ヘンリー8世の伝記から生まれたリック・ウェイクマン『Six Wives Of Henry VIII(邦題:ヘンリー八世の六人の妻)』
我々はリック・ウェイクマンに対して、感情に流されない男っぽい普通の人でありながら、派手な浪費が好きというイメージを抱いているので、彼が繊細な感情を持っていると知るとショックに近い驚きを感じてしまう。1973年にA&Mから発売された初のソロ・アルバム『Six Wives Of Henry VIII(邦題:ヘンリー八世の六人の妻)』について、リック・ウェイクマンは、自身のウェブサイトで「発売時の酷いレヴューにものすごく傷ついた」と語っている。その自信過剰の野心と挑戦的で難解な作品について、評論家の中には悪評する者もいた。『Six Wives Of Henry VIII』という作品は人気や評価を求めることに病的に反対しているかのように思えるが、そんなことは売り上げには悪影響を及ばさなかった。アメリカでは50万枚以上の売り上げを果たし、インストゥルメンタル・プログレッシヴ・ロックの最高の実績を残したことで今でも知られている。
リック・ウェイクマンはイエスとの初のアメリカ・ツアー中に飛行場の売店で買ったヘンリー8世の伝記を読んでインスピレーションを得た。『Six Wives Of Henry VIII』では、キーボーディストであるリック・ウェイクマンがしばらくの間もてあそんでいた一連のメロディを形にすることにした。イエスやストローブスのかつての、そして当時のメンバーたちを集めて結成したアンサンブルと共にリック・ウェイクマンは自分の曲を独特なテーマと音質で完成させ、6人の妻それぞれのキャラクターと運命を音楽で表現している。
アルバムは全体的に積極的だ。「Anne Of Cleves」は特に驚くぐらい毅然としていて凶暴で、熱狂的。その反対に「Catherine Howard」は礼儀正しいピアノで始まり、キャット・スティーヴンスの「Morning Has Broken(邦題:雨にぬれた朝)」でのウェイクマンの演奏を連想させ、そこから喜びに満ちた即興へと発展し、背景の冷たいメロトロンに反してハープシコードがホンキートンクを奏でる。
アルバムの中で最も“チューダー様式を真似た”間奏曲である「Jane Seymour」は、セント・ジャイルズ=ウィズアウト=クリップルゲート教会のオルガンを印象的に鳴り響かせ、「Anne Boleyn」は初期のモノフォニックのミニモーグやARPシンセ愛好者にはたまらないトラックとなっており、ジャズ調のイントロは素早く複雑なネオ・クラシカルな楽句と正弦波シンセの楽句へと変わっていく。
『Six Wives Of Henry VIII』はメロディ溢れるプログレッシヴな傑作「Catherine Of Aragon」で始まり「Catherine Parr」で終わる。「Catherine Parr」はアルバムの中で最も素晴らしいトラックで、ハモンドC3でドラマティックに色付けられている。それはリック・ウェイクマンの完璧に制御されたアルペジオとビル・ブルーフォードの恐るべき想像に溢れるドラム演奏によってキビキビと後押しされている。
Written By Oregano Rathbone
リック・ウェイクマン『Six Wives Of Henry VIII』
『Six Wives Of Henry VIII』のオープニング・トラック「Catherine Of Aragon」など、数多くの野心溢れる楽曲を含むプレイリスト『Prog Rock』をフォロー。