reDiscover:マーク・アーモンド『Stories Of Johnny』
マーク・アーモンドが1984年に突然ソフト・セルを解散した時、もう二度とチャートで彼の名を見ることはないだろうと思ったとしても不思議なことではない。2枚のアルバムをリリースしながらも、サイド・プロジェクトとして結成したマーク・アーモンド&ザ・マンバスは、陰気で激しいテーマをファンたちに説いている。その忠実なファンたちは熱心にマーク・アーモンド&ザ・マンバスのアルバムを聴き入ったが、それが商業的な成功を収めることはなかった。
1985年に発売された『Stories Of Johnny』はマーク・アーモンドがその殻をやぶった様子を反映したサウンドで 、より幅広い聴衆をとらえた。彼はそのことを伝記「Tainted Life」の中で“自分でいられるアルバム”と述べていたが、簡単な選択肢を受け入れることは拒否した。マーク・アーモンド&ザ・マンバスのメンバーたちを集めてウィリング・シナーズを結成したマーク・アーモンドは、破壊的でありつつも、より親しみやすいスタイルを生み出した。
今作は、彼にインスピレーションを与えたアーティストの多くを特徴づける豪華なオーケストレーションが、マーク・アーモンドの演劇のようなメロディを暖かい輝きで包んでいる。1985年8月にアルバムからのファースト・シングルとして「Stories Of Johnny」が発売され、マーク・アーモンドはソフト・セル解散後初めてソロ・アーティストとしてUKチャートに登場した。アルバム発売前は23位に、そして10月の発売後には22位にランクインした。その夏にはブロンスキ・ビートとのデュエット曲「I Feel Love (Medley)」が3位にランクインしたが、それは正に本格的なカムバックと思えた。
『Stories Of Johnny』のオープニング・トラック「Traumas Traumas Traumas」も同じく魅惑するトラックで、催眠のようなリズムで聴いた者たちをダンスフロアへ誘いこみ、明らかにスコット・ウォーカーの影響を受けている曲だ。そして最終的にはより幅広いファンたちを惹きつけた。セカンド・シングルとなった3曲目の「The House Is Haunted (By The Echo Of Your Last Goodbye)」は、より暗くて陰気で、UKチャートで55位にまでしかあがらなかったが、ファースト・シングルがもたらした軽い気晴らしの後に発売されたことにより、マーク・アーモンドが探し求めていたパレットを新しく洗い流すきっかけとなった。
「Love Letter」は恐らく最も商業的なトラックである。68位にランクインしたこのシングルはアルバムと一緒に発売され、その頭から離れないメロディは、まるでマーク・アーモンドが以前のバンドと作ったかのようなサウンドで、入れ替わりの激しいシンセサイザーがその頃のキャリアの段階では珍しかったアーモンドの陶酔した音程へと後押しする。UKチャートでそこまでの成功を収めなかったことはシングルとアルバムの発売のタイミングが悪かったことを反映している。その夏ライヴエイドが音楽界に大きな変化をもたらし、繊細さやニュアンスといった考えよりもより広範囲でベーシックな作品が好まれたのだ。
「The Flesh Is Willing」ではダークな歌詞が勢いよく歌われ、マーク・アーモンドの作品の中では明るくてより親しみやすいトラックとなっている。「Always」は暖かみのあるトラックで少しだけ明るく、マーク・アーモンドの他の明るめの曲のように、正当に評価されていないポップ・トラックとなっている。1988年の「The Stars We Are」など、後に成功したトラックはこの作品にそのルーツがあり、当時のラジオ・オンエアを確保していたアーティストたちはその曲を手に家でくつろぎながら『Top Of The Pops』を見ていただろう。
以前のトラックが冷やかしだったとしたら(ダンスフロアでぐるぐる回れると約束したのにやり通してはくれなかった)、「Contempt」はやっとその約束を果たしてくれた。彼の両親が好んで聴いていた曲に似たこのトラックは、マーク・アーモンドらしい非常にユニークな鋭さで作られている。もし「Contempt」をザ・ビートルズがルールを壊す前に流行っていたブリティッシュ・ポップの系統だとするならば、「I Who Never」も過去を推している。シングルに相応しい密度の高いハーモニーは、全盛期のシラ・ブラック、ダスティ・スプリングフィールド、サンディー・ショー、もしくはルルがきっと必死に欲しがっただろう。
「My Candle Burns」はもっと陰気で、ムードを少し抑えるために書かれ、リスナーに素晴らしい「Love And Little White Lies」を聴くための心の準備を与えている。野心で上昇しながら、伝統的な曲の構成に縛れることを拒むその楽曲は、アルバムの劇的な瞬間を象徴しつつ、アルバムの幕を閉じている。
60年代ポップを彷彿させ、マーク・アーモンドの憧れのヒーローたちの存在をしめし、より機嫌が良い時の黄金な輝きを放つマーク・アーモンドを反映する長いソロ・キャリアの推進力は、ここで構築されたのだろう。ソフト・セルの大成功、そしてある特定の曲が生み出した不安は、マーク・アーモンドに影を落とすこともあったが、ファンが長いこと聴くことがなかった陽気さもそこに存在する。
あの夏に作ったブロンスキ・ビートとのデュエットと匹敵はしないが、久しぶりにマーク・アーモンドは再び楽しんでいるように見えた。他のミュージシャンが探検することを避ける厄介な空間への興味をまだ抱いていたが、察した笑みで彼は偽りのない気持ちでファンたちを招いていた。安心してその招待を受け入れられる。しかも想像よりも心温まる歓迎だった。
by Mark Elliott