『Disraeli Gears』:クリームがどのようにしてサイケ・ブルースの伝説バンドになったのか
クリームのセカンド・アルバム『Disraeli Gears』はニューヨーク市60番街とブロードウェイ1841番地の角に建つアトランティック・スタジオにて、1967年5月8日から5月16日の間に3日半をかけてレコーディングされた。後にクリームと似たバンドであるマウンテンをギタリストのレスリー・ウェストと結成したフェリックス・パパラルディがプロデュースを手掛け、トム・ダウドがエンジニアリングを担当した。
1967年11月2日にイギリスでリリースされた今作は全英チャートに11月18日に初登場し、後に5位にランクイン。アメリカでは12月初旬に発売されると全米チャートで4位を獲得する大ヒットとなり、アメリカで一躍ブレイクを果たした。
この変わったアルバム・タイトル『Disraeli Gears / ディズレーリ・ギアーズ』は一体どこから来たのだろうか?
60年代の絶対買うべきレーシング・バイクには“ディレイラー・ギア / Derailleur Gears”が装備されていた。エリック・クラプトンも、ロンドンの街中でオースチン・ ウエストミンスターを運転しながらそんなバイクに憧れていたのかも知れない。ジンジャー・ベイカーとバイクについて語り合っていた時にバンドのツアー・スタッフであるマイク・ターナーがやってきて突然声を張り上げて“ディレイラー・ギア”と言おうとしたがイギリスの首相であるベンジャミン・ディズレーリと間違えて、「 ディズレーリ・ギアーズがついてるんだって?」と言ったらしい。みんなが大笑いをして、メンバーたちは新しいアルバムにその名をつけることにしたのだ。
『Disraeli Gears』の予告として、1967年6月初旬にアルバムからファースト・シングルが先立って発売された。「Tales of Brave Ulysses」とカップリングされたシングル「Strange Brew」は6月10日に全英チャートに登場し、最高17位にランクインされた。ヴォーカル担当のエリック・クラプトン、フェリックス・パパラルディ、そして彼の妻ゲイル・コリンズが作曲したA面トラックは、ロック、ブルース、そしてポップの要素を含んだ当時の典型的なクリームらしい楽曲で大きな売り上げを記録した。B面の「Spoonful」は、多くの人にとってそうであるように、アルバムの傑出した曲であり、ジャック・ブルースの素晴らしいヴォーカルとエリック・クラプトンのワウペダルを駆使したギター・ソロがフィーチャリングされている。エリックはこの曲をレコーディングした数日前にワウペタルを知った。雑学好きな人が喜ぶ情報として、エリック・クラプトンがこの曲を書いた時、ラヴィン・スプーンフルの「Summer in the City」を聴いていたらしい。
1年後の1968年10月にポリドールはセカンド・シングルとして「Sunshine Of Your Love」をイギリスで発売し、25位にランクインされた。アメリカでは1968年1月に発売されると大ヒットとなり、全米シングル・チャートで5位にランクインした。クリームがアルバムをレコーディングするためにニューヨークへ向かう1日前に、ロンドンのサヴィル・シアターでジミ・ヘンドリックスをエリック・クラプトンと観たジャック・ブルースがリフを作ったそうだ。リリックの殆どはジャック・ブルースと詩人でバタード・オーナメンツのリーダーであるピート・ブラウンが手掛けているが、曲のタイトルを含む数行はクラプトンが考えたものだった。曲の成功を手助けした最も重要な要素として、通常ロックでは2拍と4拍目が強調される中で、ジンジャー・ベイカーが1拍と3拍を強調したことだ。アフリカのドラムからインスピレーションを受けたそうだ。
今作の独特のジャケットは、オーストラリア人アーティストのマーティン・シャープがデザインを手掛けており、彼はOZ誌で働きながら、エリック・クラプトンと同じくチェルシーにあるフェザントリーで暮らしていた。マーティン・シャープはその他にも『Wheels of Fire』のジャケットを手掛け、「Tales of Brave Ulysses」の歌詞の一部も書いている。
クリームの作品の中でこのアルバムが最もブルースの影響を受けていない作品であり、”サマー・オブ・ラウ”の雰囲気が全体的に反映されている。最もブルース調の曲は「Outside Woman Blues」で、1929年にブラインド・ジョー・レノルズが作曲、レコーディングした楽曲のカヴァーだ。
1967年11月にニュー・ミュージカル・エクスプレス誌が書いた最初のレビューでは、筆者のアレン・エヴァンスがアルバムについてどうのように解釈すべきなのかはっきりとはわかっていない。
「派手なジャケットの衝撃から立ち直った後には、この世の物とは思えない勢いあるバンド、クリームのオリジナリティに溢れるがっしりとしたサウンドを体験できる。彼らのライヴとは違い、LPでのサウンドはありがたいことに抑え気味である。しかし、2本のギターのトーン・パターンとドラムの勢いは少しも損なわれていない。クリームのエリック・クラプトン、ジャック・ブルース、そしてジンジャー・ベイカーの心ときめく一体感によって完成した作品は、滑らかで不確かな巨大な波のように流れていく。ジャックとエリックの想像力が大いに発揮されているしっかりとしたヴォーカルは全体と良くマッチしている。個人的には妙にハマる“We’re Going Wrong”が一番気に入った」。
by Paul Sexton
クリーム『Disraeli Gears』
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