ケミカル・ブラザーズ『Dig Your Own Hole』解説:ブリットポップ全盛期にビッグビートで挑んだ挑戦
エド・シモンズとトム・ローランズによるケミカル・ブラザーズは、セカンド・アルバム『Dig Your Own Hole』が発売された1997年4月7日には、すでにダンス・ミュージック界では大ヒットを飛ばしていた。
彼らは何年も前からインディーロッカーたちとコラボレーショーンをしており、1995年に発売されたデビュー・アルバム『Exit Planet Dust』にてメインストリームに向けて参入を開始。そして傑作と言われることになるセカンド・アルバム『Dig Your Own Hole』で、ケミカル・ブラザーズはブリットポップ全盛の時代にビッグ・ビートで殴り込みをかけた。
ファースト・アルバム『Exit Planet Dust』ではザ・シャーラタンズのティム・バージェスがヴォーカルで参加した「Life Is Sweet」でその世界観を創り出していたが、セカンド・アルバム『Dig Your Own Hole』は前作とは別世界のようになった。「Setting Sun」ではオアシスのノエル・ギャラガーがストロボライトの下で突然動き出して、「Where Do I Begin」ではケミカルにはお馴染みのコラボレーターであるベス・オートンが至福の瞬間に溶け込むように歌い、60年代から90年代へのアップデートされたポップ・サイケデリアの雰囲気は、油絵の具のように広がっていく。
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アルバムの収録楽曲
燃え上がるようなダンス・ミュージックをルールに持つケミカル・ブラザーズはアルバム冒頭曲「Block Rockin’ Beats」では、大衆のために彼らの方式を少し咀嚼しやすくしたが、生のベース、ブレイクビーツ、スクラッチの揺らぎはすべて残したまま、最も新鮮なサウンドの形を披露している。
そして、2曲目のタイトル曲「Dig Your Own Hole」ではBPMを確信犯的に上げる。エレクトロ・リバイバルの先駆けであり、新世紀に入ってからその評価が本格化した3曲目の「Elektrobank」は、ヒップホップ初期を思わせるクール・ハークの声をフィーチャーし、あまりの推進力に粉々になりそうになりながら、脳天に響くサイケデリアの弧を描いていく。
この曲「Elektrobank」はこの後の方向性を示すものであり、ケミカル・ブラザーズの伝統的な手法は、心を広げるような4曲目の「Piku」へと移行していく。そして、ノエル・ギャラガーが現れ、アルバムのリード・シングルである「Setting Sun」が始まる。ケミカルはノエルを深い水の中に突き落とすと、その後ノエルは電子的なトリックによって変身してその姿を現すのだ。
5曲目の「Setting Sun」はザ・ビートルズによる60年代後半のサイケデリックな時代を更新しながらも、山を破壊するようなギターと激しいビートの否定しがたい力によって、このグループの独自性を作り上げることに成功した。
80年代のインディー・ポップのような雰囲気が漂う10曲目の「Where Do I Begin」では、より牧歌的で穏やかなサイケデリック・ソングを奏で、そしてその後、再びビートが襲ってくる。
アルバムを締めくくる楽曲「The Private Psychedelic Reel」ではインディーとサイケのクロスオーバーが最も顕著に表れている。この9分間のシングルには、リバーブのかかったクラリネットを聴くことができるが、これは霞がかったアメリカのサイケロッカー、マーキュリー・レヴから提供されたものだ。
『Dig Your Own Hole』は、デビュー・アルバムをベースとしながらも、その後の彼らのキャリアを方向付ける作品となった。ケミカル・ブラザーズは、ダンス・ミュージックという、禁断の砦から出発しながらも、バラエティに富み、深みがあり、有名アーティストや輝かしい新人がゲスト参加しているアルバムを作り上げたのだ。そしてそれからも何度も同じような傑作を発表し続けている。
Written By Phil Smith
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ケミカル・ブラザーズ「Dig Your Own Hole」25周年記念盤
2022年7月29日発売
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*オリジナルアルバムに5曲の未発表を追加
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