reDiscover:エラ・フィッツジェラルド『Ella Fitzgerald sings The George and Ira Gershwin Song Book』
ノーマン・グランツがヴァーヴ・レコードを1956年に設立した理由の殆どが何年もマネージングをしてきたエラ・フィッツジェラルドのレコーディング・キャリアの為であった。1955年にノーマン・グランツは彼女が契約を結んでいたデッカ・レコードからエラ・フィッツジェラルドを強引に奪ったのだ。
1956年にノーマン・グランツはエラ・フィッツジェラルド用に『Ella Fitzgerald Sings the Cole Porter Song Book』と『Ella Fitzgerald Sings the Rodgers & Hart Song Book』の2枚の作品のプロデュースを手掛けた。翌年には『Ella Fitzgerald Sings the Duke Ellington Song Book』を、そして1958年には『Ella Fitzgerald Sings the Irving Berlin Song Book』を制作している。
彼らはグレイト・アメリカン・ソングブックが世に出るまでそのようにして作品を作り続けた。1959年1月5日にエラ・フィッツジェラルドはまた新たなソングブックに取り掛かり、ジョージとアイラ・ガーシュウィンの傑作集が完成した。「Love Is Here to Stay」、「The Man I Love」と「A Foggy Day」は初日にレコーディングされ、2日後に「Somebody Loves Me」を、そして1月8日には「I’ve Got a Crush on You」が完成した。全部で57曲ものガーシュウィン楽曲を歌った41歳のエラ・フィッツジェラルドのヴォーカル・パワーは正に頂点に達していた。
エラ・フィッツジェラルドとガーシュウィン兄弟は古くからの友人同士であった。1950年の夏にデッカ・レコードは、エラ・フィッツジェラルドのヴォーカルとエリス・ラーキンスが弾くピアノ伴奏だけの作品を出すことを考えた。完成した作品『Ella Sings Gershwin』は素晴らしく、後のグレイト・アメリカン・ソングブックに比べると全く異なるサウンドであるが、どちらも彼女の才能を引き立たせている。
「僕たちの曲がどれだけ良いのか、エラ・フィッツジェラルドが歌って初めて知った」とアイラ・ガーシュウィンは語っている。
新しい作品は新しいアレンジャーを必要とし、ノーマン・グランツの長年の願いが叶いネルソン・リドルをエラ・フィッツジェラルドと一緒にスタジオへ招くことができた。それは完璧なコンビネーションであり、エラ・フィッツジェラルドとネルソン・リドルは固い絆で結ばれた友情を築いた。彼女のガーシュウィンのセッションには、「Hello Love」、「Sweet Songs for Swingers」、そして「Get Happy!」が含まれ、慌ただしいツアー・スケジュールの合間を縫ってエラ・フィッツジェラルドがスタジオにいられる時にノーマン・グランツは他のアルバム用にそれらの曲を録音して溜め込んでおいた。
そこまでしたためにガーシュウィンとの作品は、1959年7月18日までレコーディングが終わらなかった。エラ・フィッツジェラルドがガーシュウィンのソングブックをレコーディングしている時にノーマン・グランツはスイスのルガーノに引っ越した。彼は更にコンサートのプロモーションやデューク・エリントン、オスカー・ピーターソン、そしてエラ・フィッツジェラルドのマネージメント活動に深く関わりを持つようになり、1960年代後半にはヴァーヴ・レコードをMGMに売却した。その前の2月には、ノーマン・グランツはジャズ ・アット・ザ・フィルハーモニックをヨーロッパでツアーさせ、ベルリンのドイッチュラント・ハレではエラ・フィッツジェラルドのステージがレコーディングされ、後に『Mack The Knife – Ella In Berlin』として発売された。
ベストセラー・リストに5週間しかチャートインしなかった『Ella Fitzgerald sings The George and Ira Gershwin Song book』は平均的な成功ではあったが、それだとこの不朽の作品を間違った角度から見ることになってしまう。多くの人から愛され演奏される曲をエラ・フィッツジェラルドは新鮮で生き生きとしたサウンドに仕上げ、全く新しい曲にさえ聴こえる。1960年に開催されたグラミー賞では最優秀女性ボーカル・パフォーマンス賞を受賞した。それが5枚セットのアルバムの1枚であることを忘れてはならない。後に4枚CDセットとなり、他のテイクやレアな楽曲も収められた。どのアーティストよりも素晴らしい時代を超えた歌をたっぷり楽しんでもらいたい。
エラ・フィッツジェラルド『Ella Fitzgerald sings The George and Ira Gershwin Song Book』
『ライヴ・アット・ザルディーズ』
エラ・フィッツジェラルドの幻の音源が世界初登場!ヴァーヴと契約した1956年にロサンゼルス、ザルディーズで行ったライヴの内容がいよいよ明らかに。
『サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー』
エラ生誕100周年を記念し、戦前に残された名唱のヴォーカル・トラックとロンドン・シンフォニーのストリングスの新録音アルバム!
<関連記事>