90年代半ばを定義するザ・ヴァーヴのセカンド・アルバム『A Northern Soul』
もし『A Storm In Heaven』が、デビュー・アルバムのレコーディング時に解放を味わったバンドの陶酔感が炸裂した作品だとすると、USでは1995年の6月の終わりに、そしてUKでは7月3日に発売された『A Northern Soul』は、ザ・ヴァーヴが台風の目に置かれたことを示す作品だ。注目を集めるUSロラパルーザ・ツアーを経験し、音楽メディアの注目を熱く浴びていたザ・ヴァーヴは、『A Storm In Heaven』がまぐれ当たりではなかったことを証明しなければならなかった。
幸い、ザ・ヴァーヴはすでに頑強なライヴ・バンドとなっており、ツアー先で更に絆を深め、曲の構造に対する新たな感謝を抱き克己心を拡大していた。3分間のポップ交響曲を作っていた訳ではないが、彼らはダイナミックな相互作用だけに頼らない結果へ繋げるサウンドスケープを作り出す自分たちの才能を活用できていた。1994年10月にウェールズのロコ・スタジオにてアルバム・レコーディングに取り掛かる頃には、全体のデモをすでに多かれ少なかれ仕上げていた。「『A Storm In Heaven』を作った時のように、何も素材がない状態でスタジオに入るのは嫌だったんだ」とベーシストのサイモン・ジョーンズは言う。
しかし、メンバーたちの絆が深まり、団結したバンドとしての準備ができればできるほど、他のところで負担が生じてきた。フロントマンのリチャード・アシュクロフトは、歌詞に多くに充満する人間関係の問題を抱えていた。最終的にはバンド全体が人間関係の問題を理由に苦しんだのかも知れない。「ものすごく強烈な時期だった」とギタリストのニック・マッケイブは思い出す。リチャードはセッションが終わる頃には拡大していくバンド内の不安定さをもっと悪化させてしまう孤立した精神状態へと陥ってしまった。「強烈であるように企てていたんだ。ストレスが多い状況を企てて、どこかで可能な限り強烈なものを録音したいっていう気持ちがあった」。
リチャード・アシュクロフトは後にアルバムを、“ノーザン・ソウルが様々な感情を感じている様子”を集めた作品であると話している。その感情は痛み、喜び、そして自惚れを含む。おそらく後者はオープニング・トラックの「A New Decade」で最も反映されており、ニック・マッケイブのギターとサイモン・ジョーンズとドラマーのピーター・サリスベリーの相変わらず素晴らしい揺るぎないグルーヴが激しく突き進み、その一見優しいフェード・インは裏切られる。この瞬間を迎えるまで5年待ち続けてきたかのように、そして90年代が本当に始まろうとしていたかのように、“新しい時代だ”とリチャード・アシュクロフトは叫ぶ。「僕たちが作ったサウンドがラジオで流れる。そしてすべては大丈夫だって思えるんだ」。
『A Northern Soul』の殆どが6週間にわたるツアー中に書かれたことを思い出しながら、「ライヴ演奏は僕たちにとっての得意分野となった」とサイモン・ジョーンズは言う。新しく書かれた曲をその日にエンジン全開で観客に披露していた。「ストゥージズがアルバムを6日間でレコーディングしたって読んで、僕たちもそれを目指したんだ」。
イギー・ポップの奔放な偶像だけが彼らに影響を与えた訳ではない。『A Storm In Heaven』もそうであったように、ザ・ヴァーヴは新しいアルバムにインスピレーションを与えてくれる相反するミュージシャンたちからの影響を取り入れている。前作ではドクター・ジョンに頼ったピーター・サリスベリーが今度は初期のファンカデリック作品で披露されるティキ・フルウッドのドラム法、そしてN.W.A.の激しいドラム・ループに夢中になっていた。ニック・マッケイブはそのギター・リバーブが“ドリブルしながら揺れる”バリー・ホワイトのようなサウンドだと感じていた。実験的な日本の音楽とマイルス・デイビスの『Bitches Brew』後の冒険をフィルターにかけ、どっぷりサイケデリックにした「Brainstorm Interlude」やファズの激しい「This Is Music」などが出来上がった。
「自分が望んでいたものの基準がとんでもないもので、しかもそれらは曖昧だった」とニック・マッケイブは今振り返ってみてそう話す。サイモン・ジョーンズは、「完璧しか許さなかった。戻ってやり直すことはできなかった。少なくても自分たちにはそう言い聞かせていた…僕たちはノリに乗っていた!」と言う。
しかしその強烈さはバンドに大打撃を与えた。どういうわけか彼らは頭の中のサウンドをとらえられるのは夜の10時以降だけだと信じ込んでしまった。朝の4時〜5時までレコーディングを行い、12時間睡眠をとり、そしてまたレコーディングをする。「インスピレーション待ちだった…それが得られないと、僕たちはものすごく落ち込んだ」とリチャード・アシュクロフトは言う。「浮き沈みが激しい状態を6週間続け、やっていることすべてが苦痛となった。そうすると自分を見失っていく」。
共同プロデューサーのオーウェン・モリスはアルバムが完成した時の“陶酔した興奮”を思い出せるが、同時に疲れ果てて被害妄想的になっていた時に新しい曲を演奏するのではなく、メンバーたちはファースト・アルバムを演奏しているかのように感じさせたことも思い出す。ニック・マッケイブは「適切に、そして自信を持ってコミュニケーションをとることが難しくなってしまった」と話している。そしてリチャード・アシュクロフトはその姿を消した。
リチャード・アシュクロフトが再び戻ると、最後の声明を準備していた。前作『A Storm In Heaven』がぎりぎりになって作られたように、「History」はザ・ヴァーヴの次の作品を暗示していた。ストリングスをたっぷり使った堂々としたアコースティック・バラードは、みんなが想像するよりも遥か遠くまで反響した。「僕たちは、ヤバイぞ!すごい曲だぞ、って思った」とサイモン・ジョーンズは言う。メンバーはその夜にそれをレコーディングした。しかし自分がいなくても曲は完璧だと感じたニック・マッケイブは、リード・ギターを追加することを辞退した。リチャード・アシュクロフトはニック・マッケイブの辞退を読み違えてしまう。とにかく、結果として生まれた曲は、リチャード・アシュクロフトのノーザン・ソウルが経験した“痛み”の感情を完璧に要約したトラックとなっている。
「感情的な嵐を体験したようだった」と後にリチャード・アシュクロフトはNME誌に話している。「だけどそこから得たものはあった。苦痛の中からダイアモンドをみつけた。そうやって最高のバンドは生き残って行くんだ」。メンバーたちはその変化した状態のまま、その年をやっとのことで切り抜けた。しかし『A Northern Soul』は、90年代半ばを定義するアルバムのひとつとなった。それは、何か漠然としたものの中心から引き千切られた、明白でリアルなソウル・ミュージックである。
Written By Sam Armstrong
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