Milano
ラッシュ『Signals』(40周年記念エディション)
2023年4月28日発売
日本盤CD / 限定ボックス / LP
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