ザ・ローリング・ストーンズが語った新作の制作、チャーリーとビル、そして次なる新作
バンドがアルバムのリリース期間をなるべく空けるようにと言われることはほとんどない。流行の移り変わりの速い音楽市場では、最後にアルバムを出した時の世界とはまったく違う世界になっていることがしばしばある。しかしザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の場合、前回のスタジオ・アルバムから18年という空白期間が、新譜『Hackney Diamonds』への期待を熱狂的に高めるのに役立った。
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出る気配がなかったスタジオ・アルバム
前回のアルバム、2005年の『A Bigger Bang』の発売以降、次のアルバムのレコーディングをしていると噂されたことが何度かあった。確かにセッションはあったが、それらは焦点が定まっておらず、ほとんど実りのないものだった。誰がそう言ったのか?ミック・ジャガー自身だ。
「たくさんレコーディングしたし、セッションもたくさんやった。でも、別に締め切りはなかったし、“来週これを完成させよう”なんてこともなかった。ただ “2週間レコーディングをやれ”というだけで、その後にまた一緒になる予定はなかったんだ」
2012年の「Doom & Gloom」や2020年の「Living In A Ghost Town」のように、時折印象的なシングルのリリースはあった。しかし、記録的なツアーが終わるたびに、バンドはそれぞれの活動や私生活を過ごしていた。彼らが集まるのは、アルバムを作るためではなく、次の壮大なツアーのためのリハーサルを始めるためがほとんどだった。
こうして『50 & Counting』『14 On Fire』『Zip Code』『América Latina Olé』『No Filter』、そして昨年の『Sixty Celebration』といった数々のツアーで世界中を回り、何百万枚ものチケットが売れた。その間に彼らがスタジオで作り上げたのは、2016年に発売してグラミー賞を受賞したブルースのカヴァーアルバム『Blue & Lonesome』だけだった。
2021年にドラマーのチャーリー・ワッツが亡くなり、新作がないまま2022年のバンドの60周年が過ぎてしまい、我々はストーンズの新作がまったく出ないのではないかと思っていた。
新しい風を吹き込んだアンドリュー・ワット
それが一変したのは、彼らがついにスタジオ入りを確約し、新しくタッグを組んだ現在33歳で、グラミー賞受賞歴のあるプロデューサー、ニューヨーク出身のアンドリュー・ワットを迎えたときだった。彼ら自身の説明によれば、アンドリューは由緒あるロックの名門に新しい風を吹き込んだ。お試しセッションの後、彼らは2022年の12月にL.A.で本腰を入れ、ミック・ジャガーはバンドにバレンタインデーという〆切を与えた。キース・リチャーズは、61年来のバンドメイトであるミックについてこう語る。
「やつのプッシュには脱帽だったよ。あいつは“さあ、何かをやるしかないんだ。何をやるかは関係ない。俺達はレコードを作るんだ”って言ったんだ。俺はこう応えた。“オーケー、詮索はしないでおくよ。何か歌いたいことがあるんだろう”。やっぱり、あいつはたくさんのことを蓄えていたよ」
「アンドリュー・ワットと一緒に仕事ができたのは嬉しかったよ。あいつがガソリンを入れてくれたから、走り続けることができたんだ。少なくとも俺からの意見だけど、このアルバムで最も重要なことは、エネルギーに満ち溢れ、電撃作戦を強いることができたってことだ。全力を尽くすか尽くさないか、どちらかだったけど結果は俺達が望むようになった。面白い作業だったよ。実はまだ追いついてないぐらいさ、昔はこんなに早く仕事をしたことはなかったからね」
ミック・ジャガーはこう付け加える。
「俺たちはあまりにも長い間、ぐずぐずしていて、集中もできていなかった。目標も明確でなく、ただ流されていたんだ。そのことで誰かを責めるつもりはない、他の誰よりも俺自身の責任だしね。でも、これ以上流されるわけにはいかないと悟ったんだ。きちんと、本当に集中してくれる人と素早くやらなければならない。そして、俺達はやり遂げたんだ」
しかも、その〆切はほぼ守られた。ミックはこう語る。
「しばらくして、俺たちがどこまで到達しているかがわかったし、作業のスピードも速かった。少なくとも1日に2、3曲はやったね。2曲の時は次の日に録音する曲のリハーサルをした。そんなに早い時は、止まる必要なんてないだろ。カッティングをしていたのは3週間ぐらいだったと思うよ」
ポールの参加について
レディー・ガガとスティーヴィー・ワンダーによるゲスト参加は、アルバム・リリースに先駆けて公開された「Sweet Sounds of Heaven」で披露され、ポール・マッカートニーは「Bite My Head Off」で見事なベース・ソロを披露している。ミックはポールについてこう語る。
「ポールは本当に楽しそうだったよ。俺は彼にどの曲で演奏するように勧めたらいいのかわからなかった。そうしたらアンドリューが“Bite Your Head Offで”と言ったんだけど、俺はポールがあの曲は趣味じゃないかと思った。でも彼はこの曲を選んで素晴らしい演奏をしてくれたよ」
ミックはアルバムの制作についてこう続ける。
「そうなってよかったとしか言いようがないし、本当に楽しかった。前からこうなっていればよかったと思うけど、やる理由がなかったんだ。俺たちがちょっと怠けていたこともあるだろうね。別に緊急性もなかったし、ちょっとイライラしていたかもな。だから、緊急性を持たせる必要があったんだ。“よし、お前たち支度はできた?”って聞いたら、みんなその気になってくれた。俺が言うだけで、みんなその気になってくれたし、みんながとても協力的でいい感じだったんだ」
史上最大のロックバンドに自分の望みを伝えたアンドリュー・ワットの自信は、大きな変化をもたらした。アンドリュー・ウッドについてミックはこう表現している。
「若い男の子で、燃えていて、前面に出てくれて、威張り散らしてたよ(笑)。彼の指示に従うことは、とても心強くて、喜ばしいことだった。アンドリューは楽器の演奏もできるし、自分が何をしたいのかもわかっている。彼こそ俺たちが必要としていた人物だったんだ」
ファースト・シングル「Angry」
長年にわたってベースを担当しているダリル・ジョーンズがレコーディングに参加できないことがあったため、代わりにアンドリュー・ワットがベースを弾いたナンバーがあり、ミック・ジャガーとキース・リチャーズとの共作曲も3つある。そのうちのひとつが、切迫した、抑えがたいファースト・シングル「Angry」で、この曲はアルバムからの最初の新曲となり世界中で話題となった。ミックはこう語る。
「この曲でスタートを切ったことが良かったと思う。(アルバムの)最初のほうにレコーディングした曲だ。蹴り上げるようで、求めていたものだよ」
ロニー・ウッドはこう付け加える。
「楽曲の受け入れられ方には、ただただ驚いている。信じられないよ」
チャーリー・ワッツとビル・ワイマンの演奏
『Hackney Diamonds』は、長年の友人であるドラマーのスティーヴ・ジョーダンとの初のアルバムとなった。彼は、チャーロー・ワッツが体調を崩した時には代わりにドラムを担当することを、生前本人から正式に許可されていたが、残念ながら今回はそうなってしまった。ロニー・ウッドがこう語る。
「チャーリーがスティーヴにバトンを渡した後も、この船は航海を続け、俺達は止まることはなかった。“チャーリーは俺達が止まることなんて望んでいないはずだ”と帆に風を送り続け、スティーヴ・ジョーダンの大きなサウンドとともに、俺たちは進み続けたんだ」
しかし、2019年にレコーディングされたディスコ風味の「Mess It Up」とロック調の「Live By The Sword」の2曲でチャーリーの演奏を聴くことができる。後者はエルトン・ジョンがピアノで参加した2曲のうちの1曲でもある。さらに感動的なことに「Live By The Sword」では(元バンド・メンバーの)ビル・ワイマンがベースを弾いており、失われた時代の再現となっている。ミックはこう説明してくれた。
「ビルに来てもらったんだ。僕が“チャーリーと演奏した古い曲で、最近やった曲ではないんだけどやりたいか?”って聞いたんだ。そうしたらビルは “いいね、やりたいね”って。オリジナルのリズム・セクションであるビルとチャーリーが参加しているから、あの曲は少し違ったグルーヴを持っていると思うよ」
故チャーリー・ワッツの演奏について尋ねると彼はこう付け加えた。
「感傷的ではある。でも、彼が参加しているという事実は、別の意味で気に入っている。あの時期にレコーディングしたチャーリーが参加した曲の中には、本当に素晴らしいものがいくつかあるんだ。他にも出すかもしれないね」
次なる新作とツアー
実際、3週間のレコーディングで23曲もの素晴らしい曲が生まれ、すでに次のアルバムの可能性が取り沙汰されているほどだ。ミックはこう言う。
「仕上げる必要があるけど、次のアルバムを出す準備はできているよ」
特に、アルバムの発売前日にニューヨークで行われたローンチ・パーティで新曲と過去の名曲を40分間に渡って演奏したことを受けて、新しいツアーの日程が組まれる可能性もある。キースはこう明かす。
「ステージに上がる頃には、(新曲は)素晴らしいものになってるよ。それが全体の計画なんだ。ミックが言うように、“レコードを完成させよう”だ。俺はこう聞く “それでどうする? そうか、ツアーに出るんだ”って。たぶん来年かな」
そして一歩引いて、彼はこう締めくくった。
「ある意味、とても奇妙なことだ。(今までは)“なんてことだ、新譜を出すんだ!”っていっても、“それっていつまでに?”だった 。だから、またこのことに慣れつつある。忘れてしまうけどね。時が経つのは早いものだ。こういうことがいつ起こるかなんて誰にもわからない。18年なんて信じられないよ。でも、この歳になると、何でも信じられるようになるんだよ」
Written By Paul Sexton
最新アルバム
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