ジャック・ブルース、ソロ・キャリアを再開した1974年の『Out Of The Storm』
今は亡き、そして偉大なるジャック・ブルースが残した数多くの作品の中には隠れた宝石が存在する。その一つをここで紹介しよう。ソロ作品である『Out Of The Storm』は1974年に少しの間だけUSチャートに登場した。
ウェスト、ブルース&レイングのロック・トリオがその終わりを迎えると、ジャック・ブルースはソロ・キャリアを再開しこの作品をリリースした。ウェスト、ブルース&レイングの1972年の作品『Why Dontcha』の指揮を手掛けたアンディ・ジョーンズとジャック・ブルースの二人でプロデュースした。アンディ・ジョンズは当時数多くのそうそうたるミュージシャン達が信頼を寄せていたスタジオ・プロデューサーであり、レッド・ツェッペリン(1973年の『Houses Of The Holy(邦題:聖なる館)』)やザ・ローリング・ストーンズの作品をいくつも任された。その内の一枚であるザ・ローリング・ストーンズの『It’s Only Rock ‘n Roll』は、ジャック・ブルースのアルバムとほとんど同時期に発売された。
この画像のビルボードの広告に記載されているように、『Out Of The Storm』でジャック・ブルースは元クリームで一緒にメンバーをしていたエリック・クラプトンと再び組み、RSOレーベルから作品をリリースした。当時のジャック・ブルース作品にしては珍しく、LPのほとんどがアメリカ西海岸でレコーディングされたために、当時アメリカを代表するトップ・ミュージシャンたちの協力を得ることが可能となった。その中にはドラマーのジム・ケルトナーとジム・ゴードン、“ザ・ディーコン”と呼ばれルー・リードやアリス・クーパーとの演奏で知られるギタリストのスティーヴ・ハンターがいた。
彼らの優れた演奏も貢献し、『Out Of The Storm』はジャック・ブルースの大傑作となった。彼自身も、アルバムの楽器の多くを演奏し、トレードマークであるベースだけではなくキーボードやハーモニカなども演奏している。「Keep On Wondering」はそのマルチ演奏の良い例である。
「Running Through Our Hands」(ジャネット・ゴッドフリーが作詞を手がけた)等のような少しだけ不気味なエレクトリック・ピアノやその他のエフェクトは更に作品を引き立たせた。オリジナル8曲を含むアルバムは、ジャック・ブルースの野心あふれる音のパレット、その独特なヴォーカル、そして生涯にわたる作曲パートナーであるピート・ブラウンの変わらぬ神秘的なリリックを象徴している。
シングルとしてリリースされた「Keep It Down」では、ジャック・ブルースの機敏なベース演奏が披露されているだけではなく、スティーヴ・ハンターのロック・ギターも鮮やかで、「Into The Storm」(アルバムのオリジナル・タイトル)でジャック・ブルースはピアノを弾いており、より思慮深いロック・アルバムへのアプローチが特徴となっている。2003年のリイシュー盤CDには5トラックの初期のミックスが収められている。
アルバムはUKチャートに登場することはなかったが、すぐにニューヨークのWLIRやフィラデルフィアのWMMRなどメジャーなFMラジオ局で放送されるようになった。ディープ・パープルの「Stormbringer」、リンダ・ロンシュタットの「Heart Like A Wheel」、そしてマーシャル・タッカー・バンドの「Where We All Belong」などのロックを代表する曲と共にラジオのプレイリストに仲間入りした。
『Out Of The Storm』は11月30日の週のビルボード誌のトップLPチャートで“そこそこの”位置にランクインされ、一週間後には全米アルバム・チャートに183位でデビューを果たした。それから166位、そして160位にまで昇ったが、残念なことにクリスマスの頃にはチャートから姿を消した。しかし今でもこのアルバムは1970年代のイギリスで生まれた数多くの素晴らしい作品のひとつとして挙げられることが多い。
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ジャック・ブルース『Out Of The Storm』