オールマン・ブラザーズ・バンド『Idlewild South』:過小評価された2作目のアルバム
オールマン・ブラザーズ・バンドの2枚目となるアルバムは、作曲も手掛けたデュアン・オールマンとディッキー・ベッツ、二人のリード・ギターを含む「Revival」で始まる。「Revival」はインストゥルメンタルのように聴こえるが、1分半過ぎたあたりでヴォーカルが入ってくる。元々はヴォーカル無しで作られたトラックだったが、後から思い付いてヴォーカルが足された。人によっては過小評価される作品にぴったりのオープニング・トラックだ。
この典型的なサザン・ロックはアルバムの他の曲と共に1970年の2月から7月の間にかけてレコーディングされ、同年の9月23日にリリースされた。ジョージア州メーコンにあるカプリコーン・サウンド・スタジオ、フロリダ州マイアミにあるクライテリア・スタジオ(アトランティック・サウス)、そしてニューヨーク市にあるリージェント・サウンド・スタジオにてレコーディングが行われた。デビュー・アルバムと同様、この作品もあまり知られていないスタジオ・アルバムの1つであるが、もっと大勢の人に聴いてもらうに値する作品である。
『Idlewild South』のリリースは、デュアンが後に『Layla and Other Assorted Love Songs(邦題:いとしのレイラ)』となるアルバムをエリック・クラプトン、ボビー・ウィットロック、カール・レイドル、そしてジム・ゴードンとクライテリア・スタジオでレコーディングした直後だった。
バンドがリハーサル用に借り、殆どの曲が作られた人里離れた農家/山小屋からタイトルがつけられた『Idlewild South』には、バンドの最も人気ある2曲「In Memory of Elizabeth Reed(邦題:エリザベス・リードの追憶)」と「Midnight Rider」が収録されており、両曲ともオールマン・ブラザーズが最もライヴで演奏した曲でもある。「In Memory of Elizabeth Reed」はアルバム『At Fillmore East』のハイライト・トラックでもある。
それらはオールマン・ブラザーズ・バンドがレコーディングで成し遂げるユニークな特質であり、彼らの曲が広範囲にカヴァーされることは少ないが、「Midnight Rider」は例外だ。ジョー・コッカーのカヴァーが1972年にヒットしている。グレッグ・オールマンが1973年にソロ・アルバムで違うヴァージョンをレコーディングし、シングルが全米チャートにランクインされた。1976年にはポール・デビヴィッドソンのレゲエ・バージョンがイギリスにてヒットとなり、1980年にはアウトロー・ロックのボス、ウィリー・ネルソンが全米カントリー・チャートでトップ10 入りを果たした。その他にもパティ・スミス、アリソン・クラウス、マイケル・マクドナルド、ボブ・シーガー、そしてハンク・ウィリアムズ・ジュニアがカヴァーをしている。
伝説的なアトランティックのプロデューサーでエンジニアのトム・ダウドがオールマン・ブラザーズ・バンドのプロデュースを手掛けたのはこのアルバムが最初となる。レコーディング中、バンドは常にツアーを行っていたので、そのサウンドにあまりにも磨きがかかっていたため従来のマルチ・トラック・レコーディングではなく、バンドとダウドは『Idlewild South』の殆どをスタジオにてメンバーが同時に演奏するライヴでレコーディングすることを決めた。ダウドによると、「オールマン・ブラザーズ・バンドの特徴のひとつは奔放、もしくは弾性であること。敏感になれるところはパートやテンポが変化する。デュアンはよく後でまた取り掛かることや、ツアー中にライヴで試してみたりと、一度曲のレコーディングから離れることを提案します。彼らは例えば5曲だけレコーディングします。そして“あの曲はいまいちだ”とか“あの曲はまだレコーディングするには早い”などと話し合います」。
アトランティックのジャズ・プロデューサーとして知られるジョエル・ドーンが「Please Call Home」を手掛けた。その他にもドーンとレコーディングした曲はあるが、アルバムに収録されたのはこの曲だけとなった。グレッグ・オールマン作曲の「Don’t Keep Me Wonderin’」ではデュアンがスライド、そしてトム・ドゥーセットがハーモニカを演奏している。トム・ドゥーセットはベーシストのベリー・オークリーのフロリダ出身の旧友である。
ディッキー・ベッツが壮大な「In Memory of Elizabeth Reed」を作曲し、自身も関係を持ったボズ・スキャッグスの恋人について書いている。ベッツによると「彼女はヒスパニック系で少し暗くて謎めいた人で、本人はそれを自覚しながら徹底的に利用していた」タイトルはベッツが目にした墓石の墓碑銘からつけられ、その墓石はメンバーたちが初期の頃にリラックスしながら曲作りをするためによく訪れていたローズ・ヒル墓地にあった。ベッツのギター演奏は圧倒的で、オールマン・ブラザーズ・バンドの最も重要なトラックの一つであることは間違いない。マディ・ウォーターズの「Hoochie Coochie Man」のカヴァーは、カヴァーというよりも完全に新しく作り直された曲と言えるだろう。オークリーの唯一のスタジオ録音されたリード・ヴォーカルが含まれており、彼とベッツは前のバンド、ザ・セカンド・カミングで何度も共に演奏していた。
『Idlewild South』はデビュー作発売から 1年以内にリリースされ、発売当時は前作よりわずかに上回る売り上げを果たしただけで、ファーストは4万枚以下しか売れなかった。ローリング・ストーン誌はそれをファーストよりも大きな前進で“未来にとって良い兆候である”と評価し、バンドが常にツアーを行い続けたお陰で全米チャートでは38位にランクインされた。
New Deluxe Edition
3枚の別々のリマスター盤として現在は発売されている:1枚のCDバージョン、2枚組CDのデラックス盤(アウトテイク、ライヴやスタジオのバージョン等12トラックが新しく追加)、そして3枚組CDとBlu-Rayのスーパー・デラックス盤(全アルバムの他に、アウトテイク、別バージョンやリミックスを含む4曲が新しく追加)は96kHz 24-bit 5.1 Surround & StereoのBlu-Ray Pure Audioとしてリリース。どれも2015年12月4日に発売された。
追加されたトラックは、「Statesboro Blues」と「One More Ride」のアウトテイク、「In Memory of Elizabeth Reed」の別ヴァージョン、「Midnight Rider」のリミックス、そして「Revival (Love Is Everywhere)」のモノ・シングル・ヴァージョンとなっている。その他にも1970年の『Live at Ludlow Garage』アルバムから9曲が1990年以来初めてリマスタリングされ収録されており、未発売の「In Memory of Elizabeth Reed」も含まれ初めてライヴ・レコーディングが完成された。