トム・ペティ、大成功した初のソロ・アルバム『Full Moon Fever』
プラチナ・ディスクを獲得した1987年の7作品目『Let Me Up (I’ve Had Enough)』の後、トム・ペティは少しの間だけずっとバック・バンドを務めてきたザ・ハートブレイカーズとの活動を一休みし、トラヴェリング・ウィルベリーズを結成した。純粋なロックン・ロール・スーパー・バンドは短命であったが、ボブ・ディラン、ジョージ・ハリスン、ロイ・オービソン、そしてELOのフロントマンのジェフ・リンがメンバーとして参加し、デビュー・アルバム『The Traveling Wilburys Vol.1』は全米アルバム・チャートで最高3位にランク・インし、300万枚の売り上げを果たした。
しかし、トム・ペティは『The Traveling Wilburys Vol.1』のセッションを開始する前からすでに次作はソロ作品であることを発表していた。この物議を醸した決心は噂によるとザ・ハートブレイカーズのメンバーを複雑な気持ちにさせたが、ドラマーのスタン・リンチを除いてメンバー全員が後にトム・ペティの1989年のソロ・デビュー作品『Full Moon Fever』に貢献している。作品は最初ギタリストのマイク・キャンベルのガレージ・スタジオにて制作された。
控え目でリラックスした雰囲気で行われた『Full Moon Fever』のセッションもクリエイティヴィティの温床となった。殆どの曲はトム・ペティ、マイク・キャンベル、ドラマーのフィル・ジョーンズ、そしてプロデューサーのジェフ・リン(ベースと僅かなキーボードを演奏)の中核メンバーが制作したが、その他のザ・ハートブレイカーズのメンバーと、ウィルベリーズから2人が貢献している。ロイ・オービソンはひねりの効いたロック・ソング「Zombie Zoo」に、そしてジョージ・ハリスンはアルバムからのファースト・シングル「I Won’t Back Down」でギター演奏とヴォーカル・ハーモニーを歌っている。
「I Won’t Back Down」は大胆な色調ではあるが、同時に非常にキャッチーである。全米シングル・チャートでの成功(最高12位にランクイン)のお陰で、『Full Moon Fever』はマルチ・プラチナ・ディスクを獲得するまでとなった。マイク・キャンベルの記憶に残るジグザグするリフ、デル・シャノン的なロード・ソング「Runnin’ Down A Dream」は後を追うようにすぐにUSトップ30に登場し、切望するノスタルジックな「Free Fallin’」はその後見事に7位にランク・インした。
プライドを持ったクラシック・ロック専門ラジオ局で長期間に渡りオンエアされ、いつまでも新鮮であり続けるそれら3枚のシングルは、アルバムが再評価される度に重要な曲として扱われてきたが、現実的には『Full Moon Fever』には“詰め物”的な曲は存在しない。実際にトム・ペティとメンバーたちは常に的確であった。定番のタフでザ・ハートブレイカーズっぽいロック・ソング(「Depending On You」)でも、気高くクールに違う方向性を示す美しい子守唄のようなラヴ・ソング「Alright For Now」でも、彼らが素晴らしいバンドであることは決して変わらない。
ヒット曲3曲を生み肯定的なレヴューを得た『Full Moon Fever』は、『The Traveling Wilburys Vol.1』の成功を上回り、全米アルバム・チャートでは最高3位まで昇りつめ、北米ではクインティプル・プラチナディスクを獲得した。リック・ルービンがプロデュースを手掛けた1994年の『Wildflowers』との厳しい競争となったが、それでもトム・ペティのソロ・キャリアの絶頂期を象徴する作品であることは今でも変わらない。ジェフ・リンがプロデュースを手掛けたザ・ハートブレイカーズとの1991年の 作品『Into The Great Wide Open』でもそのメインストリーム・ポップの感性は損なわれていない。
Written By Tim Peacock
『Full Moon Fever』入ったレコード盤ボックスセット
『The Studio Album Vinyl Collection 1976-1991(9LP BOX)【輸入盤】』
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