ウイングス『Venus and Mars』解説:英米で1位を獲得した誰もが楽しめる様々な要素が詰まった傑作

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この作品のことは、“組曲『惑星』のポール・マッカートニー・ヴァージョン”と呼んでもいいかも知れない。1975年5月27日に発売された『Venus And Mars』は、『Band On The Run』に続く作品を作るというウイングスにとっての大きな挑戦を見事にこなし、高まる人気の中で USとUKの両方でチャートのトップを飾り、更には1年間続いた世界ツアーを行うまでとなった。


『Venus And Mars』の初めてのセッションは1974年11月に行われた。それはマルチ・プラチナムを獲得し人気が続いていた前作『Band On The Run』の発売からまだ1年が経つ前の時期だった。ナイジェリアのラゴスでの『Band On The Run』のレコーディングで経験した幾多の試練を乗り越えて、アビイ・ロードでの最初のセッションは新しくなったラインアップで行われた。ポールとリンダ・マッカートニー、そしてデニー・レインの他に、リード・ギタリストのジミー・マカロックとドラマーのジェフ・ブリトンが加わったのだ。

ロンドンにて5人のメンバーたちは「Letting Go」「Love In Song(邦題:歌に愛を込めて)」、そして「Medicine Jar」を完成させたが、新年に予定されていたニューオーリンズのシー・セイント・スタジオでのレコーディングはジェフ・ブリトンの突然の脱退により、再び活動に大打撃を与えた。ニューヨーク出身のジョー・イングリッシュがすぐに代わりとしてバンドに加わり、平静を保ちながらウイングスは非常に実りが多い1ヶ月をクレセント・シティで過ごし、再び満足感が得られる作品を完成させた。

アルバム発売の直前に、高揚感のある「Listen To What The Man Said(邦題:あの娘におせっかい)」がファースト・シングルとしてリリースされ、アメリカとカナダの両方で1位に、そしてUKを含む多くの国でトップ10入りを果たし、魅力的なヒット曲となった。トム・スコットが記憶に残るソプラノ・サックスのソロで、曲のパワフルなメロディと調和したヴォーカルを助長させ、元トラフィックのメンバーであるデイヴ・メイソンがギターで参加した。

「Venus And Mars/Rock Show」や「Call Me Back Again」のロック・リフから、1920年代調のラヴ・ソング「You Gave Me The Answer(邦題:幸せのアンサー)」、そしてジミー・マカロックとコリン・アレン共作の「Medicine Jar」まで、『Venus And Mars』は誰もが楽しめる様々な要素が詰まった作品である。長年放送されたイギリスのテレビ・メロドラマ『クロスロード』のテーマソングのインストゥルメンタル・ヴァージョンも少しだけ含まれている。

「僕たちは音楽の街と天気を求めてニューオーリンズへ向かったんです」とポール・マッカートニーはアルバム発売当時メロディー・メイカー誌に語っている。「そうしたら丁度マルディグラ(謝肉祭の最終日)の時期でした。殆どの曲はニューオーリンズへ行く前に書いていて、ジミーが1曲友人と一緒に書いてくれました。ニューオーリンズへ行く前には、生まれて初めてジャマイカに行ってて、そこですべての曲をまとめたんです。すべて書き下ろして、ひとつの長い巻物のように繋がってまとめてあった。だからスタジオに着いたらレコーディングにすぐに取り掛かることができました」。

アルバムはUKチャートで3位にランクインされ、その後に2週1位にランクインされ、14週間トップ10に登場した。ミリオンセラーとなったUSでは、エルトン・ジョンの『Captain Fantastic And The Brown Dirt Cowboy(邦題:キャプテン・ファンタスティック)』に取って代わって7月に1週間トップを飾った。

バンド・メンバー内での調和があまりにも良く保たれていたお陰で、1975年の9月にウイングスは『Wings Over The World』ツアーで北米、ヨーロッパ、オセアニアで65公演行い、翌年の10月までそれは続いた。

Written By Paul Sexton


ウィングス『Venus And Mars』




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