ハートのデビュー盤『Dreamboat Annie』はどのようにしてが男性が独占するロックシーンで注目されることになったのか
非常にラジオ・フレンドリーなロック作品『Dreamboat Annie』は、男性が独占するロックシーンでウィルソン姉妹がパワフルであなどれない存在であることを世に示した。
80年代半ばになると、女性ヴォーカルのバンドが威勢のいいハードロックでチャートに登場することはそこまで驚かれることではなくなった。ガールスクールやヴィクセンを含む説得力あるオールガールズ・メタル・バンドによる作品が商業的な成功を収め、評論家からも称賛された。「I Love Rock’n’Roll」や「Love Is A Battlefield」などのアリーナ級のアンセム・トラックのお陰でジョーン・ジェットやパット・ベネターは正真正銘の国際的スターとなった。
しかしながら、パンク到来前の70年代においては、レコード会社がその将来性に賭けた女性ヴォーカリストは、ネクスト・カーリー・サイモンもしくはネクスト・ジョニ・ミッチェルとしてマーケティングされがちだった。そんな中、シアトル生まれでバンクーバーを拠点に活動するナンシーとアン・ウィルソン姉妹から成るハートが、レッド・ツェッペリン調のロック・トラック「Crazy On You」と「Magic Man」を1976年に立て続けに全米シングル・チャートにランクインさせると、一躍注目の的となり、彼女たちのデビュー・アルバム『Dreamboat Annie』への関心が高まった。
一夜にして成功を手に入れたかのように思われがちだが、実際にはハートが商業的な成功を収めるまでの道のりは長かった。彼女たちは70年代初期には太平洋岸北西部の心が折れそうになるようなクラブでホーカス・ポーカスの名でライヴ活動を続けており、その後、周囲の環境の変化やスタッフの交代などの理由で国境を越えて北へ拠点を移すことになった。リード・ヴォーカルのアン・ウィルソンの妹で、ギタリストのナンシーが1974年にバンドに加わると、正式にバンド名をハートへとへ変更になった。バンクーバーにある小さなレーベル、マッシュルームからフリートウッド・マックの様なラインアップ(バンド内に二つのカップルが存在した:アンとギタリスト兼マネージャーのマイク・フィッシャー、そしてナンシー・ウィルソンとマイクのリード・ギタリストの兄弟ロジャー)でデビュー・アルバム『Dreamboat Annie』をリリースした。
地元のセッション・ミュージシャンでプロデューサーのマイク・フリッカー(ポコ、アル・スチュワート)の指揮の元レコーディングされた『Dreamboat Annie』は、アグレッシブではあるが、本質的にはメロディックでラジオ・フレンドリーなロック作品となっている。アン・ウィルソンのロバート・プラントの影響を受けた力強く柔らかなヴォーカルと、耳に残る荒々しいリフの「Sing Child」や気取った「White Lightning & Wine」は彼女たちにまだ沢山の可能性が秘めていることを見せつけた。しかし、複雑な「Soul Of The Sea」や洗練されたフォーク調のタイトル・トラックを聴けばハートの野心がまだ全開ではないことがわかる。
『Dreamboat Annie』が1975年の夏に初めてカナダでリリースされた時は、ほとんど注目されなかった。ファースト・シングルで、風格漂う半アコースティック調のバラード「How Deep It Goes」さえも見過ごされてしまった。しかし、1975年10月に大々的に宣伝されたロッド・スチュワートのモントリオールでのコンサートのオープニング・アクトに抜擢されたことで、ハートへの注目度が一気に高まった。1976年2月14日に、マッシュルームのロサンゼルス支社から『Dreamboat Annie』全米リリースされると、後にアルバム・チャートで最高7位にランクインし、100万枚を売り上げた。
Written by Tim Peacock
ハート『Dreamboat Annie』