エリオット・スミス『Either/Or』:衝撃的に美しい作品最高傑作のひとつ

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リリースから20年経った今でも『Either/Or』(1997年)は変わらず衝撃的に美しい作品であり続け、エリオット・スミスの最高傑作として多くの人に受け入れられている。同時にこの作品は変わりゆくエリオット・スミスの人生のスナップ写真でもあり、ポートランドで地元のスターとして作ったローファイの『Roman Candle』や『Elliott Smith』から、オスカー賞の舞台やメジャー・レーベルの世界へと繋ぐ架け橋ともなった。


ソロ活動を始めるためにオルタナティヴ・ロック・バンドのヒートマイザーを脱退して最初に作った作品は地下室でレコーディングされ、その親密なフォーク・ポップは若い世代を魅了した。エリオット・スミスのすべての音楽がそうであるように、『Either/Or』も深くパーソナルであり、それはまるでそっと仲間の間だけで共有するミックス・テープのようでもある。

もしあなたが自分の感情に浸り精神浄化作用のある満足感を得たいのなら、『Either/Or』はあなたを毛布のように優しく包んでくれるだろう。彼の歌詞は感情的にもろく、まるで誰かの日記を読んでいるかのようだ。なぜ彼のアルバムがプルースト風の反応を引き起こすのかがわかる。それを聴いているだけで初めて聴いた時に感じたものが蘇ることは確かだ。

エリオット・スミスの悲劇的な死と、彼の音楽に対する人々の認識を分けて考えることは不可能に近い。彼のその名前だけでも思春期の苦しみを象徴しており、『Either/Or』は哀愁でいっぱいの作品であるが、哀愁そのものを楽しんでいるわけでもない。

長年の友人でクリエイティヴ・コラボレーターのラリー・クレーンはピッチフォーク誌にこう語っている。

「彼の歌詞は比喩や観察から成っているんだ。多くの人が彼の曲について勘違いすることが、彼の曲が全て彼自身の後悔や懺悔だと思いこんでいることだ。彼の曲は、彼自身の人生を歌ってけれど、例え話も多い。作品の中に何度も登場するキャラクターたちもいたりするしね」

しかし「Pictures Of Me」の“みんな病気になるために死にかけている”や“自分の写真に嫌気が差した”など想像から書いた歌詞を聞くと、その行間を読まない方が難しい。

アルバムのオープニング・トラック「Speed Trials」や「Say Yes」、そしてアルバム全体の曲もローファイの仕上げが加えられているが、『Either/Or』は同時にエリオット・スミスのマルチ奏者/シンガー・ソングライターとしての才能、そして声の純粋さを収めれている。

「Alameda Street」のもろいハーモニーから、「Angeles」の複雑なフィンガー・ピック、そして苦悩と希望を混合した「Say Yes」の哀愁まで、『Either/Or』はザ・ゾンビーズ、サイモン&ガーファンクル、ニック・ドレイク、そしてザ・レフト・バンクのようなフォーク・ポップの先輩たちを賛同している。そしてエリオット・スミスはブライト・アイズ、アイアン&ワイン、M・ウォードなどの後輩のアーティストたちに大きな影響を与えた。

「Between The Bars」は、エリオット・スミスの隠喩的なセンスと巧みなリリックの素晴らしい例である。静かに力強い「2:45」もまた良い例で、 その身を切るような歌詞は傷付きながら歌われる。しかし『Either/Or』の曲すべてが静かな黙想という訳ではなく、「Cupid’s Trick」の勢いあるリフと「Rose Parade」のシューゲイザーではエリオット・スミスのオルタナティヴ・ロックのルーツが伝わってくる。

それは昔も今も変わらずに画期的な作品であり、メインストリームのポップ・シーンと映画監督ガス・ヴァン・サントに注目されるきっかけとなり、ガス・ヴァン・サントは自身の出生作『グッド・ウィル・ハンティング』のサントラにエリオットを起用しブレイクのきっかけとなった。ラリー・クレーンはニューヨーク・タイムズ紙に「彼はもう我々の小さな宝物ではなくなった。世界と共有しなければならなくなった」とレビューしている。

Written By Laura Stavropoulos




エリオット・スミス『Either/Or』


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